第92話 ノルマ達成
『とりあえず、この【聖獣化】はあの子に渡しておくし、■■、いや、地母神ちゃんも、信者として認めてくれたはずだからね!
……にしても、本当に追加の魔獣はいらない?
大丈夫?宴の後に、魔獣を発生させて、それを撃退させるイベント、あったほうがいいと思わない?』
『それでもし友人が死んだら、今度こそマートは立ち直れないと思うけどそれでもいい?』
『……うぅ、よ、よくないです』
そんなこんなで、夢の中での邪神の説得も問題なく終わり、マートの改宗をはじめとする地母神のダンジョン騒動はいったんの区切りがつくことになる。
つまりそれは、マートも晴れて地母神の信者として正式に認められることを意味していた。
「わ~い!今回のダンジョン攻略の報酬?として、地母神様から聖印と奇跡を授かることになったぞ!」
「おめでと~!」
「いい娘いい娘~♪」
「ぐあああぁああ!!!俺も参加したかったぁああ!!!!」
何なら、マートが試練をこなして信者になったおかげか、どうやらマートは普通の信者よりもなお好待遇らしい。
宴の翌日から、マートの体には邪獣人の呪いを抑える祝福が与えられ、邪獣化の代わりに聖獣化が使えるようになり、さらには即物的な報酬として輪付きの聖印と奇跡魔法まで与えられたのであった。
「それにしても、司祭ってびっくりするほど儲かるんだな……。
真面目に働くのがバカらしくなってくるぞ」
なお、そんなマートが授かった奇跡はいわゆる対病系の癒しの奇跡であった。
もっともこの奇跡はシンプルに対病系の奇跡の為、怪我を癒すのにはあまり向かないが、病気や毒、なんなら呪いに対しては抜群の効果を発揮するというものであった。
「それに、同じ獣人として涜牙討伐仲間として、夜獣の檻のやつらも俺を積極的に頼ってくれるからな!
まぁ、あの騒動以降奇跡を覚えた奴はそれなりにいたけど、それでもなお需要があるっぽいしな!」
「でも、あんまり悪どいことをやると、地母神様から奇跡を取り上げられることもあるからね?
寄付以上の行き過ぎた金銭要求は教義的にもNGだし」
「もちろん!せっかく、せっかく奇跡をもらったのに迷惑をかけるわけにもいかねぇからな!
……どっちの神様の顔にも、泥を塗るわけにいかねぇし」
どうやらマートは地母神様から神託を通して、今回の情動神様のあれやこれやについてもそれとなく教えてもらったようだ。
「……俺ってさ、善神や情動神様についていろいろと誤解していたんだと思う。
だからさ、今はそんな神様達についてもっと知りたいと思ってるんだぜ?
まぁ、勉強は苦手だから、みんなに迷惑をかけちまってるけどな!」
最近はマブラス司祭などの教会建築のために集まった司祭たちに、時間があるときに神学や教義について教わっているらしい。
「それにさ、まぁ、イオの事が一番ではあるけど、俺にも友達ができたからさ。
……こんどさ、改めてお姉ちゃんに謝っておこうと思うんだ。
え?理由?……俺がそうしたいと思ったから、かな」
かくして、この日から少しだけ、マートが獣から人に近づいた。
そのことを、はっきりと感じさせられたのでした。
★☆★☆
「というわけで、マートは地母神の司祭見習いとして、ちゃんと改宗できたわけだ。
これで、そちらとしても何の問題もないでしょ」
「ん~、いやそれはそうだが……
すぐに結論出すのは難しいかなって」
「なんでよ」
かくして、それからさらに数日後。
久しぶりに登場したイラダ地方の首都からのお客様である、太陽神司祭であるクミ司祭と対談していた。
もちろん内容としては、邪獣人であり邪教徒でもあったマートが無事に改宗したため、その報告。
さらには事前に公約通り、彼女をきちんと改宗した暁には、こちらに味方をするという約束を果たしてもらうためであった。
「え~っとその、た、確かに事前に件の邪獣人から問題がなくなれば協力はできるだろうと言ったぞ?
で、でも、まだそれは確証できないというか、そもそも邪獣人であること自体が罪だというか……」
「いや、クミ司祭、きちんと地母神自らから聖印ももらってるよ?」
「い、いや~、あ、あくまで大教会の意見ではだぞ?
そもそも、その聖印自体が偽物なんじゃないかって……」
「は????」
が、折角こっちがクソほどの困難である古の元魔王の幹部とやらを倒して手にした成果であるのに、件の大教会的には、未だそれを認められないでいるらしい。
「そ、それに一部では、そもそもの魔王幹部の討伐自体、邪神によるでっち上げや、この街自体が神すら欺く危険な地とかいう一派もおり。
そのせいで、カルトの討伐どころの話じゃなくなっているというのが本音で……」
「……おい、流石に魔王の幹部討伐やらダンジョンの真偽ぐらいは、神託を使える司祭でもいれば一発で分かるはず。
大教会なら一人くらい使える奴が、いるでしょ?」
「あ、あ~、それに関しては、幾人かの下級司祭は肯定してるが、それ以上の大司祭が否定している。
だからまぁ、基本的には否定のほうにいってるなぁと」
「なんでだよ」
どうやら、首都教会では、そもそも今回の地母神のダンジョンから始まる一連の騒動全てが偽りだとか、邪神の企みだとかいう意見も強いようだ。
一瞬、何事かと思ったが、そもそもの話だと今の首都の大教会では反獣人派であり反王国派が大司祭なのである。
それゆえに、縦社会である教会では、件の大司祭が
自分の予想で言っては何だが、これ、正気か?
「……一応、私達の中にも大司祭の言葉を疑っている人は多く、実際に一部の支援者である資産家や貴族や騎士家系の方からも、文句や疑問の声が出てる。
完全に、件の功績全てを否定する人は少ないが……それでも邪獣人の改宗に関しては、受け入れがたいというのが大教会全体の意見として大きいようだ」
「……なら、ここまで、魔王幹部やらを倒してまで改宗させたのに、その苦労は?」
「え、え~っと、ご愁傷様?」
クミ司祭の目が明後日の方向に泳いでいく。
一応完全に否定されなかったのは、今回の涜牙討伐に元貴族や騎士の子息が多く所属している導きの巻貝が参加していたからだろう。
もし今回の討伐一連の流れを否定すれば、彼らのご子息の武勲も否定することになるからだ。
こんなところで、微妙な政治関係の殴り合いをするんじゃないよ。
「で、でも噂を聞くに、あんまり強くなかったんだろ?
それに、死者の一人も出てないから……な、な?」
他人事だから、実に好き勝手言ってくれる。
思わず魔力や呪術の一つでも放出して、脅してやろうとも思ったが、ただのメッセンジャーに過ぎないこいつにそんなことをしても意味がないため、なんとか思いとどまる。
「で、でも私の方でも、なんとかうまくいくように打開案を探すからさ!
だから、そんなに怒らないでくれよ、な、な?」
もっとも、自分の不満が顔に出ていたのだろう。
クミ司祭は、慌てて自分の発言を取りけし、こちらにまだましな提案をして来る。
「そ、そうだ!なんなら私の方で、首都から異端審問官を派遣するよう上に伝えておくからさ!
それで彼女が無罪だとわかれば、それで問題ないだろ、な、な?」
一瞬嫌な予感がしたが、それでもこれ以上話をこじれさせるわけにもいかず。
それにいくら、首都からの異端審問官であっても、流石に本物の司祭になり、地母神の祝福を得た今のマートを見れば、多少の考えは変わるだろう。
かくして、その日は、多少マートの改宗により、カルトや大教会関連の問題はマシになるだろう。
そのような希望を持ちながら、会合を終えるのでした。
★☆★☆
なお、それからさらに数日後。
「うおおおぉおおお!!邪獣人めぇええ!!!
薄汚い獣ごときが、そのようなものを身に着けているなど!!
その上、奇跡まがいの邪法など、くぁwせdrftgyふじk!!!」
「え、え、え?」
「貴様がこの邪神の呪いのナイフで心臓を貫かれて死んだら、不道徳者!
死ななかったら、邪神の使いで間違いない!!!
しねぇえええ!!!!」
「ちょ、おま、ええええぇえええ!!!!!」
残念ながらクミ司祭の紹介でやってきた異端審問官はバリバリの反獣人派であったようで。
そのせいで、マートを一目見るや否や、口汚く彼女を罵り、敵視。
さらには、地母神の加護の確認や審問やらをすっ飛ばして、マートを速殺してこようとしてきた始末。
もちろん、こんなもの異端審問とは認めないし、幸か不幸かこの騒動は衆人の目の前で行われたため、この暴走は速やかに鎮圧。
幸い今のマートには涜牙討伐や最近の司祭活動で味方が多かったため、この事で村人との亀裂はそこまで発生しなかった。
「というわけで、今の大教会では、新開拓村やルドー村長含むギャレン村一派が、善意で派遣した異端審問官を、有無を言わさずリンチしたということになっています。
なので、あなた達の無実を証明したければ、件の邪獣人の首を差し出してください」
「帰れゴミカス」
もっとも、それに反して首都の大教会とは完全に敵対関係に。
なぜか、神の試練を超えたはずなのに、それ以上にめんどくさい宗教問題に巻き込まれてしまったのでしたとさ。