無惨の忠臣 作:十二茶柱
──産屋敷邸、庭園。
時は正午。臨時の柱合会議に招集された炎柱、岩柱、音柱、水柱、風柱の前で、胡蝶姉妹は一連の事件について報告していた。
「……以上です」
「……宇髄、どう思う」
「胡蝶姉の処遇について言ってんなら、
『……!』
餅は餅屋。情報戦は元忍の音柱、宇髄天元の領分だ。会議の
「──待ってください宇髄さん! カナエさんが会って話したその鬼、信用できるかもしれないッ」
「
「お? なんだなんだ、どうしてそう思った」
カナエの処遇に『待った』をかけたのは、
「……俺、下弦の壱と戦った時に
それで俺は、太刀筋をズラすしかなくて。でも下弦の壱は、子供ごと俺を殺そうとして──
────でもあの時、琵琶の音がして。次の瞬間には下弦の壱が死んでいました」
「……何だ、そりゃ? まさかテメェは、鬼が鬼狩りを助けたって言いたいのか? しかも敵側からすりゃ大駒に相当する、十二鬼月を切り捨ててまでよぉ」
「……証人もいます。俺の弟弟子で、一緒に下弦の壱と戦った奴が」
「あぁ、たしか不死川だったか? ……信用できねぇな。聞いた話じゃ胡蝶姉とソイツ、恋仲なんだろ?」
「なっ、違います! 不死川くんはそういう相手じゃないですから! ……まだ」
「派手に聞こえてんぞアホ。
……まぁいい。つーかだな、俺が問題視してんのはソコじゃねぇのよ」
『……え?』
「取り引きの内容自体は、十中八九騙されてるって想定した上でなら応じる価値はあると思った。だが、
『…………』
そう。琵琶鬼の血鬼術は
それに……。
「お館様は、毎日隊士の墓参りに足を運んでいらっしゃる。体調が良ければ、蝶屋敷へ見舞いに訪れることもあるって話じゃあねぇか。
──オイ、胡蝶カナエ。もしお館様が蝶屋敷にいらっしゃった時、そこを狙い撃たれたらどうするつもりだった? 『そんなことは起こらない』と派手に証明する手札があるんなら別だが……どうなんだ? えぇ?」
「……それを証明する手段は、ないわ」
「ならここで俺が派手に介錯をしてやろう──と、言いたいところだが……粂野の証言が本当なら、紫って鬼が鬼舞辻の敵対者だっつーのも
──そこで、だ。ここは公平に多数決で決めようじゃねぇか。
胡蝶姉を生かして取り引きに応じるべきか、極刑にして取り引きには応じないべきか」
「……音柱様。それ、私に投票権は」
「あるワケねぇだろ。最終的に決めるのはお館様だが、コレはその前に『柱』の総意を決めておくって話だ。柱じゃねぇお前は引っ込んでな」
「……待て。(被告の花柱に投票権は無いとして。投票するのは炎、岩、音、風の四人。多数決なら投票者を奇数にすべきだ。しかしあくまで水柱の『代理』でしかない、半分以上部外者の俺なぞに『姉の命運』を決められてしまっては、胡蝶妹も憤懣遣る方ないだろう。ならば)俺は投票権を放棄する。代わりに胡蝶妹が投票すればいい」
「えっ」
「あ゛ぁ !?」
「意地でも投票しろ、と言っても同じだ。俺は花柱の処刑に反対する。──これでいいか、胡蝶妹」
「ぇ、ぁ、はい……! ありがとうございます、水柱様!」
「俺も反対する。俺は、紫さんを信じてみたい」
「あぁそうかい。水柱と風柱は反対、と……だが俺は最初に言った通り、派手に責任を取ってもらいたいね」
「……俺は、天元に賛成だ。極刑はやり過ぎにしても、何かしらの処分は必要だろう。取り引きも、応じるべきではないと思う」
「さて、これで二対二。あとはアンタ次第だぜ、悲鳴嶼の旦那」
「……私は、胡蝶カナエの極刑に賛成する」
「──っっ!? 悲鳴嶼さん、どうしてッ!!」
「──カナエ」
恩人の無慈悲な言葉に、しのぶは悲鳴を上げた。
しかし行冥はそれに耳を貸さず、怒りに震える声で糾弾を始めた。
「お前個人が鬼と分かり合おうとするのは、いい。私には理解できない考えだが……命を尊ぶその姿勢には、私も敬意を払っていた……だがッ!」
行冥は鎖の音を響かせながら、鉄球を構えた。
反響定位──完全な戦闘態勢。
「ちょっ、待て旦那! まだお館様の意思を──」
「止めるな宇髄ッ、此奴は私が鬼殺隊に引き入れた。私が責任を持って首を落とす!!」
「悲鳴嶼さん待って! 仮に姉さんが騙されてたんだとしても、
「
「──ひッ」
鉄球が、カナエの横顔を掠めた。
──本気で殺す気の攻撃。
そして引き戻しの追撃が、彼女を再び襲うも……それは炎柱、煉獄槇寿郎の手で弾かれた。
「──行冥、やり過ぎだ」
「やめてください悲鳴嶼さんッ、柱同士で争ってどうするんですか!」
「…………退いてもらう……」
「……来い。年期の差を見せてやる」
「アンタも煽るな槇寿郎の旦那ッ」
「…………(これは俺も止めに入った方がいいのだろうか)」
一触即発。
この最悪な空気で真っ先に動いたのは、しのぶだった。
「あぁもうしょうがないッ、使いたくはなかったんだけど……!」
(姉さん、粂野さん、信じるからね!?)
暴発を抑えられないなら、爆発させてもいい場所で炸裂させればいい。
矛先は、向けてもいい相手に逸らせばいい。
しのぶは懐から
するとすぐさま琵琶の音が響き、日傘を持った女が縁側の日陰に出現した。
「──ふむ。真っ昼間に呼ぶとは何事かと思ったが……なるほどなるほど。大体状況は理解した。
オイ、鉄球の。我が同盟者の顔に傷を付けた不埒者はキサマで合っているな?」
「──話に聞いた琵琶の音……まさかしのぶ、鬼を呼んだのか!? この場所に……!」
「んーー? あぁ、
「戯言を……!」
──彼らは知らないことだが、当主の首であれば黒死牟が一度取っている。そして紫はその血を記憶し、血鬼術を用いて産屋敷家を発見。子供を作る前にと幼い当主を誘拐し、飼い殺しにしたことがある。
……が、駄目だった。その時の当主は幼いながらにもう跡継ぎを作っていて、普通に鬼殺隊を運営していた。紫はドン引いた。
なんなら攫った子供に『息子を殺しても、おそらく分家から当主を選ぶだけ』と言われ、更にどん引いた。流石に分家全てとなると、彼女も辿り切れない。
……なので紫は、本気で当主の首には興味が無かったりする。
「──さてカナエの妹子よ、とりあえずダルマにして格の違いをワカらせるが構わんな?」
「もうちょっと穏便にお願いできないかしら!?」
「冗談です。五体満足前提気絶までなら?」
「それでお願いっ」
「よしきた」
そして紫は、庭に出た。
「そら、好機だぞ? 妾を殺してみせろ、柱共」
*
「────芥川?」
槇寿郎の呟きは、誰にも聞き咎められなかった。
天元『胡蝶姉妹は迂闊過ぎるし旦那方は血気盛ん過ぎるし冨岡は何もしねえし! マトモなのはギリ粂野と俺だけかよ!!』
…………ガンバレ天元!!!
*
『あら、貴女も親に虐げられてきた娘なのね。
どうかしら、あなたも私の娘に──ッ』
『あぁスマンスマン。あまりにイイ眼だから近くで見たくてつい抉り取ってしまった。
──この眼に免じ、妾の上に立とうとした不敬は許すが……次は無い。これに懲りたら、愛する気もない養子なぞ取るでないぞ?』
『…………はい』
『──〝次は無い〟と、そう言ったろうに……