「と、いうわけで、いつ滅ぼす?
俺も同行しよう」
ルドー院!
「いや、別に滅ぼしませんし、正面から戦争とか……。
死霊術師である私や兄弟子がこっちにいるのに、そんなことしたらこっちが悪者になっちゃうじゃないですか!」
「……そこで理由が、負けるからじゃないのな」
「まあ、そこは死霊術師なので。
なんなら向こうの教会の井戸に特別なお薬を一滴ポロリすれば結構有利になりますよ」
「おい」
「流石に冗談ですよ。
そんな非道なことをしなくても、首都にある墓地の場所情報や処刑で殺された獣人の魂も収集済みですので。
危ない橋を渡る必要すらない」
「おいおいおい」
というわけで、楽しい(楽しくない)異端審問官騒動から早十数日。
首都の大教会とギャレン村周辺との対立は決定的なものとなり、この村では住民丸ごとそれを隠さない雰囲気になっていた。
具体的に言えば、平然と首都の大教会への悪口を歌う吟遊詩人がおり、それに対して無数のおひねりが飛ぶ。
そんないろんな意味で罰当たりな状態が今のギャレン村やその周囲の反応である。
「ルドー村長は確か大教会側とつながりがあるんですよね?
むしろ、ルドー村長はあっち側だと思ったんですが」
「馬鹿言うな、俺はいつだってこの村のみんなと、イオの味方だ!
……それに、俺の部下であるオッタビィアをあそこまで堕落させた原因が、あの大教会だって考えるとな」
なお、個人的に意外であったのはこの村一番の権力者であるルドーが、完全にこちらの味方に付いたことである。
こういう時はバランサーやらどっちにもつかないのが権力者の定石だと思っていたのだが、どうやら彼は思った以上に大教会に対してうっぷんがたまっていたようだ。
今なお、大教会側からの村に対するありとあらゆる理不尽な要求は、ルドーが正面をきって拒否してくれた。
「正直、私としてはありがたいですが、それって村長やら王族関連の力関係的には大丈夫なんですか?
ルドー様はあくまで、王命としてここの地を治めることを認められているんでしょう?」
「それに関しては、実は首都の大教会は確かに、イオのやった偉業や件の獣人司祭の存在を否定している。
が、逆に【王都】の王族や貴族からは、否定されていないし、王都の教会も同様。
さらには、首都でも領主様はあくまで中立の立場を貫いていてくれているからな。
あくまで、敵対しているのは、首都にいる大教会にいる銭ゲバ司祭たちだけだ」
今回の騒動について世論的には中立、いや、ややこちらが有利な様だ。
さらにいうと、王都側の教会関係者については、そもそも今回の教会建築や涜牙討伐に参加した聖職者が王都から来た聖職者なのだ。
そりゃまぁ自分の成果をそう簡単に否定はしないだろうなと。
「一応、首都教会側には帝国のお偉いさんの何人かが強力なスポンサーとしているのはわかっている。
その上で、帝国の古いお偉いさんの中には、王国というだけでなんでも反対する奴がいるから、世論的にもいうほどこちらが有利というわけでもないけどな」
「なるほどなぁ」
「なんなら、一部の貴族は、これらの発言を理由に、帝国と王国の宣戦布告や防衛費の増額を進言しているくらいだ」
「ちょっと待て」
なんだか、ことの発端がマートの人権問題であったはずなのに、何故か国レベルの権力ゲームへと発展しかかっている事実にやや戦慄を覚える。
「まあ、俺としても大教会が、カルトに関連しているのはほぼ間違いないと認識している。
先日の宴や最近の教会建築ラッシュでは、とうとうあいつらは連携してこの村やその周辺に破壊工作やら妨害工作を仕掛けてきたからな。
なんなら、井戸に毒を流そうとしたり、呪いの薬入りの菓子を子供に食わせようとしやがった。
寧ろ、今すぐ首都の大教会に放火しに行かないだけ優しいと思わないか?」
「それ、色々と不味くないですか??」
話を聞くに、大教会の聖職者はこちらが盗賊やカルトを探そうとするとすぐに妨害する様に動いているらしい。
その上で、こちらの村全体の防衛人材の動きを覗き見て、それを盗賊やカルトに流し、奴らがこの村に効率的に危害を与えられる様サポートしているとか。
「……それ、普通に斥候と本隊ってやつでは?」
「ああ、出来ることならあの悪徳聖職者共も盗賊カルト共々今すぐでも牢にぶち込んで、処刑したい。
が、残念ながらあいつら聖職者はカルトや盗賊との繋がりはないと公言しているし、奴らがつながっている根拠も状況証拠でしかない。
盗賊やカルト本体も末端だと大教会との繋がりを知らん奴らばかりで、知っているだろう幹部連中は訓練済みで口を割らない上、魔狂わせの聖痕のせいで尋問魔術の類は効かないと来たもんだ。
……大教会の聖職者に直接拷問できたらどれだけ楽なことか」
流石にそれはラインを超えているからやめてくれ。
いや、向こうが井戸に毒を流しこもうとした時点で、いまさらとは思わなくもない。
が、それでも、大教会の関係者だからと言って聖職者まで拷問し始めたら、おそらく次はさらにその関係者、その知り合いとまで拷問対象が広がっていくのが予想できるので、やめておいた方が吉であろう。
「流石にそれは俺もわかってるし、できるだけ穏便な方法でことを済ませたい。
が、向こうの動きが最近激しい上に、そろそろ
「あ~……ほぼ新築祭か」
「だな」
窓の外を見ると、ほぼ完成している無数の教会に、多くの飾りつけがなされたり資材が行き来している。
誰もが忙しそうではあるが同時にどこか楽しそうな様子が見て取れる。
「特に今回は、王都からの司祭や導きの巻貝兵団の宣伝のおかげで、王都や周辺の村々からのお客さん、さらには商人などが無数に来ることが分かっているからな!
なんなら、一部貴族や資産家までやってくるとまで事前に話が回ってきている」
「……一応新築祭は、教会をつかさどる神とそれに関わる人達のためですが」
「もちろんそんなことは重々承知している。
が、それでも、祭りを派手にやったほうが神様方も喜んでくれるだろう?」
「まぁ、節度を守ってくれれば」
なお、私としても口では警告しているが、神様自体も次に行われる新築祭を楽しみにしているのを知っていたりする。
具体的に言えば、なぜか泉で取れる魚の量がいつもよりも多かったり、季節外れの自然の恵みが増えていたり。
豊作や治癒、天気占いなどの祈りがいつもよりも高性能かつ低燃費に行えたり。
おそらく今頃は、この村に住む幾人かの芸術家が、夢で新しいインスピレーションを受けたり、料理人が新作料理を思いついたりしている頃だろう。
「まぁ、次に行う新築祭は私でもできるだけ、失敗しないように全力を尽くすが……。
この村を敵視しているアイツらは、絶対にこの祭りに乗じて邪魔をして来るに違いない」
ルドーは力強くそう宣言する。
どうやら彼のそのセリフは単純な予想というわけではなく、実際に大教会から新築祭に合わせて無数の異端審問官や司祭が訪れることが知らされているし、それに合わせてなぜか周辺でいくつかの盗賊団やカルト集団が動き回っていることも察知しているそうだ。
「あいつらは偶然とか、あくまで祭りで人が集まるからだろうとか言ってるが……。
まぁ、そんなわけはないよな」
「ですよね」
ルドー村長が腕を組みながらそうつぶやく。
「だからこそ、この地の防御を固めるだけではなく、少なくとも祭りの間はこの村々を万全に守る義務と責任が俺にはある。
それこそ、この祭りの成否が村の未来を左右し、何なら神罰もあり得るかもしれんと覚悟しているからな」
一瞬考えすぎだと言いたかったが、昨今の神々からの様々な天啓や兆候を見るにあながち思い過ごしともいえないのが怖い。
「それに、あのカルトや悪徳司祭たちがせめて祭りの間だけでもなりを潜めないかと期待して、今回は領主様を招待してみたが……。
それだって、どれだけ効果があるか、わかったもんじゃないからな」
「だからこそ、イオ。
もしかしたら、あいつらはこの祭りの機会に乗じて俺を暗殺してくるかもしれんが……。
その時は、村の未来を頼んだぞ」
「流石に冗談でもそんなことを言わないでください。
それにいざということがないように、ちゃんとこの村の結界は固めておきますので。
ご安心ください」
かくして、ルドー村長をはじめ、関係各人が大いに警戒しながらも、その新築祭という約束された日を覚悟して待つのでしたとさ。
★☆★☆
なお、新築祭当日。
「きゃあぁあああああ!!!野ブタの群れよぉぉ!!」
「げっ、誰だこんなところに糞尿ばらまいたアホは!
くっそ~、こんな目出度い日にこういう臭い仕事させるなよ」
「うえっ、呪詛入りの酒樽とか、えげつねぇトラップ仕掛けやがる」
当然というかやはりというか、新築祭当日になると発生し始める無数の時間差トラップや、明らかな人為的な罠。
呪詛や魔法なども絡めてあり、新築祭が好調なスタートを切ったとは言い難かった。
「き、きゃぁあああ!な、なんで!?」
「う……あ……」
「ふごっ……ふごっ……」
が、それ以上の
此方が善悪を識別する前に、カルトや大教会関係者は隔離せざるを得ない状況になり、結果的に完全無力化。
三日三晩続く新築祭は神の手により、ある種強制的に、開催されることになったのでしたとさ。