「お前も此処にいたのか、トリトン」
「ふん、誰かと思ったら君か・・・・・・偽善者め、俺と真名の邪魔はさせない。真名を利用して復讐したくせに。お前とは、本気で殺しあわなければいけないようだな」
偽善者? 一体何を言っているのだろうか?
確かに、俺は白音や黒歌を助けた。直接じゃないけど、俺は卑怯な方法で色々と助けてきた。だが、『真名を利用して復讐した』とはどう言うことだろうか?
白いコートを着た俺と、トリトンはお互いに睨み合う。
「いいや、俺は助けに来ただけだ。もう、こんなところにいる必要なんてない。これからは、ずっと守るつもりだから、自分の眷属になってほしい、とね」
「桜歌、君は自分がやったことをまだわかっていないのか・・・・・・なら、望み通りに殺してやる」
トリトンはそう言うと、無くなっていない方の手で、俺に魔力を放ってきた。周りにも魔法陣が浮かび上がり、俺はそれを軽く跳躍してかわす。
このままでは、パーティーに間に合わない。
そんなことを考えながら、俺は魔力弾の数々を避け続けた。
相手も同じ、悪魔だ。魔力の限界もあるだろうし、それまで耐えきれば後は楽に片付く。こいつを生かして置いたら、何をするかわからない。
「どうした、お前は避けるだけか?」
「・・・・・・真名に当てたら、それこそ本末転倒だからね。俺は『助けに来た』と言ったろ」
その言葉にイラついたのか、トリトンは魔力弾の数を増やした。流石は元、72柱の悪魔の家系。
だがそれでも、俺は負ける気がしない。此処で負けたら、違う人が真名を消しに来る。魔王クラスが着ても、可笑しくないだろう。
例えば、サーゼクスさんとか、あの魔王少女・・・・・・魔力だけは、一流なんだよな。後は、あの性格さえなければまともな人なのに。
「消えろ、桜歌!」
「それはこっちの台詞だ!」
トリトンが特大の魔力を放ち、俺はその弾を素手で斬り返し、真っ二つに割る。そして、お返しにと魔力弾を放った。ピンク色の、いのりと同じ魔力弾がトリトンを飲み込む。
「くそがぁぁーーー!!」
飲み込まれたトリトンは腕を払い、自分の体にまとわりつく魔力を消した。流石にあの程度の攻撃じゃ、効果も無かったようだ。
俺は魔法陣を形成し、トリトンの周りを囲むように、配置した。
コレで終わり・・・・・・。
指を鳴らすと、全ての魔法陣が大きな音を立てて爆発する。逃げられないトリトンは、その身に爆撃を何発も受けて、その場には爆炎と煙が混じり合った。そして、爆炎と煙が晴れたと思うと、そこにはボロボロのコートを纏ったトリトンが汗を流しながら立っていた。
「まだだ・・・・・・まだ、終わってない。"禍の団"の無限の龍神から貰ったこれさえ飲めば!」
そう言うと、懐からビンを取り出した。その中身は黒いものが渦巻いており、見るからに怪しい雰囲気を出してうねうねと蠢いている。それをなんとも思わないのか、ビンに口を付けてトリトンは一気に飲み干した。それと同時に、トリトンの纏う魔力が膨大な物へと変わる。
「ドーピング? 麻薬? 大麻? MDMA?」
違うな・・・・・・ドーピングだよね。まず、薬物じゃないし・・・・・・にしても、これは結構ヤバいな。魔力が魔王クラスまで跳ね上がりやがった。
「どうだ、凄いだろう! お前じゃ、俺には勝てない!」
自慢気なトリトンは、手を上げて大きな魔力弾を作り上げ、そう言った。あんなもの、当たらなければどうってことないが、全方位とかに攻撃されたら困る。流石に、あのサイズは素手じゃ斬れない。
「自分の力じゃないくせに、威張るなよ?」
「これは俺の力だ!」
その言葉とともに、俺に向かって手は振り下ろされ、それと同時に魔力弾も俺に向かって飛んでくる。それを俺は横に移動して避ける。
「っ!?」
だが、全部読まれて先回りされていた。
目の前には大小様々な魔法陣が展開されており、四方八方全てが魔法陣で埋め尽くされている。逃げようとするが、もう既に発動しかけていた。
「終わりだ」
その声とともに、魔力の砲撃が俺の全身を包み込む。
そして、魔力弾が全て撃ち終わると魔法陣は消え、俺は体にまとわりつく煙を手で払いながらもトリトンを見た。その顔は狂気と驚きに満ちており、まるで俺が死んでいないのを信じられないかのよう。
「馬鹿な、そんな・・・・・・あれだけの砲撃を受けて・・・・・・何をした!!」
「別に、肉体強化を最大限にしたまでだよ。仙術、魔術、元の肉体に重ねがけして無事だったというわけ。君の魔力は、俺より少ないだろう?」
俺の纏うコートはボロボロになっており、所々肌が見えていた。だが、その体に傷などは一切無く、さっきの砲撃をなにも無かったかのように見える。
───正直、グレイフィアさんの攻撃の方が痛い。魔力が多いから出来ると言う芸当だけど、グレイフィアさんのだけは何故か痛い。
「まだだ、あいつらが協力してくれさえすれば───」
『いいえ、終わりよ・・・・・・トリトン』
頭に真名の声が鳴り響くと同時に、俺は意識を失った。
目を覚ますと、目の前には真名の顔があった。多分、膝枕をされているんだろう・・・・・・。凄く、柔らかくて気持ちいいと思うのは仕方ないのかも知れない。
「起きた?」
「・・・・・・トリトンは? というか、何で俺は気を失ったの?」
「私が結晶の中に取り込んだからよ。トリトンは・・・・・・これ」
そう言うと、目の前には何時かのアポカリプス結晶の板が現れた。映像が映し出されており、その映像には高笑いしているトリトンが・・・・・・
『ハハハハ! 真名があいつを殺してくれる、今頃は結晶か!』
・・・・・・ごめん、膝枕だよ。
心の中で謝ると、俺は真名に向き直った。真名は心底呆れたような顔で、トリトンの映っているアポカリプス結晶を消すと、俺の頭を撫で始めた。
「桜歌・・・・・・あなたは、嫌いにならないよね?」
「???」
意味が分からず、困惑した。真名の顔は真剣で、今にも泣き出しそうだ。"また"真名を泣かそうとしているのか、俺は何で今まで真名のことを・・・・・・?
───"また"ってなんだ? 俺、昔逢ったことあったっけ?───
頭の中で何かが蠢いて、気持ち悪い感じがする。痛いし、引っかかるし、可笑しいし、自分で何を考えているのかわからない。
「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」
「・・・・・・思い出しそうなのね」
意味ありげな言葉を発する真名は、少し嬉しそうで悲しそうな、そんな顔をする。
「思い出す、か・・・・・・どう言うこと?」
「こういう事よ。嫌いにならないでね?」
真名はそう言うと、顔を近づけてキスしてきた。お互いの唇が重なり合い、柔らかい感触に包まれる。
「───ッ!?」
それと同時に、何か得体の知れない"記憶"達が俺の中に流れ込んできた。頭の中で渦巻いている痛みや不快感なども激しさをまして、頭を揺さぶるように呼び起こしていく。
───力を手に入れるのだ
───お前は殺してやる
───止めて! 結婚するから!
───好きだよ、真名・・・・・・。
脳内に流れる早送りの映像・・・・・・誰の記憶か、困惑する。それと同時に、流れ込んでくる真名の感情は嵐みたいでピンク色で凄く荒れている。ブルーに闇にピンクに赤、そして紫・・・・・・。
これを理解した。これは、俺と真名の記憶。出逢った頃の遠い昔の記憶と、いのりもたまに居た頃の凄く寂しくて感情を消し去っていた記憶・・・・・・復讐をしないため。
それと、忘れていた両親のこと。顔が思い出せなかったが、これで思い出せた。
「そうか・・・・・・俺、真名に迷惑をかけて・・・・・・」
「違うよ、桜歌は私の結婚を止めようとしただけ・・・・・・私のために、"復讐"を早めたの。勝てないとわかりながらも、私を結婚させないために時期を早めた」
抱きついてくる真名を、俺は抱き締めた。強く優しく、あの頃から少しだけ成長している真名を抱き締め、俺は頭を撫でる。
「・・・・・・今日からは、楽しく生きよう」
「うん、愛してくれなきゃ今度は世界を壊すもん♪」
「ツンデレ通り越した・・・・・・ヤンデレ?」
「デレデレ?」
そう言って真名は強い力で抱きついてくる。温もりを全身で感じるように、もう離さないようにと体全体を押しつけてくる。・・・・・・もう少し、抑えて欲しいです。
「さて、もう少しこうしておいてあげたいけど、時間も迫ってる。行こうか」
「ええ、私も片付けなきゃいけないしね」
光り輝く、一つの扉。それが俺と真名の横に現れ、俺たちは立ち上がる。扉を開けると、この空間全体が眩い光に覆い尽くされ、全てが消えた。
紫色の空、目が血走っているヤバい奴、薄気味悪い森が目の前に広がっている。真名の作りだした空間も紫だったから、
自分が現実に帰ってきたかどうかすら怪しい。
「トリトン、久しぶりね」
「ああ、真名! 僕と二人でなら、そいつを・・・・・・一緒に幸せになろう」
まだ真名を疑っていないのか、俺を協力して殺す算段をたてているトリトン。表情は喜びに満ち溢れていて、何だか気味が悪くなってくる・・・・・・多分、真名はこれ以上の気味の悪さを感じているだろう。まるで、生きた虫を口に放り込んだ感覚のようだ。・・・・・・やったこと無いけど。
「──お前、真名から離れろ」
「だってさ、どうする?」
一応、意地悪ついでに真名にそうきくと、真名はよりいっそう強く抱きついてきた。現在、俺は真名に右腕を抱き締められていて、抜け出せない状態なのだ。しかも、胸まで当たってる。
・・・・・・いや、当ててる。
「───やっぱり、俺が片づけようか?」
「うーん、それは私の仕事♡ 待っててね♡」
続けて聞いたが、真名は笑顔でそう言うと俺の手から離れる。ゆっくりと覚束ない足取りで、トリトンの前までふらふらとしながらもただ歩いた。恐らく、現実が久しぶりでまともに歩けないのだろう。食べ物だって、睡眠だって、封印されていれば時間の感覚はないとしても、体の感覚は忘れる。
「ああ、真名・・・・・・ようやく、僕と一緒に!」
「ええ、一緒にしてあげるわ」
目の前まで行った真名は、少し風に揺られながら近づいてくるトリトンに笑顔を浮かべる。まるで映画のワンシーンのようだけど、全ては良いことばかりだと限らない。
ハッピーエンドで終われば、それと同時にハッピーエンドを迎えられない人もいる。
バッドエンドで終われば、それと同時に世界ではハッピーエンドを迎える人もいる。
幸せの裏には不幸もあり、幸せになる人がいればその所為で不幸になる人もいる。言わば、世界の規則性と言ったところか、光と陰があるように、陰と陽とがあるように、女と男がいるように、そんなことがあるだろう。
「真、名・・・・・・どうして、何でこんな・・・・・・」
現実は非情にも、残酷であった。真名は自分の手から伸びたアポカリプス結晶をトリトンの腹に突き刺し、その傷口からは血がボタボタと流れていく。そして、その血は痕跡を残さないかのように、地面に落ちる度に全てが結晶と化していく。
顔面蒼白のトリトンは、残酷な表情だ。
「ふふ、さよならトリトン」
真名がそう言うと同時に刃を引き抜き、トリトンは傷口から段々と紫の結晶に変わっていく。最後までゆっくりと浸食し、トリトンは恐怖の表情を浮かべながら完全に結晶になると、音も立てずに砕け散っては空の中に消えていった。
トリトン、御臨終となりました。