「すいません、この呪われた岩塩って、ワンチャンそのまま使用しても問題ないのでは?」
「おい馬鹿やめろ」
さて、ダンジョンを作ってから早幾日か。
アリスの尊い犠牲や、実際の内部調査、更にはほかの新人パーティなんかにも、協力してもらって、ようやく自分お手製のダンジョンが実験的に稼働することになった。
まぁ、もっともダンジョン内部には無数の呪いがうごめき、特にやばい呪いとして獣人化や邪獣人化の呪いが漂っている関係で、今のところは純粋な初心者というよりは獣人の初心者用ダンジョンという感じになっているのだが。
「にしても、初心者向けダンジョンとして紹介してもらったけど……。
あのダンジョンの難易度、というかドロップもう少し何とかならない?
せめて、月女神さまのものほどとは言わないけど……。
あそこよりも危ないんだからさぁ」
「それに関しては、隙間産業ってことで諦めてくれ。
あくまで本格的に冒険者になる前の、死なない安全なダンジョンってだけだからね」
「ですよね~」
場所は相も変わらず、獣人娼館【夜獣の檻】。
そこで無数の獣人の子供や怪我人やら病人に囲まれながら、雑談やら談合中だ。
「そもそも、ゴブリンの巣の掃討の延長で始めたダンジョン営業だからね。
この辺の陰の魔力の集約、ゴブリン勢力の萎縮、その他もろもろを考慮したうえで、あくまであなた達にもうま味がある形で事を進めてあげたんだから。
それ以上の文句は言わないでよ」
「分かってるけど、わかってるけどねぇ……」
相変わらず、アルマジロな獣人の相談役は複雑そうな顔でいる、
まぁ、彼らの思うところもわからなくはない、初心者向けにしてはあそこはそこそこ難易度が高い(らしい)し、ボスであるドラゴンゾンビは、基本
獣人の初心者冒険者では、倒すのにかなり難儀するだろう。
「……それに、今のドロップのラインナップはあくまで一時的な処理だからね?
邪獣人の魔王幹部を倒したら、ドロップ内容は変えるつもりだし、その後も神様命令でいつ閉め切るかもわかったもんじゃない。
そもそも、下手にいじったら、神様に私用でのダンジョン活用と言われて没収される未来もなくはないからね」
「やはり、この点が妥協点ですか」
そうして、互いに一端の談合を終えて、差し出されたお茶を一口飲む。
「……って、しょっぱ!」
「ふふふふ、おいしいでしょう?
イオ様のおかげで塩が安く手に入るようになりましたから!
ここはひとつ東洋の噂に聞いた、塩茶というものを入れてみました」
そこは普通に料理に使ってくれ。
もっとも、自分の感想は少数派らしく、周りにいる獣人達はそのやたらしょっぱいお茶をおいしそうに飲んでいる。
これは、自分の味覚がおかしいのか、獣人の味覚がおかしいのか、はたまたは贅沢品が大量に手に入ったことで頭がおかしくなっているのか。
「このお水しょっぱ~い、おいしくな~い」
「ふふふ、これが大人の味なんだよ!」
どうやら、答えとしては一番最後らしい。
子供の獣人の率直な意見に感動しつつ、最近量産し始めたはちみつ飴を一つプレゼントすることにした。
うんうん、やはり子供は純粋でいい。
だから、その飴一つをめぐり合ってけんかしないでくれ、いろんな意味で見苦しいから。
「でもまぁ、以前来た時よりも獣人の皆さんが元気そうになってよかったです」
「それに関しては、本当にイオ様に対して感謝しかありません。
まさか、ゴブリンの巣の掃討だけではなく、その後の冒険者仕事の斡旋までしてくれるとは」
そして、あらためて、私はこのアルマジロの獣人はじめ、多くの獣人達から頭を下げて感謝された。
というのも、そもそも今回のゴブリンの巣の救出はじめ、様々な問題の根本には、この獣人の新開拓村における信用不足や実力不足、双方の問題があったからだ。
「我々獣人は只人よりも高い身体能力こそ有していますが、それにも個人差がありますからね。
それなのに、この体は基本的に獣化の呪い持ちなので、やはり一般に受け入れられるのは厳しいのでしょうね」
そう、どうやらこの獣人達は生まれつき高い身体能力を持っているが、それでも感染性の呪い付きというのはそれだけで忌避される要因であるため、様々な場所での雇用などに難があるらしい。
そのため、一般職では普通よりも安い賃金での雇用条件であったり、そもそも雇ってくれなかったり、仲間内だけで経済を回さなければなりたたないことが多数あるそうだ。
「今回のゴブリンの巣の掃討でも、獣人以外被害が出ていなかったため、結局私達でなんとかしなきゃいけない状態でしたからね。
そして、冒険者としてまだまだひよっこの若い獣人がゴブリンの巣にいき、返り討ちにあってしまいましたが」
「なんという悪循環」
聞くところによると、今回のゴブリンの巣の掃除依頼は、思った以上に切羽詰まった状態であったらしい。
つまりは、獣人という集団自体が信用が薄いせいで、ゴブリンにさらわれてもすぐに冒険者たちは義勇で動いてはくれず。
それを解決するために獣人達ができることは、若い獣人に悪さをさせるか、冒険者という鉄砲玉をさせるしかないが、それは当然うまくいかず、失敗して更に信用を失うの負のスパイラルが発生していたとのことだ。
「いやぁ、イオ様が来ていなければ、きっと今頃うちの若い獣人の何人かが、わざと只人の村娘を攫って、ゴブリンの巣に投げ入れて無理やりゴブリンの巣の掃討依頼を冒険者たちにやらせるなんて事態が発生していたかもしれませんからね!」
「さらっと、犯罪予告するのやめてくれる?」
そこでそういう選択肢を挙げるから、君達の信用が得られないんだけど、その辺理解してるかな?
「でも今はイオ様のおかげで、その心配すらありませんからね!
あのダンジョンのおかげで、簡単ながら金策や冒険者としての訓練ができますので!」
「月女神さまのダンジョンやら、おいしい依頼は只人とかが独占しちゃっていたからねぇ。
冒険者も仲間を組むには信頼関係が大事なせいでねぇ?
まずは、強靭な耐獣人呪い装備を持ってないと近寄りすらしてくれなくて……」
「それはあんたが、同意なしで押し倒そうとしたからでは?」
「そっか~」
だからこそ、私はダンジョンを彼らに誘致することで、獣人達に冒険者としての実績をつませたり、ドロップとして獣人化対策の装備をそれとなく配布することに成功。
獣人達がこの新開拓村で、娼婦以外でも最低限働けるようになったというわけだ。
そして、雑用やダンジョン外での警備やらもしてくれる冒険者であれば、この地域では自然と仕事が入ってくるだろうし、信用も得られるようになるだろう。
「私としても、ちゃんと平和に過ごすなら、獣人がこの地で安定した生活を得てくれることは大歓迎だからね」
「ね~ね~、イオ司祭様~。
私のことメイドとして雇ってよ~!」
「それより魔法!魔法を教えて!」
「うわっ、流石イオ司祭の聖痕。
触っただけで、私の呪いが薄まったわ」
どうやら、いくらかの問題こそあるが、概ね順調に進んでくれたようで何よりである。
かくして新開拓村での獣人達は、ダンジョン開発以降、少しだけ生活がよくなったそうな。
★☆★☆
更に後日。
「なぁ、バルカン村で、呪われた岩塩が売られていたって話が来たんだが?」
「……な、何の話かな~?」
「呪われた岩塩は、ちゃんと解呪してから売れって言ったよね?
もし売るときもきちんと信用のあるところか、神殿へ売るようにって言ったよね?」
「あ~、そんな話あったかな?」
「……とりあえず、ダンジョンの入場料を取ることにするから。
あと、当然ダンジョン内での拾得したアイテムは全部買い取り。
呪いのアイテムは、解呪費をあらかじめ引いてから後日解呪したものを受け渡しということにするから」
「そ、そんな!横暴な!!」
獣人の新人冒険者たちは当然、何度かの不正や不義理を行い、そのたびに獣人やダンジョンに対する制限は増強。
ダンジョンに入る際の対呪装備も借りパク対策に、レンタル料を取ることに。
彼らがこの地で信頼を獲得するには、まだまだ時間がかかるだろうことを、感じさせられるのでしたとさ。