「きゅ~、きゅ?」
「きゅきゅ~♪」
というわけで、子リス事件から早数日後。
結果として言えば、邪神の邪痕はものすごく強力な呪いだということが分かった。
なぜなら、あの2回目の呪いを解いて以降も、その翌日にはあっさりと子リス状態に。
最近では彼女の解呪の際に起こる彼女自身の身体的な負担や、それなりの解呪費用などを考えて、即日の解呪はいったん取りやめたくらいだ。
「でも、小さくて不便だと悪いからね~。
大丈夫?何か困ったことはない?」
「~~~♪♪」
一応、子リス状態でも不便をかけないように、それなりに行動はしているつもりではある。
できるだけ怪我や危険がないように、一緒にいるようにしているし、ご飯も問題ないものを用意しようと気を遣うようにした。
「……む~。
すこし、マートにかまいすぎじゃないかな?」
しかしながら、全てが順調というわけにもいかず。
具体的には、ベネちゃんからはマートにかまいすぎと怒られてしまった。
まぁ、でも確かに言いたいことはわかる。
マートが子リス状態になってから、請け負う仕事の数は減っているし、少々マートを中心に行動をしているため、教会の建設のための建設仕事がおざなりになっている気がしなくもない。
「い、いやでも、これはあくまでマートの治療が終わるまで!
解呪方法が見つかるまでだから」
しかし、この状態もあくまでマートの治療法が見つかるまでの話だ。
正直、なぜここまで呪われているかや、この体の状態がよくわからないマートをほっておくのは論外ではあるが、それでも、この子リス状態の治療さえできれば以前通りの状態に戻るだろう。
なんなら彼女が邪教を捨て善神を信仰したとなれば、この家で軟禁状態ということも少なくなり、それなりに表立って歩き回ることもできるかもしれない。
「だからさ、これもマートちゃんが解呪や改宗が終わるまでの話だから。
そんなに目くじら立てないで、ね?」
「む~」
もっとも私がそう言っても、ベネちゃん的には不満が残っているようだ。
頬を膨らませながら、抗議してくる。
なんだよベネちゃんもカワヨかよ。
「……酒盛り」
「あ、お酒はさすがに酔っぱらって、力加減間違えてマートちゃんに怪我があったら大変でしょ?
だから、別の機会に……」
「……む~~!!」
というわけで、ベネちゃんの可愛い抗議を受けながらも、まぁ、それでも流石にかわいいからと言って放置するわけにもいかず。
ならばせめて迅速に問題を解決するべきだと、その方法を探すも、そもそものこんなド田舎ではそんな手段を探す方法すら限られてくる。
なので、解決法を探すために、兄弟子へと相談しに行くのも、ごく自然な流れであったと言えよう。
「……こういう方法はあまり薦めたくないが、今のお前は7大善神の加護を得ているんだぞ?
なら取る方法は一つだろ」
けどさすがにその方法はないと思うんだ、デンツさん。
「え?つまりは、7大善神への神頼みってこと?
さすがにそれは、邪獣人であるマートが完全浄化という名の即身仏されそうだから嫌なんだけど」
「言いたいことはもっともだが、それは善神のみに限るからだ。
頼む神の範囲をもう少し広げれば問題ないはずだ。
それこそ、我らの信仰する冥府神や酒神、より多くの中立神を含めた神々に大雑把に神託を募るのが最良だと思われるな」
「……いや、普通そんな大雑把な信仰心の欠片もない祈りなんて、それこそいろんな意味で不敬では?
神によってはそんな祈りを行ったこと自体に天罰を打ち落としそうだし、逆にうまくいっても、多くの神々に注目されるっていうより危険な状態に身をさらすことになりそうなんだけど」
なので、できる限りの兄弟子の言う手段の危険さを口に出してみた。
「天罰云々に関しては、お前が学んだ神学通りにやれば、少なくとも善神からの神罰はないから大丈夫だろ。
流石にその聖痕を付けている人間に、他の神が神罰を下せると思うな」
「……ん~、でも……」
「お前はあの娘たちを救いたいんだろ?
ならば、その位の危険など呑み込め」
兄弟子は強い口調と視線で、こちらを見入りながらそういう。
「それに、多くの神々に注目される云々は、本当に今更だろ」
「それもそうか」
そうしてその日の夜。
多くの神々に対する祈りと祝祭、さらにはマートにかけられた邪痕の解除手段に対して、相談の祈祷を行うのでした。
★☆★☆
そして、その日の夜。
夢の中において。
『こんの、清純派処女ビッチめがぁああああ!!!!』
なぜか、謎の人型に殴られた。
もっとも、今回目の前にいる相手は光の柱のような神々しい姿の何かではなく、黒髪で少し牙が長く角が生えている、不思議な眼の色をした褐色の女性。
多分、魔族とかそう言う感じの人だと思われる。
『っく、ちょっと魔力が多くて、人当たりが表面上はよくて!
そのくせ本質は強欲で我が強くて、両性気質もあって、なんだこのあざとさは!
よくも我が娘を誑かしやがって……、っく、襲ってやろうか!性的な意味で!!』
眼の前にいる謎の女性はその場で地団太を踏み、こちらを怒るような、性的な眼で見るような。
いろんな意味で危険な存在であることを、第六感が全力でこちらに伝えてきている。
で、結局、あなたはどちら様ですか?いくつか予想はつくけど。
『我が名は、■■■!!
いやまぁ、この名はお主等にはわからんだろうから、お主等でいうところの【情動神】や【混乱神】!!
20の種族の産神にして、より多くの種族の守護神であり、人種の愛と心の守護神!!
そして、なによりも!!お主の伴侶候補である、我がラブリーマイエンジェル信徒であるマートの保護者兼守護神の化身じゃ!!!!!』
あ~、やっぱりか~。
もう少し段階を挟んでくるかと思ったが、まさか化身とはいえ、邪神様ご本人がまさか自分の夢枕に立たれるとは。
いろんな感情が渦巻くが、まず初めに思うのは、なぜ?という困惑が強い。
『そ、そ、そ、そんなもの!!
お主側がマートを、誑かして、信仰すら奪ったからだろう!!
しかもマートの信仰を捨てる理由が、お主のためとか、愛のためとか!
っく、なんという情動的、我が信徒としてふさわしすぎる理由!!!』
『しかも、相手はお前みたいな半真面目半不真面目な、その上中立神の高位司祭とか!
おまえ、おまえな~!!!それはずるくてな~!!!は~、は~、ゆるさ~~ん!!!』
いや、そんな急に許さん言われても、というかそもそもそれで私ではなくて、マートのほうに邪痕をかけている理由がわからんぞ。
『それは、お前は我の信徒じゃないから神罰を下せん。
それにもしマートちゃんが棄教するなら、神罰を与えなければ他に示しがつかんからな。
……それにあの罰なら、他の信徒ならおそらく極刑クラスに近いが、マートの今の状況ならそこまででもない、だろう?』
流石邪悪でも神様である。
どうやら、マートが子リス状態になる呪いも、彼女が選んでかけていた呪いだったようだ。
『ま~、尤も我はもともとそこまで神罰を多用する神ではないし?
あれなら棄教したとしても、いろんな意味でほかに示しはつくだろうし、まぁ、最悪他の神への鞍替えしても、しても、しても……。
はぁ~、はぁ~~!!うぐっうぐっうううぅぅ、イヤダ、ヤダ――!!
あの娘を、他の神の信徒にするなんてヤダ――!!!!
ヤダヤダヤダヤダヤダ――――!!!!』
件の情動神が騒ぎ立てるたびに、夢の中なのに、空間がきしむような圧力を感じる。
流石にこれを放置すると、自分の体というか、脳みそや魂への負担がやばそうなため、速やかに情動神を慰めにかかる。
ほれ、魔力で作ったティッシュモドキだけど、いる?
『ううぅぅ……やっぱり、お主、優しい、好き。
我が信徒がメロメロラブラブずっきゅんになる理由がわかる……。
我の信徒にならない?今ならマート共々夫婦魔王候補か、新しい種族の始祖候補にしてあげるよ?』
残念ながらお断りです。
というか、なにその2択は、恐ろしすぎるぞ。
そして、断った瞬間また涙目になるのはやめていただきたい。
ほら、そのせいでまた空間がきしんでいるから、多分、この情報を受け止めている私の本体や魂も大変なことになっているから。
かくして、この後しばらく情動神の化身を何とか宥めたり、激しい勧誘を躱したりを繰り返すのでした。
さもあらん。