さて、手短に今回起きた【大災害】がどのようなものであったか、改めて説明することにしよう。
まあ、簡単にいえば、今回の事件で祭りを妨害しようとしたカルトと、その関係者である大教会の人々が豚に変えられたという話であるが、実はこの話にはもう少し別の原因があったりする。
というのも、そもそも今回起きた【豚化】の呪いは、どうやら【邪獣人の呪い】の一種のようであり、つまりは【重度の獣人呪い】が変異したものに過ぎない。
ある意味では既知の呪いなのだ。
もっとも、普通の【邪獣人の呪い】ならば近くにいるだけでこちらも邪獣人に感染してしまうかもしれないし、邪獣人化自体が凶暴性増加の呪いみたいなものなので、暴れられてパンデミックやバイオハザードが起きてもおかしくないのだが、今のところこの【豚化】の呪いに【他人への感染】は認められていない。
――その原因は何か?
――なぜこの【豚化の呪い】は他人に移らないのか?
「おそらくは、この【聖痕】が原因だろうね」
そして、豚の獣人になった一人や豚そのものになった被害者の体を診察すると、そこには共通の聖痕があることが分かった。
そう、それは以前、自分がマートやギャレン村に対してクレームを入れて暴走未遂を起こしたことで聖罰が発動され、その時に
「確か、この聖痕の効果は【奇跡や呪術に対する変則的耐性と効果の変動】、および関係者への【感染】であったよな」
そうだ、この聖痕は、一度つけられると呪術や呪いに罹っても
さらにはなぜか、カルト内の関係者の間で聖痕自体が感染するという事態が起きる、実に不思議な聖痕であった。
「つまり、この豚獣人及び豚になった奴らは、邪獣人の呪いが聖痕によって暴走したせいで、こんなことになったと」
「一応それだけでもない感じだが」
ルドー村長はそのセリフと共に、今回の祭りの前後で件のカルトや野盗がこの村に仕掛けようとした毒薬や呪詛具を置いていく。
そのほとんどがすでに解呪いや解毒済みではあるものの、その効果のほどは軽く触っただけで分かった。
「……これ、【邪獣人の呪い】がかかってる呪具じゃん」
「だな。
つまり、このカルトや大教会が、今回この祭りの妨害のためにしようとした妨害工作こそが、【邪獣人化】の呪いそのものだったというわけだ」
つまり、今回大教会とカルトと盗賊が手を組んでこの街にやろうとしてきたのは、祭り当日に一斉にこの村周辺に仕込んでいたこれらの呪具を解放することで、村全体、いや、祭りに来た人々全員含めたギャレン村関係者全員を【邪獣人】にするという作戦であったそうだ。
「でもそれは当然失敗。
アイツらとしては、一番目立つ祭の当日にそんなことをしようとしたのだろうが、イオが天啓を受けて建築した新教会の対悪意結界の強さは本物だからな。
そんな邪獣人の呪いはあっさり弾かれ、確か、呪詛返しというのか?
邪獣人の呪いは仕掛け人であるカルトや大教会、盗賊などの関係者に【聖痕】とともに弾かれ、なぜか【豚化】の呪いとして広まってしまったと」
なお、今回の神罰は、表面上は神が直接神罰を下したというよりは、【新教会と祭り効果の奇跡】のおかげだと伝わっているが、個人的には当日参加した
なにせ、邪獣化が聖痕で暴走したからと言って、綺麗に相手方の関係者だけが綺麗に豚になるなんて、いろんな意味でできすぎているからな。
「えっと、話をまとめると…。
つまり、大教会のやつらは邪獣人や獣人排斥を謳っていながら、その背後ではカルトや盗賊を使って、気に入らないやつに邪獣人の呪いを毒やら呪いとして感染させていたと」
「だな」
「そして、一度邪獣人にすれば、異端対象だから、そのまま効率的に異端審問。
さらには処刑や奴隷化など、好きに扱っていたと」
「だな」
「……邪悪を超えて、むしろここでとどめを刺してあげる方が慈悲では?」
「奇遇だな、おれもそう思う」
どう考えても、教会という権威の悪用が過ぎているし、豚化の神罰も妥当なのではなかろうか?
「い、い、い、いや!待ってくださいだブー!!
こ、今回の騒動が起きるまで、ここまで大教会が腐ってるなんて、知らなかったんだブ!!
そ、それにあくまで、大教会としては邪獣人は排斥がメイン!呪いのばらまきも、一部の大教会の人員がカルトや盗賊と内通して行っていただけで、全体を見れば善良の人が多いはずフゴッ!!」
なお、自分たちの話を横で聞いていた半豚状態のクミ司祭はそのように反論を述べる。
まぁ確かに、彼女の言う事は部分的には理解はできる。
そもそも、奇跡を与えられる人材自体、神のお眼鏡にかなうか、それなり以上の善行を行うか、一定以上の教養が必要などの前提条件があるはずだ。
「でも最終的にこの村で呪詛ばら撒きテロに参加している時点で、まぁ君たちは言い逃れできないと思うよ」
「ふごっ」
まぁ、もし善人の聖職者が大教会にいたとしても、彼らのうち多くはすでに排除やら避難済みだろう。
一部の噂曰く、祭りのちょっと前に、首都大教会内でのギャレン村の善悪討議論争により結構な数の司祭がなぜか、盗賊に襲われたとか、除名処分を受けたり、司祭という職を引退したという話を聞いた。
祭りの途中で出会った例の方も「なんでいい子ほどすぐに死んじゃうんだろうね?」とか「警告したのに、思ったよりも聞いてくれなかった」みたいな愚痴を言っていたから、おおよそろくでもない聖職者のほうが大半なのだろう。
「と、いうわけで、今回の一連の騒動は、こちらからはあんまり触れない!
大教会の騒動にこちらは直接関与したくないな~って思います」
「まぁ、おれも大体同意見だ」
「ふ、ふごっ……」
此方の助命を訴えかけ続けていたクミ司祭も、ようやく諦めがついたのか黙り始める。
というか、こっちを殺したり、邪獣人にしようとしたくせに、流石に自分だけ助けてというのはご都合が過ぎるだろう。
「はい、というわけで、こちらの話は終わり!!
一応、完全に豚化している方の盗賊や豚獣人で止まっている方も、準備が整い次第首都のダンジョンまで運んであげるから!
天啓が正しければ、首都にあるダンジョンをある程度攻略すれば、その聖痕も解除できるらしいから。
そしたら、解呪の奇跡も通じるようになるし、豚化も解けるらしいから。
諦めずに頑張ってね」
「ふ、ふぎぃ……」
かくして、私達は、完全な大教会関係者やカルトなどの一味が豚化した事、さらにはその神罰を受けた背信者には、基本的に関わらないことを決意することで、この問題にふたをし、一旦の解決ということにするのでした。
え?それはさすがに被害者が多いのに、かわいそうだって?
それはこの人の惨状を見てから言ってほしい。
「……ふふ、ふふふふふふ。
陛下からの王命が、帝国、盗賊被害、大教会……。
領民や移民の安全、帝国からの委託、王都から借りた司祭群。
新しくできたダンジョン、ほぼ無人の大教会、ふふ、ふふふふふふ」
なんと、この場にもう一人いた、より可哀そうな人。
すなわち、そこには、件の首都を治めていた領主であり、イラダ地方の開発責任者であったロイ領主の姿が!
「お、落ち着いてくださいロイ領主。
あ、あなたは別に何も悪くはなく……」
「当たり前だぁああ!!!!
んがぁああ!!!何が帝国から紹介された英雄司祭だぁああ!!!!!
帝国からの友好の証?魔王退治の功労者だから、優遇しろ?あほかぁああ!!!!
くっそ、こうなったらもう知らん!
豚になったアイツらを処刑して、せめてもの慰めにしてやるわぁあああ!!!!」
「お、落ち着いてください!
すでに、神罰を受けたと思われる人、いや豚達をさらに処刑するのはいろんな意味でまずいです!」
なお、私たち自身も確かに大教会や盗賊関係者に思うところは多かったが、それ以上に怒っている人がいたため、自分たちの怒りはある程度軽減。
その後しばらくは、ロイ領主の怒りを鎮めることに従事することになったのであったとさ。