というわけで、久しぶりのゴブリンである。
この世界の雑魚魔物の代表という割には、そこそこ程度には強く。
個体によって差が大きく、何よりもその繁殖力は目を見張るものがある。
そして、繁殖力が高いのに、個体差が大きいということは、当然、無数の雑魚と言えども、数撃てば、
このゴブリンの巣となった洞窟にも、そんな当たりであるゴブリンが存在していた。
「げひ、げひひひっ」
そのゴブリンは、ゴブリン巫術師《シャーマン》。
生まれつき高い魔力と、精霊を感じ取る力を持つ。
幼い頃から精霊と交流し、あるいはそこから力の使い方や世界の理を学んだそんなゴブリン。
そして、彼が成体にまで成長したころには、すでにいくつかの魔術をつかえ、とくに闇の精霊に魔力と霊力を与えることで、自身の分身を創り出す魔術は彼のお気に入りであった。
精霊による分身は魔力さえ貯めておけば、いつでも発動することができ、複数展開可能。
欠点としては、分身を遠くまでもっていけず、あくまで近くに出現させる程度だという点だ。
……しかし、彼はその魔術1つでこの巣で天下を取った。
彼の分身は単純に本体よりも強く、また殺されてもすぐに甦る不死の分身であった。
巣の中に張り巡らされた陰の魔力と精霊を操り、どこからでも相手に奇襲を仕掛けることができた。
はじめは、部下をこれで統率し、その次にさらった人族を餌に、さらなる人族を。
特に、獣人には彼の魔術はよく効いた。
鼻や耳、あるいは暗視で敵を探り、奇襲を防げるつもりでいる獣人に対して、彼の陰の魔力と闇の精霊でつくられたその分身は、相性が抜群であった。
音を持ってこちらを探ろうとすれば、分身を使ってあっさりかく乱でき、匂いを持って安全を確保したと思っている獲物に、突然背後に分身を生み出し奇襲させる。
彼はこの魔術を使い、この周囲に住む多くの獣人を捕まえ、あるいは苗床にした。
おかげで、彼の巣はすでに40を超えるゴブリンの群れになっていた。
獣人は肉体的には強靭で、何度産ませても普通の人間よりは壊れにくいのも、彼にとって幸運であったのだろう。
それゆえに彼は考えていた。
そろそろ移動するべきだと、本音を言えば近くの人族の集落を襲いたいが、そこは多くの陽の魔力にあふれ、自分の魔術が十全に発動しにくい。
なればこそ、ここではない別の地で、存分に人族を喰い散らかそう!
……或いは、本当にそんな未来があったのかもしれない。
「ねぇ、知ってますか?
ゴブリンって、地域によっては、善神の加護を得て、理性を取り戻したのがいる。
そしてそんな善神の眷属になったゴブリンが住み、人族と交流がある国もあるらしいですよ」
「へ~……って、今このタイミングでいう?」
しかしまぁ、残念ながら、そんな未来はなかった。
そういう話である。
★☆★☆
「というわけで、ゴブリンは消毒よ~」
「「「ぎぎぎ、がががががぁああ!!!」」」
かくして、あれから数日。
ゴブリン退治は順調に進んでいる。
ギャレン村では、ゴブリンゾンビとその洞窟の陰で、すっかり姿を見せることがなくなったゴブリンではあるが、どうやらこの新開拓村ではまだまだ健在であったようで。
「あ、あいつゴブリンシャーマンだから気を付けてね。
一応、周囲に陽の魔力を散らしているし、呪術で魔力制御してるから、魔術的奇襲はないと思うけど……。
突然、背後や上空からゴブリンが湧いてくるかもしれないから、その点には気を付けてね」
「それ、なんて悪夢ですか」
というわけで、現在もまた新開拓村近辺にあるゴブリンの巣を掃討中である。
一応は自分一人でも構わないとは思ったが、どうやら、この巣はすでにそれなり以上の被害が出ているとのことで、獣人陣営から紹介された人材と共に救援活動を行っているわけである。
「それにしても、ゴブリン
魔術師としても、司祭としても一流。
私としても、何かお手伝いをと思っていましたが……これでは私は必要なかったようですね」
「いやいや、道案内は必要だったよ。
うん」
というわけで、現在もゴブリンをゴブリンゾンビに変換しながら、無事にゴブリンの巣を制圧完了。
幸い、救助対象も五体満足とまではいかないし、お腹が大きい女性が多くいるが、まぁそれでも命は残っている。
それに、今の新開拓村やギャレン村には司祭がかなりの数いるし、回復だけならば問題ないはずだ!
「でも今なら、ちょっと採血やらに協力してくれたら、私が無料で治療してあげるけど、どうする?」
「それって脅迫ですよね!?
司祭として恥ずかしくないんですか!?」
「まぁまぁ、採血やらは大体は邪獣人用の装備に使うけど、一応は治療のためという名目があるから。
今なら、ゴブリンによってつけられたであろう感染症も治療してあげるよ?
多分、皮膚病やら性病、それに類する呪いでつらいだろうし」
「いや、ありがたいのはわかりますが、もうちょっこう、露骨なのはやめてくれますか?
慰めてほしいというか……」
「はいはい、仕方ないなぁ。
……つらいなか、厳しい中よく耐えきれましたね。
もう大丈夫ですよ、私とそして、我らの神が、あなた達を救いに来ましたよ」
「う、ううぅぅ!ろ、露骨なリップサービスなのに……!!
本気でうれしくて、涙腺に来ちゃう……!!」
というわけで、捕まっていた獣人の女性や子供を慰めながら、順番に治療をしていく。
残念ながら、ここでは失った手足や腕を治す治療まではできないが、それでも教会が建造できれば、そのレベルの奇跡も行使可能になるだろう。
「ん~、これでここにいるゴブリンはすべて……かな?」
「い、いえ!まだいます!
ここの奥に、まだ、あいつらの子が!!」
かくして、捕まっていた獣人の一人に案内されて、ゴブリンの巣の別方面へと行くと、そこには無数のゴブリンの幼体と……。
「……あれ?これは、獣の子供?
それにしては……」
「いえ、これはただの獣、いや邪悪な獣です。
ゴブリンと邪神の種で生まれた、邪悪と罪の化身です」
「いや、これ、邪獣人の赤……」
「ねぇ?司祭様、こいつは、私の旦那を殺し、喰らったゴブリンが、私を襲い、その結果、作らされた呪いの塊なのです。
司祭様、いえ、呪術師様は確か今邪獣人用の装備を作りたいのですよね?
それならば、これはきっと素晴らしい素材となると思いますよ」
重い、あまりにも重い。
いやまぁ、邪獣人の赤子は良くも悪くも人間ではなく獣な見た目ではあるし、すでにゴブリンの幼体は何度も駆除してきたため、いまさらかと思うかもしれない。
が、流石に邪獣人の赤子については、マートの事なども考慮してしまい、ちょっとだけ手が重くなる。
「え?お腹を痛めて、産んだ子が惜しくないのかですか?
ふふふ、それはすでにこの巣にいるゴブリンたちを司祭様が駆除された時点で今更でしょう!」
「ああ、安心してください、あれらを駆除したことは、もちろん恨んでませんし、感謝しかありませんよ。
あの私の胎から生み出されてしまったあれは、私の姉の足を喰らい、その血で遊ぶ悪魔でしたので」
「それに、どうせあいつらは数日で何回も産み出させられた。
その分、執着やらが湧くだけの時間すらなかったもんね~」
影が差した笑みを浮かべ、ゴブリンと共にその邪獣人の赤子の処理を、望む無数の被害者達。
その圧力と怨念に、色々と気押されるが、ここは意志を強く持つことにする。
「……と、とりあえず、一旦孤児院……。
い、いや【夜獣の檻】で預かってもらう感じいいかな?」
「……っち」
「ですよね~」
「……やはり、そうなりますか」
まぁ、でもその上で行う選択は大体先送りではあるんだが。
一応話に聞くに、【夜獣の檻】では邪獣人の要素が強い獣人も何人か在籍しているらしいので、おそらくそこならばある程度優しく育ててくれるだろう。
そんなことを考えながらも、ゴブリンの子供は順番に処理していき、ついでとばかりに魂の相関性を調べて、そいつの親に当たるゴブリンと死体を合体、癒着。
そこそこ強めのゴブリンゾンビを量産していく。
「ん~、ちょっと聖痕ある状態だと厳しいけど……。
ここも近い内に、ゴブリンゾンビの洞窟に変えていくか?
いや、それとも普通に祭壇立てたほうが丸いかなぁ」
かくして、【夜獣の檻】により依頼されたゴブリン討伐の任務は無事に終わり、同時にこちらの装備作成に協力してくれる獣人の協力者も数多く手に入れることに成功したのでした。
なお、そんな被害者たち救出から数日後。
治療と採血のために、無数の元ゴブリン被害者の女性獣人たちと面会することになる。
「はい!イオ司祭様!
今日は、お礼と一緒に、邪獣人用の装備に有用と思えるものを持ってきました!」
が、なぜか彼女たちは数日前までは大きかったお腹がすでに正常の体格まで戻っており、その上、なぜか彼女たちからは【邪獣人の呪いが強めにかかったゴブリンや邪獣人の幼体の死体】を差し出されることになったのでした。
「とりあえず、締りさえ元に戻れば、夜の仕事には戻れると思うので……。
このあたりの治療を重点的にお願いします!」
さもあらん。