TS転生ド田舎ネクロマンサー聖女   作:どくいも

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第84話 アリスと不思議なダンジョン・下

かくして、この師匠の作ったダンジョンへと潜ることになったアリス。

首からは、師匠からもらったこのダンジョン専用のお守りを。

手には修行で師匠と一緒に作った杖を握りながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。

もっとも、このダンジョンは呪いこそ蔓延しているが、それでも師匠が初心者用と言っていたのは間違いなく、床は整備されており歩きやすいし、天井も大男であっても無理なく通れる程度の高さだが、飛ぶことはできない絶妙な高さ。

天井には、魔石による灯が点々と付けられており、視界を失うことはなく。

無駄に途中で、無数の呪われた給水ポイントや、睡眠と悪夢の呪いがかかった休憩用のベンチ、食べられないのに食欲増進の呪いがかかった玩具などのふざけたものが散在している。

悪意というには、あまりにも稚拙すぎるが、一応はダンジョン用の罠のつもりなのだろう。

 

「でも、こんな罠ではゴブリンですらかからないのでは?」

 

「まぁな」

 

そもそもゴブリンは、強い呪い耐性があるため、この程度の呪いでは死なないだろう。

 

「……って、敵ですか」

 

そんなことを考えている間に、アリスの魔力による第六感が敵の接近を伝えてくる。

もっとも、それはあくまで第六感により先に気が付いただけであり、敵が近づいてくるにつれて、無数の金属がこすり合わされる音や、どすどすとした足音、さらにはうめき声まで聞こえてきて、その姿を現した。

 

「うん、またアースグール、いや、ゴブリンゾンビの一種でしょうか?

 もっとも、結構弱体化されているみたいですが」

 

そして姿を現したのは、一匹のアンデッド。

呪物を中心に土塊で装飾され、そこに迷える魂を注入された存在。

まぁ、暗闇やら不意打ちで出会えばそれなりに強敵であるし、さらにはその数が複数いればその高い耐久性とパワーにより、苦戦は必至であろう。

 

「でもさすがに、一匹だけで、しかも正面から堂々と来るとは!

 やってください!お父さん」

 

「はいはい、任されましたよっと」

 

しかし、今のアリスは一人ではない。

そうだ、彼女に使役霊にして聖霊であるアリスのパパがいる。

アリスの考えた最強状態の父にして、アンデッドになったことにより無尽蔵の体力を得た冒険者の成れの果て。

そんな彼の手により、件のアンデッドは一刀両断されてしまった。

 

「……で、中から出てきたのは……。

 ん~、お守り(チャーム)の一種ですかね?」

 

「なんだか禍々しいが……大丈夫かい?」

 

アリスがそのお守りをしげしげと見つめる。

魔力を感知して、今まで自分が感じたことのある呪力の波と照合させる。

そして、アリスは一つの結論を出す。

 

「これは多分、対獣化のお守りですね。

 おそらくは、わざとアンデッドの核にすることで、中に込められた呪力と陰の魔力を増強させて、同時に争わせることで効能を増す。

 たしか、師匠曰くコドク?とやらの手法だそうです」

 

「う~ん、どう考えてもろくでもない方法」

 

自分の娘が、呪術師として育っていることに頼もしさと悲しさを感じるアリスパパ。

アリスも師匠からの命令を思い出し、そのお守り(チャーム)をポケットに入れて、歩みを先に進める。

 

「でも、この程度のダンジョンなら意外と簡単にクリアできそうですね!」

 

「いやまぁ、それはアリスが今は呪術対策ができているからだと思うがね」

 

「ふふふ、師匠曰く、ここのアンデッド達の中には鉄やら岩塩なんかの地味に有用な鉱石や宝石なんかも核にしているアンデッドも多く配置したと言ってましたし……。

 ()()()()()()()()()()は、持ち帰って、貯金にしてもいいって、許可をもらいましたから、これは少しダンジョン内をうろついて小銭稼ぎをしてもいいかもしれませんね!」

 

「流石にそれは悠長では?」

 

アリスパパの心配をよそに、その後しばらくはダンジョン内を自由に歩き回り、そのたびに出会うアンデッドを退治するアリスとアリスパパ。

幸い、ダンジョン内で出会うアンデッドはどれもそこまで強力でない上に、罠も凶悪なものはほとんどなく、不意打ちの類もなかった。

 

「ふぅ、そろそろバッグもいっぱいですし、魔力も結構減っちゃったので。

 師匠から依頼された、対邪獣人装備を取りに行きますか!」

 

かくして、アリスは自分の魔力が大体半分減った頃になり、ようやく師匠から依頼されたダンジョン攻略を再開。

この時になってようやく、このダンジョンの奥にあるとされる、【対邪獣人装備】とやらを取りに行くのでした。

 

 

★☆★☆

 

 

そして、アリス達は地獄を見ることになる。

 

――ぐあああぁあああああ!!!!!

 

イオ師匠のダンジョンの奥地にある大広間。

そこで待ち構えていたのは、一匹の巨大な()()()()であった。

 

「……んぴぃぃぃぃ!!!」

 

ドラゴンが大きく雄たけびを上げると、その音とともに空気が震え、陰の魔力が高揚する。

その咆哮により放たれた爆音は、呪力だけではなく、こちらの生存本能を強く刺激し、アリスは思わず体がすくんでしまった。

 

「アリス!しっかり気を保て!!」

 

「……っ!!そ、そうですね!

 パ、パパなら、ドラゴン相手でもすぐに……!!」

 

しかし、それでもアリスは彼女の父からの激励により、すぐに闘志を取り戻し、彼女の使役霊でもあるアリスパパに、すぐに敵を掃討するように指令を与える。

 

――ぐぐぐぐぐぐ。

 

「……ちぃいいいい!!!」

 

が、残念ながら、そう簡単にドラゴンはやれず。

そもそもこのドラゴンの体格は、象よりもなお大きく。

その体は腐ってはいるが、肉質の固さはドラゴン並、なのに再生力はアンデッド並という実にふざけた存在であった。

 

「というか、師匠!!

 初心者用ダンジョンなのに、【ドラゴンゾンビ】なんて存在を奥に設置しないでくださいよぉおおおお!!!」

 

思わず、アリスがそのような不満が口から洩れてしまう。

そうだ、このダンジョンの奥地で待ち構えていたボスは、ドラゴンゾンビと言われるドラゴンのアンデッドであったのだ。

体は大きく、大きすぎる爪と牙こそあるが、その体の大半は腐り崩れ落ち、特に翼は溶け落ちており、目玉も半分ほどしか再生できておらず。

強靭さと痛痛しさが感じられると同時に、これほどの存在が呪われ、使役されているという事実に、犯人を知っていながら、恐怖と畏怖の念がふつふつと湧いてくる。

息が荒れ、動悸が激しくなる。

集中力が乱れ、指先が震え……。

 

「……!!アリス!!」

 

「っは!?」

 

思わず、恐怖だけで意識が持っていかれそうになったが、それは父の声によりなんとか免れる。

おそらく、原因はこの空間に張り巡らされた呪いの数々だろう。

ダンジョンの通路程度では、全身に魔力を張り巡らせて、お守りを掲げることで防げていた数々の呪いは、ここにきてその濃度と威力が増強されており。

アリスが立っているだけで、徐々にその身を呪いでむしばんでいった。

 

「頭が痛いし、熱っぽい。

お腹も痛く、なのに喉も渇いて……」

 

師匠はこのダンジョンを安全な初心者用のダンジョンであり、死ぬことはないと言っていた。

確かのそれは一部では間違いないだろう、実際道中で出てきるアンデッドも、今目の前にいるドラゴンゾンビも、強大な力と魔力を持ちながら、直接アリスを攻撃したり、その暴力的な質量での突進などで、こちらを殺しに来ることはなかった。

 

「……ぐぐ!ダメです!

 頭が、魂が……!!」

 

「あ、アリスー!!

 せ、せめて意識だけは……!!ああっ!!」

 

しかし、それでもこのダンジョンはただでさえ、歩き回るだけでその無数の呪いにより、こちらの魔力をいやおうなしに削られるのに、ここで登場する敵は、どれもがどれも呪い持ちなのだ。

道中での金策でも、否応なしにこちらの魔力を削られるのに、このドラゴンはその強大な体躯と無数に発する呪いにより、こちらに膨大な魔力を消費することを強いてくるのだ。

 

「あ……」

「ああっ!!」

 

そして、アリスが邪竜と大広間双方から放たれる無数の呪いを防ぎきることができなくなる。それは同時に、彼女がアリスパパをアンデッドの戦士として維持できなくなることを意味していた。

アリスからの魔力供給と制御が切れたことにより、アリスパパはその強靭な不死の戦士からただのぬいぐるみへと逆戻り。

アリスはドラゴンゾンビへと対抗する盾と矛を同時に失ってしまった。

 

――ごばぁあああああああ!!!!!

 

「んきゃあぁああああ!!!!!」

『あ、アリス~~~~!!!!』

 

かくして、ドラゴンゾンビに盛大な隙をさらしてしまったアリスは、トドメとばかりに、ドラゴンゾンビによる呪力まみれのブレスを喰らうことになってしまったのでした。

 

 

★☆★☆

 

 

そして、それから数時間後。

 

「ほら、アリスちゃん、起きて、起きて!」

 

深いまどろみの中にいたアリスは、自分の体を揺さぶる刺激にゆっくりと眼をさます。

 

「う~ん、やっぱりまだアリスちゃんには厳しかったかな~?

 一応、寄り道さえしなければ、ギリギリ魔力が足りる計算だったけど……」

 

アリスが目を覚ますとそこは、すでにダンジョンの中ではなく、暖かい家の中であった。

 

「アリスちゃんったら~、初心者向けダンジョンだからって油断したな~?

 まったく、これが実戦だったら、あぶなかったよ?」

 

自分の体をゆっくりとさすってくれる、暖かい刺激に思わず目を細めて、その心地よさに思わず身をゆだねる。

頭がまるで靄がかかったように働かず、体もうまく動かない。

しかし、そんな中でもアリスが唯一分かることが一つだけあった。

 

 

 

 

「にゃ~~~ん♪」

 

「は~い、アリスちゃんは、獣人化してもかわいいね~」

 

それは目の前にいる女性が、()()()()()ということだ。

 

「う~ん、あのダンジョンに張り巡らせた獣人化の呪いを少しいじって、主人の刷り込みもできるようにしてみたけど……。

 これはどうやらうまく行ってるのかな?」

 

アリスは目の前にいる、知ってるはずなのに知らないご主人様が何か言っているのを理解はしていたが、その言葉の意味は理解できなかった。

なぜなら今のアリスはただの子猫だから。

耳や頬をなでられる心地よさに、くるくると喉を鳴らして喜びを伝えることしかできない。

 

「呪いの重複の順番も、深度も……うん!これなら、自然には解けないけど、私なら問題なく解除できる。

 実にいい塩梅だね!」

 

『いやいや、そんなことよりもイオ殿、早くアリスの呪いを解いてあげて?

 我が娘ながら、色々とかわいそうなことに……』

 

主人が自分の大切なぬいぐるみと話し合っている。

そんな不思議な光景に、首をかしげるが、それよりも、問題なのは、主人がこちらを十全に構ってくれないことだ。

だからこそ、アリスは不満を表すために、主人に飛びつこうとした。

が、なぜか体が思うように動かず、おもわずよろけてしまった。

 

「あぁ!アリスちゃん!あぶない!

 ……ふぅ、まったく、まさか体はほとんど人のままなのに、猫みたいに体を動かそうとしたからかな?

 う~ん、これは検証が必要だな」

 

しかし、それが功を奏したのか、主人はこちらを優しく抱き留めてくれ、優しく持ち上げてくれた。

うむうむ、結果だけを見れば実にうまくいったな!

アリスは主人が自分を受け止めてくれたことに満足して、再び目を閉じる。

そのひと肌の温かさと優しい匂いに包まれて、子猫と化したアリスは再び寝息を立てる。

 

「ありゃ、またアリスちゃん眠っちゃったか。

 ……ん~、この後はダンジョンの感想やらレポートやらを出してほしかったけど……。

 まぁ、それは明日でもいいか」

 

『とりあえず、呪いを治したら今日はたっぷり寝かせてやってくれ。

 おそらく今日は、死ぬほど疲れているだろうからな』

 

かくしてアリスは、翌日まで安らかに眠り続けるのでした。

……翌日、存分に赤面し、転げまわる未来も知らず、に。

 

 

「う~ん、0階層でもこれなら、地下1階や2階はまだ先かぁ」

 

『え』

 

さもあらん。

 

 

 

 

 

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