さて、半ば思い付きで始めたマートの呪術修行。
これは思ったよりも順調に進んでいた。
「う、うわぁああ!!」
魔力放出の修行である、練習用の発光の魔法の杖を用いた発光修行では、彼女のあまりの魔力放出量により、魔法の杖を破壊。
強い光を放った後に、魔法の杖が内部から破裂するように壊れてしまったほどだ。
「お~、すご~……。
じゃない!えっとその、大丈夫?
多分素材が素材だから、ケガはないと思うけど?」
ほぼ初見から発光を成功させるだけではなく、まさかの杖を破壊できるレベルの魔力を放出したことに驚きつつ、足早に彼女の下へ駆け寄る。
なにせこいつは、奇跡魔法の効きが悪いからな。
まぁ、それでも自然回復速度は速いから、そこまで問題ないだろうが。
「あ、え、えっと、その、わ、わりぃ!
あの、お前から渡された魔法の杖を壊しちまった!
あ、あの、これの弁償とかは……」
「え?そんなもんはどうでもいい。
それよりもお前の体のほうが大事だ。
ほれ、回復するから受け入れろ」
「あ……え……あはは、そうか、そうだよな」
杖の木片や骨片が、彼女の体に刺さっていないか不安であったが、どうやら怪我はしていないようで一安心である。
一応一度に大量の魔力放出をしたが故、生命力やら体調を維持するために魔力が消費され、体に疲労がたまっているが、その程度。
外傷はないようで何よりだ。
「はい、これ、魔力回復用のポーションね。
味のほうは、保証しないけど、残さず飲んで……」
「いや、まずくないぞ。
ごちそうさま」
「はやっ!」
う~ん、一応は人間の味覚的にはそこまでおいしくない成分でできているのだが、どうやら邪獣人である彼女の味覚は別物なようだ。
そこそこ貴重品な薬故に、間違ってがぶ飲みしない様に、うまくもまずくも無くしているのだが、どうやら再検証の必要があるようだ。
「おぉ~!妹弟子があっさり発光をクリアしましたか!
で、も! すでに私はその先の先! なんと、死霊召喚まで行っているのです!
ふふふふ、それに杖を破壊できたのはさすがですが、発光を長く安定的に維持するのはより困難!
ふふふ、姉弟子の座はまだまだ渡しませんよ」
「うぐぐぐぐ!こんなちみっこの癖に!」
「ちみっこ言うな!」
かくして、アリスとマートのじゃれ合いを尻目に、私は彼女のために次の試験用の題材を準備するのであった。
☆★☆★
「え、えっと、その……大丈夫ですか?」
さて、そんな風にマートに呪術修行を行ってから、さらに数日後。
ベネちゃんから、改めて話があると、それとなく呼び出されていた。
「えっと、マートちゃんの様子?
まぁ、基本は見た通り、どことも問題を起こしていないし、呪術修行も基本的に問題なし。
家事に関しては……まぁ、普通の家事は適性が薄いからね。
時々練習こそさせてはいるけど、基本的には本人が得意なことをさせている感じかな」
「え、えっと、あの娘の得意なこととは……?」
「革のなめしとか、後は呪術や死霊術の素材の調合とか。
まぁ、細かい作業は無理でも、大雑把なことならわりとって感じだね」
かくして、ベネちゃんに現在のマートの待遇を順番に説明していく。
内心、彼女の妹に危ない陰魔力作業やら、呪術を学ばせていることについて文句を言われるかもと思ったが、どうやらそうではないようだ。
「え、えっと、その……それに関してはむしろ感謝していて……。
あの娘があんなにう、うれしそうで、元気そうだから……」
「む、むしろ、イオちゃんには感謝してるんだよ?
私だけじゃなくて、あの娘にも優しくしてくれて……。
獣人の、特に邪獣人の血が流れてるのに、以前と変わらず優しくしてくれるなんて……」
ベネちゃんがおずおずとこちらにお礼を言ってきた。
「いやいや、むしろお礼を言いたいのはこちらの方だよ。
妹を奴隷という形でしか救えなかったし、そんな私でもベネちゃんは笑って許してくれたからね!
むしろ、マートちゃんを奴隷として雇ってるこんな死霊術師の私でもベネちゃんは許してくれるのかなって」
「そんな!私は全然気にしていないよ!
む、むしろ、マートに関してはもっと厳しくても……」
「まぁ、ベネちゃんは優しいからね。そう言ってくれるとは思ったよ。
でもまぁ、あんまりベネちゃんの好意に甘えすぎるのも問題だからね。
マートちゃんについては、それなりに節度を持って接していくつもりだよ」
マート相手にケモミミ萌え萌えメイドやらせて何を言ってるんだと思うかもしれないが、それでもそれ以上はしていないからセーフ。
お互いの合意の上であり、それ以上のことは起きていないから問題ないはずだ。
「……む~」
しかしながら、それでも何やらベネちゃんは不服顔。
もしや、こっそり、マート用に獣人ブラッシングブラシを作ったことか?
それとも、体の清潔さを言い訳に、お風呂で丸洗いしたことがばれたか?
「え、えっと、その……あの娘の世話を焼いてくれるのもうれしいけど……。
あ、あの、もう少しイオちゃんの本来のお仕事を……」
「あ~、最近ミサやら司祭としての仕事は兄弟子に任せがちではあったなぁ。
兄弟子も知り合いを引っ張ってきてくれたから、教会の仕事が減ったとはいえ、時々は顔を出したほうが……」
「ん~~!」
どうやら自分の発言は何か間違っていたらしい。
ベネちゃんは膨れ顔でこちらを見やり、怖くない顔で睨みつけてくる。
そんな光景に微笑ましさと、申し訳なさを感じつつ、どうしようかと悩む。
が、その時先に行動を起こしたのはベネちゃんの側であった。
「これはあんまりやりたくなかったけど……ん!!」
少しベネちゃんが気合を入れると、すると、そこには頭部から突然ケモミミをはやしたベネちゃんの姿が!
「え、え、ええぇ!!!
そ、それ……ほんもの!?」
「ふ、ふふ!じ、実は本物で~す!
お母さんの遺言で、人前では見せちゃダメって言ってたけど……。
信頼できる伴侶……こほん!仲間相手なら、OKっていってたから!」
「……」
「で、ど、どうです?
そ、その……触ってみる?
ちゃんといつも洗ってるから、ふわふわだよ?」
「……いいの?」
「も、もちろん!
で、でも、代わりに、優しくしてね?」
実は獣人化もできたという驚愕な真実よりも、ケモミミに肉球という実にご都合主義な外観に感動。
そして、それを容赦なく見せつけてきたベネちゃん。
かくして、この後は先ほどまでの不機嫌も忘れて、ベネちゃん相手に全力でなでなで。
そしてそれは、ヴァルターが来るまで続けられ、3人で秘密を共有することになり、その時にはすっかりベネちゃんのご機嫌も治ることになっていたのでしたとさ。
☆★☆★
なお、それから数日後。
「……ここに怪しい獣人とそれを匿うカルトがあるときいた!
おとなしく、その霊地及び不当に占拠された教会を明け渡してもらおうか!」
「え、だれこいつら」
「マジで誰だ」
なんと、このギャレン村にクソ怪しいカルティストの群れがやってきて、急にこちらを糾弾し始めてくるのでした。
いや、マジで誰だよコイツら。