――時は今から大きく遡り、数十年前。
イラダ地方含むこの大陸に、魔王と呼ばれる強力な邪神の眷属が降臨しました。
その時登場した魔王『烙印』は非常に強力なだけではなく、高いカリスマ性を持つ魔王でもありました。
それゆえにかの魔王『烙印』は獣人や吸血鬼、亜人や竜族の一部など、数多くの種族を味方につけ、人類種を、特に『王国』や『帝国』などの只人が頭首を務める国を優先して狙いました。
それゆえに、元々仲が悪く、その当時も戦争を繰り返してばかりの王国と帝国でしたが、この時ばかりは人類種という絆の元に手を結ぶことに。
神々の助けと国を超えた友情、さらには多くの国軍や騎士団、さらには名もなき多くの英雄や勇者の活躍により、魔王『烙印』は討ち取られましたとさ。
めでたしめでたし。
「さて、ここから、この魔王戦についてもう少し詳しい話があってだな。
特に俺がおすすめするのは、この邪獣王モンマスと我らが聖太陽騎士団の戦いについてで……」
「だから、要点のみでおねがいします」
「う~、ノリが悪い……と言いたいけど、まぁ、時間が押しているから仕方ないかぁ」
かくして、裏事情を話すと言って始まったクミ司祭の話であるが、やはりというか、しかしというか、ともかく話の長いこと長いこと。
しかも、話す内容も魔王退治で活躍した英雄や魔王の特技、さらには魔王戦での山場についてなど、概ね関係のない話ばかりに力が入っていた。
「いや、わりぃな。
どうにも、この手の話をすると盛り上がってしまって……で、だ。
この村やアンタを襲ったカルトと獣人の教団についてだな」
クミはコホンと一息を突いた後、改めて今回の事情について話し始めた。
「まず初めに言うと、件の獣人の教団とは、【邪神教団】。
つまりは、人類種の敵となる悪神を信仰する獣人軍団だ」
まぁ、そこはマートの信仰からしてなんとなく知っている。
「そして奴らは、同時に【魔王戦】当時において、魔王【烙印】側についた獣人集団。
いや、当時の王国及び帝国内での獣人、その半数近くが、【邪神教団】に所属し、魔王軍として王国及び帝国の民を殺しまくったという過去を持つんだ」
「なるほど、つまりは、魔王時代に悪さをした獣人集団。
それが件の教団というわけか。」
「それに加えて、【邪神教団】に所属しなかった獣人の多くは、魔王戦時代に【中立】宣言をしたのがものすごく多くてな。
獣人に見殺しにされたとか、死肉漁りをされたとか、奴隷やら食肉扱いされたとか。
そういうわけで、首都の教会では獣人に偏見を持っている高位司祭は少なくないわけだ」
ふむ、つまりは聞くところによると、獣人とは純粋に人類種側の味方というわけではなく。
むしろ、どちらかといえば敵側であった種族なようだ。
「というか、まぁ獣人種族で味方であった奴は本当に少なかったらしくてな。
それこそ、一部明確な味方がいたという理由で、本来太陽神教徒の教敵である吸血鬼のほうが好かれているレベルだからな」
それは一般的に言って、見敵必殺というのではなかろうか?
人によっては、文字通り親の仇というやつなのだろう。
「まぁ、首都の教会が獣人を恨む理由は何となくわかったけど……。
だからと言って、こちらに対しても私達を恨むのはお門違いじゃない?」
「それに関しては、実は別の問題が絡んでいて……。
実は、今の首都太陽神教会にいる司祭様の中に、帝国からのスパイがいるみたいなんだ」
「スパイって、今の帝国と王国は友好関係なのに?」
「一応、表面上はな」
クミ司祭は額のしわを揉み解しながら、絞り出すように言う。
というのも、今のイラダ地方は表面上は王国領であり、それを帝国王国の上層部は認めている。
が、それでもそれは帝国の総意というわけではなく、それなりの数の帝国のスパイがこの地方で暗躍しているそうだ。
「そしてこいつらは、一部は反王国という一点に共感して、とある集団と仲良くしているんだ」
「……それって要するに、太陽神教会の一部が帝国のスパイと共謀して邪神教団と繋がってるってこと?」
「さらに言えば、魔王軍残党とも……なんて噂があったりなかったりするけど真相は不明。
いや、流石に私としても、そこまで太陽神教会にいる司祭が腐ってるとは思えないから、あくまで一部の利益が共通しているから結果的には、ってだけだとは思うけどな」
ともあれ、彼女の話としては、今の首都教会内には王国派と帝国派の二派閥があり、表面上は仲良くしているが裏ではバチバチ。
さらには、それらに反獣人派やら魔王軍残党やらが複雑に入り混じり、面倒くさいことになり、今回のような事態が引き起こされているとのことだそうだ。
「だからまぁ、そのせいでいろいろと面倒をかけて……。
イオ司祭やルドー村長、そのほか一行には迷惑をかけて本当に済まなかったな」
「まぁ、すでに起きたことに関してはもういいよ。
あくまでこれ以降起きないように、再発防止に努めてくれれば」
まぁ、でも彼女の説明のおかげで、今回の事件の背景が分かったのは僥倖であった。
さらには、彼女やその上が事態をここまで理解してるのなら、二度とこのような事態が引き起こされることもないだろう。
「……」
「おい、そこははっきりと起こさないと断言してくれよ」
もっとも、話はそう簡単なものでもないようだ。
「いえ、俺や俺の上司も、できればあんたやこの村々の発展に協力したいんだが……。
どうやら、教会の反帝国派の人達であっても、残念ながら邪獣人の存在はそれ以上に許せない人が多いからなぁ」
「私がマートを奴隷として使役している。
それだけで許せないってわけか」
「ああ、できればこちらとしても、
無理か?」
少なくとも、マートの人格や行いに問題があるのはわかってはいる。
が、それでもこいつらが彼女の処遇について責め立てているのはその部分ではないため、こちらとしては彼女らの提案に乗る気にはなれない。
すくなくとも、彼女をそれ扱いする奴には、だ。
「……あんたは中立神の司祭、だからなぁ、やっぱりそうなるかぁ。
一応これは警告だが、帝国派の奴らは、この村に被害を出すことをあきらめていないっぽいぞ?
それこそ獣人の奴隷や流民を利用して、何かよろしくないことを企んでいるらしい」
ある意味では予想通りだが、それでもあのような聖痕やら壁尻みたいな被害を受けてなお、悪だくみを続ける。
その信仰心の高さというか諦めの悪さには、一種の尊敬の念すら浮かんでしまう。
まぁ、見習いたくはないけど。
「……今からでも遅くはない、邪悪な獣を一匹始末するだけで、問題なくなるんだ。
別に獣人の流民を全員殺せとか言ってるわけじゃないんだ、邪教を信仰する邪悪な獣人を一匹始末する、それでいいじゃないか」
「断る」
「……だれか、大事な人に被害が出るかもしれないぞ?」
「それでも、だ」
クミ司祭がじっとりとした視線で、こちらを見つめてくる。
が、こちらとしても仲間の妹であり、かつ、自分の所有物になった彼女を一方的に殺させようとする。
そんな奴らの提案に乗る気などさらさらない。
「それに安心しろ、彼女は将来的にきっちり更生させるつもりだから。
少なくともいずれは邪神の信仰をやめさせるとかそういう感じ。
更生中ゆえ、太陽神の司祭と言えど、むやみに口を出さないでいただきたい」
「……わかった。
今回は、おまえが太陽神含む善神から使命を受けている事、さらにはそれを更生させている途中だという言葉を信じて、引き揚げておくし、上にはそう伝えておく」
「しかしそれでも、邪獣人は基本的に滅ぶべき存在だ。
それこそ、善神にでも認められないかぎり、教会は決してお前を敵視することは止めないだろう。
そのことは、頭の片隅にとどめておけ」