無惨の忠臣   作:十二茶柱

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 十二茶柱は、抹茶と珈琲が好きだ。あの苦みが好きだ。
 しかしそれは、甘味を好むことと排反ではない。むしろこれらは組み合わせることで更なる味わいを生む。二つが一つに劣る道理は無く、二つは加算ではなく乗算の勢いで魅力を放つ。

 そして私は、同じ理由で『救済の約束された曇らせ』が大の好物である。
 


間話:お茶会の、前と後

 

『──カァァァ!! カァァァァ!!!

 花柱、胡蝶カナエガ上弦ノ弍ト戦闘中!! 花柱、胡蝶カナエガ上弦ノ弍ト戦闘中!!! 至急救援ニ向カエ!!!』

 

 

 ────聞いた瞬間、背筋がゾッとした。

 

 

 知っている。幸せは、いつだって当然奪われる。

 お父さんも、お母さんも、突然やってきた鬼に殺された。

 

 だから私は、速くなった。誰かの幸福が壊れてしまうその前に、間に合うように。

 私の脚は、既に柱の領域へ到達している。

 

 

『──ぁ』

 

 

 でも、駄目だった。また間に合わなかった。

 

 

 血反吐を吐いて、膝を突いている姉の姿。

 

 どこからともなく聞こえてくる、琵琶の音。

 

 突然現れる襖。降り立つ誰か。──接地面が悲鳴を上げ、ソレの質量が見た目通りではないことを告げていた。

 

 

『…………?』

 

 

 周囲を一瞥し、小首を傾げる。一瞬だけ見えたその瞳に、数字は無い。──その眼に、私は映っていなかった。

 

 

『あぁ……!』

 

 

 再び琵琶の音がして、現れる襖。

 

 止める間も無く、その場に居た鬼達が吸い込まれ──襖の奥から伸びた氷の蔦が、私の姉を攫っていった。

 

 

『あああああああああッッッ!!!!

 逃げるなああああッ!! 返せッ! 私の姉を返せええええッッ!!!』

 

 

 姉が消えた場所を、辿り着いた時にはただの地面になっていたその場所を、日輪刀で滅多刺しにしながら叫ぶ。

 だけど当然、敵の耳には届いていない。私の手は、刀は、届かない。

 

 

『うぅ、うううう……』

 

 

 何もできなかった。戦うことすらできなかった。

 最愛の姉を、最後の肉親を喪ったというのに……この身は何故、無傷なのか。

 姉が帰って来るなら、代わりに私が死んだって構わないのに。

 

 

『こんな、無様な姿で……カナヲに、アオイに、なんて話せばいいのよ……』

 

 

 失望されるだろう。罵倒されるだろう。

 『その場に居たのに何をしていた』と、『助けられた筈だ』と、糾弾されるだろう。

 

 ──そんなことはあり得ない。あの子達は、私と同じく泣いて泣いて泣き喚いて、それでも一切、私のことを責めてはくれないだろう。

 

 だから、

 

 

『殺してやる……!! 上弦の、弍……!』

 

 

 脳裏に焼き付ける。あの姿を。

 後から現れた女の鬼は、上弦じゃなかった。姉さんを殺したのは、あの男の方だ。

 顔立ちは見えなかったが、背格好は覚えた。手足の長い、筋肉質だが細身の男。血を被ったように、頭頂部だけが赤い金髪。決して忘れるものか。

 

 そして、考えださねばならない。奴を殺す方法を。

 今はまだ、私の毒は通常の鬼を殺すので精一杯。異形・異能の鬼にもなると、弱らせる程度に留まってしまう。

 今までは、それで良かった。弱らせて、再生を鈍らせて、首を何度も何度も刺してやって、(ノコ)のように斬ればよかった。

 

 何より、鬼との対話を望んでいた姉の隣で使うなら……このくらいが、ちょうど良かった。

 

 

 ────だけど、もう容赦は必要ない。

 

 

『…………帰らないと……』

 

 

 研究が必要だ。

 どんな鬼も、始祖たる無惨すらも殺せるような……そんな毒を、作らねばならない。

 

 そうして私は、幽鬼のような足取りで蝶屋敷に帰って。姉の訃報を、義妹達に届けて。

 やっぱり皆で泣いて。……カナヲだけは涙を流さなかったけど、形見の硬貨を握って、滝のように汗を流して震えていたから。きっと心の奥底は同じだった。

 

 それでも皆、『しのぶ様()が生きて帰ってくれて良かった』と、言ってくれて。やっぱり誰も、私を責めてはくれなくて。

 

 だから私だけは、私を許さずに、責任を追及しなければならない。

 

 

 ──だから。

 

 

 ──〝ベン〟

 

 

『……え?』

 

『あぁあ、しにょぶぅ〜〜。たぁだいまぁ〜〜』

 

 

 なんかグデングデンに泥酔して帰ってきた姉を、偽物だと思って外の池に放り投げた私は、悪くないと思うのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──随分と()()()()()な顔ですね、童磨

 

 えぇ、とっても負の()()に満ち溢れた顔です

 

 ふふ、いいですよ? 教えてあげます。それはですね──〝嫉妬〟です

 

 あなたは、カナエさんが〝羨ましい〟んですよ。『絶対に叶うワケがない願い』を先に叶えてしまった彼女が、妬ましいんです

 

 えぇ。なら最初から、彼女の願いを叶える手伝いなんてしなければよかった。でもそれはナニカが違う。だけどやっぱりどこかが苦しい。そうでしょう?

 

 ふふっ、ふふふふふ! 矛盾している? えぇそうです! 感情とはそういうものです。わたしの血鬼術なんて、まさにそうでしょう?

 

 この世の理不尽・不条理を受け入れられないから、自然の理を捻じ曲げる。合理性・自然を愛する者にあるまじき、身勝手な力を持つ存在。それが私です。

 だからわたしは、『身勝手』を許容しましょう。あなたも、その調子でいきなさい。そうすればあなたの願いは、きっと見つかりますよ

 




 
 どうやらカナエさんが酔っているのは童磨が呑ませたからの模様。(公式設定で童磨の趣味は酒風呂なので、彼は鬼の中で数少ないお酒所有者)
 お茶会の真面目な内容は次回。

 そしてオマケ第二弾。
 上弦→紫の印象。

 黒死牟:無惨共々大きな義理のある相手。忠義を誓っている。……もし仮に、無惨と紫が同時に死にかけていたなら──私は、きっと……紫様の救援に、向かうのだろうな……。

 童磨:神たる無惨の使徒。そして……先生であり、親愛なる友人

 狛治:恩人。主人として畏敬を持っている。……が、時折天然というか、残念になるのが、なぁ……(まぁむしろ親しみやすくていいけども)

 半天狗:怖い。怖いから命令は聞く。

 玉壺:無惨様のお気に入りだというので、『渾身の作品』を手土産に挨拶しに行ったら殺された。

 妓夫太郎:何故か、何も取り立てる気にならない。何故か、優しくしてくれる。対峙していると、なんだか自分が『らしくない』感情ばかり抱くので……苦手。なので最低限しか顔を見せない。

 梅:無惨様のお気に入りということで嫉妬していたが、兄共々なんか凄い評価してくれるので、絆された。……嫌いじゃない。


 オマケのオマケ2。

 恋雪:命の恩人。格好いいヒト──だと思っていたのだけれど、意外に可愛いところがあって、親しんでいる。

 茶々丸:…………一対一は、ちょっと、遠慮する。いや、嫌ではないんだが……。(抱きしめられてお腹に顔を埋めたり、ものすごい甘い声で『茶々丸くんはフワフワですねぇ』『可愛いですねぇ』と言われたり……は序の口な圧倒的キャラ崩壊が発生するため)
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