「にゃ~ん?ゴロゴロ……」
「あぁ~……あんな凛々しかったベネちゃんが、こんなことに……」
かくして、衝撃のダブル獣化からしばらく後。
なぜこんなことが起きたやら、そもそも何が起きたやらを仲間全員に説明。
そのついでに、獣化したベネちゃんやマートをあやしているのであった。
「つまりは、マートちゃんやベネちゃんが、どちらもこんな姿になったのは、件の邪神のせいだと。
やっぱり邪神ってろくでもない存在ってことだね」
「……そうだね!」
喉をなでるたびに、ゴロゴロと喉を鳴らす子猫ベネちゃんの様子を見ながら、ヴァルターは邪神への怒りを露にする。
まぁそうだよね、こっちに幸せそうな顔をしながら、喉をなでられているベネちゃんではあるが、彼女だってなりたくてこの姿になっているわけではないはずだ。
個人的にはかわいくて好きではあるが、まぁそれだって我が身でないから好き勝手言えるのだ。
素早く治せるならそれに越したことはない。
「それで、マートはまだしも、ベネちゃんの呪いも解くのは難しい感じ?」
「解けるか解けないかで言えば、多分邪痕が出ていないから、簡単には解けるだろうけど、どうやらこの呪いはマートのそれと連動しているみたいだからね。
マートのを解かないと、ベネちゃんの呪いも解けないよ」
どうやら、今回の呪いは、情動神の邪痕がパワーアップしたことによるものらしい。
おそらく、血縁による呪いの伝播とか、そもそもベネちゃん自体が半獣人故に、呪いの影響を受けやすいとかそういうものだろう。
「でも、今回は神託のおかげで、なんとかこの呪いを解く方法が分かったからね。
まぁ、簡単にとはいかないけど……おそらくは何とかなるはず」
「おお!それはよかった!
流石イオ!よ!この天才司祭兼天才死霊術師!」
ヴァルターが純粋な眼でこちらをほめてくれる。
が、こちらとしては邪神に脅迫というか押し付けられた解決法であるため、素直に喜んでいいのかどうか微妙な所ではある。
が、それでもベネちゃんやマートを救うには、この方法が最適であるため、やらざるを得ないのだが。
「ま、何はともあれ、さっそく邪痕の解除、頑張っていきますか!」
かくして、マートを胸元に、ベネちゃんを肩に乗せながら、さっそく問題解決のために、目的地へと向かうことにするのでした。
「ところで、ヴァルターや。
この子猫ベネちゃんすごくもふもふだけど、撫でたりしないの?
すごくかわいくてもふもふだよ?」
「いや、流石に僕はこう見えても、男だからね?
さすがに獣化してるとはいえ、女の子の体をむやみに触るのは……」
★☆★☆
「い、イオ教会建設責任大司祭様!
た、大変です!」
そうして、家を出ると何人かの司祭が慌てながらこちらへと駆け寄ってくる。
彼ら彼女らの特徴としては、皆それなりに整った格好をしている司祭であり、同じ植物をモチーフにした聖印やお守りを付けている。
つまり、特定の宗派の司祭だということがよくわかる。
「安心して、事態は把握しているから。
それじゃぁさっそく、現地に向かうことにしようか」
「……!!さ、流石です!
さ、さぁ、こちらです」
何人かの聖職者によって、連れてこられたのはポータルの先、新開拓村。
慌てる彼らの案内によりついた先は、建築中の【地母神】の教会。
「ようこそ、よくおいでくださった、イオ三輪司祭様。
どうやら、事態はご理解のようで」
出迎えてくれたのは、一人の地母神司祭。
肌が白く、耳が長く、只人とは違う高い魔力を感じさせる。
森人とも呼ばれる亜人、エルフの司祭がそこにはいた。
「……どうやら、よろしくないものを連れているようだが……。
それは、我らの教会を害する存在となりうるのでは?」
もっとも、この男エルフの司祭は、腕は確かなため。
自分の胸元にいるマートや子猫状態のベネちゃんを、ぎろりとにらんだ。
一瞬こちらの仲間になんて視線を、と思わないでもないが、彼としてはここは彼の大事な祭神の建築中の教会。
そんな大事な時期の大事な場所に、邪神の呪いが降りかけられた存在が来ることを責めたくなるのも仕方がないのだろう。
「……安心してください。
彼女たちは、正式な理由でこちらに来ているのです」
「……本当かね?」
「ええ、この聖痕と聖印にかけて」
地母神の司祭であるエルフに向けて、右手と取り出した聖印を見せつける。
彼はしばらくその聖印と、こちらの右手に触れて、この聖痕による誓いが本物かどうかを確認。
そして、溜息を一つ吐いた後、彼はこういった。
「……わかりました。
何をなされるかは知りませんが、それでも神々の名に恥じぬ行いをしてくださいませ。
それと、私も見張らせていただきます、よろしいですね?」
こうして、地母神の司祭の了承を無事に得て、この建築中の教会において、祈りを捧げることの許可を得たのでした。
「……」
「……」
そうして、地母神の祭壇にて。
私たちは祈りを捧げていた。
なぜそんなことをしているのかと聞かれれば、そもそも今回の情動神からのクエストというか、解呪の条件として出されたのが、マートの善神の信徒として、正式に洗礼を受けるというものだからだ。
もちろん、邪神の眷属であるマートは、通常ならばそもそも体質として善神の加護は受けられず、神聖魔法を受ければ回復や恩寵は得られず、ダメージばかり受けるのが常である。
が、それでも、マートがもし謙虚な信徒となったり、あるいは高位な司祭による祝福を受けたり、神自ら認められれば、それは例外となるわけで。
どこぞの月女神信徒の吸血鬼の様に、闇の眷属でありながら、善神の信徒になることが可能なのである。
「……」
そして、何よりも今回は、情動神より【紹介状】をもらっているのだ。
内容としては、情動神がマートはいい娘だから、地母神の信徒にしてあげてというものだ。
もちろん外から聞けば、邪神から善神への紹介状など、危険物や挑発以外の何物にも聞こえないだろう。
が、それでも件の邪神の気質や地母神という神の性質上、この紹介状は罠である可能性は低いであろうし、もし罠であっても、地母神の性質を考えればそこまでひどいことにならないはずだ。
「(はずなんだけどなぁ……)」
が、残念ながらなぜか地母神からの反応は遅く。
聖痕や周囲の魔力から祈りが通じているのはわかっているが、それ以上の反応はなく。
どうしようかと考え、日を改めようとした瞬間、突然それは訪れた。
『話は分かりました。
しかし、そう簡単に性質が悪寄りの邪獣人を我が信徒と認めるわけにはいきません。
なので、今からそこに、ダンジョンへの入り口をつくります。
そして、その奥にいる【涜牙・バルドレイク】を征伐してきてください。
彼はかつての魔王軍の幹部にして、多くの善良な人々を邪獣人に変えた大罪者。
彼の悪しき魂を疲弊させれば、その娘が我が信徒になることを認めましょう』
『ちょっとまて』
その神託と共に、その地母神教会建設予定地は突如大振動。
激しい揺れに一瞬目を閉じてしまうも、次の瞬間、なぜか目の前には空間の歪みができており、その先には無限に続くような深淵の通路が続いていたのでした。
「……これ、教会の設計図作り直さなきゃいけない系?」
『あ、どうせなら、この後もこのダンジョン自体は一般信徒用に開いておくので、それを考慮した設計をお願いします』
「おい」
さもあらん。