さて、情動神からの呪縛というか、神託はそれ以降もしばらく続き。
内容としては、大体がマートと一緒に改宗しないかというものであった。
もちろん、そんなものは善神の聖痕という名の見張りがついている自分としては、首を縦に振れるわけがなく、かといって、強く反発すればこの邪神がどのように暴れ散らかすか分かったものでもない。
「な~、な~、お主見たところ死霊術師なんじゃろ?
なら、我を信仰したらより効率よく死者蘇生できるようになるぞ?」
「いやいやそれはさすがに……」
「たとえば、親や恋人といった愛しい人の蘇生も我の教義では無問題!
さらには我ならば、■■、いや、冥府神さんのところと違い、より手軽に、我の伝手で強い守護霊をお主のところには派遣することも可能じゃ!?
なんと今なら、かつて6つの国を滅ぼした愛と悲しみの魔王の魂とか、興味ないか!」
「はははは、流石情動神様、言う事が豪快ですねぇ」
「じゃろうじゃろう!
特にこ奴ならば、邪獣人についても詳しいが故、お主やマートとも相性がいいと思ってなぁ!」
だからこそ、適当にこの邪神の話を聞き流すしかないわけだ。
が、それにしたってやけにこの邪神のプッシュは強く、マートに対する思いはそれほどまでに強いのかと地味に感心する。
「そ~れ~に~、お主に対して言いたいのがなぁ?
お主はマートはまだしも、あ奴の姉、つまりは、ベネディクトに対してはどう思ってるのじゃ?
半獣人と邪獣人、どちらの耳や尻尾も触りまくってからに、それなりに責任を取るつもりはあるのかえ?」
「ベネちゃんは私の大事な仲間で、マートも家族同然に大切にしています」
「か~っ!!つまらん返事じゃ!」
それ以外なんと言えばいいのか?
「それにしたって、お主はやけにマートにだけかまいすぎてないか?
そのせいで、あのベネディクトとやらが、必要以上にヤキモチを焼いて、人間関係が複雑骨折しているではないか!」
「ほれ、何かほかにも理由があるんじゃろう?
マートのほうが好きとか、モフ度が高いほうが好きとか!
ほれ、本音を言ってみろ!」
夢の中でとはいえ、邪神にこちらの頬をつつかれるのは、色々と生きた心地がしないからやめていただきたい。
正直あまり本音を言いたくはないが、邪神によって脅迫され、更には嘘の類が通用しなさそうなので、ここは本音を言うしかあるまい。
「ベネちゃんは大事な仲間だから、下手に嫌われるほど手を出しちゃうと今後の生活に支障が出るじゃん?
でも、マートは邪獣人で奴隷だから、ワンチャン嫌われるほどモフっても、飽きて捨てても、セーフかなって」
「この真面目系童貞処女クズがぁあああ!!!!!」
もちろん、情動神様に殴られましたとも。
ええ、夢の中とはいえ、鼻の骨が折れる威力の顔面グーパンはひどくない?
「ふぁいふぉうふふぁいふぉうふ。
ふぁいふぉふぃふぁ、ふぇふぃふぇふぃんふぁふぁうふぁふぁ」
「最後に手切れや更生させて野に返すのは、責任を取るとは言わんからな!?!?
っくっそ、これだから、中立神や善神の信徒は!?
教義が許すなら、何をしてもいいと思って!■■もそりゃ、珍しく神罰無双をするか悩んでいるわけだよ!!」
さらっと恐ろしいことを言う情動神様。
「というかお主、そんな半端な対応をしているから、我もこんな小癪な呪痕を続けなきゃいけないんだぞ?
せめて、聖女なら聖女らしく、どちらの責任も取るとか、そういうこと言えんのか!」
「さすがに、色々と処女童貞には厳しいんですが……。
というか、ベネちゃんに至っては、ヴァルターにも少し気があるっぽいんだけど?」
「我としては、それでもいいと思うぞ?
一夫多妻、多夫多妻、両者間で合意が得られれば、我はいいと思うの!」
全然よくねぇよ。
頭沸いているのか、この情動神は。いや、沸いているんだろうなぁ、情動神だし。
「それにしても、情動神様は信者であるマートだけではなく、ベネちゃんにも気をかけてくれるんですね。
なんというか、色々と意外でした」
「まぁ、我が信徒であるマートは、お主との関係の良好化を願っていたが、それと同時に、姉と仲直りしたいというのも混じりっけなしの本音で祈っておったからな」
「なるほどなぁ」
そんなこんなで、邪神側との問答も終わり。
情動神もこちらを誘惑することをあきらめたらしい。
「……ま、お主が歪ながらもマートを思いやっているのはわかった。
そして、ベネディクトを含む関係もいずれは、将来的には何とかしようとしているのも、まぁ、納得はしてやろう」
「はぁ」
「で、なんだ、我が邪痕の解除であったか?
それに関しては……まぁ、我ならもちろんできる。
というか、あの呪いは仕組みとしては、単純な『獣化の呪い』の延長。
お主があれを解除できないのも、我が掛けなおしているからに過ぎないからな」
どうやら、マートの邪痕がなかなか解除できなかったのは、呪い自体が解けていないのではなかったらしい。
単純に呪いを解いても、そのたびにこの邪神が新たに呪いをかけているという実に単純な仕組みであったようだ。
「つまり、こうして説教……ごほん、説法を聞いたから、すでに許してもらえたって言う事ですね!?」
「いや、我が許しても、世間的には許されてなくはないか?」
ですよね~。
「まぁ、マートの願いとしては、棄教自体はあくまでおまけであり、お主に迷惑をかけない立場になりたいという願いだからな。
我個神としては、あの小獣状態でもその願いが叶えられているのではあろうが……まぁ、それでも、あの状態は危険だからな」
「やっぱり、体やら脳に悪いんですかあれ?」
「まぁな。
マートの様に獣化に高い適性を持っているならそこまで問題はないが、それでも年単位であのままだと、魂や心まで獣になってしまうからな。
あ奴個人としてはそれでも悔いはないとか思っておったらしいが……我としてはそれは避けたいことだからな」
そう言いながら、この情動神はごそごそと自分の衣服をまさぐり、一つの封筒をこちらに渡してきた。
「というわけで、これがお主達に渡すべき封筒じゃ」
「内容は?」
「推薦状じゃ。
マートの奴は、我の庇護下を抜けて、善神の下へ行くそうじゃからな。
まったく、あやつめ、愛のために我が教えを抜けると宣言しながら、その後善神の下へ帰依しなければ何の意味もないじゃろうに。
■■の下ならば、まぁ、邪獣人であっても、
情動神は溜息を吐きながら、そうつぶやく。
その表情は、どこか寂しさとうれしさが入り混じったような、なんともいえない表情であった。
「……あの」
「同情はしてくれるなよ。
それにこれは、あ奴やお主への試練じゃ。
邪獣人という生まれを維持したまま、我が庇護下を外れて、善神の蔓延るこの世に生きるなど、無謀というほかないからな」
「しかし、それでもまぁ、それがあ奴の情熱と本心ならば、我としても快く歓迎しよう。
情動神として、な」
恐るべき邪神であり、世界を汚す超常存在、人類の天敵。
そんな存在のはずの情動神ではあるが、その顔はどこか慈愛と優しさに満ちていたのであった。
「それはそうと、この封筒に書かれている試練とやら。
どう考えても、マートよりも私への負担が多いんだけど。
これってどうなのよ」
「はぁああああ??
お主はうちの愛信徒を奪ったんじゃからその位しろよ!!!
でなければ、善神や冥府神など関係なく、お主の五臓六腑を弾き飛ばすからな!!!
覚悟しろよ!!!」
★☆★☆
そして、翌朝。
邪神との交神のせいで、起きて早々全身血だらけ大出血になったり、そのせいで貧血やら魔力不足になったり。
それを見たアリスちゃんが、パニックに陥ったり、メイドが涙目になりながら血濡れのシーツやら床を頑張って洗うことになった。
が、それでもなお、そんなものがすべて霞むような問題がそこでは起きていた。
「きゅ?きゅ、きゅ?」
「きゅ~~~!」
まず目の前にいるのは、昨日の夜解呪したはずなのに、相変わらず子リスになっているマート。
これはいい、まだこの数日間である程度見慣れた光景ではある。
「きゅ、きゅきゅ?きゅ~~」
「にゃん……」
「にゃにゃん?にゃ~~♪」
「なんで、ベネちゃんまで小動物になってるの?」
かくして、なぜかあの夢の後、なぜかベネちゃんまで獣化が進行。
子猫となり、こちらの指をなめるベネちゃんの姿に、癒しと頭痛、どちらも同時に感じるのでした。
「……いや、やっぱりあの情動神、いろいろ思ったけど、やっぱり邪神だわ」
さもあらん。