絶園の商人   作:ポーシャ

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第四幕 拘泥する、主張

 エヴァンジェリン山本と吉野の死闘から吉野を救い出した後、黒鉄病によって静寂の訪れた村落の古民家で、二人。

 兄妹は話す。

 

 それは、二人が旅を決意した時と奇しくも同じ問いかけだった。

 

「愛花。変な事考えてねーだろうな」

「変な事ですか?」

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()、とかよ」

「それは、変な事ですか?」

「いや、合理に適ったフツーの思考だ。絶園の魔法使いの言葉を全て信じるなら、な」

 

 今吉野が食事を作ってくれている。だからこそ、二人だけの時間になっている。ついでに言うと葉風と繋がっている魔具も今は吉野の首にかかっているので、本当に二人きりの時間だ。

 

「お前が元絶園の魔法使いで、翔花はお前の唯一の血縁者。お前から力を奪うために翔花を用い、あのジェシカとかいうのは絶園の魔法使いとなった。であるならば、もし、お前が絶園の魔法使いでなければ。あるいは翔花と血が繋がっていなければ──ってなカンジか」

「マヒロに合わせて言うのなら、それで辻褄は合います。……私が絶園の魔法使いであったことは、ずっとずっと秘してきました。ただ、どこかのタイミングでそれが外部に漏れて、翔花が狙われた。……私を殺しても絶園の力は奪えません。一度絶園の樹へと力は戻り、彼の樹の復活に合わせて世界の誰かへ宿り直します。その選出は絶園の樹のみぞ知るところ。よって」

「お前を殺すんじゃなく、翔花を奪って翔花を媒介に絶園の力を手に入れるのが最も合理的かつ効率的、か。そして多分、唯一の手段」

「……はい」

 

 式が繋がってしまった。

 何もしていない、ただ生きて来ただけの翔花が狙われ、攫われ、日常を送れなくなるというのは不合理だった。だけど、犯人が判明して、その意図もわかって、その仕組みもわかってしまった今、少なくとも真広の中での結論は出てしまっている。

 その上で、獰猛な笑みを浮かべるのが真広だ。

 

「知ったこっちゃねぇだろ。一番大事なトコがまだ繋がってねえぞ」

「……私から奪う必要があったのか、ですか」

「そこじゃねえ。必要性如何に関しちゃ、あのジェシカとかいうのにも何かしらの理由があんだろ。奪う必要。ジェシカが絶園の魔法使いとならなければならなかった理由。だがそこじゃねえ」

 

 一呼吸。

 

「欲しいモンがあんなら筋を通せ。説明をしろ。あの女、自分は対価対価と要求してきといて、愛花から力を奪うのも翔花を攫うのもあまりにも自分勝手が過ぎんだろ。あるいは正式な取引のもと絶園の力を譲渡する──って道もあったはずだ。愛花がそれを知らなくても、ジェシカはそれを知っていたはずだ」

「そう、ですね。……ただ、私は絶園の力を手放す気はありませんでしたし、翔花が必要であるとあれば断っていましたが」

「それでも一度は申し立てをするモンだろ。それが合理、っつーか道理って奴だ。そんでもって決裂したら、そん時に奪い合いをすりゃいい。それで俺達側が翔花を守り切れなかった、ってんなら納得できる。地の果てまで追い詰めて取り返すのは変わらねえがな」

 

 突然だった。唐突だった。

 何の断りもなく翔花を攫い、何の頼りもなく翔花を使う絶園の魔法使い。

 

 それは不条理だと、真広は言う。

 

「ご飯できたよ、二人とも」

「おう、悪いな吉野」

「いいって。これくらいしか力になれないし」

「ありがとうございます。吉野さん」

 

 他人の家。他人の家の食材。

 はじめはその窃盗犯染みた行為を嫌がっていた吉野だったけれど、黒鉄病の惨状を見て、そして自分たちが生きなければならないということを鑑みて、色々踏ん切りがついたらしい。

 旅はもう終着地点に近いけれど、腹が減ってはなんとやら。

 この三人旅の給仕係となった吉野は真実生命線だった。

 

『次に向かってもらうのは海沿いの水族館だが……真広』

「あん?」

『私の動向は左門に筒抜けだった、と考えるのが適切だ。だから、もしかしたら水族館に左門の狗が入り込んでいるかもしれない』

「……あの槍男みてーなのがまた、か」

「強そうな人、だっけ」

「実際に打ち合ったワケじゃねーから何とも言えねえがな。大体そーいうのはわかる。正直なところを言えば愛花と吉野には外で待ってろと言いたいんだが──」

 

 ちら、と真広が愛花と吉野を見れば、苦笑が漏れる程の拒絶が伝わって来た。

 絶対に付いていく、という意思。

 

「ま、絶園の魔法使いは来ねえだろ。果実があるわけでもねぇんだ。それで、鎖部一族だけだったらなんとかできんだろ」

『安心しろ、というわけではないが、はじまりの魔法を殺人に使ってはならない、というのは勿論鎖部一族にも適用されている。だから殺されることはない』

「動けなくなるほど痛めつけられたり、失血死しないような処置をしつつであれば四肢をもがれたりはする、ということですね」

「愛花ちゃん、例えが怖いよ」

『だが愛花の言う通りだ。どの道捕まってしまえばもう自由には動けなくなるだろう。そうなれば詰み。……ゆえに、武運を祈るしかできないが』

「鎖部左門の野望を阻止してアンタをこっちに呼び戻さなきゃ、絶園の魔法使いから翔花を取り戻せねえんだ。それくらいの力量差は俺だってわかってる。上手くやるさ」

 

 絶園の魔法使い、ジェシカ。

 その契約内容を聞く限り、翔花と最も仲の良かったこの三人を相手に全力を揮うことはできないのだろうことはわかるけれど、だからといってこちらの攻撃が効くわけでもないのも事実だ。そして相手にはどこへ行ったのかも悟らせない程高速で動く術がある。

 逃がさないためには、はじまりの樹の加護を持つ鎖部葉風の力が必要。

 

 ただ──愛花だけは、内心に思う。

 ジェシカが本当に、そして十全に絶園の魔法を使えるというのなら、鎖部葉風がいたところで何の意味もない、と。

 

「うっし、腹ごしらえもしたし、行くか」

「うん」

「はい」

 

 そして、吉野と愛花は一瞬だけ視線を絡ませる。

 その水族館は、だって──二人にとっては、思い出の。

 

 

 *

 

 

 姉愛花が心配な私は当然水族館に……まぁ、いない。

 せっかく勘違いしてくれた鎖部左門との協力関係。ここで鎖部鉄馬と対立してしまえば、とうとう私が蝙蝠女だとバレてしまう。

 だから遠くから見守るだけ。

 

 に、しようと思っていた。

 

「……私は余計な真似をしていないで、絶園の樹の復活に術者を回せ、と言ったはず」

「この女、車を素手で……いや、それよりその恰好!」

「ああ、絶園の魔法使いだ。鉄馬、お前は先に水族館へ──ッ!」

 

 空から急降下して鎖部鉄馬の運転する普通車を止め、フロントガラスに穴を開けて問いかける。運転手は鉄馬だけど、助手席には──鎖部夏村。

 何故ここに鎖部夏村がいる。鎖部鉄馬とその部下だけでもそれなりの強さがあるのに、そこに夏村投入は流石に過剰戦力だ。

 

「あそこに何がある。絶園の樹の復活に必要なものか?」

「そんなところだ。通してはくれないか」

「嘘を吐くな。私が絶園の樹に関係するものを察知できないはずがないだろう。もう一度聞く。あそこに何がある。あそこに行ってどんな無駄骨を食おうとしている」

 

 今あそこには姉愛花ら三人がいる。無事吉野と合流したらしい。

 ……彼女がどう思っているかは知らないけど、あそこは愛花と吉野の思い出の地の一つだ。むやみやたらに壊させるわけにはいかない。無論、そんなこと寸前まで思っていなかった。史実において壊しまくるのはどっちかというと真広たちだし。

 ただここで夏村が行くとなると話は別だ。あの閉鎖空間で、且つ高度な文明の塊みたいなあの場所で鎖部一族の筆頭二人とやり合わせるのは無理がある。

 

 ならば。

 

「答えないのであれば、ここで潰す」

「良いのか? 絶園の樹復活に必要な術者が消える結果となるぞ」

「初めから言っている。絶園の樹復活は私一人でもできる。鎖部左門が任せろというから任せたというのに、未だ煮え切らぬ行動を取り続ける愚かさには幻滅した。これ以上嘘を繕い、絶園の樹以外のことへ注力するというのなら、お前たちを潰した後に鎖部左門を殺しに行く。いや、鎖部一族の全てを殺しに行く」

 

 なお、脅しではない。

 力の使い方がわかっていない羽村めぐむと違って、私が絶園の魔法使いである以上、はじまりの樹を滅することに何のためらいもない。世間からなんと罵られようと、どんな武器を向けられようともはじまりの樹を殺しきる。

 なれば鎖部一族は必要ない。むしろはじまりの樹の干渉で簡単に思考を左右させられ、ただ鎖部葉風が惚れた、という理由だけで吉野を絶園の魔法使いだと決めつけ、その命を奪おうとまでする彼らは邪魔者でしかない。

 

 ──絶園の魔法は破壊の力。

 殺人においても何の制約もない。

 

「……あそこには、姫様……鎖部葉風の封じた魔具が眠っている。私達はそれを回収しに来た」

「理由は?」

「絶園の樹復活を早めるためだ。魔具といえども、一族最強と謳われし姫様の」

 

 自動車を中央で割断する。

 直後起きる大爆発に、けれど彼らは彼ら自身の防御フィールドで身を守ってみせた。

 

「魔具はその魔法を込めた者の承認が無ければ使用できない。──馬鹿にしているのか? 絶園の魔法使いであれば鎖部一族の魔法には詳しくないはず。そういう意図が透けて見える」

「……鉄馬、部下達を連れて全速力でこの場から退避しろ!」

「何をっ」

「絶園の魔法使いは私がここで食い止める! 行け!」

「──クソ、死にはするなよ夏村! お前はまだ左門殿にとっても有用な駒だ!」

「鉄馬に心配されるとは、中々稀有な経験だ。励みになる」

 

 十数人の部下たちに「退け、退け!」と命令を出す鎖部鉄馬。文句も無く従う部下達。

 ……これが脅しではないと伝わってくれていたらいいのだけど。鎖部鉄馬の指揮能力はちゃんと評価できるものだし、魔法の精度もそこそこに良い。絶園の樹復活のための術者として加わってくれたのなら、政府が火力を集めきる前に絶園の樹復活、及びはじまりの樹復活も夢ではないはずだ。

 はじまりの樹復活の瞬間、私はなんとしてでも愛花を守らなければならない。葉風が吉野、真広が左門に助けられる結果になる以上、姉愛花を助けられる人材がいないからだ。

 故、他の……政府の人間やその他の人間を助けることは不可能。だから、集まり切らない方がありがたい。

 

「律儀にも待っていてくれるとは思わなかったな」

「言ったはずだ。要求はあくまで絶園の樹復活のために注力することだと。余計な行いをする術者は処理するが、そうではない者をわざわざ追う気はない」

「成程、理にかなっている。──であれば、ここに残ると宣言した私は」

「当然駆除対象だ」

 

 交錯は一瞬。

 私の振るう鎌と、鎖部夏村の放つ十文字槍。防御フィールドはいとも容易く割れ砕けるけれど、その十文字槍を破壊するには至らなかった。成程、力を流したか。星村潤一郎との戦いでは鎖部麻耶直伝の柔術に叩きつけられ続けていた彼だけど、武器有魔法有での戦いであるのならばまた話は別、と。

 

 関係はない。

 受け流された鎌を引き戻す。私の腹部を狙っていたその十文字槍は、地面に突き刺して夏村の身体を引き上げることに用途が変えられた。

 鎌の柄を膝で蹴り上げて、中空にいる鎖部夏村の背に刃を向ける。

 瞬間、その姿が掻き消える。──高速移動。行き先は目で追える。だから初動を劣ったとしても、出現の瞬間を同時にすることだって可能だ。

 

「ッ──」

「どうやら魔法そのものは不得手らしい。故の武器か。成程、であれば絶園の樹復活にも不要だな。──死せ」

 

 その首に刃を置く。

 薄皮一枚を切った──そのタイミングで、溜息を吐きたくなるような現象に見舞われる。

 

「お、らァ!」

「グ──!?」

 

 避けたけど。

 ……なんでこっちに来たんだ、真広。

 

「マヒロ。二度も同じ人の顔を踏みつけるのは良くないと思います」

「いや愛花ちゃん、一度だってよくないと思うけど……」

「おっさんもおっさんだ! 避けるなり絶園の魔法使いを拘束するなりしろ! 見えてただろ!」

「……謝罪も無しに不躾が過ぎるな。そして見えてなどいるものか。敵は絶園の魔法使い。集中力を切らせばそこで終わりだ」

 

 魔具は回収できたらしい。

 なら、私がここに長居する意味もない。雑談に興じているようだから、何も告げずに去っても気付かれないだろう。

 

 ──という考えは封じられる。

 

「ま、待ってください!」

「……誰だ」

「あ、僕は滝川吉野といいます。二人の友達で……」

「何フツーに自己紹介してんだ吉野」

 

 滝川吉野。

 真広とは違う勘の良さを発揮する少年。それは当然かもしれない。彼こそがこの世界の主人公なのだから。

 

「はじまりの姫宮の手駒か。よくもまぁ、そうポンポンと関係のない一般人を巻き込めるものだ」

『ついてきてくれと言った覚えはないぞ、私は!』

「それで、何用だ滝川吉野」

「……二人から聞きました。翔花ちゃんを攫った理由。それで、質問があるんですけど」

「対価を要求する」

「いえ、質問をするだけです。答えなくても構いません」

「……そうか。なら勝手にしろ。聞くだけなら聞いてやる。だがあまり長話はするな。話が長いと感じたら、私を引き留めた事への対価を要求する」

「質問は一つだけです。──翔花ちゃんは今どこにいるんですか?」

 

 ここに。

 なんて答えられるはずもなく。

 

「くだらん。どこにいたとして、お前達に返すわけもなし。聞いて意味のあることを聞け、滝川吉野」

「意味ならあります。貴女がそうやって各地を飛び回っている以上、翔花ちゃんがどこに隠されているかによっては、彼女の身が危ぶまれる可能性がある。葉風さんは絶園の魔法使いの一族がいる、という話は聞いたことがないと言っていました。そして愛花ちゃんも。なら、貴女は今孤立無援に近い状態のはず。だとすれば、翔花ちゃんをどこに隠しているんですか? 安全なんですか?」

「彼女は私にとっても大事な存在だ。彼女に危険が及ぶことはない。──ふん、取引成立以前に応えさせられたか。対価は要求しないでいてやる」

 

 真広は今怒りに満ちているから大丈夫だろうけど、姉愛花と吉野が合わさった場合、私の正体が見抜かれかねないという危険性が発生する。学力はない癖に妙に鋭い姉愛花と、学力もあるし土壇場での頭の回転が速すぎる滝川吉野。そして野生の勘の真広。

 ──これ以上この三人の前にいるべきではない。

 

「鎖部夏村。これが最終通告だ。──余計なことは考えず、絶園の樹復活のためだけに動け。それ以外の地で鎖部一族を見つけたら、殺す。いいな」

「……左門殿にそう伝えておく」

 

 これだけ言えば大丈夫だろう。

 どの道ここから先は、どちらかというと政府の動向に気を付ける必要がある。鎖部一族に気を割きたくない。

 

 話は終わりだ、と言わんばかりに去る。その場から消失するようにして。

 

 ……今回、この地は辺境故か、軍用ヘリでの封鎖、というのは起きなかった。

 

 

 *

 

 

「で? 俺達と一戦交える気はあんのかよ、おっさん」

「私はまだ20代だ。……そして、交戦の意思はない。絶園の魔法使いは本気だった。ここでお前達と刃を合わせれば、今度こそこの命は刈り取られるだろう」

「んじゃ何でまだここにいる。前みてーに高速移動で消えりゃいいのによ」

「聞きたいことがあるからだ」

 

 ジェシカの去った──そして未だ燃え続ける車から少し離れた場所で、四人が話す。

 

「聞きたいこと?」

「翔花という少女に付いてだ」

「……てめぇらに話すことなんざ一ミリもねぇよ」

「先にも言ったが、私達とてあの絶園の魔法使いはあまり快い存在ではない。翔花とは何者だ。"絶園の魔法使いにとっても大切な存在"……その言葉の意味は何だ」

「だから、話すことはねーって言ってんだろ!」

「翔花は私達の妹です。私達と言っても、吉野さんは家族ではありませんが」

「おい愛花!」

「いいじゃないですか。そも、鎖部一族というのは世の理を正すための一族。はじまりの樹や絶園の樹に関わらない事象であれば、所謂正義の味方、なのでしょう?」

『陳腐な呼び名だが、まぁそうなるな』

 

 正義の味方というほど世俗には関わっていないし、誰にとっての正義かはわからないが、と思うのは葉風と夏村だ。あるいは愛花も、かもしれないが。

 

「翔花は約一年前に私達の元から誘拐されました。誘拐犯は絶園の魔法使いであると判明。そして彼女の言を信じるのならば、絶園の魔法使い……ジェシカさんは翔花を媒介に絶園の樹から絶園の力を借り受け、その力を行使しているそうです」

「……成程」

「そして、ここからが大事なのですが──翔花は今鎮静状態にある、とジェシカさんは言っていました」

「鎮静状態? 眠らされている、あるいは魔法によって鎮められていると考えるべきか」

「はい。けれど、意識はあるようでして。翔花と繋がりの深い私達が傷つく、あるいは死したりすると、ジェシカさんから翔花へとその情報が伝わり、翔花の精神状態が不安定になる。翔花の精神状態は彼女を媒介としている絶園の樹にも伝播され──」

「まさか、狂乱状態になると?」

「ジェシカさんの言葉の全てを信じるなら、ですが。──そういうわけで、鎖部さん。私達は怪我をしたり、死したりすることができません。この意味、わかってくれますか?」

 

 それは。

 それは──紛う方なき脅しだった。

 

 隣で真広があんぐりと口を開けている事とか、後ろで吉野が引き攣った笑みで頬を掻いている事とか、愛花はまったく気にしない。

 

「迂闊に手を出せない、どころか……守る必要が出てきた、と」

『そうだ、夏村。このことは左門に伝えろ。仮に左門の部下がこいつらを傷つけようものなら、絶園の樹は一瞬で狂乱状態に陥る。いや、左門の部下だけじゃないかもしれないな。政府の人間による妨害でも同じことが起こりかねん』

「おっと、だからといって拘束する、はナシだぜおっさん。ンなことされたら俺達は暴れる。暴れたら怪我するかもしれねえなぁ」

 

 一瞬固まっていた真広も、これを好機とばかりに便乗する。

 正直なところ、鎖部夏村に鎖部一族の行動指針への決定権など存在しない。だからここで何を言われてもあまり響きはしないのだが、早急に鎖部左門へ伝えるべきことであるのは確定した。

 

「……貴様らは、これからどこへ向かう」

「そりゃあ教らんねぇな」

「……」

「私を見ないでください。情報共有はここまでです」

「……」

「僕はそもそも、まだ全容がよくわかってないから……」

 

 取り付く島もない。

 夏村は「はぁ」とため息を吐く。

 

「左門殿にしっかりと伝えておく。どの道これから先、私達はあまり大仰に出歩くことはできない。どこで絶園の魔法使いが見張っているかわからぬからな」

「そういやなんだってこんなとこで戦ってたんだ?」

「術者を全て絶園の樹復活に当てろ、というのがあちらの要求だ。それ以外のことをしていれば駆除すると。──そういう理由だ。ここから先は私も樹の復活に注力する。姫様、何か狙いがあるというのなら、相応のお覚悟を。絶園の魔法使いは絶園の樹復活に関しては手抜きをしてこないでしょうから。では」

 

 青い光と共に、高速移動で消える夏村。

 真広の「あ、おい」とか吉野の「こっちにも聞きたいことが」とかは、夏村の消えた空間に溶けて行った。

 

『しかし、大した胆力だな愛花。夏村相手に脅しとは』

「上手くいけば、一時的ではない、完全な共闘関係を結べる可能性もあったので。無論こちらが鎖部一族の野望を阻止しようとしている以上、どこかで衝突は起きていたでしょうが」

「いやまぁ、愛花ちゃんらしいっていうか、どっちかというと翔花ちゃんっぽいっていうか」

「あー、確かにな。アイツ結構脅しとか強請りとか使ってくるタイプだったし」

『……お前たちの話だけ聞くと、不破翔花の印象が最悪に近いものになってくるのだが。生意気で身勝手で口が悪く、脅しと強請りが常套手段で人の話を聞かない……』

「大体合ってるぜ。ただ一つ抜けてる」

「うん。ほとんど合ってる。だけど──」

 

 真広と吉野は口を合わせて、言う。

 

「アイツの本性は超弩級のシスコンだ。愛花至上主義」

「この世は愛花ちゃんを中心に回ってる、ってばかりに愛花ちゃんのこと大好きだったからね、翔花ちゃんは」

 

 自慢げに。誇らしげに。

 苦笑気味に。でも、優しい声で。

 

「……少し気恥しいものがありますが、そうですね。翔花は……私を愛してくれていました」

『なんだ、それだけでも良い妹じゃないか。うん、そういうことを聞けば、俄然私のやる気も出てくるというものだ。必ず取り返すぞ、翔花を』

「たりめーだ。そういう契約なんだからな」

『ならば早い所次の場所へ向かってもらおう。次のは特別な魔具だ。それさえ回収できれば、あとは攻勢に出るのみ。その上でありがたいことにお前達は左門に邪魔されない無敵に近い存在となったのだから、勝ちも同然だ!』

「……少し出来過ぎな気もするけれど」

「吉野さん? この世の全てのことには、わけがあるんです。──大丈夫ですよ」

 

 一行は。

 最後の魔具のある地──群馬県高崎市塚田町へ向かう──。

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