無惨の忠臣   作:十二茶柱

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紫と童磨、カナエと珠世(1)

 

 ──鬼は悲しい生き物だと、そう思った。

 

 ──人は哀れな生き物だと、そう思った。

 

 

 人でありながら人を喰らい、美しい朝日を恐れる。その哀れな因果を断ち切りたいと、私は思った。

 

 死を恐れるあまり『地獄』や『極楽』といった妄想を作り出し、すがるしかない者達を救いたいと、俺は思った。

 

 

 だから斬った。それ以上、罪を重ねなくていいように。

 

 だから喰った。それ以上、死に怯えなくていいように。

 

 

『『だけどずっと、何かが〝違う〟ような……そんな気がしていた』』

 

 

 『鬼と仲良くしたい』などと言っておきながら、その対象を斬るしかない毎日。具体的な方法なんて思いつかないまま、間違った方法を繰り返す日々。

 

 『俺に喰われた人は皆幸せ』だなんて、自分でも嘘だと分かっている。自ら命を差し出す信者すら、死の間際には苦しそうな顔をする。土壇場で逃げようとする者もいる。それでも俺には、これ以上の方法なんて思いつかなくて。最善は見つからないまま、永遠が過ぎ去っていく。

 

 

  そんなある日、思い悩むキミ(アナタ)に出会った。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──無限城。茶の間。

 そこは西洋風の一室。主に『()()()()()』で腹を満たす、()()()()()()()()

 現在の利用者は珠世、恋雪、狛治、紫。そして──。

 

「…………()()、もう一度言ってみよ」

「はい。()()()とお茶会がしたいんですが、構いませんね?」

「当然却下だ阿呆……何故その申請が通ると思った? 其奴、鬼狩りの柱だろう……?」

 

 口元を吐血で紅に染めた、紫紺の瞳を持つ女性。

 ──鬼殺隊花柱、胡蝶カナエである。

 

「……ごぼふっ」

「チッ。そもそも、本気で客人にするつもりなら血鬼術なぞ使うでないわ」

 

 紫は、咳き込み血を吐くカナエを見て──舌打ちを一つ。彼女の血鬼術で、カナエの身体を蝕む毒を消滅させた。

 

「──え?」

(呼吸が、できるようになった……?)

 

「俺もできるならそうしたかったんですが、そこまで手加減できる相手じゃなかったものでして。これは連れ帰った後、紫様に治して貰えることを期待して派手にやってしまった方がいいかなと。

 紫様なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「──なら一編死んでみるか? 無礼者」

 

 紫は瞬く間に童磨へ肉薄。彼の赤い頭頂部を乱暴に掴み、床へ叩き付けた。

 

「何故妾が貴様の指図で術を使ってやらねばならぬ? 妾に命令していい存在はただ一鬼(ひとり)。天上天下、後にも先にも唯一無二の完璧なお方のみ。即ち無惨様だけである」

「フフフ。そんなことを言いながら、実際貴女はカナエちゃんを治してくれたし、俺を殺してもいない。やはりお優しい方だ、紫様は」

 

「──言っておくが、妾は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この力に縋られるのは、不快だ。一度(ひとたび)知られれば断っても断っても纏わりつかれる故、本来なら『紫という鬼(わらわ)にそういう力がある』という情報を漏らすこともしたくない」

 

「…………」

「あっ……その節は、すみません」

「……フン。恋雪、お前のことはもう許している故、謝らずともよい」

 

 『その節』というのは恋雪の父、慶蔵のことだ。

 『(わたし)を生き返らせたように、どうか父も助けてください』と──かつて彼女はそう縋ったことがある。結果は勿論、紫の態度からも分かる通り……『完全拒否』であった。

 紫がどの程度死者蘇生(その力)を嫌っているのかというと……無惨の命令で意に反した使い方をさせられた際には、対象が死に至った経緯が紫の地雷だったこともあり……無惨と一月ほど口を利かず、目も合わせなくなったほどである。

 ……ちなみに珠世が夫と子供を喰い殺してしまった件が、それに該当する。閑話休題。

 

「童磨、今日の貴様は度が過ぎる。罰が必要だ。

 そうさな……床についた血を、舐め取って掃除してもらおうか。いくら感情の薄い貴様でも、これなら多少は屈辱だろう? そらっ」

「ぐえっ」

 

 再び床へ叩きつけられた童磨は、言われた通り血溜まりを舐めるが……彼自身から流れる血のせいで、一向に減る気配は無かった。

 

「…………あの、紫様? コレ、俺の勘違いでなければ、永遠に終わる気がしないんですけれど……? せめて再生の許可を頂けたら──」

「無駄口を叩く暇があったら作業を続行しろ」

「あ、ハイ」

 

 そうしてまた『レロレロレロレロ』と床を舐め始めた童磨を尻目に、珠世はポカンとして(うずくま)ったままのカナエの元へ向かい──手を差し伸べた。

 

「……カナエさん、と言いましたか。紫様はああなると長いので、先に席へついて、飲み始めてしまいましょう」

「──ぇ。あ、あの……いいんですか? 私、一応鬼狩りなんですけど……」

「アナタに敵意があるなら、既に狛治さんが動いています。もしくは紫さんが、問答無用で首を飛ばしていたでしょうね。

 童磨さんも言っていましたが、あの()は優しい方ですから。私達が一度客人として扱ってしまえば、彼女も無下にはしないでくれますよ。申請の却下も、あの折檻も、あくまで体面を保つための形式的な行動だと思うので、お気になさらず」

「は、はぁ……」

 

 カナエは置かれた状況に現実味が持てないまま、珠世の手を取り立ち上がった。

 ──さりげなく『人と鬼が手を取り合う』というカナエの悲願が達成されているのだが……そのことに彼女が気付くのは、暫く後の話だ。

 

「さて。恋雪さん、()()()()()()があった筈です。人数分、用意して頂けますか?」

「はい。ただいま」

 

 そこでカナエは、彼らが()()()()()()()()()()という事実に気付いた。()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

「──あの、すみません。その紅茶って……血が混じってますけど、茶葉自体は普通のもの……ですよね?」

「えぇ。ここに居る者は皆、私の手で肉体を改造し(いじっ)て少量の血液だけで生きていけるようになった鬼達です。その時の副産物で、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」

 

「────。自らの意思で、人を食べずとも、いいようにした──つまり、そういうことですか……!?」

 

「はい。そうなりますね」

 

「〜〜っっ!! あッ、あの! わたし……!!」

 

「はい。ゆっくりでいいですよ?」

 

 妹も、恩人も、誰一人として理解を示さなかった、カナエの理想が──すぐ目の前に、映し出されていた。

 涙で前が霞む中、カナエは瞬きをせずに、彼女へ問うた。目を閉じたら、夢から覚めるように……その光景が、消えてしまうと思っているのかもしれない。

 

 

「──あなた達と……仲良く、なりたいです」

 

「はい。私も珍しいお客人と、親睦を深めたいと思っています」

 

「──名前を、教えてくれませんか?」

 

「あぁ、申し遅れていました。──私は珠世。命を傷付ける、(かど)なんてものが無い世の中を目指す、しがない薬師です」

 

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