一誠達が大変なその頃、俺はグレモリー邸で暮らしていた。暮らしていたと言っても、ただ修行に勉強を交互に繰り返すという単純な試験勉強なのだが、相手がグレイフィアさんなのでキツいったらありゃしない。冥界に連れ去られてもう何日経ったか・・・・・・でも、明日が試験当日なのはわかっている。日にちの感覚すら無いために、1日が一週間経ったんじゃねえのか? ぐらいにも思えてきていた。それくらいグレイフィアさんの試験勉強は過酷で、休む暇が全くない。流石はあのSの朱乃さんを真っ青にしたグレイフィアさんだ・・・・・・ついでに言うと、朱乃さんってMまで混ざってるんだよな。それを真っ青って、人間の時に俺がよくついてこられたものだ。
そして今日のメニューは筆記試験の勉強・・・・・・冥界の言葉とか、いろいろ覚えなくてはいけないらしいけど、俺はそれを一日で終えた。・・・・・・いや、だってあの老害共が問題の全部を冥界の文字で出してきたら、流石に答えられないでしょ? その保険として、1日で冥界の文字を頭に叩き込まれたのだが、案外スラスラと入った。あんなもの、楽譜と思えば簡単だ。グレイフィアさんは俺が1日で冥界の文字を、言葉を覚えたことに感激し、泣いていたけど・・・・・・。
「桜歌、そろそろおさらいをしますよ。ミリキャスに負けては恥ですよ、恥」
「グレイフィアさん、俺は何でミリキャスと比べられてるんですか・・・・・・」
「その方がやる気も出るかと思いまして・・・・・・あっ、やっぱり男の子には女の子の体が一番です。それならいのりに頼んで、ご褒美を用意して───」
「今すぐやりますからそれはやめて下さい!」
何時の間にか帰ってきたグレイフィアさんは、俺とミリキャスを比べてやる気を出させようとするのだが、言い返すと何故か女の子の裸の話題を出されてしまった。ミリキャスもこの部屋にいるのに恐ろしいと思えるのは、俺だけだろうか? それとも、筆記に保健体育でも入っているのか?
確かにいのりが好きだが、そんな目的のために本気を出したくない。・・・・・・それで本気を出したらまるで、一誠と同レベルの獣じゃないか。いのりに変態と勘違いされることは、何があってもあってはいけない。
「では、大戦の話や"死神の殺戮鬼"など、おさらいを始めましょうか。これは冥界の常識ですので、
必須項目なのですよ」
「わかってますって。確か、堕天使の幹部の名前とか、その殺戮鬼が何をしたか知っておかなければいけないんでしょう? 筆記試験でそれが出たら、困りますからね」
堕天使アザゼル・・・・・・堕天使総督
堕天使コカビエル・・・・・・幹部で、大戦を生き抜いた輩
その他諸々など・・・・・・。
そんな風にグレイフィアさんが説明していき、俺とミリキャスが答えるという授業が続いた。基本は俺の試験勉強なのだが、ミリキャスも冥界のことは勉強させられているので、復習を兼ねて一緒にやっているが、正直に言うとミリキャスに負けたくない。
張り合う気はないが、負けたら恥だ。転生悪魔と言っても、やっぱり年の差からすると負けてはいけないことだと思う。
そして問題の"死神の殺戮鬼"・・・・・・こいつは人間をあっちで大量に殺し、さらには出会ったものを全て切り刻むという人間らしい。冥界の中で有名なのが、堕天使と悪魔、さらにはエクソシストもいる戦場で、無双をやってのけたらしい。しかも、当時は12歳の子供だったという・・・・・・。
「これで全部がわかりましたね。桜歌、これで試験はバッチリです。・・・・・・が、戦闘の方もまた鍛えないといけませんね。少しずつですが、強くなっています。私を越えるのは時間の問題・・・・・・あなたならどんな相手でも、音楽さえあれば、簡単に倒しますからね。まあ、例外もいますが」
グレイフィアさんはそう言って、筆記試験の勉強を切り上げようとした。だが、そこでミリキャスから気になる言葉が放たれた。
「お母様、"死神の殺戮鬼"のお話はしたのに、"ロストクリスマス"のお話はしないのですか? あのお話は"死神の殺戮鬼"に並ぶくらい絶対に重要な話だと、僕に勉強を教えてくれる方々に聞きましたけど・・・・・・?」
「・・・・・・」
子供の無邪気さだろうか・・・・・・。グレイフィアさんが話したがらない事を、簡単に口に出すと言うところは。それに対して、グレイフィアさんはまるで聞かれちゃ不味いことを黙っているようにも見える。実際、何かがあるのだろう。
表と裏・・・・・・それは光と闇、正義と悪、貴族と奴隷のような関係。グレイフィアさんは何時もの無表情なポーカーフェイスが、若干崩れている。まるでそんな話をするか迷っているかのように、グレイフィアさんの心臓の音が聞こえてきた。
迷い、苦しみ、悲しみ、他にもいろいろと感じ取れるが、グレイフィアさんは口を開かない。ミリキャスはやっぱり訳がわからないのか、頭に"?マーク"を浮かべて、自分の親であるグレイフィアさんを見ている。
「"ロストクリスマス"って何ですか?」
「お兄様は知らないんですか? なら、僕が教えて上げます!」
俺がそう聞くと、ミリキャスが嬉しそうに教えようとしてきてくれる。グレイフィアさんはそこで踏ん切りをつけたのか、ミリキャスの頭に手を置いた。
「ミリキャス、悪いけどお母さんが話します。・・・・・・あの話は、表と裏があるのであなたには話せないことなどありますから・・・・・・」
グレイフィアさんはミリキャスの頭を撫でながらそう呟くと、『いのりには悪いですね。約束を破ることになってしまって』と言って、話し始めた。
「"ロストクリスマス"は、2回起こりました・・・・・・。まずは一回目。表の話からしましょう───
───約10年前、1人の幼い少女が踊りました。それは美しい舞いで、見るものみんなを惑わさせる魅惑の踊り・・・・・・その少女は、双子でした。片方は歌を・・・もう1人は踊りを・・・両方とも綺麗で、どんな悪魔も惚れるくらい綺麗だった・・・・・・。そんなある時、踊る女の子の方はある男の子に好かれてました。異性として好かれていたけど、その女の子には違う好きな人がいました。だから、男の子は恵まれなかった。何度も告白を繰り返して、何度も玉砕。それでも、男の子は諦めなかった。そして数日後に女の子は様子がおかしくなりました。その様子がおかしくなった女の子は、戦場で踊りを舞って世界を消そうとした。それは大量の悪魔と堕天使、教会の人間を消すだけで被害は収まりました。その少女は結晶となり、男の子はどこかに消えた───
───これが、第一の"ロストクリスマス"です・・・・・・」
悲しそうな表情で、グレイフィアさんは口をまた閉じた。確かに悲しい話だが、その少女の名前も男の子の名前もわからない。それに、少女がどうなったのか───明らかに、何かを隠しているような話だと思う。一般の御伽噺・・・・・・そんな印象を受ける。
これが表だと言うことは、裏はもっと明確なのだろう。それも俺に話したくないような内容で、いのりが隠すような内容・・・・・・でも、いのりに姉妹なんて聞いたことがないな。親は『戦争で死んだ』
と聞かされただけだし。
「次に、第二の"ロストクリスマス"です。これは第一の続き・・・・・・続編だと思って下さい───
───約4年前、踊りを舞った少女の封印が解けました・・・・・・その少女は上層部の決定で封印されていた危険分子です。ですが、それは何者かによって簡単に外された。その少女はまた出られたことに驚きました。・・・・・・外の空気、愛する人にまた会えると・・・・・・でも、その頃は凄くキケンな年で悪魔も堕天使も天使も、"死神の殺戮鬼"によって数を減らされていた。その事に少女は喜び、また愛する人に会えること意外は考えてなかった。今回こそは、その愛する人に愛して欲しいと願いながら人間界に行った。でも・・・・・・帰ってきたとき、少女はまた様子がおかしくなった。6年前と同じように今度は・・・・・・今度こそは世界を消すと。そして、また舞いを踊りました。そこら中には結晶が生えており、後に"失われた聖夜と結晶の森"と呼ばれる場所で踊りました。最初に踊った場所と同じ場所で世界を変えようとしました。ですが、今度は2匹の"名前の無い怪物"の戦いで幕を閉じてしまい、少女の願いは達成されませんでした。・・・・・・またも悪魔と堕天使と天使の被害が大きかっただけで、事は大事にいたらずに済んだのです───
───これが第二の"ロストクリスマス"です・・・・・・」
またおかしな話だ。何かがおかしい・・・・・・やっぱり名前は出ないで、御伽噺扱い・・・・・・。相当知られたら不味い内容か、伝説級の話。聖書に記されるような、そんな話だ。
グレイフィアさんの辛そうな顔は深くなり、ミリキャスまで心配し始めた。変化は少ないが、何時ものグレイフィアさんじゃないことはわかる。だが、表だけじゃこの話の内容の全体像がわからないのだ。
「裏の話はどうなんですか?」
「・・・・・・後悔しませんか?」
「するわけ無いでしょ。俺は知りたいんです。何が何でも、その話は気になります。グレイフィアさんがそこまで辛そうにするのは、初めて見ましたから」
「そうですか・・・・・・あなたなら大丈夫だと思います。では、話を続けましょうか・・・・・・もしあなた方が嫌いになったとしても、私はあの娘を愛しますから・・・・・・」
悲しそうな目で深呼吸をするグレイフィアさん。ミリキャスも裏の話ということに興味深々で、俺とはちょっと違う感情だということはわかった。
そして、グレイフィアさんは話し始める・・・・・・。
「此処からは裏の話です・・・・・・桜歌には黙っていて欲しいと言われた内容です───
───約10年前、2人の少女がいました・・・・・・1人は踊り・・・もう1人は歌・・・・・・その少女達の名前は、姉がマナ・アンドロマリウス。妹がいのり・アンドロマリウス。姉は踊りを、妹は歌を唄う素敵な姉妹。仲が良かった・・・・・・そして、マナを好きだったのはトリトン・ウァレフォル。純血悪魔である家の次期当主でした。でも、マナは好きな人がいるようで恵まれなかった。トリトンはその強い立場で、純血同士の結婚を望もマナに何度もフられました。余程それが堪えたのか、マナは親同士の取り決めで結婚が決められたある日に世界を滅ぼそうとした・・・・・・そして舞を踊った場所に結晶が生えて来て後に"失われた聖夜と結晶の森"と呼ばれるところで大量の3大勢力を結晶にし、世界を滅ぼす寸前で封印されました。それと同時に、トリトンも消えたのです───
───これが裏の話の第一の"ロストクリスマス"です・・・・・・」
ミリキャスはぼーっとしており、さっきの話との違いを探しているのか、また頭に"?マーク"を浮かべてぼーっとしている。
グレイフィアさんは顔を伏せ、ただ顔を見られないようにしていた。・・・・・・要するに、いのりの姉が起こした事件・・・・・・これを知られたく無かったということだろう。
それに、真名はマナだと言うこと・・・・・・聞いているんだろ? 真名。
『正解。あの事件は私が起こしたの。でも、それだけじゃ不正解よ・・・・・・答えは全部見つけてね。それがあなたの償いなんだから・・・・・・』
真名はそう言い、喋らなくなった。この話には真名が起こした理由が憶測でしか語られていないと言うこと、真実を知るものは誰もいない。・・・・・・真名以外は。もしかしたら、いのりが理由を知っているかもしれないけれど、教えてくれないだろう。・・・・・・いや、真名が話したとも考えられないと思う。
「グレイフィアさん、次はどうなったんですか?」
「そうですね。次は最初より簡単で・・・・・・複雑です。此処まで話しましたし、話しましょう───
───約4年前、マナに施された封印は解かれました。何者かの手によって、上層部が取り決めて付けられた封印が簡単に解かれたのです。今もその犯人はわかっていません。その年は表でも話したように"死神の殺戮鬼"がいました。その所為で、封印が解かれたことの発見が遅れました。もしかすると、それを狙ったのでしょう。・・・・・・マナは自分の名前を"真名"として改めました。愛する人に会うため、また人間界に行った。その愛する人は、誰だか何処の勢力も掴めませんでした。愛する人を人質に捕られるのを怖れたのでしょう。それだけ、アンドロマリウス家の力は強大です。そうして帰ってきたときには、また様子がおかしくなった。始まりの場所でまた世界を壊そうとしましたが、
次は妹のいのりが止めに来ました。その近くには3大勢力の討伐隊が・・・・・・自分で止めれば、姉も消えずに済むと思ったのでしょう。ですが、3大勢力の到着と同時にある"異質な怪物"が現れた。それがあの"失われた聖夜と結晶の森"に現れた。"ロストクリスマス"の"名前の無い怪物"。その正体は真名といのりです。姉妹喧嘩と言うべきでしょう。いのりは姉を止めるため、真名は世界を滅ぼすために戦いました。そしてそこに介入してきた悪魔に堕天使と天使は全滅。残ったのは、再度封印された真名と傷ついたいのりだけです───
───これが第二の"ロストクリスマス"の正体です」
グレイフィアさんは口を閉じ、俺は考えた。やっぱり真名がこれを起こした理由がわからない。確かに結婚話は嫌だったんだろう。でも、いろいろと仮説くらいあるはずだ。
「グレイフィアさん、何で"ロストクリスマス"何ですか? それに、真名が起こした理由もわかっていないんですか?」
「はい。何故"ロストクリスマス"が"ロストクリスマス"と呼ばれているかですね? それはその日がクリスマスであったから、ですね。そして真名が"ロストクリスマス"を起こした理由としては、複数考えられています。『結婚が嫌だった』『戦争が嫌だった』これらが主な理由だと推測されていますが、そのおかげで戦争も冷戦状態ですね」
情報不足・・・・・・もしかしたら、そのトリトンに会えばわかるかもしれない。俺はそう考え、ただ鉛筆をぼーっとしながら見る。
「それでは、次は実技の試験勉強でもしましょうか」
グレイフィアさんのその言葉で、俺はまた試験勉強に取りかかるのだった。
ちょっと改変したロストクリスマスのお話・・・・・・。
頑張って溶け込ませようとしました。
ロストクリスマス、大好きですからね。特に言葉が。
最初は綾瀬達の話も入れるつもりだったんだけど・・・・・・
そのうち過去でもやるか・・・・・・。