涜牙討伐後、真のラスボスである事後処理や報酬の用意などに奔走すること早数日。
結局一人の死者も出なかったものの間違いなく大事業であったわけで、さらにはいくつかの教会予定地や司祭からもそれとなく要望があったため、祝勝祭を行うことになった。
「もっとも、あと数十日後には各教会の建築祝いである祭りもやるつもりだから、今回はあくまで小規模に。
健闘と完勝、それと敵の鎮魂を祈ってだから、そこまで派手なことはするつもりはないよ」
「「「「え~~~!!」」」」
「……わかったわかった。
とりあえず、キノコと酒、塩。
あと、適当に肉を用意したからそれで我慢してね」
「「「「やった~~~!!!」」」」
冒険者なら味の濃い肉と酒があれば十分だろう。
というわけで、ゴブリンゾンビの洞窟で作っていた酒樽とキノコ、さらには土属性魔法で作った岩塩とキノコで作った香辛料を用意。
新開拓村ではそこそこ大きな広場で、バーベキュー形式で簡単に宴を終わらせようとした。
「いや!新築祝いも大事ではあるが、今回の討伐をおろそかにしてもらっては困る!!
というわけで、今回は我ら導きの巻貝兵団の方でも、宴のための酒、さらには楽団と吟遊詩人も用意しておいたぞ!」
が、話はそう簡単にはいかず。
「ふふふ、今回の討伐劇は我々としても大々的に宣伝していくつもりですので。
というわけで、今回は我ら【夜獣の檻】からも、ある程度サービスさせていただきます!
何と今日は、かの古の邪獣を討伐してくださった勇者様に限り半額!
もちろん、獣化費用はこちら持ちですよ」
なんと、村や自分達だけではなく、今回討伐に参加した人々が自主的に出費、そして、祝勝祭を大規模にしていった。
特に、元領主直属兵団である導きの巻貝兵団や新開拓村の獣人コミュニティの中心である夜獣の檻からの出費や協力はかなりのものであり、それこそ、周囲への宣伝なども彼ら自らが中心にやっていたといってもいいほどだ。
「流石に派手すぎでは?」
「でも、古の勇者ですら討伐をあきらめた、神により封印された古代の魔王の大幹部を討伐した祝いなのだから。
むしろ、派手にやらないほうが詐欺なのでは?」
「うん、まぁそれもそうか」
彼らがここまで積極的に宴を大きくしたのは、もちろん、倒した敵の格が高かったからというのもある。
が、どうやらそれ以上に、彼らにとっては、今回強敵を倒したというのを周りに広く知らしめる必要があるからのようだ。
例えば単純な冒険者では、今後のよりいい依頼を受けるための実績として。
聖職者は、神聖な行いと、より高い地位にいる司祭へのアピールとして。
獣人は、自らの地位向上のため。
なによりも、導きの巻貝兵団は、ようやく手に入れた大武勲である。
だから、これを盛大に祝うことにより、吸血鬼化云々の汚名以上の名誉を手に入れたと宣伝する必要があったそうだ。
「なら、せっかくだから、イイ感じに最後の敵が使っていた巨大邪獣キメラの剥製でも鎮座させておくか。
あとは、ガタイの良すぎる獣人の骨格標本辺りも」
「おおおおぉぉ!い、イオ殿、圧倒的感謝!!」
そんなこんなで色々な思惑が渦巻いた中で始まった祝勝祭ではあるが、その本質としてはやっぱり、祭りであることには変わりはなく。
さらには、獣人や兵団がばらまきやただ飯配布なんかもしてくれたため、自然と人々は集合。
さらには、神様側も祝勝してくれているのか、なぜかいつもよりもポータルでの移動が簡単に行え、ストロング村やギャレン村などを含む各村からも人が集まったため、それなり以上に祝勝祭は繁盛することになった。
「うめぇうめぇ、やっぱりいい戦いの後に食う飯はうまいな!」
「そこで俺のこの宝剣が唸り、あの悪しき古代の巨大な邪獣人を一刀両断!
逆巻く稲妻と、俺様の剣の腕により、かの古の超魔獣といえど、あっという間に死竜の口の中へ……」
かくして、参加者は各々が多くの人々により、祝われ、あるいは尊敬や畏怖のまなざしで見られることになる。
「その話詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
「兄さんのかっこいい~武勇伝、聞きたいな~♪」
さらには、吟遊詩人や歌手に商人、さらには娼婦なんかが、商売道具兼話のタネとして彼らを褒めたたえつつ、話を聞き出していた。
ある意味では冒険者や英雄の宴はかくあるべしといった様子だ。
「にしても、あの兄ちゃんのセリフはさすがに盛り過ぎでは?
それに、あの宝剣だって、イオ様からもらったって言ったけど……」
「お、おま!そういうの聞くのはずるいぞ!!
でも魔法効果付き剣なんだから、それだけで伝説!!
それに、これから俺がこの剣を使って、伝説を作っていくからいいんだ!」
なお、今回の報酬としては、金銭よりも魔法の効果を付与した武器や鎧のほうが報酬として好まれていたりする。
見せびらかすのはいいけど、油断して盗まれたりはするなよ。
「ね~、イオしゃんもちゃんとおしゃけ飲んでますか~?」
そうやってこちらに絡んできたのは、ようやく完全に呪いの解けたベネちゃんであった。
すでにそれなりの量を飲んでいるのか、頬を染めながら、こちらにしなだれかかってくる。
なぜか参加者の一部からきましとか聞こえた気がしなくもないが、おそらくは気のせいだろう。
「はいはい、適当に飲ませてもらってるから。
安心してね~」
「も~!イオしゃんいっつもそう言って、ほとんど酔うまで飲まないくせに!」
此方の背中にない胸を押し当ててくるベネちゃんの体を、それとなく魔力でチェックする。
どうやら、マートからの霊的つながりで移された呪いはすでにすっかりその呪力を失っているようだ。
「………そして、あっちも。
うん、大丈夫そうだね」
そして、自分の視線の先に映るのは、ある意味では今回の騒動の元凶でもあるマートであった。
「……むぅ」
「やっぱり、ベネちゃん的には、今回の件、いろいろ思うところある感じ?」
「……ないと言えば、嘘になるけど……。
それでも、うれしさのほうが大きいから」
視線の先にいるマートは、すでにその小動物化の呪いは完全に解けており。
さらには、今回の依頼に参加した無数の冒険者と共に、違和感なく会話し、あるいは笑い合っていた。
「……あの娘は、妹は、確かに私達にひどいことをした。
しかもわがままだし、心が獣。
正直、死んでほしいと思ったこともたくさんあった」
「でも、それでも、ようやく、あの娘が。
今回の神の試練を通して、ようやくまともに仲間ができて、受け入れてくれる場所ができた。
……それが純粋にうれしくて、お母さんの思いがようやく叶ったんだなって」
マートを見つめるベネちゃんの眼には、慈愛の思いが感じられる。
そんなベネちゃん姉妹を見ながら私は思うのだ。
おそらくこれが、神々の狙いであったのだろうと。
今回私は、マートとベネちゃんにかけられた獣化の呪いを解くために、この試練を行ったわけだが、マートとベネちゃんの間にあった問題はこの獣化の呪い以上に根深いものがあった。
それは姉妹の絆がありながら、親の仇であり、過去の悲劇が入り混じった根深いものであった。
(おそらく、今回の件がなければ、呪いや信仰の話云々の前に、もっとこじれることになっていただろうな)
しかし、今回の一件のおかげで、冒険を通して、確実に姉妹の仲は以前よりも改善された。
さらには、最後の大規模作戦のおかげで、マートは自分たち以外にも死線を超えた仲間ができた。
もちろん、これによりマートやベネちゃんの姉妹仲がすべて解決したわけではないのはわかる。
しかし、それでもマートやベネちゃんに関わる心情、そして思いが改善されたのは間違いないだろう。
「……うん、そうだね。
今日は私もそれなりに飲むことにするか」
「……!!うん!!」
かくして、私は、涜牙の討伐祝いではなく、マートとベネちゃんの完治、さらには姉妹仲を祝して。
そんな奇跡の架け橋となった神へと祈りながら、酒杯をあおるのでした。
★☆★☆
なお、その日の夢。
「全然違うんじゃが!?!?!」
「え」
自分の予想は神本人に、普通に否定された模様。
「そもそも、確かに今回は対策されてるから、準備をしてねとは言ったぞ?
でもまさか、突然集団で、しかも装備を全員分揃えてくるとは思わないじゃろ!!」
相変わらずの女性の見た目で、彼女が喚くごとに頭がキンキンする。
「だからこそ予定としては、準備してなお迫り来るピンチ!
恐ろしき魔王幹部!
故に行うのは神への祈りとか、天に任せるとか、そういう流れになるはずじゃろ!!」
「天への祈り、マートのそれでもなお貴方を救いたいと、初めての親友兼恋人兼主人を、命を賭けても救う覚悟。
それが奇跡を引き起こすとか、そういう流れにしたかったのにぃ!!」
「ほれ、見てみろ!!この可哀想な『聖獣化』の加護を!!
本来なら、涜牙との最終決戦で、使われるはずだったこの加護を!!」
「陰と陽が合わさり最強に見えるこの最強の加護で!!
強敵である涜牙と正面から戦う我が信徒!
戦いを通して、育まれる絆と真の愛情!!
そんな流れにしたかったのにぃ!!」
かくして、目出度い祭りの後のはずなのに、なぜかこちらは夢の中で追加のお仕事をする羽目になりましたとさ。
さもあらん。