冒険というのはいつだって、危険と隣り合わせだ。
特に、ダンジョン攻略の、さらには神の試練ともなればなおさらだ。
もちろん私達は油断していたわけではない。
古の魔王の幹部、邪獣人の長。
地母神ですら持て余している大敵ともなれば、油断できる要素などあるわけもなし。
……しかし、それでも事故というのは起きるものだ。
いやらしい分断罠と呪術による幻覚の妨害。
その上で襲い掛かってくる、強大な邪獣人にその使い魔たち。
だからこそ、ある程度のリスクと被害を受け入れなければいけない時があるのだ。
「はぁああああ!!!!」
「ぐぐぎいいいぃぃ!!!」
前線に立つヴァルターとトガちゃん含む前線向けのアンデッド達。
しかし、それでも相手に呪術師がいる時点で、本当の意味で戦力になっているアンデッドはトガちゃんぐらいなもので、その層の薄さは明白だ。
だから、相手に強力な後衛を抱えられながらも、同時に物量による力押しをされると、こちらはジリ貧になるわけで。
それを打開するには、誰かが無茶をしなければいけなくなるのだ。
「あいつを止めろぉおおお!!!!」
「おおおおぉおおおおお!!!」
そして、こんな場面において、一番最初に無茶をするのは当然このパーティ唯一の黒一点のヴァルターであるのには違いなく。
彼はおのれの身を傷つけながらもその突進をやめることがなく、体に穴が開いても、片腕が落とされてもなお、その勢いを緩めることはなく。
「な、が……」
「敵ボス!討ち取ったりぃいいいいいい!!!!
……ごめん、後は任せるね」
なんとか、ダンジョンの階層を突破こそするも、ヴァルターはおぞましいほどの怪我と呪いの被害を受けてしまうのであった。
★☆★☆
「というわけで、今から5日間は、基本的に運動と仕事は禁止だね」
「え~! そんな~」
かくして場所はガラッと変わって、ギャレン村にある自宅。
ダンジョン攻略中に超重傷を超えて、ほぼ死体状態になったヴァルターではあるが、ダンジョンの場所がある意味では人間界ではなかったことと、ダンジョンから避難してすぐに治療できたこと。
さらには、ちょうど兄弟子やオッタビィアをはじめとした治療系奇跡が得意な司祭が全員この村に居たなどの幸運が重なったことにより、ヴァルターの体はなんとか復元。
おかげで、このように治療後数時間しか経っていないにもかかわらず、しゃべることができるまでに復活したのであった。
「そこは奇跡でパパ~ッと治ってるから問題ないんじゃないの?
実際、あの時は死ぬとは思ったけど、こうして腕一本もかけずに戻ってきているし!」
「いや、普通に重傷だし、ヴァルターの傷は外傷もそうだけど。
魂や呪いの傷も大きいからね。
外傷だけなら、即退院もできたけど……今回は邪獣人の呪いやら邪神の呪いも受けていたからね」
「ふ~ん、そういうもんなのかぁ!
まぁでも、冒険者を引退するよりはましか!
あの時は足がもげたし、腕も片方喰われちゃったから、もうちょっとひどいことになると覚悟していたからね!」
「もう二度と、あんなことを勝手にしないでね?」
なお、今回のヴァルターの怪我は、今まで自分がこの村に来てから一番ひどい怪我であった。
というのも、そもそも腕を失い、足が捥げるレベルの重傷を負えば、普通の人間はその時点で死んでいるからだ。
もっとも、ヴァルターは気の操作ができるし、自分が真横で簡易ながらも死霊術及び奇跡の双方で延命処置をしていた。
さらには、邪獣人の呪いが延命という点ではいい方向に働いた事により、なんとかヴァルターは無事に治療を受けるまで死ぬことはなかったというわけだ。
「それに、今のその状態で、外に出たり、動いたりするのって……。
その姿が他の人にも見られるってことだけど、それでもいいの?」
「え?でも、これってかわいくない?」
「いや、かわいいし似合ってるとは思うよ?
……でも、さすがにその
ヴァルターは、首をかしげながら、そのうさ耳をこちらに見せつけてくる。
くっそ!!男のくせに、なにあざとい獣化の呪いを受けてるんだ!
すこしその長耳触らせてください!
「え~、でもせっかく一時的とはいえ、獣人化してるんだから、ちょっとくらいこの上がってるはずの身体能力を確かめてみたかったのにな~。
この耳だって、見た目はトンチキだけど、いろんな音が聞こえて、なかなか面白いんだもん!」
ヴァルターはそのやや獣化してしまった事をまるで気にすることなく、むしろ楽し気に話しかけてくる。
そうだ、実はヴァルターは、先の邪獣人のダンジョンで派手に死にかけてしまった時に、同時にその身に多くの邪獣人化の呪いを受けることになってしまったのだ。
もちろん、今は邪獣人化の呪いそのものは治療済みではあるが、それでもまだ後遺症として、多少の呪いの影響は残ってしまった。
少なくともヴァルターの心が邪悪に染まることはなかったが、それでも向こう数日は彼の頭頂についたウサギ耳や手の甲などについている地味な獣毛などはつきっぱなしであろう。
「まぁ、珍しい力を手に入れたから、試したいのはわかるけど、だからこそ、運動は厳禁だからね。
その邪獣人の力を使いすぎて、体に馴染んだら、邪獣人や獣人として、体に固定されちゃうかもしれないからね」
「む~、でも、マートちゃんも邪獣人なんでしょ?
もし邪獣人になっても、問題ない可能性は……」
「まともな奇跡魔法の恩恵を受けられなくなるけど、それでもいいの?
それに、まともな教会も利用できなくなるし、なんなら子供にも邪獣人化の呪いやら天罰がかかりやすくなるし。
さらに言うと、マートちゃんがあれだから忘れているけど、邪獣人は呪いレベルで人間への攻撃性が高くなるからね」
「やっぱりだめか~」
たははと、頬をなでながらヴァルターが苦笑で返事をする。
「でもまぁ、みんなが忙しそうなのに僕だけ休んじゃうのはねぇ?
それに動けないと色々と暇で暇で……」
「それに関しては、うちにいるメイド達に本やらボードゲームあたりを持ってこさせるから」
「え~、イオは看病してくれないの~?
なんなら、付きっ切りで」
「え、もちろんするけど?」
「だよね~……って、え!!??
してくれるの?!?!」
「いや、なんで驚いてるの?」
なぜか驚いてるヴァルターではあるが、そもそも見た目こそケモミミ付き程度で治療完了に見えるが、ヴァルターの身に降りかかった無数の呪いは、まだ完全には解けていないのだ。
それこそ、聖痕の浄化でもなかなか治療できず、数日掛けて操霊術を使って、ゆっくりと魂にこびりついた呪いを解かなければならないほど。
「だからまぁ、ここ数日は、色々と迷惑かもしれないけどヴァルターの横でみっちり看病させてもらうからね?」
「は~い、でもそうかぁ、そんなに僕って重傷だったんだ」
「ん~、重傷かどうかというよりは、私的には絶対にヴァルターには無傷で治ってほしいからかな?
だって、ヴァルターは私にとってかけがえのない仲間だし」
「……突然そういうことを言うのは、ずるくない?」
「?でも、そんなの双方承知の事実でしょ」
「……ま~ね!」
自分の言葉に、ヴァルターは嬉しそうに返事をする。
もっともヴァルターのうさ耳は、マートやベネちゃんのそれとは違いあんまり感情に合わせて派手に動くわけではないので、元気に動くうさ耳が見れなくて残念ではあるが。
「それじゃ、さっそく治療祝いに、お昼ご飯を食べようか。
今回は、治療薬の事も考えて、私お手製だよ~!」
「わ~い!……で!
もしかして、あんまり動いちゃいけないってことは、あーんとかしてくれる感じ?」
「いや、してほしいなら、やってあげてもいいけど……。
こういうのって自分のペースで食べたいとか思わない?」
「それはそれ、これはこれ!」
「はいはい」
かくして、ここから数日、ヴァルターの呪い解除を兼ねて、彼と私は二人でゆっくり休養。
もっとも、この治療期間中は二人きりというわけではなく、途中でベネちゃんやメイドの他に、多くの家族や仲間、さらには村長を始めとして村から多くのお見舞い客が来たため、怪我による休養とは思えないほどにぎやかな療養期間であった。
「それはそうと、ヴァルターのそのうさ耳も触っていい?」
「もちろん!いいよ~……。
って、うにゃぁ!にゃ、にゃにこれ!?
気持ちよくて……んん~~~~っっっ!!」