さて、こんな風に死体や腐肉いじりをする昨今。
当然、こんな作業をすれば体に血や腐肉が付き、それが陰の魔力で腐敗が進めば臭くなるのは自明の理だ。
「うう、師匠~爪の間に腐肉が~」
「はいはい、ちゃんと手を洗ってくださいね~。
放置すると病気になっちゃうから」
「はぁいぃ……」
アリスは物憂げな顔をしながら、石鹸と風と水の魔法の力により汚れを軽く吹き飛ばす。
というわけで基本的には、死霊術におけるゾンビ作成作業はすごく汚れる。
鮮度の高い死体でも古い死体でも等しく臭くなる。
古い死体は当然土やら腐肉やらで臭くなるし、鮮度がいいと内臓やら血やらで匂いがひどくなるのだ。
特にお腹の中に、糞尿やらが残っていると、最悪。
どんな状態の腐肉であれ、陰の魔力を込める関係上菌の活性化やら腐敗やネクローシスが進行し、匂いと死体の鮮度は刻一刻と悪くなるばかりだ。
基本的に、死霊術師にとって必要不可欠な作業ではあるが、それでもこの不快感は何度やっても慣れない。
この苦労をした上で、これらの作業により神様から嫌われるっていうんだから、死霊術のコスパの悪さは最悪と言えるだろう。
「それでも、師匠はこの作業をしていても臭くないのはずるいと思います!!」
「これに関しては、風魔法や電撃魔法のちょっとした応用だからね。
防虫と消臭、さらには防呪を兼ねたパーフェクトなオリジナル防御魔術!
これだけは師匠や兄弟子も、思わずこちらに頭を下げて教えを請うてきたものよ!」
アリスちゃんがキラキラした目でこちらを見てくる。
ふふふ、この魔術は魔導学園の死霊術師教室時代には、神と崇められた最強魔術の一種だからな!
まあ、まだこの魔術も全然完璧でないし、そもそも私自身の水の魔法の才能のなさ故、極めることもできなさそうなのはいろいろと残念だが。
「そもそも、アリスちゃんには魔力量も風や電気の魔法の適性も足りないから、まだまだ先のお話だけどね」
「そんな〜」
「それに、今のうちにはあれがあるから!
ほら、アリスちゃん、一緒に行くよ〜」
「……!!はーい♪」
かくして私とアリスちゃんは今日の作業を一段落させ、その作業部屋を後にするのであった。
☆★☆★
さて、ここで改めて説明するが、実は現在の私の家は以前よりもかなり広くなっていたりする。
というのも、以前はただヴァルターとベネちゃん3人でのルームシェアをしている少し大きめの民家ではあったが、結局その後もこの家に居続けることを決意。
ともすれば、この家を増築していくことになったのは自然の流れといえるだろう。
そして、増築に関しては兄弟子がこの村に来てくれたことで、兄弟子のお得意の土木スケルトンたちが鬼のように役立ってくれるわけで。
あんまり正規の手段としてはよろしくないし、村の中でやると疫病が不安にもなるが、そこは冥府神の信徒とその教会が近くにあるが故、浄化も比較的簡単に。
かくして、この家は以前とは比べ物にならないほど大きく、また便利な家になっている。
――そして、その中でもっとも私が満足しているのがこれだ。
「ふぃ~♪
あぁ~、いいお湯だぁ」
「……ししょ~、ちょっとその言い方ははしたないですよ~……」
というわけで、現在私が満喫しているのが、この新しくこの家に備え付けられたお風呂。
サイズ的には2~3人用の木製、ヒノキと言いたいが異世界の木材であるためヒノキっぽいがヒノキではないガルバとかいう木材でできている。
なお、この世界における全身つかるタイプのお風呂は、あんまりメジャーではないが無くはない程度の文化である。
王都ではサウナ屋のほうが多いが、銭湯や水神教会名物香草風呂みたいのもあったりする。
まぁ、それでも場所によっては水や薪が貴重であるのは間違いないし、ここギャレン村でもつい先日までは大量の薪も水も結構貴重であったため、こういう贅沢は不可能であった。
「でもやっぱり、教会を建てるとこの辺での浄化作業がぐっと楽になっていいわ~。
特に井戸とかになると、一生ものの話になってくるから、浄化に手を抜きたくなかったからねぇ」
しかし、その問題も現在は解決済み。
具体的に言えば、新しくできた教会と土木用のスケルトンのマンパワーを併用すれば、アンデッド達に新しく井戸を掘らせることも可能になったのだ。
おかげで、わざわざ川まで移動したり、水路頼りにせずとも安定した水が手に入れられるようになり、最近ではこのような贅沢も気兼ねなくやれちゃったりする。
少し前までは、桶に入れたお湯で体を拭き合っていたものだが、やっぱりこれを体感しちゃうと、体を拭くだけでは満足できなくなるよね!
「いや~、肩の荷が取れる思いだわ~」
「……師匠の場合、本当に肩の荷が重いですからね」
おいおい弟子よ、視線が明らかに胸元に行きまくってるぞ。
「そちらへ行っていいですか?」
「いやまぁ、かまわないけど……」
「~~~♪」
そうして、自分の足の間に陣取り座るアリス。
ニコニコのこちらに笑顔を向ける様は、懐いてくれてうれしいと思う反面、なんか視線がこちらの胸元に行きまくっていることに、一抹の不安を感じさせる。
いろんな意味で将来が不安になるが……まぁ、もしそうなったらその時はその時だろう。
「ふぅ~……」
「~~♪♪」
そんな漠然とした不安を無視するために、再び自分はこのお湯を満喫することに全力を尽くすことにした。
指先まであったまる四肢、潤う肌、火照る体温。
時々手慰みにアリスの頭をくりくりと撫でると嬉しそうにコロコロと笑う実に和やかな雰囲気が流れる。
「……あ~、やっぱり私も土木用のスケルトンが欲しいな~……」
「スケルトンですか~、以前は便利そうって感想しか出ませんでしたが……。
いまなら、作るの大変な割に弱いのってどうかと思いますよ~……」
「いやいや、あれはあれで優れたアンデッドだよ~…。
魔力消費量が少ないし、折り畳みも簡単だし、力も魔力を与えればぼちぼち便利だし~。
戦闘に向かないだけで、あれば便利だよ~…」
「師匠はそんなスケルトンを作って何するんですか~?」
「……ガーデニングとか、洞窟の整理とか~?」
「それなら、最近増えた冒険者見習いの人たちや日雇いの人を使えばいいのでは~?」
「あ~、アリスちゃん賢いね~。
なでなでしてあげる~」
「わ~い♪」
このように風呂の中で毒にも薬にもならない会話を師弟で行い続ける。
なお、撫でられついでにアリスが何故か顔をこちらの胸にわざと接触させてきたのだが、やっぱり将来いろんな意味で問題になりそうな娘である。
「ヴぁ~……」
「はいはい、そんなアホなことやるから。
ほらもうお風呂あがりなさい、これ以上はのぼせちゃうでしょ~」
「え~……。
師匠と一緒にお風呂あがりた~い」
う~ん、この。
なお、このセリフは一見ただカワイイ弟子ムーブに見せかけて、お風呂上がりの体を拭き合おうとするのに全力を尽くしているだけだ。
拭くのも拭かれるのも好きなのは、いろんな意味で将来が不安ですよ、師匠としては。
「……そっか~、本当はこの後氷室にある氷菓子を食べてもいいって言おうと……」
「あ!それじゃぁ私が先に上がっておきますね!
では!」
う~ん、この色々と現金すぎる弟子よ。
いやまぁ、風呂上がりのアイスはおいしいから仕方ないとはいえ、そこまであっさり見捨てられると寂しいと思わないでもない。
でもまぁ、これで早速お楽しみができるというものよ!
「というわけで、てててて~ん!
電気印の魔法の杖~♪」
かくして取り出したるは一本の魔法の杖。
といっても、魔法の杖としての効果はかなり雑なもの。
単純に電気属性にした魔石を、ある程度指向性を持たせたうえで、防水加工のみ施した杖に装着しただけのものである。
「でも、これさえあれば……あばばばば♪」
というわけで、さっそくその杖に魔力を込めて放電させる。
すると今までの只の温かいだけのお風呂が、あっという間に電気風呂へと早変わりした。
「あ~、これこれ、きくきく♪
次は肩も……おお゛~♪」
その電気の杖を使い、肩や背中に押し当てることで全身のこりをそれとなく癒していく。
少し爺臭いかもと思うが、それでも気持ちいいものは気持ちいいがゆえに、この娯楽を妥協する気は一切ない。
なんなら、顔面に押し当てて、眼球や顔の筋肉のマッサージも併用してみる。
「まぁ、でもこれは電気耐性が強い自分がやってるからいいけど、アリスちゃんと一緒だと加減しなきゃいけないからねぇ」
なお、アリスちゃんを早めにお風呂から出させたのもこの電気風呂をやるためである。
もしアリスちゃんがいたら、別に死んだり怪我はしないだろうけど、全力で痺れてしまうぐらいの威力はあるが故、ある意味ではおひとり様限定のお楽しみなのだ。
……まぁ、だからこそ油断していたのだろう。
「よ~し、今度は太もものマッサージを……」
「師匠~!氷菓子持ってきました!
一緒にお風呂で食べま……あ」
「あ」
自分のほうを向いて固まるアリスと私。
赤面している自分の顔、だらけ切った四肢、さらには一本の魔法の杖が太ももの間に挟まっていたが故……。
「し、師匠がエッチなことしてる~~!?!?!」
「な!お、おばか!これはちがう……って、あ」
「あ……あばばばばばば!!」
「あ、アリス―!!!!」
かくして、誤解を止めようと近づいたはいいものの、自分は電気風呂中だったが故、無事アリスは感電。
アリスの誤解やら痺れを解くのに、それなりに苦労する羽目になったのでした。