無惨の忠臣 作:十二茶柱
──ある日、『鬼の王』となる素質を持つ少年を見つけた。元号が大正になってすぐの頃だった。
正に無惨様とわたしが千年探し求めたままの、鬼にした瞬間日光を克服するであろう者だ。
だけどわたしは、その子を鬼にはしなかった。
たとえ『成りたて』だろうが、鬼となったその子に、わたしでは勝てない──そういう確信があったから。
なのでわたしは、その子の親族を狙うことにした。そして、その判断は正しかった。
その子には三人の弟と二人の妹がいたが、その内の一人──長女『禰豆子』もまた、太陽を克服する素質を持っていた。
無理矢理その子を連れ去って鬼にすることもできたが、真っ当な親子を引き裂くのはわたしの趣味じゃない。
なので正規の手順を踏んで養子縁組を申し出て、尚且つ彼らの困窮した生活の支援をすること、月に一度は彼らの家に娘を返すことなどを条件に、わたしは禰豆子ちゃんの親権を勝ち取った。
一家は揃って良い顔をしていなかったが、わたしの熱意は勿論、当人の禰豆子が『家族の生活が楽になるなら』と非常に乗り気だったことと、会話の合間合間に話を振られていた長男、炭治郎くんが『悪意の臭いはしない』『嘘は吐いていない』と太鼓判を押し続けてくれたのが大きいだろう。
……本当に、恐ろしく鼻の効く子だった。わたしが『養子として』禰豆子を欲しているワケではないことと、そもそもわたしが人間じゃないことは、すぐに看破された。
それについては『わたしが
しかし、因果というのは分からないものだ。
わたしが炭治郎くんを見つけたのは、しのぶちゃんの研究が進むにつれて、彼女の毒がわたしの望むものとはズレている……ということに気付き、再び鬼の素質が強い者の候補を見繕い始めたから。
──でも結局、彼女の毒は役に立った。
一家を説得する際、『血だけが必要なら養子縁組は必要ないだろう』という意見も出たのだ。
研究のためには彼女を鬼にする必要がある──つまり彼女も感染させることになる。するとしばらく、普通の家での生活はまずできない。彼らはそれを許さないだろう、ということは明白だった。
なのでこれまた、正直に話すしかなかった。
『
それこそ、しのぶちゃんが作成した複合毒の一つ。人間化薬だ。珠世さんが四百年培ったノウハウを一瞬で吸収し、藤の花から作ってみせたらしい。
当初は『違う、凄いけどそうじゃない』と頭を抱えたものだが……彼らの説得には役立った。
わたしの怪力や血鬼術などを軽く見せて、『
いやはや、長男長女以外からは最後の最後までものすごく拒絶されて大変だった。炭治郎くんも拒絶こそしていなかったが良い顔もしていなかったし。あの状況で我を通してくれた禰豆子ちゃんには感謝しかない。
──そして、研究はその日の内に終わった。
彼女を鬼化させてすぐ、わたしは彼女に保管していた血を与えようとして──血鬼術が警鐘を鳴らしたのだ。『そっちは反対方向だ』と言わんばかりに。
なので可哀想だが、飢餓状態のままにして拘束。しばらく放置……四半刻ほど経過した後、彼女は
──それで充分だった。わたしはその時点で、太陽克服の因果を掴んだ。
その禊に必要な時間は個体差があり、大抵は克服前に餓死するしかないらしい。それはわたしも含めてだ。
だが炭治郎くんは、それが極端に短い。この子の場合は逆に、年単位の長い時間が必要だが……睡眠による寿命の延長で帳尻合わせが成立する。しかもこの子の睡眠は、どこからか栄養を補給しているらしい。…………厳密には『睡眠』に似た、血鬼術とは別種の異能だろう。同じく血鬼術とは別の異能──無惨様の呪いも外されているので、間違いない。
わたしは彼女の血を少しだけ貰い、睡眠の体質を吸収した。後は自分の身体で実験すれば良いので、彼女を人に戻して帰宅させることができる。
──そしてわたしは、長いこと血を飲むだけの食生活を送っていたからか……たったの十日間で、太陽を克服した。
その後無惨様も、太陽を克服した──と言えれば良かったのだが、四年経った現在も、あのお方は半刻外に出るのが精一杯だ。一度眠ると中々起きないのも、人間時代ではなかった体質だ。
だが四年も経てば状況も動く。日光克服に比べれば些事ではあるが、大きな変化が二つ。
一つは、人肉以外の食事が完全にできるようになったこと。
もう一つは……。
「────待たせてしまいましたね、産屋敷の当代。わたしが育てた
「……ふふ。本当に来るとは思っていなかったよ……紫さん」
「わたしは約束を守る女ですから。
無惨様との約束である、太陽克服は叶えました。カナエさんとの約束である、人を食す鬼の撲滅も叶えました。
そして……かの妻に相応しい女になること……わたし自身の誓いも、果たしました」
──鬼の身体で、子孫が残せるようになった。
わたしのお腹には、新たな生命の因果が宿って
「わたしの役目は、残り一つ」
懐から短刀を取り出し──目の前の少年に手渡して、笑う。
「──さ、
「…………いいのかい?」
「四百年前、雁哉の因果を見て気付きました。産屋敷家は、神仏に呪われている。あなた達は、我々を──いいえ、無惨様を殺すまで止まれない。終われない」
「……うん。先祖代々、そう伝え聞いているよ」
「残念ながら、わたしに神仏を討つ手段はありません。あなた達の呪いを解く術もありません。しかしこれ以上神仏に主人を狙われても困るので……」
頭を垂れ、頸を柔らかく。
「──この首一つで、勘弁してくれませんかね?」
実のところ、カナエさんのことがなくても人喰い鬼は全滅させる予定だった。そして、無惨様の鬼を増やす力は……わたしが吸収して、この身と共に消し去る手筈だ。
こうすれば、産屋敷の呪いは消える。人喰い鬼の根絶が完了するからだ。
……日光克服に睡眠が必要であったのは、幸運だった。
「…………本当に、そんな約束を守りにくるとは」
「あなた達のためではありませんがね」
わたしは徹頭徹尾、無惨様のために在る者だ。
「さぁ、早く。わたしの気が変わらない内に」
「…………やめておくよ」
「何故」
「呪いが解けても、後でこわーい殺人鬼がやってきそうだからね」
「……今を逃せば、雁哉との約束は無効になりますよ」
「いいよ。もう千年でも万年でも、私達はゆっくりじっくり、人類の手で、無惨を殺してみせる」
「……本当にしつこいですね、あなた達は」
「人の想いは永遠だからね」
「…………絶滅させてやりましょうか?」
「そんなこと言っても、やらないだろう? キミは、優しい人だからね」
「…………さようなら。もう会うことはないでしょう」
「さようなら。私の子孫がまた会うだろう」
*
「──というワケで奴らはまだわたし達を狙っているので、『産屋敷』という名前には気を付けるんですよ?
「…………聞けば聞くほど、お父さまがお母さまを部屋に閉じ込めたがるのがごく自然なことだとしか思えなくなってくるのですが」
「もう、竜胆までそんなことを……危ない橋渡りは金輪際しないと、何度も言っていますのに……」
──わたし、約束は守る女なんですよ?
という訳で、本編は完結でございます。
見切り発車で書きたいところだけ書いた作品なので、拙い部分が多かったかと思いますが……ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました。少しでも楽しんで頂けましたら、幸いです。
後は原作とは乖離したアフターストーリーと、書ききれなかった主要キャラの過去描写などになります。つまり、もうちっとだけ続くんじゃよ。
確定リストは『黒死牟と縁壱』『紫と累』『ぎゆしの』『鬼舞辻家の休日』
他にもリクエストがございましたら、規約違反にならないよう感想などを交えてそれとなくお知らせください。作者が狂喜乱舞しながら書くと思います。