TS転生ド田舎ネクロマンサー聖女   作:どくいも

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第51話 私の考えた最強にかっこいいパパ

――彼は、実は自分が人として凡才であると自覚していた。

 

男としては身長は低めで、筋肉はつきにくい。

脚の短さから足もそこまで早くはなく、かといって身軽さを生かすにも、反射神経の鈍さが足を引っ張る。

小賢しさを生かすには学が足りず、装備で補うには金も足りない。

魔力なんて感じたこともなく、誇れるものは強すぎる精力と風邪しらずの健康位であった。

 

しかし、そんな彼が小村とはいえ、ストロング村一の冒険者になれたのは、単純に悪運と根気、それと愛のおかげであった。

病弱な妻やその友人、そして愛する娘を、他の村の男に触らせないために。

たとえ、それが命の危機であっても、自分より強大な敵であっても。

彼はあきらめず、どんな困難からでも勝機を見出していたのであった。

 

『それがまさか、こんなことになるとはなぁ』

 

彼は苦笑しながら、自らの体の動きを確認する。

武器に関しては、残念ながら土塊ゆえに、以前自分が使っていたものよりは脆そうではある。

が、それでも力と体の軽さは昔以上で、かつては覚悟を決めなければできなかった、木から木への跳躍も何のこともなく行える。

素手で石を砕け、眼や耳が生前よりもよく。

それなのにまるでそれが当然の様に馴染んでいるこの体は、アリスの考えていた『強い父』としての自分の姿だと思うと、少しこそばゆく感じるのが本音だ。

 

『……こっちは準備できた、貴様は?』

 

そう言いながら彼の下にやってきたのは一人の女の不死者。

かつて自分の住む村を滅ぼし、最後のトドメとなる吸血鬼を手引きした盗賊団の一隊の女頭領。

恨むだけの動機もあるし、憎しみを抱く理由もある、そんな女。

しかし、自分の最愛の娘は生き残ったし、自分の守りたいかつての愛人は無事、さらには、自分と彼女には当時は直接面識がなかったため、残念ながらいまいち恨みを抱けないというのが本音だ。

 

『……ふん、貴様なんだその眼は?

 縛られている身でもなければ、貴様のような軟弱な男など分からせてやったものを。

 運がよかったな』

 

訂正、恨みとかそう言うのはないかもしれないが、それはそうと分からせてやりたい。

具体的に言えば、その体を無茶苦茶にしてやりたい。

あんなに無数に喘いで、何回もこちらを挑発しやがってるくせに、立場というものをわからせてやろうか?

 

『で、貴様の言う策は、本当に効果があるののだろうな?

 ……わたしも、あいつを幾度か相手したことはあるが……あんな弱点など聞いた事がないぞ?』

 

『安心しろ、それに関してはわが身をもって実証済みだ。

 まぁ、討伐した数こそ1匹だけだが、それでも生態がそこまで変わることはないだろうな』

 

どうやら彼女は辺境に住む盗賊団であったがゆえに、何回か集落をあの亜竜に攻められた経験があったそうだ。

しかしそれはあくまで立地や堀などを利用した拠点防衛であり、一対一の経験はないとのこと。

ならば、直接狩りに行く経験は自分のほうが上なのだろう。

 

『もっとも、複数匹を同時に狩るのは初めてだが……。

 ここまで娘に期待されているんだからな。

 いっちょ、パパのすごいところをあいつらに見せてやらないと』

 

かくして、彼は作戦を開始すべく、彼が娘によって渡された強力な匂いと魔力を発する【匂い玉】を炸裂させるのであった。

 

 

☆★☆★

 

 

―――ぎる、ぎる、ぎるるるるる!!

 

無数の亜竜が大地を走る。

強烈な匂い、それに魔力の残り香を感知してその下に向かって走っていた。

 

『おうおう!相変わらず、すごいスピードとパワーだな!

 おい、まだ無事か?』

 

『残念ながらまだ無事だな!

 おいそれより早く援護をしろ!』

 

そして、追いかけられるのは2人の人影。

クッコロとアリスの父の不死者。

事前に作ってもらった、キノコや腐敗の魔術で作った匂いの元と魔力の元を使いながら、木から木へと飛び移るかのように移動する。

 

『それより、そろそろ追いつかれるぞ!

 次の奴を頼む』

 

クッコロがわざとその移動速度を落とし、亜竜達の目の前へ移動する。

その匂いの元となるものを持ちながら、しかし、それでもギリギリ攻撃が届かない場所へと移動しようとする。

 

――ぐごごごごご!!

 

が、残念ながら、事前に場所こそ厳選しているものの、相手は強靭で巨大な体で亜竜。

木や岩陰に隠れた程度で、安全など確保できるわけもなく。

地面や樹上に隠れたとしても、地面ならば掘り起こされ、樹上ならば叩き落とされるのが常だ。

 

『……だが、その一瞬のスキが欲しかった!!』

 

しかし、それでもその隠れた獲物を引きずり出すために、その亜竜達は、一瞬の隙を生み出すことになる。

そして、そんな隙をついて、彼はその手に握る矢を放つ。

その鋭い矢はその亜竜の鼻先までまっすぐ飛び、そのままその恐竜の鼻腔を貫いた。

 

―――ぐるおおぉぉ!!!

 

『……ヒュー!やるなぁ!

 まさに百発百中とはこの事だな!』

 

鼻腔を矢に貫かれた亜竜が、のけぞり、のたうち回る。

その様子に、クッコロは思わず称賛の声を上げる。

 

『……!!いいから、さっさと移動するぞ!

 また怪我をしているじゃないか!』

 

『なんだ、貴様。お互い死なない身であるのに、私を心配してくれるのか?

 この程度の傷などすぐに回復する』

 

クッコロが亜竜の群れの突進の余波で全身に少なくない傷ができていた。

が、それもすぐに逆戻りの様に治癒し、再び移動を再開した。

 

『で、さて、これで6匹目。

 鼻がつぶれていない亜竜は1匹だな?』

 

『……いや、これで7匹目だ』

 

そうして、彼は鼻が無事である最後の一匹に向けて、走りながら、後ろに向かって矢を放つ。

困難な姿勢に移動しながら、さらには鼻腔とはいえ、竜の肉質を貫かねばならないという非常に難しい条件であるのに、彼の矢はまっすぐ目標へと飛翔し、その役割を果たすことになった。

 

――ぎゃあおおおおおぉぉ!!!!

 

『……おまえ、本当にすごいな。

 というか、お前の矢があって、なんで私たちの先行隊による襲撃が成功したんだよ』

 

『あほか、今こんなことができるのは、あくまで【アリスの考えた父の姿】だからだ。

 本来の俺の体でこんなことができるわけがないだろ』

 

クッコロの畏怖と尊敬の入り混じった目に、思わず笑い声をあげつつ、改めて彼らは自分の射った亜竜の様子を確認した。

そしてわかるのは、その恐竜たちの恐るべき食欲。既に全員主要な五感である嗅覚が潰されているはずなのに、なおも諦めること無く彼らを狙っているのだ。

【毒入りの矢】で鼻を貫かれたことで、嗅覚による追跡ができず、狙いこそあやふやになっているが、それでもなお亜竜達は彼らを丸のみにしようとしてきた。

 

『だが、これならおそらく……!!

 来い!!』

 

そして、作戦の最終段階として、彼はイオから託された最後の1つの不死者仲間を呼び出す。

そして、それは小さな浮遊霊。

ふわふわと宙を舞い、彼らの前を先導した。

 

『よし、よし、よし!

 こい、こい、こい!』

 

『……っぐ!魔力が尽きてきた……

 おい!貴様、私を置いて先に……きゃぁ!』

 

『馬鹿野郎!ここで足を止めたら、作戦が破綻するだろ!

 黙って、おとなしくしてろ』

 

『ひゃ、ひゃいぃぃ……♪』

 

かくして、彼らは鼻の潰された亜竜を引き連れて森を走る。

匂いではなく、音と魔力を頼りに、目の前の獲物を追う亜竜達。

途中、魔力が足りなくなったクッコロを彼が背負うというハプニングがあったが、今の彼の肉体と反射神経は、彼女を支えながらでもなお亜竜の群れから逃げきれるだけの力があった。

 

――そうして彼らが、そのすべての亜竜達を引き連れて、やってきたその場所は……。

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、飛ぶぞ!

 口を閉じろぉぉ!!!!』

 

『~~~~~っっ!!』

 

――ぎゃ、ぎゃ、ぐがぁあああ!!!!!!

 

そうして、彼らはその亜竜達を引き連れたまま、高い崖から飛び降り。

鼻をつぶされ、魔力と音のみを頼りに全力で追いかけていたせいで、亜竜は獲物と共に崖から真っ逆さま。

 

――ぐぎ、ぐぎぎぎぎ……!!

 

『お前も俺達と一緒に……堕ちるんだよおおぉぉぉ!!!』

 

――ぎぎゃあぁあああああああ!!!!!

 

1匹だけ、崖のぎりぎりで足を止めるも、不死者である彼の残された体内の魔力を込めた矢が発射。

その一撃を足に撃たれ、毒と魔力の爆発により、最後の一匹も無事に無事谷底へと吸い込まれていくのでした。

 

 

 

 

 

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