無惨の忠臣   作:十二茶柱

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実質的な終戦

 

 

『──もし、そこの貴方。炎のような髪の貴方。

 どうされたのですか? そのように暗い表情(かお)をして。私の舞はお気に召しませんでしたか?』

 

 

(音の呼吸、壱ノ型──)

(岩の呼吸、壱ノ型──)

 

「──待ッ」

 

 槇寿郎が制止するより早く、天元と行冥は紫に攻撃を始めた。もう止まれない。

 挟み討ちの形で、同時に型が放たれる。『音』を頼りに外界を把握し、中距離攻撃を主体とする二人は、即興にも関わらず完璧にタイミングを合わせていた。

 

(轟ッ!)

(蛇紋岩・双極ッ!)

 

 紫の立っていた位置を中心に、砂塵が舞う。余波だけでも、『柱』の名に恥じない迅速かつ高威力の攻撃があったと分かる挟撃。

 

 ──だが。

 

「ん……良い判断だ。この状況なら(くび)に固執せず、日光を遮る衣服と傘を狙った方が合理的故な」

 

『なッ──!』

 

 

  ──ホオオオオオ

 

 

「何を驚いている? ()()()()()()()()使()()()を見るのは初めてか?」

 

 ──健在。紫は何もなかったかのように、一歩も動かずそこに居た。

 

(呼吸術もそうだが、それより解らないのは……)

(避けられたんなら地味に解るがよぉ──)

(今の挟撃を()()()()? どうやって……)

 

「あぁいや、キサマらが気になっているのは()()()か? であればもう一度見せてやる故、刮目せよ」

 

((──来るかッ))

 

「──素流・空式。そら、防げよ?」

 

 軽い掛け声と共に、紫が拳を振るうと──天元の腹部に、『見えない何か』が叩き付けられた。続けて轟音が響く。

 

「ガッッ……!?」

(血鬼術、じゃあない。派手に太陽は出ている……! てこたぁ信じたくねぇが、今の『見えない何か』は……!)

 

「『防げ』と言ったろう愚か者め。この程度の速度で対処できなくなるなら、かの始祖には手も足も出んぞ?」

 

「宇髄……!」

(合流して、防御を堅め──)

 

「他人の心配をしている場合か? 最初(はじめ)に言った筈だな──妾の標的はキサマだぞ?」

 

距離を取れ(逃げろ)旦那ッ、コイツの攻撃は──!!」

 

 『()()()()()()()』と伝え切る前に、再度放たれる攻撃。全盲の行冥では、音より早く届くソレを認識できない。故に防げない。

 

 ──だが()は、それら全てを正しく認識し、完璧な対処をしてみせた。

 

 

  水の呼吸 拾壱ノ型 凪

 

 

「──()()()、な。そこから割って入っていまのを防ぐか。素直に驚いたぞ」

(速度が速いのではなく、動き出しが早い。そして豪快かつ流麗で無駄が無い型……完成された水の流派に先があったとは、思いませんでした。新しい舞の参考にもなりそうな……今が真昼でなければ脱帽して敬意を表するところです。血鬼術が使えないせいで因果を読めないのが残念でなりません)

 

「…………()()()()使()()()()()()お前に褒められても、イヤミにしか聞こえない」

「随分と卑屈なのだな──貴様、名は?」

「……冨岡義勇」

「そうか。では冨岡よ、どいてくれるか?」

「……力の誇示ならもう充分だろう、後は話し合いでいい筈だな」

「それはいかん。ソヤツはカナエを傷つけた。それも、乙女の顏にだ。まずはそれ相応の報復を。話はそれからだ。具体的に言うと骨の二、三本は覚悟してもらう」

 

「あ、あのッ! 私のことならもういいですから……!」

 

「…………ま、当人が許しているらしい故勘弁してやるが……」

 

「…………」

 

 

  ──ゴウゴウゴウン

 

 

「なァ、流石に()()であれば──容赦の必要もあるまいな?」

 

「……悲鳴嶼さん、もうやめましょう」

「これほどの強力な個体、今を逃せばもう討つ機会は無いだろう……それが何故解らない、粂野よ……」

 

「……鬼を滅してこその鬼殺隊。行冥、お前の気持ちは解るが……俺は前言を撤回する。鬼との取り引きなぞ言語道断、と思っていたが……彼女に関しては、信用していい」

「煉獄殿、何故……」

 

「……そうさな、ここまでにすべきだと思うぜ旦那」

「宇髄、お前まで……」

 

「旦那……悔しいが、俺達はもう負けたんだ。

 蝶屋敷と産屋敷邸、柱総員とお館様の命……コイツはそれら全てを潰せると、ここで証明してみせた。コイツが本気で敵だったなら、鬼殺隊はもうとっくに終わってる。

 ここで俺達を生かしておいて、鬼側の情報を流して、信用させて、それでやることが、鬼舞辻を殺す毒の作成依頼? それが鬼側にとって何の利益になる? 俺の読みでは信用を買って、鬼殺隊を一網打尽にできる状態を作ることが目的だと思ってたんだが……それはたった今違うと証明されたしな。

 つまり……コイツが敵だった場合の目的が、俺にはもう見えない。

 まぁそれはそれとして胡蝶姉妹はマジで迂闊過ぎだから派手に反省しろよ、いやホントに」

 

「あー……それなんだが、天元。カナエの名誉のために、一つ言っておかねばならんことがある……」

「あん? なんだよ」

 

「──鬼に蝶屋敷の座標を明かしたのは、おそらく俺だ」

 

「はぁっ!?」

 

「そうだろう、紫──いや、()()()()

 

「──そうですわね、()()()()

 

「なっ……どういうことだ……?」

 

「芥川は踊り子としての名だ。本名は紫の方である故、そちらで呼ぶように」

 

「いや『どういうこと』ってのは『どう呼べばいいか』ってことじゃなくてだな……」

 

「はぁ……端的に言うと、俺は十年ほど前に偶然人間に化けているソイツと遭遇し……鬼とは知らず親交を持ち……当時の同僚を、紹介したこともあった」

「オイオイオイ、それって」

「あぁ。紹介した中には、先代の花柱も含まれていた……」

「何やってんだよ旦那」

「仕方ないだろう……今もそうだが、日中でも平気な顔して踊り狂ってるんだぞ? コイツ……鬼だと気付けるワケがない」

「マジか」

 

 鬼が日傘一本で外を闊歩し、フェイスベール(暗幕帽)一つだけで舞を披露しているなぞ、誰が想定するのか。ふとした拍子に首筋へ日光が当たったらほぼ即死だというのに……肝が据わり過ぎている。

 

「そりゃ日中だろうが何だろうが、表に出る理由があるなら出るとも。それにあの時は、付きっきりで診る必要のある患者がいた故な……いつ病状が悪化して呼び出されてもいいよう、『人間の生活』に合わせていたのだ。──のぅ? 槇寿郎よ」

 

「……あぁ。芥川……紫は、当時病で床に伏せっていた俺の妻──瑠火の病気を治してくれた恩人だ」

 

「槇寿郎も言っていたが、アレは十年前のこと故……妾がこっそり人助けに励んでいたのは、少なくともそこな姉妹が鬼殺隊に入る前だと分かった筈だな。……流石に(わらべ)の時から鬼狩りなぞしてはおるまい?」

 

 ──実際の所、彼女は炎柱から鬼殺隊の情報を抜くために軽く接触しただけであり、瑠火の救命は半分打算であったが……もう半分は純粋に『真っ当な親子を引き裂かない』という彼女の信条があったから、というのも確かだ。『情けは人の為ならず』とはよく言ったものだ。

 

「…………分かった。武器を、納めよう……話し合いに、応じればいいのだな……?」

 

 

 この日を最後に、人喰い鬼の被害は──本当にあっさりと、一切消えて無くなったという…………。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()コソコソ噂話

 

 

「……これで良かったんですか? カナエさん」

 

「……はい。妹に絶縁状を叩き付けられてしまったのは悲しいですけど、鬼に食べられる悲劇の人はもういない。朝日を恐れる哀れな鬼はもういない。私はそれで充分です。

 珠世さんこそ、よかったんですか? 貴女も本気で毒を作っていたように見えたんですが」

 

「鬼舞辻が大勝利したことに、思うところはありますが……気持ちは貴女と同じですよ。

 ──これ以上、鬼の手で傷付く者がいなくなるなら……それでいいのです」

 




 
 本編は次回で完結。
 以降は『鬼と人の戦い』という大枠が終わった後の、個人個人が因果の精算をしていく話になります。(加えて黒死牟や累の過去)
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