まず大前提として、今回の地母神からの試練としてのダンジョン探索は基本的に赤字前提である。
ダンジョンでは基本的に固有のドロップやら特産品があったりなかったりはするが、そんなものは善神が人々のために作ったダンジョンで効率的に得られるものであり、今回のような元魔王軍幹部の根城なんかでは期待できるものではない。
さらに言うと、今回の相手は長年の封印に対抗するためか、基本的に自分たちがやられてもその身をダンジョンそのものや涜牙とやらのダンジョンの主へと還元するように結界が張り巡らせてある。
そのせいで、通常の魔物ならそれなりに魔石やらなんやらをドロップするが、それすらもしょぼく、ダンジョン内の物を強奪しようにも基本邪獣人の呪術師による呪いがたっぷりで、触るのすら危険であり。
どこぞの司祭であるのなら、中で敵を倒すたびに無数の報酬がもらえるが、あいにくこちらはまだ宗派を変えるつもりはなく。
冥府神の司祭である自分なら、まだ魔物を殺したときにそれなりの討伐料もどきを神からもらえるが、司祭でもない人たちにはそういう徒労手当すらないのだ。
「だから、ヴァルターにはせめてもの報酬として、この宝石と金銭を受け取ってほしいというわけだ」
というわけで、現在は改めて自宅にて。
そこで私はヴァルターに無数の宝石や金銭を並べているところであった。
「いやいやいや、突然いきなり何!?
僕たち死ぬの!?」
もっとも、割と前置きを抜きにいきなり押し付けようとしたため、喜ぶよりも警戒されてしまった。
まぁ、ですよね。
「いやね?今回のマートとベネちゃんの解呪のためとはいえ、ベネちゃんやヴァルターには正直、かなりの難易度のダンジョンを一緒に来てもらっちゃってるでしょ?
それなのに、毎回危険性が高いわりに報酬がほとんどないし、長い時間拘束しちゃっているからねぇ」
自分の説明に色々と合点がいったのか、ふむとうなずくヴァルター。
しかしそれでも、あまり自分の説明に納得はしてくれず、素直に報酬を受け取ってくれはしなかった。
「ん~、いいたいことはわかるよ?
でも、仲間内での助け合いにそういうのを持ちだすのは……」
「仲間同士だから大事なんじゃないの?」
「というか、それいったら、日頃の食事とか家の家賃とかはどうするつもりなの?
明らかに料理に使ってる香辛料とか、この家を覆う結界とか、色々な治療費とかはどうするつもりなの?
日頃から結構、イオと一緒に過ごすだけでいろんな恩恵を受けているんだけど」
まさか、そこから反論されるとは。
どうやらヴァルター的には、共同でこの家で住んでいることに対して、それ自体がすでに報酬になっているから、改めての金銭はいらないといわれてしまった。
いやまぁ確かに、無数のメイドや自作の香辛料に調味料、ついでに酒に氷に風呂、魔道具や結界など、色々な小物はそろってはいるが、あくまでそれは自分の趣味の延長のつもりである。
が、ヴァルター的には一緒に使う際に追加の使用料を払っていないことに対して、色々と申し訳ないと思っていたらしい。
むしろ家賃や食事代を増やしたほうがいいか?なんて言われる始末であった。
「いや~、流石にそういうのは同じ趣味やら食事を共有したいでしょ?
だから、そういうのは必要ないよ」
「でしょ?だから僕も一緒。
生活でも冒険でも、それ自体が大事な仲間である君達との大事な記録であり報酬なんだ。
それに、女の子を守り救うために命を懸ける騎士なんて、この立場は絶対誰にも譲りたくないからね!」
ヴァルターはふふふとこちらに笑い掛けながら、そう宣言する。
むぅ、確かに絵面こそそう見えるかもしれないが、自分はどちらかといえば女性のほうが好きだし、マートは邪獣人。
冒険者パーティ的には、ベネちゃんぐらいしか、まともな女性がいない。
そう考えるとヴァルター君がかなりかわいそうに思える。
そして、そんな自分の同情の視線に気が付いたのか、ヴァルターはたははと苦笑しつつ、自分にこんな提案をしてきた。
「それに、そんなに言うんだったらさ。
もうちょっと仲間っぽい方法で、お礼が欲しいな~って!
というわけでさ~!ぼくとも酒盛りしてよ酒盛り!
できれば、一対一で!」
「ん~?そんなのでいいの?
どうせなら、ここにある大量の金銭で、雑に娼館ギルドや獣人の娼婦相手にハーレムプレイできるだけの伝手もあるけど……」
「や!というか、ベネちゃんやマート相手にも1対1で飲んだり食べたりしていたらしいのに、僕とはそういうことしてくれてないじゃん!
だからさ~、ね?ね?いいでしょ!」
熱心に頼み込むヴァルターに対して、ふむと一つ頷いてみせる。
というのも確かに、ベネちゃんやマートとはそういうことをしたことはあるが、よく考えたらヴァルターとは、サシでそういう飲み会なんてしたことがないことに気が付く。
いや、冒険者稼業の影響で、時間帯が分かれ、その影響で偶然食卓で1対1になったり、2人で冒険にでるくらいならよくあった。
が、改めて時間を取って、ヴァルターを一緒に過ごすというのはあんまりなかったかもしれない。
私は笑顔でヴァルターの提案を承諾するのであった。
「で、どうする?
適当にシルグレットのところで飲む?」
「あそこだと、絶対1対1で飲めないじゃん。
だから、普通に家でよくない?」
「え~、でもいいの?
折角のデートなのに?」
「で、でぇ!?」
かくして、顔もいいくせにやけに童貞臭いリアクションをするヴァルターに苦笑しつつ、私は使役霊を呼び出し、適当な酒を用意させるのでした。
★☆★☆
なお、その日に夜の酒盛り。
「え!!??ヴァルター、そんな見た目なのに童貞ってマジ???」
「ちょ!!イオ、そんな大声で言わないでよ!?」
さもあらん。