地母神から課せられたダンジョンの攻略はなかなかに困難を極めた。
ともすれば、今まで自分たちが攻略してきたダンジョンの中でも最難関と言える。
なにせ、ダンジョンの中にいる敵は今まで相手にしてきた魔物よりもはるかに強力で凶悪。
その上、天然物ではない知的生命体特有の罠や仕掛けもあり。
さらには、ダンジョン内部には邪獣人の呪いがアホみたいに蔓延しているのだ。
そのせいで一般人がダンジョン内で長時間活動するのは困難になっているし、対策をしてなお、定期的な解呪が必要となってくる。
一応、元から邪獣人のマートや、邪神の呪いによりむしろ邪獣人化に対する強い抵抗を得たベネちゃん。
加えて聖痕持ちの自分には、ほとんど問題ない。
が、流石にこの3人だけでこの高難易度なダンジョンを攻略するのは困難であり、特に自分が死霊術師、ベネちゃんが射手、マートが斥候なので、必然的にと前衛となる人員が必要になってくる。
もちろん何時もの面子という意味ではヴァルターが真っ先に候補に挙げられるが、残念ながら彼には呪い耐性がないため、長時間の探索は不可能。
もう一人の神託により一時的にこちらに協力してくれているマブラス司祭も、司祭業務があるからいつでも探索できるというわけではない。
「そもそもお前も、教会建築責任者としての仕事があるだろう。
それに、冥府神の司祭としての仕事はどうした」
「それは優秀な後輩や兄弟子。
さらには、死霊術のちょっとした応用で、死霊司祭なんかも採用しているから、意外と何とかなってはいるよ」
「……それはいろんな意味で大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、死霊司祭はあくまで内勤の仕事だけやらせている感じだから。
陰と陽の魔力ならどちらもきちんと拠点作ったし、神の許可も得ているから!」
「そういう意味で言ったのではないが……」
溜息を吐きながら、こちらを見やるマブラス司祭。
まぁ、彼の言いたいことはわからないでもない。
が、それでもこんなクソ忙しい時期にさらに仕事が増えたのはふざけんなと言いたくなるし、そもそも死者よりも生者を守るのが生者であり司祭であり死霊術師である自分の仕事なのだ。
それにこれで天罰を喰らったら……それで司祭をやめるのもまたありなのでは?
「やめておけ。
司祭としての責任を云々は言わんが、仲間が悲しむぞ」
もっとも、自分の思考が読まれたのか、的確に嫌なことを言ってくるマブラス司祭。
これだからエルフは嫌だ、特に人間社会に馴染んだ長寿人族はこちらの心を平然と読んでくる。
「ちがうな、長寿でもできん奴はできんし、そもそも覚える気がないやつのほうが多い。
単に俺が他より少しだけ器用、それだけだ」
う~ん優秀過ぎてむかつく~!!
でも、そんな優秀なのにこんな辺境に飛ばされているところを見ると、この嫌みっぽさのせいで王都から追放されたのとか、そういう人材なのだろう。
「……地母神の教会カーストにおいては、基本的に女性が優位だからな。
もちろん、我が信仰する地母神様への愛と献身が他の信者に負けているとは思わんし、女性優位なことに異論を挟む気もないが、別に嫌われていたとか、そういうのはない」
左様か。
でもまぁ彼自身が大局的に嫌われていなくても、小規模かつ周囲的にはどうかというのは別の話だと思う。
なぜなら、今現在地母神神殿の見習い司祭たちを見ると、女性陣は割とマブラスに好意的を超えた熱い視線を向けているが、対する男性陣は敵意とまではいかないが、血の涙を流しそうな嫉妬混じりの視線を向けているのがよくわかるからだ。
なお、この思考をしてそれとなくマブラスのほうを見ると彼は視線をそらしたので、そのことは彼自身よく理解しているのだろう。
「もしかしてこれが噂に聞く、追放ハーレム?」
「これだから、人間は……」
なお、なぜか自分のつぶやきを聞いたマブラス司祭から呆れられてしまった。
でもさすがにそれだけで、人間全体ディスはひどすぎると思うぞ。
そうして、さらに時間をかけてから、しばらく後。
自分たちの祈りが通じたのか、ようやくダンジョンから持ち帰った物品の鑑定が完了した。
「鑑定の結果、件の地母神様の試練という名のダンジョンの正体が、簡単ながら分かったぞ」
「お~!流石エルフ。
物知りおじさん」
「ぶっ飛ばされたいのか」
かくして、マブラス司祭の口から改めてダンジョンの正体について、語られていく。
というのも、あのダンジョンの主である【涜牙】とやらは、今から500年以上も前の魔王に仕えていた魔王軍の幹部らしい。
強さはそこそこながら、呪いを併用して国一つを落とした実績を持ち、当時の勇者に抜きん出た力が無かったこともあって撃退することができない、そんな存在であったそうだ。
「だからこそ、当時勇者のお付きであった地母神の司祭の聖女が、神へと命をもって祈りを捧げた。
そのおかげで、かの【涜牙】は地母神の手により地の奥底へと封印された……という話だそうだ」
「……その話を聞くと、めちゃくちゃ強そうに聞こえるんだけど……」
古に封印された魔王の幹部であり、倒すことができず封印でなんとかするしかできなかったと聞けば、もうやばいを超えて、無茶としか思えない。
が、どうやら、話はそうではないらしい。
「いや、そうではない。
貴様もあそこに潜って分かっただろう。
あいつらはすでに生き物としては死んでいるも同然だ」
「あいつらが500年間封印されてなお生き残っているのは、邪神の加護と陰の魔力をかき集め、肉の体を魔力で無理やり保っているからだ。
おそらく、現世でも冥界でもない、地母神の支配する地中において無理やりその存在を保ち続けていることは驚くべきことだが……。
それでも、ほぼ死にかけているのには違いない」
「だからこそ、かの地母神様は、我らにそんな時代に取り残された邪悪に最後の引導を渡させようとしておられる。
あくまで最後の一押しに過ぎないというわけだ」
マブラス司祭はそう声を高らかに宣言する。
まぁ、それでも話を聞く限り危険な存在であることは間違いない様で、少なくとも地母神の封印を受けてなお500年以上砦を維持し続けられる化け物であることが確定してしまったわけだ。
でもこれだけは言わせてくれ。これ、マートの改宗を認めるためだけにしては、やることのハードルが高すぎでは?
「なら、諦めるか?
別に、この困難を目の前にして現実を知り、あの邪獣人を見捨てたとしても私は全く責める気はない。
むしろ、より多くの人を救える、正しい判断であると思う。
もちろん、その時は私からもお前の仲間や周囲にもそれとなく口添えしてやるが、どうする?」
「いや?別に。
むしろ、これを成し遂げればマートを受け入れてくれるって、地母神様からの本気度が見えるからね。
せいぜい、死なない程度には頑張るよ。
一応、ベネちゃんやヴァルター、マート自身も快く頷いてくれたからね」
「……っふ、そうか。
なら俺からは何も言わん」
う~ん、相変わらず、いちいち言動がかっこよくてむかつく。
「ところで、マブラス司祭のほうは大丈夫なの?
マートに特に思い入れがないのに、こんな危険なダンジョンに行かされるなんて。
そっちの方こそ何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「私としては、むしろ地母神様の神命を頂戴しているんだぞ?
そして、その内容は神の敵である古の邪神の眷属を退治だ。
これを拒否する道理がどこにある?」
言われてみればそうか。
「さらに、私に関してはな。
実は神命ゆえ、件のダンジョンを攻略すればするほどボーナスがもらえてな。
敵の首一つにつき、魔力量の上限が上がり、止まっていたはずの魔力成長が起きるのだ。
その上強敵を倒せば、なんと新しい奇跡まで授けられる!
これは参加するしかないよなぁ!」
「え、なにそれ、私はそんな報酬貰ってないんだけど」
「まぁ、我は地母神様の司祭だし。
報酬が欲しいなら冥府神や冒険神に言え」
かくして、思ったよりも現物的であったマブラス司祭と地母神に対して、感謝はするけど、それ以上にずるさを感じる。
どこか複雑な感情を抱いてしまうのでした。