TS転生ド田舎ネクロマンサー聖女   作:どくいも

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第50話 即物的な聖なる誓い

――Q・か弱い女の子供を引き連れて、まともに魔術をつかえない状態で、恐竜の巣から逃げきることができますか?

 

A・普通に考えて無理。

 

 

「ほら、いったん水出したから。

 息を整えて、ゆっくり飲んで」

 

「はぁ、はぁ、す、すいません師匠……。

 私が未熟なばかりに……」

 

「はいはい、謝るのはいいから。

 それよりもこぼさずに飲んでね」

 

というわけで、現在私たちがいるのは先ほどの恐竜が集っていた場所から少し離れた場所にある、小さめな洞窟。

そこの入り口付近にて、全力疾走したことにより息を上げてしまったアリスのために一息をついているところだ。

はじめての冒険に死の恐怖、呪術という力を手に入れてもなお超えられぬ壁。

おそらく、今の彼女は信じられないほどの心理的ストレスが溜まっているだろう。

 

「わ、わっぷ……!!」

 

「はい、いい娘、いい娘~♪

 大丈夫、大丈夫だからね」

 

なので、彼女を強く胸元に抱き留めることにする。

残念ながら、現在は安心のための呪術は使えないが、それでも聖痕跡と香水の力を使えば、荒れ狂う幼娘の心を落ち着かせることぐらいはできるはずだ。

 

「う……あ……♪

 おっぱ……おパ……♡」

 

なんか、調子に乗って胸も揉みに来てるが、それでも先ほどまでは冷え切っていた彼女の指先が、こちらの胸を触る程度で活力が戻ってきているのだ。

まぁ、なんかいけないものに目覚めさせている気がしなくもないが、それでも活力が戻ったのならなによりだ。

 

「ふぅ、ありがとうございます!イオ師匠。

 おかげでなんとか、平常心を取り戻せました!」

 

うんうん!どうやら元気になったようで何よりだ。

だから、いったん私の胸からその手を離そうか?

 

「それに、よく考えたら、すでにあの亜竜たちからは結構距離を離していますからね!

 なら、もう、あの亜竜たちの脅威はすでに去ったはずです!」

 

アリスが元気そうにそう声を上げる。

どうやら、彼女が再び冒険者としての心を取り戻せたようで何よりだ。

しかし、それでも残念なことに彼女のその発言には重大な間違いが含まれていた。

 

「残念ながら、あの亜竜の脅威はまだ去っていないよ?

 というか、あんなのはただの時間稼ぎだから。

 私の予想なら、そろそろクッコロの無限再生も時間切れになっていて、そろそろあの亜竜たちも私たちの追跡を再開しているはずだよ」

 

「えぇぇ……」

 

自分の発言にアリスが涙目になってしまった。

 

『そうだぞ?のんびりしている暇はないぞ?

 我が娘アリスよ、亜竜は優れた嗅覚と聴力を持っていると聞く。

 逃げたこちらの匂いをたどってくれば、我らに追いつくのも時間の問題だろう』

 

「ああ、それとあの亜竜はおそらく【魔力感知】もできるっぽいよ。

 あの亜竜達と戦ってわかったのは、あいつらは【高い魔力】を発する物や、高位の魔術を行使するたびに、その魔力の高い物を優先して襲い掛かってくるってこと。

 だから、探知みたいな広範囲魔術や、大型の死霊召喚みたいな高位の魔術なんて使ったら、即座に場所がばれちゃうよ」

 

『ほ~!そうなのか。

 私はアイツの異名で、【邪教徒殺し(カルト・キラー)】なんて言われ方があると聞いていたが……。

 どうやら、その異名もおおむね間違いではないようだな』

 

「まぁ、見たところ、邪教徒(カルト)どころか、どんな動物も土塊グールすらペロリなんだけどね。

 この周辺に動物の死体や骨1つ残っていない理由がよくわかるよ」

 

アリスの父の亡霊と合わせて、少しずつ件の亜竜の情報についてまとめていく。

そのおかげで、ここまでくる道のりのやけに綺麗すぎる森の様子や、悪霊一匹見かけない不気味すぎる空間の正体をようやく把握することができた。

この現象は、おそらく、この辺の森がすべてあの亜竜のテリトリーだからというものだ。

あの亜竜がこの森に発生する大型動物の死骸をことごとく土ごと丸呑みにしてしまうせいで、悪霊が発生する依り代となる陰の魔力が込められた土や生き物の骨が森の中に残らないからなのだろう。

 

『う~んなんという環境に優しい亜竜なんだ!

 まさに戦神の使いの名にふさわしいな!』

 

「私は善神の司祭なのに、容赦なく襲われるんですけどね」

 

『それは君が、死霊術師だからじゃないかな?

 それに、全身柔らかくておいしそうだし』

 

「いや~ん♪なんというセクハラ!

 さすがに、愛弟子の親御さんと言えど、成仏させますよ?」

 

『おっと、そんなすごい奇跡魔法を使ったら、それで亜竜が寄ってきちゃうじゃないか!

 せっかく逃げてきたのに、本末転倒だぞ?』

 

「おお!それは失敬」

 

「『HAHAHAHAHA!』」

 

「わ、笑っている場合じゃないでしょう!?」

 

そんな風にアリスの父の霊と、仲良く情報整理をしていたが、どうやらアリスには不評だったようだ。

でもアリスちゃん、突っ込みを言い訳に、さりげなくこっちにパイタッチするの、地味にセクハラでは?

しかしながら、こんな主従あわせて愉快な光景だが、実際の今の状況はなかなかに絶望的である。

体は疲労困憊、魔力は先ほどの無限再生囮用のクッコロを出したことで、すでに半分以下。

魔力触媒をはじめとする、事前準備も当然お粗末。

その上、愛弟子のアリスはおっぱい星人ときたもんだ。

 

「そ、それは関係ないでしょうそれは!」

 

『そうだぞ、おっぱいは男も女も好きだからな。

 だろう!我が娘アリスよ』

 

「ぺっ」

 

『娘が冷たい!』

 

しかしながら、それでも希望がないわけでもない。

アリスは未熟ながら呪術師ではあるし、幸いこの地は陰の魔力が薄いため、大規模な奇跡でもなければ、奇跡魔法を使用してもあの亜竜たちにはばれないだろう。

それに……。

 

「ねぇ、アリスパパ。

 アリスパパはあの亜竜について詳しいけど、もしかして……」

 

『ああ、一度あいつらを狩ったことはある。

 もちろんその時の数は一匹だが……、死なないならいくらでもやりようはあるさ』

 

人形の中に宿りながら、それでも狩人としての特有のオーラを発しながら、そう力強く宣言する。

 

「クッコロ」

 

『……ふん。今回は残念ながら後れを取ったが……。

 あいつらは、何回か私たちのアジトに襲撃して来たことがあるからな。

 準備さえできれば、きちんと倒すことができる』

 

死に戻りが終わったであろう彼女も、呼び寄せると未だその瞳には強い反逆と復讐に燃える意思を感じる。

どうやら彼女の闘志は十分なようだ。

そうだ、どのみちここから村に戻るには、途中で山を登るなどをしなければならず、遭遇は必然。

ならば、未だ余裕のあるうちに、あいつら全員を迎え撃つべきなのだ。

 

「……というわけで、我が弟子アリスよ。

 ……ここを生き残るために、冥府神のパラディンにならない?」

 

「ふえ??」

 

そのことを告げた時の、アリスの小さく口を開けた、きょとんとした顔が印象的であった。

 

★☆★☆

 

洞窟の入り口からこぼれる光が、辺りを照らす。

周囲の粉塵やほこりが、洞窟内の静かな陰の魔力と太陽光からの暖かい陽の魔力と入り混じり、きらきらと周囲で瞬いた。

 

「……はい、これでアリスちゃんは、冥府神様の信徒の仲間入りしたはずだよ。

 おめでとう」

 

「え、えっと、本当にこれで問題ないんですか?」

 

その光の魔法陣の中心にいたアリスが、おどおどとした声でこちらに尋ねてくる。

おそらく彼女は未だ実感がないだろうし、確かにこれで何かアリス自身が変わったかと言われれば怪しいところはある。

 

「安心していいよ、これはただの【洗礼】だから。

 アリスちゃんが、死霊術師としても、冥府神様に文句を言われない。

 そういうおまじないみたいなものだから」

 

「は、はぁ……」

 

自分の言葉を聞き、アリスは不思議そうな様子で自分の五体を確認する。

そうだ、今回自分が行った奇跡【洗礼】の効果は、簡単に言えば、アリスを冥府神の信徒として、入信させる。

そういう効果を持った奇跡である。

もっとも、この場合の入信させるとはあくまで、役所の仮届みたいなものであるし、洗礼されたからと言って、何か強制力のある儀式ではなかったり。

むしろ、アリスを信徒として冥府神の信徒として勝手に認めた私が、アリスの行動に色々と責任を負わなくなきゃいけなくなるという実にめんどくさい奇跡であったりする。

 

「でもまぁ、これがあれば、アリスちゃんが死霊術を使っても、【私と冥府神様が許す限り】は、世間的には問題がなくなるというわけだよ。

 ……少なくとも、善神の教えとしては、ね」

 

「……!!」

 

自分の言葉に、アリスはわずかにつばを飲み込む。

今まで彼女が欲していた父を蘇生するための死者蘇生。

それがついに、現実のものとして、手に届く範囲に近づいたという実感がわいてきた。

 

「……いや、いまさらになって父を完全蘇生したいなんて、思いませんが」

 

『あ、アリスちゃん!?』

 

「いやだって、よく考えたら割とセクハラ親父ですし、最近はギャレン村に馴染んできましたし、そんなことしなくても師匠のおかげで父と話すことができますし。

 なら、いまさら、父を違法に蘇生して、余計なリスクは負いたくないなぁと」

 

『ですよね~。

 まぁ、パパもいまさらそんなことされても困る』

 

まぁ、今のアリスちゃんなら、死霊術を教えても悪用しないだろうという合理的な判断の下での洗礼だ。

しかしそれでも、今のアリスちゃんなら、いやアリスちゃんだからこそ、できることがある。

 

「というわけで、アリスちゃん。

 死霊術のファーストレッスンだ。

 さっそく君のお父さんを、使役霊として蘇生させよう」

 

「……!!」

 

アリスが驚いた顔をする。

 

「え、えっと、それは可能なんですか!?

 そ、それに、まだ私、呪術は学んでいても、死霊術は全然……」

 

「安心して、アリスちゃんに渡しているアリスちゃんのパパが入っている藁人形は、すでに陰の魔力を込めるだけで不死者として蘇生できるようにしてある」

 

そう、実は日ごろからアリスにつけているアリスのお父さん入り藁人形は、一見簡易のものに見えて、死霊術の触媒としてはかなりのものだ。

その体には、無数の触媒や彼の遺骨が使われ、更には、無数の死霊術式を仕込んである。

 

「う、うう!で、でも、今はまさに危険な状況なんでしょう!?

 あの亜竜達を何とかしなきゃいけないんでしょう!?

 な、なら、私がパパを蘇生させるんじゃなくて、師匠がパパを蘇らせた方が…」

 

もじもじとしながら、アリスはこちらに向かって言い訳をする。

確かにアリスの言う事は一見もっともではある。

しかし、死霊術師としては、つながりが深い霊のほうがより万全な状態で呼び出すことができるし、アリスという血縁者自体が父を呼び出すための強力な触媒になりうるのだ。

おそらく、今の地上で魔力量や死霊制御云々の話を抜きにすれば、もっとも彼女の父を蘇生させる適性を持っているのはアリスだといえるだろう。

 

「それに、死霊術、いや魔術において大事なのはそのイメージだ。

 アリスちゃんの考えるパパは、あの亜竜達に負けるような弱い存在かい?」

 

それに、なによりも、死霊術師が一から蘇生するために、最も重要なのは完璧なイメージだ。

陰の魔力という不安定な土台で肉体を作りながら、それでも人としての形を保ち、人の魂が宿るにふさわしい器を用意する。

今この状況で、アリスの父というイメージを完璧に作り出せる存在が、彼女以外にいるだろうか?

 

「え、え、え~……。

 お父さんが本当に強いかに関しては、少し微妙かもしれません。

 お父さんはエッチだし、女性に弱いし、吸血鬼に人質を取られただけで降伏しちゃいますし」

 

『うぐっ』

 

「……でも、そうでない相手には。

 獣やただの盗賊相手には、お父さんは絶対に負けません!

 それこそ、師匠たちレベルの相手でも」

 

『……!!』

 

アリスが、自分の父の霊が詰まったその藁人形をまっすぐ見つめながら、そう宣言する。

その眼には強い意志と確固たる信頼が。

残されてなお父を信じる娘の想いと、死してなお娘を思う父の想いが交差する。

2人の覚悟が決まったのを確信し、私はアリスの肩に手をかける。

 

「それじゃぁアリスちゃん、さっそくお父さんに魔力を分けてあげようか。

 安心して、導線や注ぎ方は私がサポートするから。

 アリスちゃんは、ただ私の魔力を感じながら、お父さんの姿をイメージすればいい。

 ……そう、絶対に負けない、アリスちゃんのパパの姿を」

 

かくして、アリスは目をつぶり、その人形に向かって魔力が注がれる。

すると、ふわりと人形が宙を浮かび、陽と陰の魔力が宙に交じり合う。

土塊が浮かび上がり、魔力が形を作る。

泥水が血となり汗となり、石灰が骨膜になり、石英は眼球に。

まるで出来損ないの人体模型が、無から組み上がるかのように一人の男が製造されていき、その形を作る。

そして、仕上げとばかりに、その裸体の男に、土塊と思い出でできた鎧と剣が装着され、ゆっくりと彼が眼を開ける。

 

「……あ」

 

「……はは、久しぶり、というのはおかしいかなアリス。

 久しぶりのお父さんだ」

 

かくして、非常に危機的な状態であるのにもかかわらず。

アリスは涙を浮かべながら、仮初とはいえ、蘇った父に抱き着きに行くのでしたとさ。

 

 

☆★☆★

 

 

なお、数刻後。

 

「というわけで、今から早速あのバグキオスを狩りに行くわけだが……。

 まぁ、流石に正面からでは分が悪いし、色々と策を練ってから狩りに行こうと思う」

 

「え~」

「え~」

「っへ」

 

「いやいや、流石にみんなにそんな顔されても、パパ一人で亜竜の群れを同時に相手をするのは無理だ!

 でも、イオさんやクッコロさん、さらにはアリスの協力さえあれば、多分、おそらく。

 ……まぁ、悪くない確率でなんとかなるかもしれない、と私は思うわけだ」

 

「まぁ、道理ではありますね」

「パパ、情けな~い」

「っけ、勝手に頭数に入れやがって」

 

「というわけで、亜竜の群れ討伐作戦、その1。

 まずは、奴らの鼻をごまかすため、そこで見つけた奴らの糞を全身に塗りたくってもらう。

 安心しろ、あいつらの胃腸は強いからな、糞はほとんど消化され切ってるから、ほとんど無臭だぞ!

 すくなくとも、人間には、な」

 

「うわっ」

「パパ、いきなり女の子にうんこ被れとか、サイテー」

「……おい、やっぱりこいつの言う事信じなくてもいいか?

 というか、いっぺん殴らせろ」

 

「し、しかたないだろ!

 こ、これ、わりと鼻が利く獣相手にはそこそこ有効なんだから!

 そ、そんな目で見ないで!ねぇ、これ本当に俺が悪いの!?」

 

なお、アリスパパの言うとおり、本当にバグキオスのウンチはほとんど無臭で、土と太陽の匂いしかしませんでしたとさ。

さもあらん。

 

 

 

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