結局あの後も飲み会は少し続くことにはなるが、少しだけ雰囲気は変わっていた。
なにせ、ベネちゃんは告発の後、明らかにテンションが下がっていたからだ。
「うう、うう、わ、私にはあんな妹と同じ、汚れた獣人の血が流れてるんですぅ。
人間なのに、人間じゃない、獣以下の存在なんですぅ……」
そう言いながら、ちびちびと舐めるように杯の酒を味わっていく。
先ほどまでの様子を笑い上戸だとすれば、今は泣き上戸。
それほどまでに今のベネちゃんは、しょんぼりしていた。
「生まれながらにして罪だから……。
獣人なんて、生きているだけで罪な存在なんですぅ」
色々と獣人差別やら、やばい発言を繰り返しているベネちゃん。
彼女の過去を考えれば仕方ないが、それでもその発言はいろいろと危険球だぞ?
なお、王国において獣人は、差別こそされるが、存在が罪とまではいかなかったりする。
まぁ、それでも獣人は差別されている過去を持つものが多いせいで、それなりに反体制やらに回ったり、悪神側を信仰するものも少なくないのが事実だ。
え?それは別に獣人に限らないだろって?普通の人間でもエルフでもドワーフでも邪神を信仰する奴はするだろうって?
それは、そう。
「それに、これを見過ごす神ってなんですか!
獣人の薄汚い血なら潰えたほうがいいって話?
なら、そもそも産まないでくださいよ!? 私だって、信者になるとは言いませんが、邪神の一つも崇めたくなる気持ちもわかりましたよ!」
そして、私の前で神様批判や邪神信仰は色々とやめてね?
まぁ、不幸な人は世界そのものを恨むし、そうすれば邪神信仰の基本である、人類への裏切りを対価に、膨大な力を授けてくれる流れにすがりたくなる気持ちもわかる。
「……うう、それにようやく神様をちょっとは見直したときに、あのクソうんこがまた私の下に流れて来るなんて……。
やっぱり、神様っているんだなぁって、そして、神様もクソなんだなって……」
それでも、これほどまでに親しくなったベネちゃんが悪堕ちされると困るため、私は彼女を励ますことにした。
そっと彼女の肩に手を回し、包み込むように抱きしめる。
「ダメですよ、イオちゃん。
私は汚れた卑しい獣なんですよ?
……それなのに、それなのに……」
ダウナーになっているベネちゃんも、流石にこちらの気遣いに気が付いたのか、徐々に声に活気が戻ってくる。
その眼に活力が戻ってくる。
「……そうです!今の私には仲間がいるんです!
辛いこともあった、悲しいこともあった!
でも、それでも、得るものもあったし、信じた意味はあった!」
「暖かい家、安定した資金!
親切な隣人に、幸せな日々!」
「そして……こんな私でも受け入れてくれる最高の仲間!
かっこかわいいヴァルターさんに、ふかふかのイオさん!
私、本当に今まで生きていてよかった!」
うんうん!そうだね、私もベネちゃんみたいな可愛い仲間ができてうれしいよ。
でもね、ベネちゃんのパワーで抱き着かれると、マジで私動けないんだ。
というか、ベネちゃん細身なのにめっちゃパワーあるなと思ったけど、これが恐らく獣人の血というやつなのだろう。
「~~~♪♪
いいにおい~~えへへ~~♪♪」
そして、こっちに懐いてくれるかのように、全身をなめてくるのも獣人の……。
いや、これはきっと彼女自身の性癖だろう。
でないと獣人全体が、ペロリストというやばい事実になりそうだし。
「……って、んにゃ!」
「あ~~、ここいいです。
私、ここに住む!」
そして、ベネちゃんの絡み上戸はより深いものとなり、はじめは皮膚、次は脇、今はおっぱいの下あたりにその顔を埋めていた。
しかもその過程で衣服も剥ぎ取られてしまったし。
ベネちゃんも半裸だし。
「……さすがに、いい時間だし、そろそろ飲み会お開きにする?」
「や!もう少しこの時間続けるの!」
「ははは、でもさすがに、お酒もほとんどなくて……。
せ、せめて、お水を持ってくるからそこで待っていて」
「むむ~!そんな意地悪なことを言う悪い口はそこか~?
ちゅ~~♡」
「!!!!???!?!?」
かくして、この世界に来てからの、初めてのキスの味は酒の味であったとさ。
☆★☆★
そして、翌日。
「……ご、ごめんなひゃい……」
なんとそこには、床に頭を押し付けんばかりに謝るベネちゃんの姿が!
「わ、私みたいな貧相で、卑しい血の女が。
イオさんみたいな、聖女扱いされてる人にあんな、あんなことをするなんて……。
も、もはや、腹を切って詫びるしか……」
「はいはい、ベネちゃんもそんなこと言わないの」
「は、はううぅぅ」
なお、ベネちゃんは基本的に飲んだ後も記憶が残る体質だったらしく、どうやら昨夜の痴態は彼女はばっちり覚えていたらしく。
うむうむ、これはいろんな意味でありがたいな。
でないと、こうしてなんでべたべたで朝風呂を浴びなければならなくなった理由を誤解しないでもらえるのだから。
「それに、ベネちゃんも自分の血が卑しいとかそう言う事は言わないの。
そもそも、ベネちゃんの血がどうとか、私達がそんなことを気にするタイプに見える?」
「……場合によっては?司祭ですし」
「いやまぁ、そりゃそうだけどさぁ」
ベネちゃんのあまりにもあっけらかんとした本音に、思わず苦笑してしまう。
しかし、彼女がこうして素直に自分の思っていてくれたことを口に出してくれるのは、彼女が私達に十分馴染んでくれた証だろう。
「……でも!おかげで私も安心することができました!
妹の事で、色々と不安にさせてしまいましたが、おかげで、私はもう大丈夫です!
これからも不束者ですがよろしくお願いしますね」
「うんうん、こちらこそよろしくね」
かくして、改めて彼女との間の絆を再確認し、とりあえず二人で朝風呂を堪能しに行くのでした。
☆★☆★
なお、その後。
ベネちゃんの妹、マートへの事情聴取。
「はっ!!私が高貴な血の理由?
そんなの、人間の貴族の血と獣人のエリートの血、さらには神に愛されし精神をもっているからに決まっているだろう!」
「確かに今の私は苦境に立たされているが、それでもなおこれは私の覇道の一部に過ぎない。
見てろよそこの堕肉!私につけられた楔が外れたら、真っ先に貴様から殺してやる!」
「いや、お前だけではない!
お前の家族も、この村の住人も全員だ!」
「家族?当然愛しているに決まっているだろう!
もっとも、私の母は、自分の誇り高い獣人の血を受け入れられなかったうえに、神の愛すらわからない馬鹿な人であったが、それでも親は親だからな。
早く亡くなってしまったが、今は我が神のもとで、きっちり反省しているだろうな」
「父?あいつは最低だ。
力や地位があるのは認めるが、それでも人間の癖に、我が母を誑かし、手籠めにしたことだけはゆるせんな。
まぁ、それでも我らを産んだということだけで、地獄行き程度で許してやるが」
「だから、おねえちゃん!
そんなところに突っ立てないで、さっさとそいつらを血祭りにあげてよ!
いまなら、まだ神様も許してくれるはずだよ?
だから、早くその女やそっちのガキ、いやこんな偽神くさい村なんて滅ぼして、ね?」
流石にこれは見過ごせないなと思い、自分が彼女に注意しようとしたが、それよりも先にベネちゃんがその妹をわからせるのであった。