――新築祭、それは後にイラダ地方で【奇跡の日】なんて呼ばれることになる出来事であった。
始まる前は、正直、期待よりも不安が勝っていた。
無数のカルトの妨害に、大教会の悪意。
魔獣の発生に、魔王の影の噂なんかもあった。
実際に、カルトによる妨害は祭りの当日に起きた上、祭りに乗じて建物や物資、さらには人命や新築である教会そのものに危害を加えようとした一派までいたことは、紛れもない事実であった。
「それでは、七大善神改め、八大神への感謝と恵み。
そして、新たなる神の家に、乾杯!!!」
「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」
――しかし、それでも祭りの熱狂と温もりはそれ以上であったのは間違いなかった。
それは、あらかじめ妨害を予想できていたことや、対応力が素晴らしかったこと。
さらには、思ったよりもカルトや盗賊の横暴がおとなしかったから、というのも確かにある。
――しかし、そんなもの、この祭りのすばらしさの前では些細な要因であった。
「この肉は……当たりも当たり、大当たりじゃねぇか!
季節外れの獲物なはずなのに、なんでこんなに脂がのっているんだ!?!?」
「ねぇ見てママ~!!あそこにフェニックスが飛んでるよ~!!」
「えぇ!?こ、こんなところにあんなに貴重な聖獣が来てくださるなんて……!!」
祭りが始まったとたんに、村の四方で起こる様々な小さな奇跡。それは珍しい生き物が現れたり、おいしい食べ物と出会うなど、小さな幸運から始まり。
「おろろ?な、ひ、光が!?な、なぜか、急に失明がなぜか治ったわい!
もうこれを最後の旅にしようと思っておったのに!?」
「え、あ!お、おまえ、生きていたのか!?
盗賊にさらわれてしまったから死んでしまったとばかり……」
「~~~~~っっお父さん!!」
病魔の退散や感動の再会など、驚くほどの幸運も多く発生。
「んなっ!?お、おい、今この酒飲み終わったはずなのに……。
中身が復活!?いや、いくら飲んでも減らないだと!?」
「う、うえっ!?失った腕が生えたぁ!?
さ、流石にこれは、ただの奇跡では言い訳がつかんぞぉ!?」
さらには、物理的にありえない、尽きぬ酒やどんな怪我も治す噴水の発生など。
おおよそ、ご都合主義というか、文字通り神の御業、奇跡としか言いようのない事態が無数に発生した。
「ありがたやありがたや……」
「おお、神よ、神よ!」
「うおおおぉぉ!俺は今まで神を疑問視していたが!!
しかし、それも今日までだ!!俺は、聖職者になるぞぉおお!!!」
こんな状態になると、多少の妨害が発生したところで、そんなものは神の奇跡の前ではあっさり消え去り、残るのは神への感謝と祭りへの熱狂のみだ。
それゆえに皆、祭りを楽しみ、祈りと感謝を口にするように。
更にはこれを機に、多くの人が神への信仰に目覚め、実際に奇跡を授かる人も多く現れた。
「は~い、感動したのはいいから、あんまり教会の前で長く足を止めすぎないでね~」
「えっと、次はイラブ村の村長と対面して、その次は王都から来た繁茂神の司祭へのあいさつだろ?
……はぁ?今からグリフォンに乗って、貴族が来るから、もう少し祭りの日程を伸ばせないかって?
そんなの無理に決まってるだろ!?」
まぁ、それでもどちらかといえば運営寄りに近い私やルドー村長は楽しさよりも忙しさのほうが勝ってしまうわけで。
「え?私ですか?
あ、あははは!た、たしかに聖典に書かれている水神様に似てるって言われることは多いですけど。
べ、べべ、別に只の司祭ですよ!化身とかでは、全然ないですよ、はい」
「やぁやぁ我こそは、冒険神!!……の化身の知り合い的な只の一般戦闘司祭なり!
勇気ある者よ、未知の強さを味わいたいもの、我こそはというものは、是非かかって来い!!」
「はぁ!?ずるいぞ!!そういうのは俺様の役割だろ!!」
「ね~ね~、今ならちょっとくらい一般人としてマートちゃんに挨拶しに行くのは……」
「おばか、あんたは絶対ボロが出るし、あの娘は今は私……の信仰神の信者なの。
わかったら、おとなしくしておきなさい」
さらに、私に関して言えば、普通のVIPよりもさらに面倒くさいVIPが来ていることがなんとなくわかってしまうわけだ。
どうりで、善神様方が今回の祝祭にやけに力を入れていたわけだ。
「安心してくれ、今回はただのオフ会みたいなもんだから。
それにちゃんと戻るときは、綺麗にしてから戻るからさ。
ほら、立つ鳥跡を濁さず、みたいな感じで……いや、ごめんね?」
かくして、私は目の前に現れた物理的な神の啓示により、新築祭ではそれなり以上に接待というか引率に従事することになったのであった。
★☆★☆
「……という風に、なかなかに地獄でした」
「とりあえず、半分は聞かなかったことにする」
そうして、時間はそれからぐっと進み、あっという間に数日後。
大変だったはずなのに無限に体力自体は回復するせいで、新築祭中はいろんな意味で気が休まらず。
祭りの後も、新築祭の最中に色々と奇跡が起き過ぎたせいで、祭りの残火や奇跡を求めて村にやってくる人がいたり、いくつかの聖遺物が雑に残されたり。
祭関連で気が休まらない日々が続いていたというわけだ。
「で、も!!
ようやく、ようやく全部の問題が終わったね~~!!
乾杯!!」
「うむ!俺のほうも、無事に客やらお偉いさんを無事に返せたし。
乾杯!!」
しかし、今日にしてようやく、祭りの後片付けが終わり、七大善神の新しい教会も無事に名実ともに建築完了。
右手に宿った聖痕も消えてくれたため、ようやく神の依頼も完了したというわけだ。
「にしても、ここまで本当に長かった。
……まさかここまで大事になるとは」
一口杯に口を付けながら、思い出すはここ最近の忙しい日々。
カルトへの聖罰から始まり、建築依頼のための各所への説明会。
マートの小獣変化に邪神からの天啓。
更には広がる呪いに、ダンジョン、魔王幹部討伐まで。
「思えば、ずっと忙しかったんだから、そろそろ休みに入ってもいいかもねぇ」
「だな〜」
「……い……」
振り返ると、どれも最近のことなのに懐かしく感じる。それはルドー村長も同じらしい。
お互いに顔を合わせて苦笑しながらも、そんなことを呟く。
「特に俺の場合、今回の祭りを含めて、それなり以上に村の開拓に成功してしまったからな。
一度領主様と共に王都に呼び出しを受けたし……。
休めるうちに休んでおきたいからな」
「え?王都行きって。
この村はルドー村長あってのものですよ?
いなくならないで下さ〜い」
「あぁ〜♪イオのような美女に、引き止められちゃうとは、実に気分がいいなぁ!
それと安心しろ、少なくとも王命でもない限りは俺はこの村で村長を続けていくつもりだから」
「……て……い」
時々聞こえる
ここの所、目の前の仕事が忙し過ぎて、やりたいことすらできず、のんびり近況や未来について話すことも減ってしまっていた。
だからこそ、目上の相手とはいえ、同じ悩みを抱え、達成した者同士として、ルドー村長との飲み合いはそれなりに楽しいものであった。
「あ、でも実は私も近々王都に行きたいとは思っていたんですよ~。
王都の魔導学園や大聖堂に久々に顔出せって手紙をもらって」
「おお!なら、俺と一緒に行かないか?
今ならちょっとした伝手で、侯爵クラスの超高級魔導馬車を用意できるぞ」
「おぉ!?何それ気になる!
超高級の魔導馬車って、どんな感じなんですか?」
「……と………い」
「ふふふふ、なんと馬車自体が竜骨やグリフォン、魔導樹といった超高級素材でできているし、著名な職人により細部まで作り込まれているすごい馬車だ!
それなのに、下への払い下げと安全性を加味して、この馬車自体は高級素材でできているだけで、別に堅固だったり、魔法的特別な機能があったりはしない。
本来ならば、龍車や鳥車にもなるはずがその機能すら、削除済み!
見た目とお値段だけは高い、すごい馬車なんだぞ!!」
「お~!さすがルドー様!!
とっても危ない発言ありがとうございます!
……というかその馬車に相乗りって、つまりは護衛依頼では?」
「はははは、ばれたか」
かくして私達は、今までの祭りや教会建築などのすべての重圧から解放され、久々に何の心労もない、晴れやかな笑顔で打ち上げを行うのでした。
「だ、だから、オデを、い、いや、私達を無視しないでクダハイ!」
……なんて言いきれたら、とっても気分は楽だったのになぁ。
「あ、ごみ、いや、最後の最後にカルトや盗賊と手を組んで、井戸に呪薬を流そうとしたクミ司祭じゃないですか」
「ああ、交渉人の立場でごり通して、この村の守衛や冒険者が、カルトや盗賊団を襲わせないように動きまくって、結局存在が妨害にしかならなかった犯罪者か」
今現在我々の横で喚いていたのは、つい先日まで大教会からの自称中立派閥の使者として、この村に交渉に来ていたクミ司祭である。
なお、自分はまだ嫌味を言う程度だが、ルドー村長のほうは、今までの恨みつらみと祭り開催の一番大事な時に裏切ったクミ司祭に対してそれなり以上の恨みがあるようで。
その声には、並々ならぬ怒気を感じる。
え?領主がこちらの村に来る際に馬車の場所を盗賊にリークして、その被害や原因をこちらの責任にしようとした?
そりゃ、やべぇわ。むしろ良く殺さないで我慢しているな。
「ぞっ、ぞれに関しては、
ま、まさか本当に大教会が、大司祭様のほうが全面的に悪いなんて、おぼわなかったんでず!
神罰により、口調が不安定でだみ声を上げながら、クミ司祭がこちらに嘆願する。
「……いや、それはさすがに都合良すぎじゃない?
というか被害の弁償や謝罪すらされてないんだけど」
「うぐ……!!」
「まぁまぁ、イオ司祭や、君の言う事ももっともだ。
だが、俺は優しいからな、今回の新築祭は結果として大成功できたんだ。
神の恩赦も含めて、指名手配や処刑は勘弁してやる」
「おお!さすがルドー村長優しい!
じゃ、そういうわけで、こちらのテロを仕掛けようとしたカルト達も今すぐ解放するから、彼ら?を連れてさっさと帰ってくれ」
「ま、ばって、ぐだはい!」
此方が怒りを抑え、それでも何とか無視しようと対抗するも、クミ司祭の嘆願は止まらず。
鼻水を流しながら、此方の足にしがみついてくる始末だ。
「えぇぇい!うるさいうるさい!
神罰を受けたのはお前らの不道徳が原因だろ!!
それに、まず何とかしたいなら、お前ら同士で何とか解決方法を探せ!」
いつもなら紳士的な男であるルドーも思わず全力で罵りながら振り払おうとするが、それでも彼女はあきらめず。
そして、こう言うのであった。
「む、無理だ、無理
だって、今回の神罰が原因で、大教会も盗賊も、カルトも、新築祭を邪魔した人はみんな天罰を受けて。
場所だって、この村周辺だけじゃなくて、首都や森の中に潜んでいた仲間も罰を受けて。
……みんなみんな、【豚】に変えられてしまったんですからぁああ!!!!」
――――ぷぎいいぃぃぃぃ!!!!!
『豚の獣人』になったクミ司祭がそう叫び、檻に閉じ込められた元人間の【豚】達が、一斉に嘶き始める。
「……とりあえず、イオ。
どうすれば、解決できるかはわかるか?」
「……太陽神様曰く、その豚化というか獣化は、以前の『魔狂わせの聖痕』の延長だそうです。
だから、首都に太陽神様が恩赦用のダンジョンを作ったから、誰かがそこをクリアすれば、その聖痕は剥がしてやってもいいってさ」
「だそうだ、というわけで頑張れ」
「ぴ、ぴぎいいぃぃぃ!!
ばって、ばって、お願いだずげでぐだばいいいいいいいい!!」
こうして、祭り自体は無事に終わったし、祭りも立派なものではあった。
しかし、それ以上に祭りを妨害した人々や神の名を使い横暴を働いた大教会の一派には、天罰として関係者の大量豚化及びダンジョン発生という【大災害】が発生。
ここ数日のギャレン村周辺の【祭り】と首都で起こった【大災害】のおかげで、イラダ地方では神への
めでたくなしめでたくなし。