さて、自分の至らなさから、弟子であるアリスを死霊術師にしてしまい早数日。
さっそく私は弟子に、ゾンビやスケルトンの依り代の作成方法を教えていた。
「い、今までいろいろと教え渋っていた気がするのに、急に本格的ですね!」
「それはね、基本的に死霊術者は、すぐ死ぬか諦めるか、人でなしのどれかになるからね。
せめて、死なない様にするのが師匠である私の役割だから」
「えぇ~……」
アリスちゃんがすごく何か言いたげな眼でこちらを見てくるが、これはスルー。
というのも、死霊術師というのは基本的に邪悪な職業である。
だからこそ、なり立てというのはそれこそ、失敗しやすいのみならず正義の味方に最も目を付けられやすい時期でもあり、そのせいで大半の人は挫折するのが常だ。
そして、もし一番大変なその時期を生き残っても、死霊術師として大成するというのはあんまりよくないことであるのには違いなく、そもそも偉大な死霊術師とは=魂を操るやべぇ奴であるので、それだけで立派な世間の爪弾き者。
それこそ、今の自分のような司祭資格や師匠のような特権階級出身でもなければ、表世界で生きられないのが常なのだ。
「まぁ、本当ならアリスちゃんには死霊術より先に神聖魔術を会得してもらって、その後おまけで死霊術を学んでもらいたかったんだけど……。
アリスちゃん、神聖魔術の才能ないからなぁ」
「えっと、その、神に好かれるかどうかなんてそんなに簡単にわかるものなんですか?」
「まぁ、それに関してはね、死霊術で魂や魔力の感知が得意になると、自然と感じ取れるようになるから」
なお、これに関しては神に好かれるというよりも単純に神聖魔術の適性云々の話だ。
体からあふれる陽の魔力の量とか、放出しやすさとか純度とか、そういうのの総合評価。
だから、別にアリスちゃんが、不敬者だとか背徳者とか、そもそも聖職者としての適性が低いとかそう言う話では……。
――じゅぎぃぃぃぃ!!
「っと、ネズミの首絞めはこんな感じでいいですね。
あ、暴れないでください!綺麗に首を引っこ抜けないでしょ!」
「う~ん、力任せに呪詛を刻もうとすると、ネズミの体がボロボロになってしまうし、かといって呪詛を刻まずにゾンビ化させても、あんまり強い鼠ゾンビはできないし……」
「あぁ! 相手が小さすぎたせいで、頭が潰れちゃいました!
でも、お腹の子は無事ですし、これは師匠の言っていた血縁を混ぜたゾンビの作成もできそうですね!」
ないはず、なんだけどなぁ……。
「アリスちゃん、さすがに手慣れすぎでは?
もう少し、ネズミをゾンビに使う忌避感とかは……」
やだ、この娘、めちゃくちゃ容赦ない……!!
はじめは亜竜の卵の件もあり、ネズミのゾンビの依り代作成も絶対難航すると思ったのに、このありさまである。
いやまぁ、よく考えたら動物の皮なめしとか捕まえたウサギの解体とかやってるから血に対する忌避感とかはないんだろうけどさぁ。
「?何を言ってるんですか?ネズミは悪しき害獣ですよ?
食物を荒らし、病魔を蔓延させる、邪神の手先。
むしろ、積極的に殺していくべきものですよね!」
う、う~ん、この一点の曇無き眼よ。
アリスちゃんパパにそれとなく視線を向けると、むしろ彼は誇らしげにしていた。
亜竜の卵も、ネズミの子供も、同じ赤ちゃんには違いないだろうが!
……いや、ちがうか。
「ふふふ♪むしろ、犬猫や家畜、鳥の餌以外でもこの汚物共を有効に活用できるなんて!
やっぱり死霊術って思ったよりもちゃんとした魔術なんですね!」
「まぁ、でも呪術の中には陰の魔力と相性のいいネズミを操り、周囲一帯に疫病を蔓延させる呪術も存在するけどね」
「……どんな魔術も、使い様によっては悪の魔術になる。
そう言う話ですね!」
色々と都合のいい解釈をする我が弟子に少し、心強さすら感じる。
聞くところかつてのアリスちゃんのお母さんは、それはそれは病弱な人だったそうで、ネズミの媒介する熱や病気、さらには齧られたせいで炎症を起こしたりもしたそうだ。
そりゃまぁ、殺意も出るか。
「あ!そうです、こういう時こそ呪詛と組み合わせるのがいいのでは!?
ネズミに生存ぎりぎりの肉体を維持しながら、魂を堕落させる!
とりあえず、適当に一匹やってみていいですか?」
そして、アリスちゃんは只言われたとおりにゾンビを作るのではなく、質問を交えながらもその先を目指そうとする。
動機や行動こそ邪悪だが、それでもそのハングリー精神と熱意はなかなかのものだ。
これなら、そう遠くない日には、アリスちゃんはそれなりの、ちゃんとしたネズミのゾンビを一人で完成させることができるだろう。
「でもまぁ、まだ合格には程遠いけどな!」
「ちゅ、ちゅーわんがぁぁああ!!!」
というわけで、さっそくアリスが提示してきた完成品第一号のネズミゾンビを握り潰すことにした。
するとそのゾンビネズミは、ただ潰れるのではなく、まるで焼け付くかのように炭化し、その魂も浄化。
あっさりとその機能を失ってしまった。
「初めてにしてはよくできているけど、それでも実践レベルからは程遠い。
もう少し、魔力と呪詛の込め方を頑張ろうか!」
実際アリスの作ったネズミのゾンビは、初心者の初めてにしてはよくできてはいた。
少なくともゾンビとしての再生力や超パワーなどは備えていた。
が、それでもこの程度の出来で満足されても困るため、容赦なくダメ出ししていく事にした。
「い、今師匠、死霊術や奇跡を使わず、触っただけでこのネズミゾンビを成仏させませんでしたか!?」
「おお!よく気が付いたね!アリスちゃんに勉学ポイント+2点!」
「わーい!って、ちがう!?
今の何をやったんですか!?」
何をやったんだって言われても、ただ少し聖痕の力を解放しながら触れただけだが?
という冗談はさておき、今回アリスが作ったゾンビの最大の欠点、それは体の物理的な頑丈さこそそこそこあるが、まだまだ制御も作りも未熟すぎて、ちょっとした魔力混じりの刺激で壊れてしまうと言うところだ。
それこそ、奇跡未満の純度の高い陽の魔力をぶつければ、このように一瞬で崩れてしまう程度には。
「だから、このゾンビだとよくある三流死霊術師程度の出来だね。
太陽光で成仏したり、教会には入れない、その程度のゾンビでしかないよ。
死霊術師を襲ってくる相手の半分は、奇跡なんかの陽の魔力で攻撃してくるはずだからね」
「う~ん、まだまだ問題ありということですか。
ところで、前提として、神聖魔術に強いゾンビを作るのは、色々と聖職者的にセーフなんですか?」
「アリスちゃんは闇落ちしないいい娘なので、問題ないと判断しました」
「わ~い!」
なお、これはある意味では悪堕ちしたら自分がぶっ殺しに行くという宣言でもあるのだが、それを気付いてないのか純粋に喜ぶアリスちゃん。
まぁ、でも彼女ならおそらく、そう簡単に悪の道に落ちることはないだろう。
「……っは!ネズミを殺す呪詛ネズミを作れば、効率的にネズミを減らせるのでは?」
『そこは普通に、猫のゾンビとかじゃダメなのか?』
「猫はネズミを食べてる、かわいくて頼もしい動物なのにそんなひどいことできません!
でも、ネズミの死骸をつぎはぎにして、猫の形にすれば、多少はかわいくなるかもしれませんね!
やってみましょう!」
無数のネズミの死体を笑顔で量産するアリスちゃんの鬼畜さには、少し頭がいたくなる。
かくして、そんなやばいアリスちゃんを尻目に、こちらも自分用の亜竜の卵と亜竜の骨を取り出し、さっそく加工へと移るのでしたとさ。