ともすれば、ようやく首都への移動である。
馬車に荷物を詰め終わり、そのための護衛も準備。
一応は第1隊と第2隊などに分けて、いざというときのことも考え。
ようやくといった感じで、我々は首都イーゴへの救援部隊を発進させたわけだ。
―――そして、それは発進以降割とすぐに困難にぶつかった。
「い、イオ様~~!!
ぶ、豚、いえ、背信者を入れた馬車に巨大な梟が襲いに来て……うわぁああ!!!」
――それは天空から襲い掛かり。
「あ、亜竜の群れが!!!
他の馬車には目もくれず、真っ先に豚の入った荷馬車に!!」
――地上からは無数の牙と爪で。
「うわぁああ!!!た、大量の血吸い蝙蝠と蚊の集団がぁああ!!!!
え??こっちも真っ先に豚だけを???なんで!?!?」
――そしてそれは、無形の軍勢でも襲い掛かってきて。
「ひ、ひえええぇええ!!!の、野良の亡霊がぁ!
荷馬車にまとわりついて、豚達が暴れています!」
――とうとう実体のない物まで集い始める始末。
「すいませ~ん、檻から脱走した豚が、遠巻きに見つめていたゴブリンに攫われました~」
「……あの、この豚共、理性が擦り切れたのか、こっちの気も知らずに勝手におっぱじめたんですけど」
救援部隊の本隊はまだしも、豚達はこれ以上村を離れるのは困難と判断。
かくして、非常に残念だが、私達は一部の人材は本隊とは分断することで、豚達を連れて村へと帰還することになったのでしたとさ。
★☆★☆
「で、どうしよっか」
「やっぱり、彼らは普通にベーコンとして出荷するのが、天の意思では?」
―――ぴぎぃぴぎぃぴぎぃいいい!!!
さて、場所は戻って再びギャレン村。
領主や導きの巻貝兵団などは、先に行ってもらっているが、私と豚達は一旦村に出戻りしてきてしまったわけで。
その元凶というか己の罪の原因である豚達の前で、これから先どうしようかと、途方に暮れているわけである。
「……日程的には、まぁ、まだ向こうも到着していないだろうけど。
それでもできることなら、さっさと追いつきたい気持ちもあるんだけどねぇ?」
「う~ん、とりあえず、一旦おいしいものを食べてからそういう難しいことを考えたらどうですか?」
「おいしいものって?」
「当然!ベーコンですよ!」
「「HAHAHAHAHAHA!!」」
後ろで泣きわめく豚達に、わずかにため息をつきつつ、改めて打開策を考える。
どうやら、聖痕と呪いの影響か、どうやらこの豚達は普通の生き物よりも野性の獣や魔物に襲われやすいという特徴を持っているようだ。
一応なぜか、そのデメリットというか被虐体質は、この神造教会が複数建つギャレン村三村周辺では発動しなかったが、それはあくまで村の周辺のみ。
村から遠くに離れれば離れるほど、その影響は大きくなり、ギャレン村と首都の間ぐらいでは、それこそ遠くからこの豚めがけてゴブリンの群れが押し寄せたり、近くにいる死体が勝手にアンデッドとして甦り、この豚にしゃぶりつこうとするのだ。
「もうだめだぶぅ……。
かくして、このデメリットというか呪いは、完全な豚化を逃れたほうの、豚の獣人モドキになっているカルトや盗賊の方にも当然発現。
彼らは、二足歩行ができ、一応はしゃべれる分、自分たちは完全に豚化した背教者よりはましだと思っていたらしいが、そんな自負も魔物や虫の集団に襲われた時点で一気にそがれてしまったようだ。
「は????
お前らみたいな汚れた豚モドキが、獣人として認められるわけないだろ。
いいところ、オーク……は、強くて恐ろしい魔物だからな。
お前らはいいところ、腐肉だろ」
「ぶぶぅあああぁああ!!!!
お、お、お、お前ら獣人のような汚れた存在がぁ!
我らを愚弄……ぷぎぃいいいいい!!!」
なお、この半豚獣人の背教者と獣人は基本的にクソみたいに仲が悪い。
まぁ、半豚獣人のカルティスト共はその多くが獣人差別者であるし、獣人側はようやくこの村で、教会建築やダンジョン攻略を通じて村の人々に受け入れられてきたのだ。
どちらも互いの存在を認められず、見てわかる程度にはいがみ合っていた。
「私個人としては、せっかく獣人関係の差別がなくなってきたところに、こんな偽獣人のカルトのせいで、また獣人への差別が湧き上がりそうだからね。
できることならさっさと出て行ってほしいかなって」
「まぁ、あの様子を見ればな」
口汚く罵り合う獣人とカルティストたち。
そんな光景に頭が痛くなりつつ、改めてこの事態を解決する手段をいくつか考える。
その中で一番現実的な方法を選択する。
「う~ん、やっぱりこういうのは、きちんとした窓口に頼むべきだよね」
「きちんとした窓口?」
「うん、一応アイツらの大半は、太陽神信者だし、だったら、行くべきところは、ね」
「……というわけで、私のところにいらっしゃったのですか」
そうしてやってきたのは、ギャレン村の太陽神教会。
建築ラッシュの際に少しだけ、改築されたその場所において、久々に彼女に出会うことにした。
「ごめんね~。
最近はあんまり遊びやら食事に誘えなくて」
「いえいえ、別に構いませんよ。
お互い今は忙しい身ですし」
「本当?」
「……ごめんなさい、少し寂しかったです」
というわけで、久々に出会ったオッタビィア嬢。
最近は、教会建築での手伝いや冒険者への治療、さらには新築祭の恩赦にて、彼女の身に刻まれていた無数の侮蔑の聖痕はすっかりその数を減らし、今ならせいぜい、初見の相手にも少しネギニンニクを食べすぎた女性程度の嫌悪感しか浮かばないだろう。
いや、意外とまだ残っているかもしれない。
「ふふふ、これに関しては己へ戒めのためにあえて残しているのです。
豚にされたあの人たちの様に、増長し、手遅れにならぬように。
太陽神様のお手を煩わせてしまいますが、それでもこの聖痕があり続ける限りは、太陽神様に見張られている。
すなわち、太陽神司祭として、恥じぬ行動を心掛けられますからね」
オッタビィア嬢が胸を張りながらそう宣言する。
志こそ立派ではあるが、だからと言ってあえて聖痕を残したままにするのは、いろんな意味で覚悟が決まり過ぎなのではなかろうか?
「いやまぁでも、あれになるよりはましでしょう。
あれよりは」
なお、オッタビィアがちらりと教会の外の方へ視線を向けると、そこにはそこそこの大きさの家畜小屋に、無数の聖痕付きの豚が所狭しと詰め込まれていた。
「ふふ、ふふふふふ。
正直、ようやく村の皆さんから侮蔑やら差別の視線がなくなったと思ったら、これですからね。
おかげで、太陽神司祭というだけで、がっかりな眼で見られたり、ぎょっとした目で見られて……。
太陽神様、せめて、善良な信徒のためにもうちょっと軟着陸とか、そういうのはできなかったんですかね?」
オッタビィアが涙ながらに、天へと祈りを捧げる。
教会の領域内にいる無数の豚に関しても、どうやら、同じ元太陽神の信徒同士だから引き取ってといわれた結果らしい。
正直オッタビィアに関しては、早目に神罰を受けたおかげで豚化しなくてよかったねという思いと、ようやく偏見の目や贖罪が終わった瞬間この始末なのを同情すべきか。
なぜか自分の脳裏にごめんね♪という謎の幻聴が聞こえたけど気のせいだろう。
「かわいそうにかわいそうに、最近のオッタビィアちゃんはとってもいい娘だったのにねぇ。
身なりの良さも、あくまで派手ではなく、それでも整った感じに……。
って、あ、私が渡した聖布、まだ使ってくれてたの?」
「え、えっとその、これは……は、はい!
これがあると、イオさんと一緒にいるような気持ちになれて……」
まぁ、でも最近はそれなりに心のほうも強くなったようで。
簡単に、問診やら世間話をすれば、あっという間に元気を取り戻したようで何よりだ。
櫛なんかを使って、髪の毛を整えたり、新しい香油なんかを付けてあげたりすると、るんるんと鼻歌を歌うぐらいだ。
「え~っと、そういえば、結局今回はどのようなご用事で?」
「用事がなきゃ、会いに来ちゃいけないかな?」
「……!!♪
ふふふ、と、と当然そんなわけありませんわ!
イオさんならば、毎日毎夜、いらしてくださってかまいません!」
流石にこの娘、ちょろすぎないか?
(エッチなのはいけないと思うぞ?
やるなら責任をとれよ)
(なにがだよ)
なお、太陽神の神殿がグレードアップしたせいか、なんか変な天啓が聞こえてきた気もがするが無視する。
しかしまぁ、それでも太陽神からの警告?も受けてしまったし、これ以上オッタビィアや他太陽神信者を待たせるのもことだ。
それゆえ、私はさっそくオッタビィアに件の豚達の事で、一つの頼みごとをするのであった。
★☆★☆
翌日、太陽神教会にて。
多くの豚達や観客が見守る中、その奇跡は発動した。
「我が神、太陽の導きにて!
聖具の力を分け与えたまえ!
はぁああ!!!!!!!」
そうして、太陽神教会の前に、わずかな振動と共にそこそこ大きな音が響き、空間がゆがむ。
地脈を通して、兄弟神の教会から、【ポータル】の力が太陽神神殿の方にも流れ、それはさらなる流れを生む。
「……っつ!!」
「はい、オッタビィアちゃん。
落ち着いて~、ゆっくりゆっくり、神様の気配や魔界の気配に呑まれないで?
ゆっくり、魔力の痕をたどって」
「……はい!」
なお、【ポータル】という人間に過ぎたる聖具を本来とは少しだけ違う方法で使うことにより、オッタビィアの魂や魔力感覚にそれなりの負担が出てきている。
が、そこをフォローするのが死霊術師である自分の仕事。
彼女の魂が暴走しない様に操魂術であるべき姿に抑えつつ、呪術による麻酔でいらない情報を拾わない様に五感や六感をある程度抑制する。
「……おそらく、こっち?あれ?でも、これは……」
「細かい情報はいいから、ほら、寄り道は厳禁!
今やるべきことに集中して!」
「おぱ!?」
いらない情報を捉えかけたのか、オッタビィアの体から魂が飛び出し、ポータルに吸い込まれかける。
流石にそれは危ないと彼女の背後から強く体を魂ごと抱き留めた。
「……よし、よかった。
大丈夫?少し休む?」
一瞬冷や冷やしたが、改め得て、オッタビィアを正面から向き合い、その顔色やら体温など、色々と触診するが問題はないようだ。
「……イオさんのおっぱいって、すごいですね」
「いや、今言う事それ?」
いや、もしかしたら頭に少し問題があったかもしれない。
「ま、まぁ大丈夫ですが、思った以上に魔力感覚のみで目的地を特定するのは難しくて……そのためにイオさんにはお願いがあります」
「うん?なぁに?
私にできることなら何でもするよ?」
「もっと、私におっぱい押し付けてください」
「え」
「だから、もっと私におっぱい押し付けてください」
「え、え、え~~?」
かくして、なぜか私はオッタビィアちゃんに【ポータル】を首都の大教会までつなげてもらう代償?として、この後しばらく、大衆の目の前でオッタビィアちゃんと抱き合いながら、聖なる儀式をするという実に謎な時間を過ごしてしまったのでした。
なお、ポータル接続の儀式の後。
「ずりーぞオッタビィア!!」
「くっそ、改心したと思ったら相変わらず卑しい!!」
「ふん!!!これはあくまで聖なる儀式で合意の上です!!
太陽神様からも、OKもらえましたし!
悔しかったらあなた方も、太陽神の高位司祭になってみなさい!!」
「っく、なんて羨まけしからん聖なる儀式だ!
あんな横暴を神自らが許すなんて!
俺、太陽神様の信徒になります!!」
「っつ、くそ!!!俺も」
「ちくしょう、私もよ!!」
それはそうとなぜか、今回の儀式の後で、この村において地に落ちたはずの太陽神への信仰は、再び上がったりしたそうな。
さもあらん。