その日、俺は憂鬱だった。サーゼクスさんから告げられた、真名の抹殺、もしくは消去は俺といのりにとっては動揺を隠せないものとなった。一誠と祭にとっては、頭に"?マーク"を浮かべるほどのよくわからない話だったが、つい一誠を殴ってしまった。
あの馬鹿、俺を手伝うとか言ってきやがったのだ。俺の心情も、いのりの心情も知らずにあいつは真名を消すのを手伝う、と・・・・・・。
一誠が悪くないのはわかってるし、俺もつい熱くなりすぎたってのもわかってる。木場と白音は俺の心情を呼んだのか、何も言ってこなかった。
祭も俺の為なら何でも手伝うとか言いそうだが、俺が一誠を殴ったことで口を閉ざした。もし、祭が同じ事を言ったのであれば手を上げていたかもしれない。でも、今は一誠の馬鹿さ加減に感謝している。祭に手を上げずに、済んだから・・・・・・。
そう言えば、あの後はサーゼクスさんとグレイフィアさんに"悪魔の駒"を渡された。俺がもう上級悪魔になるのは確信しているのだろう。筆記も、実力も折り紙付きの結果。それに、コカビエルを倒したのだからと言う理由で、もう渡してきた。
───本当に、祭に手を上げてたらどうなってた? 俺は罪悪感に押し潰され、祭に謝っても自分を許しきれなくなっていただろうか? 本当に手を上げたら、綾瀬にも俺はビンタの一発でも綾瀬から受けていただろうし、取り返しも付かなかっただろう。
それに、やはり姉妹なのか、いのりの動揺の方が大きかった。俺にとっても真名は"大切な存在"であるから、俺も同様に動揺している。いのり程じゃないにしろ、俺も同じく"世界が嫌っても、自分にとっては一つの大切な存在"と認識しているのだろう。
俺は絶対に真名を殺せないし、ヴォイドを壊すことも出来ない。これは俺が建てた誓いであるのだが、皆にも言っていない誓い───預けられた
「桜歌・・・どうしたの・・・?」
そんな声が、突然、俺の耳元で聞こえてきた。それは優しい声で、気遣うような声で、誰もが聞き惚れるであろう声・・・・・・いのりだ。
「何でもない。いのり、これは俺が拒否すると・・・・・・確実に他の人がやるよな・・・」
「・・・・・・うん。でも、無理しなくて良い。桜歌には上級悪魔になって欲しいけど、迷うのだったら止めた方がいい。また、次の機会がある・・・よ?」
いのりは何時もより低い声音で、そう答える。やっぱり、真名の抹殺を聞いて動揺してるのか、いつも通りじゃない。
だけど、今はデート中。俺が動揺しているいのりを連れ出したのだが、こっちも動揺中なのでたいして楽しいわけでもない。
───平常だったら、楽しいのに・・・・・・。
なんて思うが、楽しい気分にはなれない。真名も俺が見ている光景を見ているのであれば、自分の討伐指令を知ったのであれば、どう思ってるのだろうか? 今も話しかけてこないし、さっきから呼びかけても全然応えてくれない。
まあ、それは置いといて、現在はゲームセンター。二人して仕方無く、何となく此処に来たのだが何をするわけでもなく、ただゲームセンターでガンサバイバルのゲームをやっている。
「"ロストクリスマス"って、何か悪いことなのか?」
「・・・わからない。でも、桜歌は何時も真っ直ぐ・・・最初に会ったときは、変だったけど」
たわいもない会話をして、俺といのりはゲームを進めていく。原点的には、"ロストクリスマス"が何で悪いのかと言う結論に辿り着いた訳だが、俺も悪いはず。トリトンとか、俺を憎むほどに俺が悪いと言ってきたし・・・・・・別に、あいつの考えに汚染された訳じゃない。が、俺が悪いのは幼少期とかの記憶が無いこと。まあ、音楽の記憶以外がすっぽりと抜けているんだが・・・・・・。
「変、か・・・・・・大抵の大物とかはそうじゃない?」
「どう・・・? 変? 何で・・・?」
俺がそう言うと、いのりは不思議そうな顔でゲーム内の怪物にヘッドショットを見ずに決め、俺の方をみた。流石に、ゲーム内の敵を見ずにって、どうかと思う。
だが、変人には心当たりが多い。───まず、コカビエルと"死神の殺戮鬼"だが戦闘狂だろ。トリトンは重度の依存症。サーゼクスさんとセラフォルーさんは、シスコン。上層部は頭が固い堅物パラダイス状態だし。それに、"熾天使"であるガブリエルさんも何か抜けてる。
ほら、大物は皆可笑しい。いのりだって感情が少し薄いし、俺も怒りという部分が少しだけ抜けているところがある。と言うことは、一誠はそのうち大物に・・・・・・いや、もう既に赤龍帝だし大物の変態だったな。
「考えて見て、いのり。魔王や堕天使にまともな奴はいたか?」
「いない」
即答だった。いのりもいのりで、何処か思うところがあるよう。
そして、ガンサバイバルのクリアという文字が液晶に表示される。俺は銃のコントローラーを規定の位置に戻し、いのりも同じように戻す。
俺といのりはゲームセンターを出て、帰宅するのだった。
それから数分後、俺といのりはデートを終えて家に帰ってきた。時刻は4時くらいで、帰るには今だに早い時間だが、街が人だらけなのも嫌だ。
リビングに入ると、何時も通りに祭が夕食の準備を。ソファーでは黒歌がごろごろとして、猫のように尻尾を揺らしている。しかも、着物ははだけて胸元がチラチラと・・・・・・。レイナーレはレイヴェルと一緒に勉強をしており、何故か宿題中。
そして驚いたのが、大雲さんに綾瀬に愛歌、ツグミとアルゴまでが家にいた。こいつらも同様に大雲さんの監視の元、宿題中。
「「ただいま」」
「お帰りなさいませ、いのりお嬢様」
「いのり、桜歌・・・おかえりー」
大雲さんとツグミが返事をして、俺といのりを見る。が、アルゴ達はそんな暇もないのか宿題を目の前に奮闘中だ。
「これは・・・・・・」
「・・・・・・?」
何処から突っ込んでいいかわからない俺といのりは、少しの間フリーズする。誰が見たって、いきなり家の中に大量の人がいたらビックリだろう。
「お帰りにゃ、桜歌・・・・・・ところで、あれをくれないかにゃ?」
「あれ? あれって、何?」
俺は黒歌の意図がわからず、沈黙する。誰もが俺と黒歌を見て、疑問を浮かべているが、俺もわからないのでソファーに座りながら黒歌の頭を撫でた。
「あれを、私の中に入れて欲しいの。もう待ちきれないのにゃ」
黒歌のこの言葉に、綾瀬とツグミに愛歌、祭とレイヴェル、レイナーレが反応した。みんな顔を真っ赤にして、俺と黒歌を見る。
「あ、あ、あれって此処で何をする気なの桜歌!」
「変態! 勉強中何だから、せめて部屋でヤってきなさいよ!」
「あ、あああ、あれってつまりあれですね! 私は体験したことありませんが、所謂金の延べ棒とかそう言うものですね!」
「ま、まだ私はやってもらってないのに・・・・・・私なら、何時でも・・・・・・」
「あれって、あれですわよね・・・・・・お兄様が眷属とやっていた・・・・・・」
「ひっく・・・・・・うぅ・・・・・・私じゃ出したり無かったんですか・・・・・・?」
とそれぞれに、何か誤解を招いている。レイナーレにいたっては、お腹のあたりを抑えて少し不満そうにしているが・・・・・・。ついでに、ライザー。やるのなら、妹が気付かないとこでしないと何時の間に妹に見られてるかわからないぞ。
「アルゴ・・・・・・」
「なんだ? 邪魔なら、出て行くぜ?」
「私も無論、綾瀬達の邪魔をする気はない」
此処に理解者は1人もいなかった・・・・・・。
──────
それから数時間後、夕食は完成した。なんとか誤解を解こうにも、黒歌はあのまま悪乗りするタイプなので相当時間がかかったが、胸を揉むことで黙らせた。その際に、更にみんなが顔を真っ赤にして、アルゴと大雲さんは俺の部屋に避難していたが。
そして、今はみんなで夕食を食べている。大量の料理がテーブルの上に並び、皆それぞれに好きなものを好きなだけ取り、席で好きに食べている。
「ところで、何で綾瀬達が居るんだ?」
俺がそんな質問をぶつけ、綾瀬とツグミ、アルゴは顔を見合わせ、愛歌はただ、初めて食べるであろう料理に目を輝かせている。
そこで、大雲さんが口を開く。
「それはだな、綾瀬達がいのりお嬢様の眷属になりたいそうだ。だから、今日は連れてきた」
「そうにゃ、忘れたけど、私は桜歌の眷属になりたいの。もう悪魔の駒は貰ったんでしょ? なら話は早いのにゃ。今すぐ、私を眷属にして欲しいのにゃ」
眷属。すっかり忘れてたが、悪魔の駒って眷属作るためのものだった。俺が駒を持っている事を黒歌が聞いていることには驚きだが、あの時に黒歌って居たっけ?
「まあ、いいか。黒歌は使い魔だし、距離が変わることはないだろ。ほら、えっと・・・・・・兎に角、黒歌は眷属になってもいいよ」
「ありがとう。これで私は桜歌の眷属、第一号だにゃ」
俺が悪魔の駒の中の、僧侶の駒を投げると、黒歌の中に入っていった。これで儀式は完了で、俺も晴れて眷属持ちの悪魔だ。
呪文があったかどうかも忘れたため、適当に投げたが黒歌は満足そう。さっきの騒動の原因が悪魔の駒って、何か複雑だ。
「・・・綾瀬・・・? と、アルゴとツグミはそれで良いの? 桜歌も眷属を持てるし、桜歌に仕えたいと思うんだけど・・・?」
「いや、俺は大雲さんと一緒だぜ。恩もあるし、それに桜歌と一緒に戦えるしな」
「私も、桜歌と一緒に戦えるし、大雲さんやみんなには迷惑かけたから・・・・・・」
「私も、桜歌の眷属になってもいいと思ったけど、やっぱりくもっちには借りがあるからね!」
いのりの質問に、アルゴ、綾瀬、ツグミが順番に答えた。まず、俺は王としてやっていくつもりもないし、結果的には良かっただろう。それに、下手にリアス先輩の眷属といのりの眷属に別れるよりは、こっちの方がいい。
「いのり、どうするの?」
「別に、駒は桜歌だけで十分だから適当に使う・・・。それに、離すのも可哀想・・・」
俺の質問に、いのりは適当に駒を取り出して答える。駒の使い道なんてどうでもいいようで、3人の前に適当に駒を置いた。
それを、綾瀬達は躊躇なく、自分の手にし、その駒がそれぞれに入っていく。これでみんなは晴れて悪魔で、人間なんて1人も残っちゃいない。
そんなとき、レイナーレが小さな震える声で泣きそうになりながらも、こっちに視線を飛ばしてきた。黒歌を羨ましそうに見て、俺に視線を向ける。
「・・・・・・いいな・・・・・・私だけ仲間外れです・・・・・・」
「じゃあ、レイナーレも悪魔になる? 駒ならあげるけど?」
「いいんですか!?」
小さく呟いた声は俺に聞こえており、それに対して俺が答えると、レイナーレは最初の声より大きな声で俺に抱きついてきた。
悪魔の駒で、兵士の駒を取り出した俺はそれをレイナーレに近づけ、入れる。
レイナーレは喜び、俺は元気になったレイナーレに抱きつかれる始末。その後、悪魔になったお祝いとして、宴会のようなものが3時間ほど続いた。
時刻は夜の11時くらい・・・・・・そんな中、俺は1人で公園に向かってあるいていた。街灯は所々照らし出し、道をギリギリ人が見える程度に、明かりを放っている。
今日はアルゴと大雲さんだけが、家に帰って行った。あの宴会の後、綾瀬とツグミは此処に住まわせれば良いじゃないかという話になり、二人は明日に荷物を取りに行く予定。それに対してアルゴと大雲さんは、今まで通りにあっちの家に住むらしい。何でも、俺と他の女の子の邪魔をしたくないそうだ。
と言うか、男女で同じ屋根の下に居るわけにはいかないという。それを言ったら俺もなのだが、皆は俺に見られるなら本望だと言って、詰め寄ってきた。
確かに、サーゼクスさんとかは転移してバッタリ鉢合わせするからな。それに、レイヴェルも恥ずかしがって、あの時は抱きついてきたし。常識人とは、アルゴと大雲さんの事を言うのだろう。
大雲さん曰く、愛してるなら見られても責任を取れるとの事らしいが、もう既に結構な数の女の子を俺は抱え込んでいる。
いのりに祭、レイヴェルにレイナーレ、黒歌にそのうち白音。で、後は綾瀬にツグミにとこれで合計は八人。
一誠の夢であるハーレムを何時の間にか作ってるわけで、俺もあまり人を好きにはなれても嫌いにはなれない性格で。もちろん、好意を持った人には責任を・・・・・・。
それで、今も俺は向かっている先には女の子が居るわけだが、宴会の後に俺は電話で呼び出されたのだ。『夜分遅くに申し訳ありません。桜歌様、もし時間があれば、今から待ちますのであの公園に1人で来て下さい』と言われて、電話を切られた。
俺は公園内を歩き、その少女を探す。───すると、ブランコに乗る栗毛のツインテールが月明かりに照らし出されているのが見えた。その服は何時かの白いローブで、綺麗な脚をその白いローブからだして、座っている。
近づき、俺は目の前に座った。少女は驚いたような顔で俺を見上げ、満面の笑みになるとすぐに俺の名前を呼ぶ。
「桜歌様! 来てくれたんですか!?」
「イリナ、こんばんは。久しぶりだね・・・・・・と言っても、そこまで経ってないけど」
その少女はイリナ。ブランコから勢い良く立ち上がり、その際に何時か見たであろう黒い戦闘服がローブの下から見えた。
だが、俺がまた座らせると、ローブを着直す。
「それで、こんな時間にどうしたの? あっちに帰ったんじゃなかったの?」
「それがね、実は・・・・・・」
イリナは落ち込みながらも、事細かく話し出した。教会に聖剣を持ち帰ったところ、何時も通りに報告をしたこと。それと同時に、神の不在の真偽を問いただしたこと。それが原因で、教会から追放されたこと。ゼノヴィアも、同じくこの地に来たこと。そして、一番に重要なのが一文無しという危機的な状況と言うこと。
それを話し終えたイリナは、少しの沈黙と静寂・・・・・・そして、俺を恥ずかしそうな目で見た。上目遣いで、泣きそうな目で、俺を見る。
「桜歌様って、いのり様が好きなんですよね・・・・・・?」
「そうだよ? レイナーレも好きだし、レイヴェルも好き。祭も好きだし、綾瀬も好き。何故だか悪魔になったせいか、そういう欲が今まで無かったのに強くなってきて。可愛いものを愛でるという性格が、何か変な方向に暴走してるんだよ・・・・・・」
俺はイリナの質問に答えながら、自分の現状に落ち込む。他の人を悲しませたくないという精神からか、俺の思考はこうなっていて。最早、止まらない。全員を殺すと言われたら、その中で誰か1人を助けてやるといわれたら、確実に自分が死んでも助けるだろう。全員を、選んでそれこそその身を犠牲にして。
「その・・・・・・桜歌様って、試験はどうなったんですか? 上級悪魔になると、悪魔の駒を貰えると聞いたんですが、その・・・・・・」
「ああ、持ってるよ。さっき、黒歌とレイナーレが眷属になったかな?」
イリナは遠慮がちに聞いてきて、俺を見つめる。俺の感が正しければ、イリナもレイナーレと同じように俺の眷属になりたいのだろう。それに、レイナーレと共通点を考えると、イリナも俺のライブとか見に来てくれるファンらしいし・・・・・・。
「──で、イリナはどうするんだ?」
「私は・・・・・・その・・・・・・桜歌様の側に、居たいかな~なんて・・・・・・ダメですか?」
涙目で頼み込んでくるイリナは、頬を赤くしながらも最後まで言い切った。正直に言うと、一文無しの女の子を放ってはおけないし、こんな何も無いところで野宿するなんて酷だろう。何か間違いさえあれば、そこら変の不良が襲ってくる訳だし。
イリナに自分で最後まで言わせる俺は何か・・・・・・意志の最終確認だ。多分、苛めている訳でもないし、弄っている訳でもない。ただ、可愛いからと言う理由では動いてない筈・・・・・・いや、こんな可愛い娘を放って置いて、危険に曝すというのも俺が嫌なだけか。
「じゃあ、騎士の駒でいいか? イリナは剣士のタイプだし、スピードタイプだし」
「はい! 喜んで!! 桜歌様の為なら、この身をいくらでも捧げます!!」
俺は大きな声で誓いを建てるイリナに、騎士の駒を一つだけ近づけた。それは簡単にイリナの中に入り、気配を悪魔のものに変える。
「ところで、俺って君にはどう見える?」
唐突な質問に、イリナはきょとんとして、俺の目を・・・・・・綺麗な瞳でこう言った。
「何時も真っ直ぐで、凄く素敵! 何時も誰かのために、自分を犠牲にしてでも助ける桜歌様は素敵な御主人様だよ♪」
その言葉で、俺は思い出した・・・・・・昼間に言われた、いのりの『桜歌は何時も真っ直ぐ』という言葉を、心の中で何度も響かせる。
思い返せば、何時もそうだ。
白音の時───俺はサーゼクスさんに相談もなしに、ファンとデモ行進をした。
レイナーレの時───俺は誰も聞かない声を、ただ1人で聞いた。
レイヴェルの時───理不尽な押しつけをする上層部から、いのりを取り返すため、レイヴェルの手を引っ張るために結婚式場に乗り込んだ。
───ただ、今日は特別、何時もと状況が違って混乱した。
───いのりの動揺を見て、一緒に動揺してしまった。
───今まで選択肢は無かったから、自分で作っていたことを忘れていた。
───何も、決められたレールの上を歩くだけじゃない、無いなら作ればいいんだ───
ハッハッハ・・・・・・パーティー行けなかったよ。
今頃だけど、ヘルキャットって書くこと無いよね・・・・・・。
気づいたら、過去に助けちゃってるし・・・・・・。