───約十年前───
私の名前はマナ・アンドロマリウス・・・・・・アンドロマリウス家の次期当主だ。現在は13歳の私が気にしていることは、好きな人にどう思いを伝えるか・・・・・・でも、その人は人間で私を受け入れてくれるかどうかはわからない。私は悪魔で、彼は人間。それに、妹だって無理だと言ってたんだけど、せめて応援してくれても良いじゃない。
毎日の楽しみは、その彼に空いた時間で会うこと。私には次期当主として・・・・・・ううん、貴族としての勉強が、英才教育がある。もちろん、いのりも勉強させられているのだが、私といのりは歌うとか踊るとか、そうやっているときが一番好き。
───訂正、彼を見ているのが一番好き
なのだが、私には五月蝿い付きまとってくる奴がいる。名をトリトン・・・・・・この先は言いにくくて忘れたけど、確か結構えらい家系だ。
まあ、それはおいといて彼とは誰かって? そんなの、愛しのカッコイい桜歌に決まってるじゃない! ・・・・・・あっ、わかんないかごめん・・・・・・。
じゃあ、話す! 聞かないって言っても、聞かせるけどね!
何時の日かの休日・・・・・・私は、家族で人間界に遊びに来ていた。お父さんはレーティングゲームの最弱を誇る馬鹿。お母さんは綺麗だけど、残念な父よりも強い・・・・・・しかも、何時もお父さんを尻に敷いてるから家族の権力もあれだ・・・・・・うん、女性最強! いのりは脳天気? と言うか、ぼんやりとしているために何考えているかわかんない。
そんな家族四人で、何の観光スポットも無い駒王町だっけ? 兎に角、面白くもない普通の街に私達は旅行しに来た。
周りは大して珍しげもない物が売っていて、本当に退屈。
日本の良さに触れたと聞いたけど、何処の外国人だよ・・・・・・とか思ったのは仕方ないと思う。それに、親は何を考えたか私の名前を真名と漢字で書いた。いのりのはと聞いたけど、思いつかないから思いついたらでいいんじゃない? と返してきた。
「マナ・・・・・・」
「どうしたの、いのり?」
「楽しい・・・?」
「いや、ぜんっぜん!」
妹であるいのりに対しても、この反応・・・・・・でも、いのりは怒らない。
「私も・・・面白くない。歌ってた方が・・・いい」
「だよね!」
姉妹共にこの反応・・・・・・仲がいいとか言われるだろうけど、体験してみたらわかる・・・・・・本当にどれだけ暇かということを。
ついでに言うと、親は街でショッピング・・・・・・ではなく、デート中。私達だけでも安心だと判断したのか、夫婦でいそいそと出て行った。
仕方ない、私もこんなとこに閉じこもるのもいや。
──ということで
「いのり、私はちょっと出てくるね」
「うん・・・私はカラオケ? してる・・・」
正直に言うとこの旅館? なんか変・・・・・・例えば、この旅館は部屋が防音だったり、他の客とか店員さんが嫌らしい目で私といのりを見てきたり・・・・・・。
今まで美しいとか、綺麗だとか、可愛いだとかそんな目で見られたことはある。だけど、そんな目で見られたときには違う、嫌らしい目とかはっきりわかった。年は13歳でも、それなりの警戒心は持つのが私だもん。
さらに言うと、いのりを1人にするのは気が引ける・・・・・・でも、何も起こらないしただの勘違いと思った私は1人で部屋を出た。
───移動中───
それから数分後、私は独りでに旅館の外。まあ、民家に近い何かから出て1人で駒王の街を見学というか、探索。それをしに、外に出て来た。親が不在の中で、堕天使に遭遇したらどうするんだと思ったけど、此処は駒王学園とか言う魔王様の管理区の近く・・・・・・滅多にそんなことは起こらない。
「暇だな~、お父さんとお母さんはバカップルだし、何もないし」
愚痴をこぼす私は、親の今更ながらのバカップルぶりを思い出して歩く。
あの馬鹿親共は、今頃は二人でラブホ・・・・・・っと、何も言ってません。『今から愛を深めに、ママと第3の子を育んでくるよ』なんて聞いてない。いのりはきょとんとしていたけど、私の聞き間違いじゃないことは確かだ。
そんな複雑な思いを浮かべながら歩いていると、いきなり歌声が・・・・・・それも、凄く美しくて悲しい旋律。・・・・・・泣いてる?
『~~~♪~~~♪~~~♪♪♪』
私はそのいのりと同じくらい綺麗な歌声が聞きたくて、走り出した。
誰が歌っているのか、私の心を動かすのが何なのか、何を感じたのか、どうしてこんな悲しく聞こえるのか、知りたい。いのりも、歌じゃないとあまり表現しないから。
そうして走って数分で、私は辿り着いた。そこは公園で、1人でギターを持ちながらも懸命に歌っているギタリスト少年。それが、視界の中に入る。
相手のことを考えず、私はいきなり前に出てしまった。観客は私1人で、悲しいライブだけど私が来たことにも気付かずに歌い続ける。・・・・・・いや、完全に気付いていない。私と同い年くらいなのになんて集中力。というか、何歳?
───歌が終わる
少年はギターを弾き終えると、ぼーっとしながら私を見た。その目は誰も見ていなくて、まるで私も見えていないような、そんな顔・・・・・・。
「凄い、私の妹より上手い!」
「・・・・・・・・・・・・」
褒めたけれど、少年は相手にせずにギターをケースにしまって、その場を立ち去ろうとする。明らかに私と話すのが、嫌なようだ。
「さっきの歌は何? 教えて!」
「・・・・・・教えるものじゃない」
私は引き下がらずに、少年にそう問いかけた。それを聞いた瞬間、少年は嫌そうな顔・・・・・・どう考えても怒っているが、私は諦めない。
───仲良くなりたい
そう思った。何としてでも、私の眷属にしたい! 自分の手元に置いて、何時までもその歌を聴いていられたならどれだけ幸せか。
───ということで
「えいっ♪」
私は彼を押し倒し、キスをした。子供のキスだけど、彼に無理矢理口付けをして責任をとらせようと奮闘。そして、私の中の《王の能力》が流れ込んだ。
しばらくして離すと、彼は今だにぼーっとしていて、何をされたのかわからない表情。
どうも気にする様子はなく、ただ平然と突っ立っている。
「私の眷属になりなさい!」
「・・・・・・嫌だ」
「じゃあ、ファーストキスの責任とって!」
「・・・・・・君が勝手にしたんだろ」
「乙女の純潔を奪って、許されると───」
「通報したければ、すれば? 別に、俺はどうでもいいから」
「そこは『事実を証明できるの?』でしょ!」
「刑事ドラマの見過ぎ・・・・・・」
「ほら、此処に証拠も!」
「・・・・・・そう、そんな事しても僕が精神を狂わせたと思われるだけだから別にいいよ」
「・・・・・・え?」
彼とのやり取りで、私は疑問を浮かべた。
年の割には、私と同じくらい精神は成長しているし、私の言葉を難無くかわす。それに、さっきキスする際に撮っておいたビデオを魅せるも、無表情。あれだけ精神が育っているのに、そういうことを気にしないって、可笑しい・・・・・・それと、言葉の意味も気になる。というか、キスされて無表情ってなんかムカつく!
───まあ、自分が言えることでも無いけど・・・・・・。
彼は面白くないような、無表情で私とのやりとりにつきあってくれる。勘違いかもしれないけども優しい。それと、私が楽しい・・・・・・。
でも、私は彼につらい言葉をかける。
「───病院にでも行けば?」
彼とのやりとりが楽しくって、違う言葉を吐いてしまった。本当は『悲しい理由と歌のことを聴きたかったのに』という思いも、言えない。
「・・・・・・そうだね、僕は親を殺されて狂ったのかな? 自分でも、この体が自分の物じゃない感覚がしてるんだ。精神病院でも、僕は行くべきかな・・・・・・?」
「えっ・・・・・・あっ・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・」
悲しみの理由はわかった・・・・・・でも、私はバカだ。気になる相手に、嫌な言葉をかけてしまうとかありえない。
「じゃあ、僕はもう行くよ」
「え・・・あっ・・・ぅ・・・」
自分で酷いことを言った手前、彼を引き留めることができない。私はゆっくりと公園から去る彼を1人、見つめるだけだった。
彼を見送って、数十分ほど・・・・・・私は旅館への帰り道を歩いていた。周りは薄暗くて、日も沈みかけている茜色の空。街頭も光を放ち始め、私は帰り道を急ぐ。本当は彼にもう一度会って、話をしたいけど今はいのりが心配。
いのりはぼーっとしていて、さっきの彼ほどではないにしろ危なっかしい。・・・・・・あっ、私は名前聞くのも教えるのも忘れてた。
自分の失態に気づき、後悔するも時既に遅し。私は彼の歌っていた歌を口ずさみながら、自分の泊まっている旅館へと急ぐ。
「・・・・・・?」
私はふと、自分を背後から狙っている視線に気づいた。明らかにそれはさっきから私をつけていて寒気がするが、正しい感覚。
「誰・・・・・・?」
不安になり、私は後ろに声をかける。そうすると、背後から1人のおじさん?が息を荒く、フードを被って『はぁはぁ』と息をしながら近づく。
それと共に悪寒は一気に上昇。
だけど、そのオジサンは何も警戒されてないと思っている・・・・・・いや、警戒を解こうとするような口調で話しかけてくる。
「お嬢ちゃん、実は道を聞きたいんだが・・・・・・」
そう言って近寄ってくる、オジサンと言う名の変態。息は近づく度に荒くなり、私を見る目も嫌らしい目つきからか、寒気しかしない。
「すみません、妹を待たせているので!」
私はそう断り、その場を・・・・・・おじさんから離れようとした。今すぐにアポカリプスの結晶で塵へと帰してやりたいが、それもあまりやらないほうがいい。痕跡とか残らないけど、事実的におじさんはこの世から消えたという事実が残るから。
「待ってよ、お嬢ちゃん。いのりちゃんなら、オジサンの仲間と一緒に居るから」
「えっ・・・・・・?」
おじさんの言葉に、私は一瞬だけ立ち止まり振り返ってしまった。そうして、立ち止まった所為かおじさんが私の腕を掴む。
「いや! 離して! いのりのところに・・・・・・!」
「ほら、今すぐ連れて行ってあげるから・・・・・・っ!?」
腕を強く掴むおじさんに、何時も通りの力を発揮できず、私は爪でおじさんの顔を引っかいた。それは小さな抵抗でしかなく、オジサンは人の良さそうな笑みから怒りを含んだ、獲物を見るような笑みに変わった。
「───このガキが! お前はさっさと俺についてくればいいんだよッ!!」
「ひっ! ・・・・・・いや、離して! そんな・・・・・・キスは嫌ぁぁ!!」
そんな事を言いながら、無理矢理に唇にキスを迫ってくる変態オジサン。私は恐怖のあまり、もがいて逃げようとする。
「ほう、キスへの抵抗もあるのか・・・・・・ガキのくせにもう色気づいて───がっ!?」
「ふぇ・・・・・・?」
涙目の私は、私の嫌がる姿に満足そうなオジサンからは逆に美味しい獲物。だけど、オジサンが白目をむいていきなり倒れた。
見てみると、ギターケースが近くに転がっている。
「大丈夫?」
「ふぇ・・・・・・うわぁぁぁん!」
そんな言葉とともに現れたのは、さっきの無表情を無くし、怒りを瞳にのぞかせるギタリスト少年だった。私は彼に抱きつき、泣き出す。
そんな私を、彼は優しく撫でてくれた。
そして、私は泣き止むと彼の目を真っ直ぐに見る。その瞳は美しい色だけど、怒りの所為で凄くギラついている。
「どう、して・・・・・・此処に?」
「・・・・・・なにか聞こえた・・・・・・家でテレビ観てたんだけど、ね」
「家は?」
「此処から五〇〇メートル」
どうしてか、彼の聴力はものすごいよかった。どれを聞いたのかわからないけど、それでも助けてくれたことに変わりはない。
「───で、妹さんの無事を確認しなくていいの?」
「そうだった! ついてきて!」
私は彼がついてくるかどうかを確かめずに、全力で走り出す。
───また、怖い目に合うかもしれない
───もう、手をくれかもしれない
───でも、いのりは大切な家族
───力を使って怖がられても、私は良い
そんな思いは彼にわからないだろうけど、親を亡くしたのなら手伝ってくれる。悲しみは知っているからこそ、彼も付いてきてくれた。力を怖がられるだろうけど、次こそは・・・・・・。
「此処?」
「あれ? なんで、私のスピードに?」
疑問に思った。悪魔だからこそ身体能力が上がっているのに、私に人間・・・・・・彼がついてきた。しかも、背中には重そうなギターケース。どう考えても、無理。
兎に角、今はそんな事どうでもいい。いのりの無事を確かめなければ!
旅館の中に駆け込んだ私は、自分と親が泊まる部屋に飛び込む。そして、中に入ると部屋の隅に逃げているいのりと数人の男が、いのりを捕まえようとしていた。
「あれ? あのオジサン、自分もヤりたいとか言うからあっち任せたのに・・・・・・何やってんだよ。でもまあ、餌が自分から転がり込んできてくれてラッキー!」
「ははっ! あのオジサン、相当ロリコンだからな!」
「俺らも人のこと言えねえだろ?」
「おいおい、女の子はどっちにしろ女だろ?」
「それもそうだな!」
私を見て、獣のような目をする若い男性。いのりは縮こまって、動けない。それに、目の前にはあの野獣がいる。男なんて、最低ッッッ!!
「マ、ナ・・・・・・姉、さん」
「大丈夫だって。俺らを数十年ほど楽しませてくれたら、解放してやるからよ」
「おいおい、そのころには壊れてんだろ?」
「「「ギャハハハハハッ!!」」」
今にも泣きそうないのりは、怖がって私に助けを求める。数は三人・・・・・・どう考えても、魔力を使えば勝てる。押さえ込まれなければ、だけど・・・・・・。
そうして、私は自分の魔力を使おうとした。でも、何故か上手く使えない。
近付く男共に、私は汚される・・・・・・? 冗談じゃない、それならあの無気力ギタリスト少年の方が数十倍もマシだ・・・・・・訂正、そうして欲しい。けど、私は近づいてくる彼らに何もできずに接近を許してしまった。悪寒が、収まらない。
「ごめんね、いのり・・・・・・」
「ダメだよ、諦めるな」
呟いた瞬間、彼は私の前に立った。
「ああ? お前、何? 子供は立ち入り禁止ですよ? ママに習わなかったんでちゅか~?」
「じゃあ、俺達は帰りますんでその娘を返してくれませんか?」
冷静なギタリスト少年。私は、自分の前で守ろうとしてくれるその姿に嬉しさと、心強さを貰った気がした。それに、何か凄く熱いこの胸の高鳴り・・・・・・これは、恋だ。
「そうだ、少年、お前はエッチって知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。男女が交わるアレですよね?」
「アハハ! まじかよ、答えやがった! じゃあ、帰してやる代わりにその姉かな? この妹ちゃんと俺らの前で、ショーでもやって見せろよ。そしたら、帰してやる」
ふざけた奴らの発言に怒りを覚えたが、私はこの子なら良いと思った。自分の服に手をかけ、服を脱ごうとすると少年の手が私の腕に・・・・・・そして、止めた。
「おいおい、やんねぇんだったら、妹ちゃんを傷つけるぞ?」
「すみません、僕は脱がす方が好きなので」
そう言って、少年は近寄ってくる。そういう趣味は覚えておこう・・・・・・とか思ったけど、少年が今だに怒りを目にしている姿を見て、諦めていないんだ。と思う。
「もう、我慢できません」
「まさか・・・・・・助けて・・・・・・」
私がそう言ったところで、少年は私と目を合わせて手を私の胸に突っ込んだ。心地よい感触とともに、私の中の何かが解き放たれる。
《王の能力》・・・・・・彼は、私の代わりにあいつ等を殺す。
手を引き抜くと、彼の手には《剣のヴォイド》が握られていた。チンピラ3人は恐怖で顔がひきつり、後ずさる。
「悪いけど、もう我慢の限界だ」
「何だよ、それ・・・・・・可笑しいだろ? 夢か?」
「夢だったら、試してみようか?」
彼はその手の《剣のヴォイド》を振り、チンピラの1人の腹に刺す。それに伴い、チンピラからは鮮血が飛び散った。
「あ"あ"あ"あぁぁぁーーーー!!!!」
絶叫と共に、チンピラは目に恐怖の色を浮かべて泣き喚く。流石の後ろに二匹も、現状を把握したようだ。目には恐怖の色を宿している。
チンピラからヴォイドを引き抜く・・・・・・そう思ったけど、彼はそうしなかった。
《剣のヴォイド》を抜こうと力を入れたかと思うと、抉るように剣を動かす。それと共に、また大きな絶叫が響き渡り、彼は引き抜くと鮮血が血飛沫へと変わった。
───そして、断末魔と共に崩れ落ちるチンピラ・・・・・・
その光景は異様だけど、私はスッキリした。寧ろ、このくらいの罰は受けるべき、だと。それに先程から彼がカッコヨく映って、仕方がない。
───逃げようとする、チンピラ
───飛び散る赤い飛沫
───耳をつんざくような断末魔
───そして、残ったのは血塗られた部屋
彼が掃除を終わると、その光景だけがこの空間に残った。私のヴォイドには能力があるらしく、肉片は一片も残っていない・・・・・・あるのは、鉄のにおいだけだった。
これから何話か、過去編が続くかも・・・・・・?