翌日、私は見慣れない天井を見つめながら目を覚ました。起きると、見慣れない天井は私に不安を与えるだけじゃなく、昨日みた旅館と何か違う・・・・・・いや、何でこんなとこにいるのだろうと不安を与える。
───逃げろ
───汚される
───早く
何て警戒音が私の中で鳴り響くが、それと同時に私の中では冷静に現状を理解しようとした。
まずは、私が裸でベッドに入っていたこと・・・・・・何で? と疑問が浮かぶが、それはすぐに解決されることになった。
私の隣には、彼が子供みたいな顔でぐっすりと眠っている。
昨日、私は彼と出会った。名前は瀬戸 桜歌と言うらしくて、私といのりを助けてくれた恩人でありこの家の主。暴漢とかはもう、本当に冗談じゃないがこの彼は男らしい。もう、あれだけで私は彼の虜になってしまった。それに・・・・・・歌も好きだし。
・・・・・・で、此処は彼の家。あの後、お母さんとお父さんが何か力を感じて帰ってきた。それでこの周辺の人の記憶から、いろいろと消したんだけど、彼からは消さなかった。私は彼は何もやっていないと嘘を付き、それを説明を聞いた両親はなんと、眷属にしろと言う。何でも、彼の物怖じせずに過ごしている彼が気に入ったとか・・・・・・。
そうして私といのりは困ってたんだけど、何時の間にかお父さんとお母さんは消えていた。あるのは置き手紙だけで、『彼に泊めてもらいなさい、パパとママは絶賛子作り──』とか書いてあったので燃やした。
まあ、私は泊めてもらえたらうれしい。寧ろ、その日の内に子作り・・・・・・何てことも考えたが、私の両親が私といのりを置いていったことには怒りしかない。それに、彼が泊めてくれなかったらどうするのだとか思ったけど、そんな不安もすぐになくなった。
なんと彼が、私の両親を見て『泊まる?』と聞いてきたのだ。これに私は嬉しくなって、そのままいのりと一緒についてきたわけだが、年齢もいのりと同じらしい。コレにはビックリして、私は好きになった人を嫌いになるわけもなく、年の差なんて気にしない。と言う説を立てたわけだが。
───で、現在。
桜歌はぐっすり、いのりは私の隣で幸せそうに寝ている。あの暴漢が怖かったのは私といのりの同じ意見だが、私は運命だと思った。何せ、暴漢から助けてくれる彼なんて、ドラマチックじゃない?
と思う。・・・・・・いや、思わない方が可笑しい。
「ふぁぁあぁぁ~~~・・・・・・誰?」
「おはよう、昨日は凄かったわね? その・・・・・・気持ち良かったわ♪」
起きた桜歌に、私は意味深い挨拶をした。いきなり酷い挨拶だったが、既成事実があるというパニック情報に桜歌は・・・・・・
「・・・・・・誰?」
としか、返さなかった。
その目は本当に警戒しているようで、私といのりを交互に見て記憶の間を行ったり来たりとせわしなくしている。
「もう、あんな熱かったのに忘れちゃったの? 酷い・・・・・・私の初めてを奪ったのに」
「嘘つかないでよ。まず、そこに僕と同じくらいの娘がいる時点であり得ないでしょ」
勿論、嘘だった。桜歌はいのりを見て、冷静に分析しては私の裸を見て、顔を赤くもせずにハイライトの無い目で私をみる。でも、少しだけだけど昨日の会ったときよりは、私に興味を持ってくれている気がする。
「やだ、本当に忘れちゃったの・・・・・・? 酷い! 私、あんなに貴方に捧げたのに! 好きなだけ私を襲ったでしょ! 無理矢理!」
「いや、そんな事してない。それに僕が聞いているのは、君の名前なんだけど?」
「・・・・・・えっ?」
私は彼の言葉に、今までの自分の言動が恥ずかしくなった。顔は凄く熱くて、彼から見たら私は赤面しているであろう。それも、茹で蛸みたいに・・・・・・。
思い返してみると、私は自己紹介をしてなかった。彼の名前を聞いて、年齢を聞いて、彼のことを知るだけで浮き上がっていた私は馬鹿みたい。
まるで、恋して変わった人間みたいだけど、それも間違いじゃない。出会ったときから彼のことは好きだし、助けられたときに思わず惚れちゃったし。
「・・・・・・マナ」
「マナ? そう、マナ・・・・・・ところで、何で君は僕の布団に入ってるの? 妹さんも潜り込んでいるし、部屋は貸したはずだよね?」
私が自分の名前を呟くと、彼はいきなり問いただしてきた。ある意味、当然の質問だ。だって、私といのりは彼に別の部屋を貸し出されたのだ。昨日、帰ってきて早々に彼は自室に隠って私といのりに部屋を渡すと、寝てしまった。
勿論、夜這いと称されることをやったのは私・・・・・・それも全くの効果なし。だけど、いのりが私と同じくしてこっちに来ていることは予想外だ。
「えっと、夜這いだよ?」
「そう・・・・・・君はやっぱり、あの暴漢達のところに置いてきた方が良かったかな?」
彼のキツい言葉に、私は涙目になりながらも抱き付いた。
「違うよ! 私はあなたに襲って欲しいだけよ!」
「僕はそんな事しない。興味ない」
でも、彼は迷惑そうに無機質な瞳で私を睨み返すと、ただそう言いはなつ。ただ思ったのは、彼の昨日の行動と今の言動。どちらも、感情が薄い。明らかに人が傷つく行為を嫌い、自分の感情は怒りだけの彼は強い。ただ、音楽をやっているときが一番楽しそう・・・・・・いのりみたい。
そんなことを思っている間にも、私は引き剥がされる。
そして、私は何だか悲しくなってきた。これだけ女の子の体を魅せ付けたりしてるのに、動じもしないし、襲ってもこないし、逸らしたりもしない。勿論、押し付けたりもしたのに・・・・・・私ってそんなに魅力が無いのだろうか?
「私って、そんなに魅力無い? 私のこと、嫌い?」
「五月蝿いよ。僕なんかに構ってないで、普通の人間を見つけたら? 仮にも、僕は人を殺した。もう人間じゃないよ、人を殺して罪悪感の欠片さえも無いからね」
そういう彼の瞳には、怒りしか浮かんでいない。それに、はっきりとした拒絶・・・・・・大切な彼にされたら、凄く悲しい。
確かに、昨日の行動は人間からしたら"化け物"だけど、私からしたら普通だ。そんな彼を好きになった私は可笑しいのだろうか?
悪魔としては、人間を殺すのはダメだけど、散々に戦争やらと言って殺し合いを続けている。堕天使やエクソシスト、天使達と。そんな私だから、彼を好きになった。もしかしたら、悪魔である私を受け入れてくれるかもしれない。
───プルルルッ──プッ───!
突然に電話が鳴り、私はそれに出た。鳴ったのは私の携帯で、表示されている名はお父さん。こんな朝早くから、どうしたというのだろうか?
「どうしたの、お父さん?」
『おお、マナ。おはよう。早速だが、見合いだ。今から迎えに行くから、でる準備をしておいてくれよ? それと、昨日の少年は───ブツッ!』
いきなりのお父さんから切り出された見合い話に、私は電話を切る。目の前の彼の話をしようとしていた父だけど、聞きたくなかった。お父さんは、彼を何とも思っていない。ただ、彼のことを駒にしようとしている。
───許せない
───私は彼が好き
───見合いなんてしたくない
───嫌だ
そんな思いも、叶わない。
「ほら、今からお見合いなんでしょ? 服を着なよ。じゃないと、勘違いされるよ。"化け物"に娘を盗られたって」
「私は桜歌が好き! お見合いなんてしたくない!」
「そう、僕は君が誰と結婚しようと知らないし、どうでもいい。眷属なんてモノにはならないし、僕は自由に生きる。目的が・・・・・・あるからね」
「ならもう良いもん! 桜歌なんて知らないッ!!」
本当は彼に、私の気持ちを察して引き留めて欲しかった。だから、自分の素直な気持ちを伝えることができずに言い放つ。
そして、私はいのりを連れて家を出た。
紫の空、良くも悪くも人間界と比べて暗い空気、そんな中に私はいのりとお父さん、お母さんと一緒に自分達の屋敷に戻った。短い旅行だったけど、帰ってきたのが少し悲しい。何も無いところだったけど、やっぱりまだあっちにいたかった。
「ほら、もうすぐお見合い相手が来るんだ。拗ねた顔は止めろ、未来の結婚相手だぞ? それに爵位は相手の方が上だから失礼の無いようにな」
「わかってる・・・・・・」
お父さんの言葉にも軽く返し、私は綺麗な服を着て庭園の中の椅子に座っていた。此処は現在、アンドロマリウス家の自慢の庭園・・・・・・色とりどりな薔薇に、綺麗な百合や彼岸花、自慢の花達が誇らしげに咲いている。
それに対して、私の心は曇天。大雨になってないだけマシだろうけど、いのりは心配そうな顔で私をのぞき込んでいる。
「大丈夫・・・?」
「うん、大丈夫・・・・・・」
いのりは基本、感情が薄い方だけど人の心配はするし、ぼーっとしているけど良い娘だ。それに対して私は感情的だったり、衝動的だったり、いのりの分も元気な私な訳だが。
「お、来たようだぞ」
お父さんがそういうと、目の前に魔法陣が出現した。そしてそこからは、男性と女性、さらにはいのりくらいの男の子が出て来た。
───あれ? 私の婚約者は・・・・・・?
なんて思うが、出て来たのはそれだけ・・・・・・他に人は出て来ないし、魔法陣もやがて消えた。
「ようこそ、おいで下さいました。ウァレフォル卿」
「ああ、今回はすまないね。息子の頼みなので、このお見合いを用意させてもらって・・・・・・アンドロマリウス卿も、それにお嬢さんも・・・・・・まあ、年の差があるのにこの子ときたら、同じ年の子ではなくて姉の方を選ぶとは・・・・・・本当にすまんな」
「いえいえ、お気になさらず」
まるで取り繕ったような態度に、私はイライラする。お父さんは腰が低いし、相手は謙遜した態度だけどお父さんの名誉なんて関係無い。
「お父さん、ウァレフォル卿、私は結婚するつもりなんて無いから」
「おい、マナ・・・・・・! お前は純血悪魔どうしの結婚がどういうモノかわかって・・・・・・すみませんねウァレフォル卿、どうも緊張しているようでして・・・・・・」
「ハッハッハ! いいよ、無理を言っているのはこちらだ。まあ、今回は顔合わせ程度として見てくれて良い。何せ、恋をしたとは言え、家の子はまだ7歳。年齢的には、そちらのいのり君と同い年なのだからね。年をとれば、そのうち家のトリトンも良い青年になるさ」
それでも自分の息子を押し続けるウァレフォル卿に、私はイライラしてくる。第一、好きなら親の権力なんて使わないで来ればいいのに。まあ、それでも私はフるけどね。
私の婚約者であろう、トリトンは今だに私に話しかけることもせずに、ちょっと震えながらも私を熱い視線で見つめ続けている。でも、私がそっちに目を合わせてあげようとすると逆にあっちが逸らしたり。本当に・・・・・・クズ。
年齢は桜歌と一緒、でも行動が桜歌と違って子供。悪魔のくせに、ここまで人間に劣るとか本当にあり得ないでしょ。
「ほら、自己紹介しなさい、トリトン」
「マナも、初めて会う人には挨拶だ」
私の父さんとウァレフォル卿は自己紹介を促し、トリトンは緊張気味。
───男らしくない
なんて思うが、私は仕方無くリードしてあげることにした。
「・・・・・・私はマナ・アンドロマリウス。アンドロマリウス家の次期当主で、13歳です。結婚する気は無いので、それくらいは覚えておいて下さい」
「えっ、えっと・・・・・・僕はトリトン・・・ウァレフォル・・・・・・よろしく、お願いします! その、踊るマナに憧れてそれで好きになって・・・・・・えっと」
結婚する気はないと言ったのに、最初からこの様子。勝手に浮かれてるし、小声で『僕はこれでマナをお嫁さんに』とか言ってるが、本当にうざい!
取り繕った笑みを私は浮かべるが、トリトンはそれを知らずにうれしそうな笑顔。
本当にこれだけ嫌気がさしてくるなんて、どんな天才だろうか・・・・・・確か、フェニックス家にもなんかハーレム築くチキンがいたような気がするけど、それはどうでもいいか。
そして、この日は本当に顔合わせだけでトリトンはウザいくらいに私を見つめ、何も進展など無しに喜びながらトリトンは帰って行くのだった。
───はぁ、明日は桜歌に会いにこっと
───絶対に惚れさせてあげるんだから!
今更だけど・・・・・・殆ど、過去はマナ視点ですね。
と言うか、これは真名の話な訳だし・・・・・・何話続くかわかんないね。
ということで、何話か続く過去編は妙に長いと思います。