地べたは冷たい、痛い、足が痺れる。
私といのりは今、目の前で殺気を収めた桜歌に正座させられている。何時も通りの無表情な顔で、平静を装う桜歌は何処か悲しげだ。私といのりは勿論、桜歌の目の前から逃げ出すことも可能だけど、いのりは恩人だから、私は好きだからと言う理由でしない。出来ないのだ。
何時も以上に可笑しい桜歌・・・・・・『同じ痛みを味逢わせてやる』と言う言葉が、胸の中に残っている。私の中では力になりたい、でも桜歌には悪魔に追われて欲しくないという思いが重なり、複雑だ。どちらも桜歌のためで、どちらも私のためでもある。
「それで、今まで聞かなかったけど、君達は悪魔? ウァレフォルと名前は違うけど、君達にも翼はあるの?」
「えっと、その・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
私の頭は回らず、悪魔について桜歌が知っていることに驚きだけど、私はただ、トリトンみたいに嫌われたくない一心で謝っていた。あの時・・・・・・トリトンを見る目はハイライトの無い目だったけど、完全に復讐心が支配していた。同じだと思われると、桜歌は私を嫌う。そんなの嫌だ!
「私・・・・・・悪魔、なの。いのりもそう・・・・・・でも、信じて! 私は桜歌が好き、あんなクズよりも桜歌が大好きだから私はずっと一緒にいたいの!」
私はそう言うと同時に、悪魔の羽を出した。それを見る桜歌の目は嫌そうで、嫌っているのがわかる。それどころか、異常な興奮を抑えつけようとしている。
「おい、それはしまってくれ。それ見ると、イライラするんだ」
「うぅ・・・・・・ごめんなさい」
謝り、羽をしまうと桜歌の殺気が収まる。だけど、こっちとしては聞きたいことが色々とあった。なんでウァレフォルの名を知っているのか、羽を嫌うのか、・・・・・・私のことも嫌いになったのか。
「・・・なんでウァレフォルの名前? マナ、教えた?」
「・・・・・・教えてない、トリトンとしか言ってないもん」
いのりの問いに、私はそう答えた。名前を覚えてなかったし、桜歌にはトリトンとか言う婚約者が、としか教えてないし私はその程度の愚痴しか言ってない。
だけど、いのりの問いは桜歌に対するものでもあった。
桜歌は、自分の過去を語り出す・・・・・・
「──俺は、昔は親の研究所について行ったりしたんだ。俺の両親は、科学者・・・・・・それも、結構な細部に関わる程の凄い人だった。これは外には漏れていない情報だけど。もしかしたら、俺は狙われるかもしれないから・・・・・・両親の優しさだろうな。研究所では俺を自分の子では無いと偽り、俺は口を合わさせられてたっけ。
そんなある日、俺は3歳頃だったかな・・・・・・両親が悪魔に殺された。目の前で、俺はクローゼットに隠されていたから無事だったけど、みんな殺されて俺だけ生き残ったんだ。そのとき、聞こえたのが『ウァレフォルか!?』と『悪魔』と言う単語。それから俺は一人暮らしだ・・・・・・捨て子だったと言う情報のおかげで、俺は自由だけどな」
桜歌の両親を殺したのは悪魔。つまり・・・・・・私達だった。しかも、それは婚約者の親かもしれない。大切な人の親を殺したのが、同じ悪魔・・・・・・私は悲しかった。自分達、悪魔の所為で桜歌がこうなった。桜歌が嫌うのは当然で、私も嫌いで私を殺すという選択肢が、桜歌にはある。
───罪滅ぼし
そうかもしれないけど、悲しいけど私は桜歌に殺されても良いと思った。桜歌のためなら、喜んで死ねる。一緒にいたいけど、それで桜歌の気が済むのなら・・・・・・。
「・・・・・・私のこと、嫌いだよね・・・・・・同じ悪魔だし、殺したいくらいには・・・・・・」
私はそうつぶやき、桜歌と目を合わせられずに下を向いた。目からは涙がこぼれて、顔を合わせられない。
桜歌の近づいてくる気配・・・・・・。
それが私を解放してくれるような気がするが、襲ってくると思った痛みはこなくて、代わりに体が温かくなっていく。心も同じで、ポカポカと温かい・・・・・・。
「別に、俺は悪魔全部を嫌っているわけじゃない。俺が殺したいのは、ウァレフォルだけだ。マナといのりは悪い人たちじゃないってのはわかってる。人間も悪魔も、悪いやつと良い奴が居るんだ・・・・・・それに、久しぶりに楽しいと思えたのは君達のお陰なんだよ?」
本来なら、私が抱き締める側なのに・・・・・・私は、桜歌に抱き締められていた。悪いのは全部じゃない、良い人だっていると言う桜歌はやっぱり大人・・・・・・そう言ってもらえて、私は嬉しかった。
それに、『久しぶりに楽しいと思えたのは君たちのお陰』って・・・・・・いいかも。
私の顔は今頃、緩みきっているだろう。ちょっと顔は熱いし、心はポカポカするしで幸せだ。でも、涙だけは止まらなくて、ちょっと困る。
「マナ、まだ泣いてるの?」
「ううん、これは嬉しくて嬉しくて・・・・・・ありがとう、桜歌・・・・・・大好き」
今日、初めて桜歌が見てくれた。私のことを、本当の私を知って、憎い相手でもあるはずなのに、怒りをぶつけても良いはずなのに、私を抱き締めてくれてる。
多分、桜歌は復讐を果たしたいと思っているだろう。だとしたら、私が出来ることは一つ・・・・・・桜歌が死なないように力を付けさせる。悪魔相手に人間を貫くのなら、力がないと・・・・・・魔王ですら、手こずるほどの力が・・・・・・。
でも、人間でそこまでするには無理がある。
───私は決めた
───桜歌の為に、力を貸すと
11月1日
修行を桜歌につけてあげることにした。いのりはいのりで、トリトンが桜歌の事をバラしていないか調べるらしい。あの後、トリトンは腕をくっつけて屋敷に戻った。でも、誰にも"誰にやられたか"なんて、言わなかった。と言うか、私が桜歌のことは言わないでと言うと了承。そこから、いのりは監視している。
真面目なことに、私のお願いだけはちゃんと聞くトリトン。本当に使いやすい、ただの馬鹿だ。それに、もう桜歌のところには二度とこないと約束させた。
11月8日
何故か、桜歌は上達が早い。それも、独学の戦闘術。桜歌らしい、音楽の楽器の使い方に寄せた剣術は簡単に魔力を切り裂き、岩を木を、真っ二つにした。だけど、やっぱり肉体が問題・・・・・・親が死んでから、肉体は音楽の為に鍛えていたようだ。正直、あの体は・・・・・・うん、私は見惚れた。
だって、好きな人の体に触りたいでしょ? そう言えば、お風呂にはいるときに毎回見てる。こっちも見られるけど、あまり興味はないのかずっとは見てこない。チラ見も無いんだよ? ちょっとショック・・・・・・。
11月18日
模擬戦として、はぐれ悪魔を狩るのに桜歌を連れて、冥界に行った。桜歌は紫の空に驚く様子もなく、ただ見上げては歌を歌った。その音色は綺麗で、本当に落ち着く・・・・・・。
まあ、それはおいといてはぐれ悪魔狩り。相手の名前はヴォルデルと言うんだけど、上半身は裸のオッサン、下半身は熊という奇妙な悪魔。桜歌に『その女を置いていけ!』と言った瞬間、襲いかかるが桜歌は簡単に回避。人間で子供の身体能力だから限界はあるけど、10分かけて1人で倒した。
そのころには、桜歌は疲れきった顔。
転移で桜歌邸に帰宅、そしてお風呂に入りに行く桜歌。私は堂々とついて行き、服を脱ぐ桜歌の横で一緒に服を脱いだけど、桜歌は気にしない。私は桜歌を抱き締め、お風呂に連れてく。その間は抵抗せずに、桜歌はゆらゆらと揺らされながら私に連行されていった。多分、相当疲れていたのだろう。
その夜、私は桜歌に抱き枕にされて寝る。
───無邪気で可愛かったな、桜歌
11月19日
朝起きると、桜歌は今だに爆睡中。完全に私に抱きついている桜歌の顔は、私の胸に・・・・・・桜歌の甘える一面を知れた私は、寝ている桜歌を抱き締めて喜びをかみしめる。それに、寝ているとはいえ、触れられているのが嬉しい。
それから数分で、私の幸福な時間が終了───桜歌が起きたのだ。
桜歌は頭をすぐに覚醒させると、私から離れようとする・・・・・・が、私も抱きついているために逃げられない。悪魔だからか私の力の方が強く逃げれない。しかも私を傷つけないようにするためか、殴ることも蹴ることも、暴れることもしない桜歌は一度止まった。
これで、私は"勝った"と思った。だが、そうはいかない。
桜歌は諦めたのか、私の胸をいきなり揉んできた。この不意打ちに私はビックリして、さらに快楽によって力が抜けては桜歌はその隙に抜け出す。
一本取られたけど、私にとっては寧ろ、ご褒美でした・・・・・・うん。
12月3日
私は今まで、桜歌と過ごすことを優先していたからこの家を知らなかった。現在、桜歌は小学校に行っているために居ないので、私はお留守番。行きたいけど、私は無理なようだ・・・・・・勉強なら、私が教えてあげるのに。
と言うことで、まずは桜歌の部屋。前に教えてもらった幼なじみの写真はある。でも、親の写真は一つもない。壁にはギターが立て掛けてあって、やっぱり音楽なのだ。楽譜も、詩も書いているようで机の上には大量の紙に資料に何でもござれの音楽部屋だ。何故、桜歌の二つ目の寝室があるかわかる。
───それは、静かに寝たいから
なにせ、たまに工事の音が聞こえてくるのだ。耳が良い桜歌が、起きないはずはない。二つ目の寝室は完全な防音で、外からと中からの音を完全にシャットアウトするもの。
───最初は、エッチなことや、いかがわしいことをする部屋
と期待した。でも、桜歌は寝やすいからと言う理由で否定。此処に連れてこられたら、そうなると私は期待したのに。
でも、それは置いといて何でウァレフォルが桜歌の親を殺したのか知りたい。私は一つもない桜歌の両親の写真を探すために、家の中を探索。そして、見つけた。
私の目の前には、両親の部屋であろう『パパとママのお部屋』と書かれた板がかかっている扉がある。私は躊躇なく侵入して、中を探し始める。だけど、それはまるで昔のままの風景だった。今も人が住んでいるような感じはしないが、掃除は綺麗にされている。でも、誰かが"住んでいた"という抜け殻だけが残った、悲しい部屋。
まずは、アルバムを探す。棚には多くの本があるけど、見つからない。だから、私は色々なところを探すことにした。数十分経つけど、私は一心に探した。
そして、ベッドの下・・・・・・何かある。
私はベッドの下に取り付けられたスイッチを押すと、ベッドがいきなり天井の高さまで伸びた。これは発見だけど、少し間違えた発見だ。
なんと・・・・・・"ちょっとエッチなDVD"とエロ本が大量に・・・・・・。
───もしかして、桜歌は此処から知識を・・・・・・? どうせなら、実践してくれればいいのに。
そんなことを思いながらも、父親の隠れた秘宝であるエログッズ達を読み進める。勿論、桜歌が読んだかも知れないこの本は価値が・・・・・・ある。
見る度に私の顔と体が熱くなっていくのを感じる。見てるだけで桜歌との甘い日々が思い浮かぶけど、私は頭を思考停止にさせかけながらも全部読もうとする。
そしてもう一冊と開けると、私は本の中から何かを落とした。
───チャリン!!───
その音に目を向け、私はそれを拾うと何だかわからないので考え始める。カードみたいだけど、何に使うかわからないし鍵までついてる。
「マナ、何してるの?」
「ひゃっ───!?」
私が鍵とカードを見ていると、突然後ろから声がした。私は恐る恐る、後ろを振り向くと案の定、愛しい桜歌が何か冷めたような顔で私を見ている。
それはそうだ、此処は両親の部屋。誰にも触られたくないだろうし、入られたくないだろう。
それに、テレビは"ちょっとエッチなDVD"が音を出しながら映像を流している。さらに、私の周りにはエロ本が塔のように積み上げられていて言い逃れできない。
私は、咄嗟にカードと鍵をポケットに隠した。その間に、テレビを桜歌が消して近づいてくる。
「その・・・・・・これは・・・・・・ね・・・・・・?」
「全く、マナは・・・・・・まあいい。お仕置きしないといけないな?」
この声音は、怒っているときの桜歌だ。口調も男らしくなって、まるで攻めるような恐ろしさを持っている。どうやら鍵とかには気付いていないよう。
この日から一週間、私は桜歌に触らせてもらえない日々が続く。しかも、口も聞いてもらえない。そんな罰の解除を、私は泣きながらお願いするのだった。
まだ、会談の話にすら到達していない・・・・・・長いな。