クミ司祭の内部告発というか警告からしばらく後。
彼女がある程度抑えるとは言ったが、結局カルトの妨害は定期的に続いていた。
もっとも、それは派手なものというよりは、間接的というか、地味なものがメインだが、それでも、妨害は妨害。
今日も今日とて、そんなカルトの起こした騒動を食い止めるために依頼を受けるのであった。
――ぐごごごごごご!!
「いや~、あれが本格的なゴーレムってやつか!
……なんていうか、思ったよりも気持ち悪い見た目してるねぇ!」
そうして、眼前にあるのは巨大な岩と土の塊。
いわゆるゴーレムと呼ばれる、魔法生物の一種であった。
土塊に怨霊が憑いたのがアースグールならば、土塊に精霊が憑いたり、魔術によって生み出された動く土塊がゴーレム。
今回目の前にいるのは、土の精霊を憑かせて動かしているタイプのゴーレムなようだ。
「どうやら、このゴーレムは魔術師によって生み出されたタイプ……。
だとは思うけど、どうやら、これは不良品みたいだね。
内部にいる精霊が、暴れ狂っているよ」
もっとも、目の前にいるゴーレムは、ある意味では未完成品。
そのせいで、体が再生しては崩れを繰り返し、土と岩というよりは、熱もないのに溶けた土と岩の塊のような、実に気持ち悪い流動性を有していた。
しかも、半端に顔やら手足の造形を作ろうとしていたせいで、実にひどいことに。
全身どろどろの土と岩人形という実に気持ち悪いゴーレムがそこに存在した。
「で、このゴーレムを生み出した製作者は……」
「多分、もう死んでいると思うよ。
ほれ」
うぞうぞ動くゴーレムの体に向けて、魔力弾を放つ。
するとあっさりとその体は崩れるが、その内側からは、生々しい黒ずんだ血と無数の腐った肉。
さらには、どこかで見覚えがある聖痕がそこには刻まれていた。
「うえっ」
「おそらくは、件のカルトがゴーレムを作って、盗賊のまねごとでもしようとしたんだろうけど……。
どうやら聖痕の魔術狂わせは、精霊魔法でも狂わせるみたいだね。
そのせいで、ゴーレムを作ると同時にその体に組み込まれて、中で挽き肉に。
ついで魔力バッテリー扱いになっているっぽいね」
ゴーレムの内部から見えたその光景には、ヴァルターも思わず、吐き気を催していた。
まぁ、いつも盗賊の切り身を量産しておいて何をいまさらと思うかもしれないが、切り身と肉団子ではいろいろと違うのだろう。
それに、気の気配が読めるヴァルターなら、そっちの方面でも感じるものがあるのかもしれないし。
「でもこれ、正直、僕いる?
いやさ、岩や土でも斬ろうと思えば斬れるけど……」
「それに関しては、こっちでゴーレムの動きを魔術的に止めるから。
ヴァルターはコイツの弱点であり、コアでもある聖痕入り肉団子を真っ二つにしてほしいんだ!
……いける?」
「できるかできないかで言えば大丈夫だけど……。
大丈夫? あれを斬っても、ボクの剣呪われたりしない?」
「大丈夫大丈夫。
それに、もし呪われたら責任取ってあげるから」
「え!!!?!?」
「……いや、なんとしてでも解呪するって意味だよ?」
「ですよね~」
目に見えて、へこむヴァルター。
いや、流石にこれでキスやらなんやらを安売りするほど、安い女じゃないぞ?
「それにあれだよ。
こんな気持ち悪いゴーレムでも、この魔力の質と精霊からして、多分ドロップ品には期待していいと思う。
この手の土の精霊の暴走体って、内部に珍しい宝石を生成していることが多いからさ」
「……でも、その材料って、あのゴーレムの中にいる
「まぁね。多分、血のように赤いルビーとか。
眼球の様に丸い真珠や、爪の様に透き通ったダイヤとか!
どれがいい?」
「……とりあえず、これ以上の犠牲者を出す前に、あれを仕留めたほうがいいことはわかったよ」
聖痕の影響か、ゴーレムの動きを呪術で止めるのに、それなりに苦労したが、そこはヴァルターの素早い剣技によって、フォロー。
かくして、久々のヴァルターとの2人での任務である、街道に現れた暴走ゴーレムの討伐は、あっさりと終了。
血と腐肉と泥の中から、宝石を漁る作業のほうがより時間をかけることになるのでした。
☆★☆★
かくして、ギャレン村の拠点にて。
「というわけで、これが今回の依頼で手に入れた、大粒の魔力入りルビーで~す!」
「ほぉぉぉぉ!す、すごいです!
ちょ、ちょっと鑑定してみてもいいですか?」
今回のゴーレムからなんとか摘出できた魔石状態のルビーを、メイドが嬉々として鑑定し始める。
そういえば彼女は、それなりのいい所の商家出身なのでこの手の鑑定もできるのだろう。
でも、そのルビーって、クソみたいなカルトの血肉と魔力も混じっているんだよな。
え?魔力が本物なら、そのくらい誤差だって?せやな。
「……というわけで、今回も件のカルトの企みを無事に阻止できたよ。
もっとも、到着時点でゴーレム暴走のせいで死んでいたカルト達の命までは救えなかったけど」
「さ、流石にそれは気にしすぎだと思うよ?」
かくして、宝石を見せびらかしながら、今回の依頼について、ベネちゃん含め、メイドやマートたちとゆっくりと談笑していた。
え、ヴァルター?血と泥を落とすためにお風呂に入ってるよ。
「そ、それにしても、カルトさん達は、相変わらずというかなんというか……。
どう考えても、以前、押しかけてきた人たちよりも数が増えていない?」
「一応、これに関してはどうやらカルト側で【聖痕】持ちが増えているらしくてねぇ。
流石に現状、神様も見ているだけではなく、ちょっとだけ奇跡やらを通じて、裁きを下しているっぽいよ」
「ひえっ」
地味に判明した恐ろしい事実に、ベネちゃんが思わず悲鳴を上げる。
いやまぁそうなのだ、実は当初押しかけてきたカルトよりも、聖痕持ちのカルトがやけに多いなと思ったのだが、どうやらこの聖痕はうっすら感染やら増殖する性質を持っているらしい。
もっとも、感染条件も不明だし、そもそもカルティスト同士でしか増えていないため、自分達にはあまり関係ない話だろうが……。
いろんな意味で恐ろしい事実なのには変わりない。
「それなのに、このような襲撃や嫌がらせが減らないことを考えると、抑止力としては微妙なのでしょうか?」
おそらくそう、多分そう。
あいつらは聖痕を付けられてなお、妨害工作を続けるのだ。
いろいろと覚悟が決まりすぎている。
それほどまでに獣人や王国が憎いのか、何か裏があるのか。
多分どちらもかな。
「……」
そんな会話をしている中で、なぜかやけに静かなマート。
何時もならどちらかといえばうるさいタイプなのに、ここまで落ち着いていると体調不良なのかと心配になってしまったが、どうやらそういうわけではないらしい。
「……なぁ、イオは、これでいいと思ってるのか?」
「ん?カルトの事?」
「いや、そっちじゃなくて、その、私の事だ」
そんな、おとなしいマートに何事かと尋ねてみれば、どうやらはマートは今回の騒動について、それなりに責任を感じているらしい。
「……そもそも、今回の騒動は私がここにいるせいなんだろう?
だから、そのせいでみんなに余計な迷惑をかけて……」
何時もの強気なマートとは違い、彼女はしおらしく、申し訳なさげにそうつぶやいた。
おそらく今回の騒動では、自分だけではなく、自分以外の、私や彼女の姉であるベネちゃん、さらには無数の村人に迷惑が掛かっていることを自覚しているのだろう。
耳も尻尾もペタンと垂れ下がっており、相変わらずかわいいなおい。
「……それに関しては安心してよ。
もちろん、無問題とまではいかないけど……。
それでも、私が負担する程度で問題はすんでいるから」
「でも……」
「それに、もし申し訳ないと思うなら、せめて、マートちゃんだけでも明るく!
いつも通りの元気な様子を見せてくれればいいからさ!」
ベネちゃんの前だから抑えぎみに、マートの頭を軽く撫でる。
マートは目を細めて、しっぽや耳がぴくぴくと動き、彼女が喜んでいるのが分かる。
かくして、ベネちゃんの咳払いが発せられるまでマートやメイド達と楽しいスキンシップやコミュニケーションを楽しむのであった。
★☆★
その日の夜
「……でも、こんな私でも少しでも、イオの負担を軽くできるなら……」
「……そう、これは私の罪、私の責任。
だから……」
★☆★
なお、翌日。
「きゅ~」
「……」
「きゅ?」
「え?」
いつまでたっても、部屋から出てこないマートの様子が気にかかり、彼女の部屋へと迎えに行くと、そこには件のケモミミ獣人の代わりに、一匹の小さなリスのような獣がいたのでしたとさ。