ハイスクールD×D ~歌姫と罪の王~   作:黒樹

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話題はやっぱり、決まっている。


第五十二話  ガールズトーク

 

 

 

 side《いのり》

 

 

 今日は公開授業? 授業参観?

 

 まあ、いい・・・・・・

 

 兎に角、桜歌は楽しそうだった。

 

 

 だって、最近は疲れた顔をして誰のお願いも嫌とは言わずに叶えてくれる。それは何時であろうと、どれだけ疲れていようと、かわらない。

 

 断ることはしない、そんなのじゃ何時か身体を壊す。

 

 こっちが無理をさせなければいいのだけど、それはみんなで話さなきゃダメだ。

 

 頼ってばかりで何時も桜歌が全部を管理する。だから無理が積み重なって、嫌とはいえない桜歌の優しさが桜歌自身を壊していっている気がする。気のせいだといいけど、見てるこっちも辛い。

 

 特に、真名が原因・・・・・・封印が解けてから桜歌にベッタリで、綾瀬もツグミも祭も、競い合うようにして桜歌の争奪戦をしている。私だって・・・・・・じゃなかった、桜歌が大事だから、無理はダメ。

 

 

 

 でも・・・・・・

 

 

 

「ダメじゃないですか、桜歌、授業中に居眠りをするのを見に行ったのではありません。ミリキャスにも、恥ずかしいところを見せたとは思わないのですか?」

 

「すみません・・・・・・いや、ちょっと眠くて・・・・・・」

 

 流石に、多くの親達が来ているところで爆睡は無いと思う。今はグレイフィアさんに叱られていて、桜歌も頭が上がらずに機嫌を伺っているのだけど、やっぱり桜歌は可愛い?

 

 眠そうに眼を擦る仕草は、猫みたい・・・・・・

 

「桜歌、可愛い!」

 

 真名も

 

「猫!」

 

 ツグミも

 

「反則だよ・・・・・・」

 

 祭も

 

「ほんと、昔とかわらない・・・・・・」

 

 綾瀬も

 

 みんなが一様に桜歌の眠そうな姿を見て、顔を赤くしている。

 

 でも、グレイフィアを前にすると借りてきた猫みたいにおとなしい。何時もはおとなしいけど、何時もよりおとなしい。うん、何か変・・・・・・? 気持ちはわかるけど。

 

 私だって、怒ったグレイフィアは怖い。

 

「では、もう学校も午前中で終わりですし、残りは部活の時間が割り当てられています。その間、少しの時間はお昼寝にいたしましょうか」

 

 だけど、このグレイフィアは好きだ。そう言ったグレイフィアは草の上に桜歌を転がして、自分はその横に腰を下ろして・・・・・・抱きつく?

 

 うん、抱きついた。ちょっと複雑な気分。

 

「ああーーー!! 私がしようと思ってたのに!!」

 

 真名は悔しそうに指を噛んで、グレイフィア相手には何も言えないようでオロオロとしている。その原因の桜歌と言えば、

 

「キュ~~~zzz」

 

 可愛い寝息で寝ているので、誰も憎めずに微笑むしかなかった。

 

 でも、これは地獄の始まりに過ぎない・・・・・・。

 

「さて、ミリキャスはサーゼクスのところに行ったようですし・・・・・・これはどういうことですか?」

 

 グレイフィアは桜歌を抱き枕にしながら、髪を撫でると起き上がり、腰は下ろしたままで私達に視線を向ける。その視線は誰も逃れることができず、まさに“母親”と言えるものだ。

 

 レイナーレ、イリナ、祭、綾瀬、ツグミ、レイヴェルと私はグレイフィアを前に縮こまる。反射的に、誰も逆らうことが出来ないようだ。

 

「目に見えて、桜歌は疲れています。意味はわかりますね。言いたいことも、全部」

 

 グレイフィアは桜歌の頭を自分の膝の上に乗せ、桜歌の負担を軽減させた。簡易安眠枕の完成だが、これは桜歌の疲れなどを考慮してのことなのだろう。

 

 それに、グレイフィアの言いたいこともこの行動が表してる。

 

 

 『あなた達は桜歌をここまで疲れさせたのですか?』

 

 『もっと、彼のことを考えられなかったのですか?』

 

 『あなた達は、彼に何をしてあげたいのですか?』

 

 

「妻は夫を支えるものですよ」

 

 だけど、そこだけは言葉で伝えてきた。グレイフィアも家庭を持つものとして、人生の先輩としてのアドバイスをくれているのだろう。

 

 みんなは言い返すことができず、ただ黙って桜歌を見ていた。

 

「だけど、桜歌はそれを望んでる。みんなが傷つくのを嫌いだから・・・・・・でも、私達は桜歌が自分を犠牲にしてみんなを助けることを望んでない」

 

 お互いの思いは矛盾して、噛み合わない・・・・・・長い間、一緒に過ごしてきたからわかる。

 

 私の言葉はグレイフィアやみんなに聞こえ、皆一様に暗い顔をした。わかっていたから、性格も心も全部が全部私達は桜歌のことを理解している。自己犠牲などは当たり前、誰かが痛みを受けるのならそれを助けることは彼の中で決められたこと。

 

「ですが、思い返してください。彼と会ったとき、最初はなんて思いましたか?」

 

 まるでみんなの心を詠んだように、グレイフィアは桜歌の髪を撫でながら話を続ける。

 

「では、幼なじみからいきましょうか。祭」

 

 祭はいきなり名前を呼ばれて驚き、恥ずかしそうにモジモジと指同士を突き合わせる。数秒間そうしていると、覚悟を決めたのか桜歌の髪に触れて、グレイフィアと同じように髪を梳き始めた。リボンは解いて、それを手に取り懐かしそうな顔をする。

 

「最初は、綺麗だなぁって思ったよ。だって後ろから見ると最初は女の子かなって思ったもん」

 

「同感」

 

 綾瀬は苦笑いして、祭の言葉を肯定した。

 

「でもね、過ごすうちに凄いなって思った。子供の頃から自分の夢を持ってて、小学校の時なんて一人で何でもしようとして全部やり遂げるんだもん。私なんて弱気で、誰かと話すのも苦手で・・・・・・お母さんもお父さんもあんなことになって、哀しくなった筈なのにまた助けられて、小さい頃よりずっと強くて・・・・・・惚れ直しちゃった」

 

 気恥ずかしそうだけど、祭は嬉しそうな顔でさり気なく次の人にまわす。

 

「凄く女ったらしになっちゃったけど、綾瀬ちゃんはどう思う?」

 

 ほんとよこの馬鹿、などと綾瀬は言いながらも顔が真っ赤だ。それでも、思ったことなどを躊躇無く喋れるのは彼女の良いところだと思う。

 

「まったく、昔から桜歌はモテるんだから・・・・・・学校にギター持ってきて、放課後はライブ状態だったわね。音楽馬鹿だと思って最初はあまり相手にしてなかったけど、真っ直ぐで・・・・・・私が男子相手に喧嘩していたときも、いきなり現れて───」

 

 

 

──────

 

 

 

 あの時、私はいつものように友達と遊んでいた。学校も終わって一緒に遊ぶ約束をしていた友達と、桜の木が綺麗な花を咲かせる公園で・・・・・・

 

「タッチ!」

 

「ああ、捕まっちゃった・・・・・・速いね、綾瀬ちゃん」

 

「ちぇっ、これで全員綾瀬ねぇちゃんに捕まったのか」

 

「じゃあ、次は縄跳び教えて!」

 

 年齢はバラバラで同じ歳の子はいない。ただの鬼ごっこだけど、あの頃はまだ足は動く。事故にもあっていない、自由に走り回れる楽しい時間だった。

 

 

 だけど───

 

 

「お前ら邪魔、どけよ。これから俺達はサッカーするんだから」

 

「はぁ? 何言ってんの、半分使えばいいじゃない」

 

 私と同じクラスの男子が数人集まり、場所を明け渡せと命令してきた。何時もなら男子達は学校でサッカーをしている筈だけど、別にそんなことはどうでもいい。此処はみんなの公園であって、誰かが独占できる場所じゃない。だから半分を使うことを提案したのに。

 

「うるさいな、この場所はサッカーするのにいいくらいの広さなんだよ。だから、退けっていってるんだよ」

 

「何よそれ、ふざけないでよ!」

 

 男子がつけた勝手な理由に私は怒る。この中で一番気が強くて、歳が上だった私は男子達にも負けずと自分の言いたいことを言えた。友達のかわりに、私は怒った。クラスの中では私が一番気が強くて、女子の中では一番気が強くてみんなに慕われてた。だからこそ───

 

「あんた達は学校でサッカーしてればいいじゃない!」

 

「は? 学校は今、野球に使われてるんだよ。だから退けって言ってるんだろ」

 

 ───私は引き下がらない。

 

 彼らの横暴な言葉と理由には腹が立ったし、何より私達が引き下がる理由などなかった。一番悪いのはあいつらで、此処に他の人達がいたらそう答えていただろう。

 

「じゃあ、別に半分使えばいいじゃない!」

 

「だから全面使うって言ってんだろ」

 

「こっちは、そっちが怪我しないように言ってんだよ」

 

 私達は一緒に使う提案をしたのに男子どもは引き下がらない。それどころか、建前だけで彼らはこの公園を全部使って遊びたいだけということがわかる。

 

 男子どもは約10人、物理的な喧嘩になれば勝てない。それがわかるから───

 

「もういいよ、綾瀬ちゃん」

 

 

 諦める友達もいる。

 

 でも・・・・・・

 

 

「綾瀬ねぇちゃん、こっちが引き下がる必要はないよ」

 

「公園、使えないの?」

 

 

 小さな子達は恐れ知らず、と言ったところで純粋な心は悪を知らない。

 

 

 私達が悪い訳じゃないし、引き下がる理由もない。私だって負けたくない、だからちゃんと提案したのに彼らは妥協を許さないバカ達だった。傲慢で、我が儘で、子供みたい。

 

 

 

 そして、

 

 事件は起こる。

 

 

 

「ああもう、ウザイな・・・・・・」

 

「俺らは忠告したからな?」

 

 

 今思えば、それはその時に気づけばよかったのかもしれない。

 

 だけど、私は男子どもが浮かべるニヤニヤした顔の理由を知らなかった。

 

 気づくことが出来たのに、私が注意していたのに・・・・・・

 

 

 

 私達は公園の半分を使う男子達を無視し、さっきまでどおりにみんなで縄飛びをして、影踏みをしたりして遊ぼうと思い静かな男子に気を留めることもなく、彼らとの小さな言い合いから数分後・・・・・・

 

 

 いきなりボールを蹴った、ボンっという音が聞こえたかと思うとそれは───

 

「うわぁぁぁーーーん!!」

 

 私と遊んでいた小さな女の子に当たり、その小さな女の子は地面に倒れて泣いてしまった。

 

 

「だから言ったのに、『気をつけろよ』って」

 

「お前等が悪いんだろ、此処から退かないから」

 

「最初から言うことを聞いとけば良かったんだよ」

 

 見計らったように男子どもはボールを回収しながら泣く女の子を笑っている。

 

「ふざけないでよッ! あんた達が狙ったんでしょ!!」

 

「美夏ちゃん、大丈夫!?」

 

「ふざけんなよ、美夏ちゃんにボールをワザとぶつけやがって!!」

 

 友達の一人は心配して女の子の頭を撫で、男の子は好きな子だったからか怒って男子どもに向かっていく。

 

 だけど、男の子は無力にも体格差がありすぎた。

 

「このっ!」

 

「うっさい、雑魚」

 

 殴りかかろうとした男の子は軽々と突き飛ばされ、涙目になる。自分の力の無さからくる悔しさ、大切な子を傷つけられた怒り、その両方からまた向かって───

 

「謝れ!!」

 

「どれだけ向かっても、お前なんかチビは勝てるわけ無いだろ」

 

 ───簡単に突き飛ばされる

 

 体格も、身長も、体重も、すべてが圧倒的に違う。それに彼らは集団で、小さな男の子は個で勝ち目などそれらにより最初からゼロなのだ。

 

 だけど、私は・・・・・・

 

 

「謝りなさい!! 小さい子にワザとボールぶつけて、小さい子によってたかって恥ずかしくないの!?」

 

 

 我慢できず、怒りのままに男子どもに罵声を浴びせた。

 

 それが頭にきたのか、図星をついているのかはわからないけど、彼らも黙っているわけにはいかずにイライラしたような顔を見せる。

 

「うるさいな、篠宮。元々、お前等が退かなかったのが悪いんだろ? それに、これは男の戦いだから口出しすんじゃねえよ。引っ込んでろ女は」

 

「何よ、あんた達が狙って打ったんでしょ! それに、男の戦いとか言って負けるのが怖いんじゃないの? 自分達が悪いから、親にバレちゃ拙いんでしょ?」

 

「はぁ? 何、俺達が狙ったって証拠でもあるわけ? なら出して見ろよ。それとも、今からそっちが謝るなら許してやるぜ? そうだな・・・・・・例えば、お前が此処で服を脱いで土下座して謝るとかどうよ」

 

 開き直ったのか、彼らは無茶なことを言い出す。確かに証拠なんてないし、彼らが何かをやったという証言をしても誰も信じないだろう。彼らが口を閉ざせば、あるいは口裏を合わせて否定し続ければ真実なんて誰にもわからない。それがわかっている男子達は、意外にも悪知恵が働くと言うことだ。

 

 それに・・・・・・

 

「何時もお前はウザいんだよ。クラスの中でいっつも偉そうにしてるしさ、いい加減その態度止めてくんね?」

 

「はぁ? 偉そうにしてないわよ!」

 

「だから、その態度がムカつくんだよ」

 

 彼らには恨みがあった。

 

 女子といざこざが起こる度に私は介入して、両方が納得いくように治めてきたつもりだった。それがお節介で彼らには疎ましかったのだろう。

 

 だから、今

 

「ほら、そこで服脱いで土下座しろよ」

 

「じゃないと、こいつ蹴るぞ?」

 

 まだ諦めていないのか、人質という最低の手段を用いて私に辱めを受けさせようとする。小さな男の子は今だに反抗していたが、彼らには何度も来られたことがうっとおしかったようで椅子のように乗られている。

 

 血が沸騰する。

 

 それくらい、私は怒っていた。

 

「おい、早くしろよ!」

 

 髪を掴まれ、私は為すすべもなく引っ張られる。

 

 

 このままでは、私は一番の辱めを受ける。

 

 だけど、拒否したらこの子達が・・・・・・!!

 

 

 自分の身と、小さな男の子の身、どちらも大切で私は天秤にかけられない。

 

 だけど、逃げたかった。逃げ出したかった。

 

 怖くて、悔しくて、涙が止まらない。

 

 

 

 そんな時・・・・・・

 

 

 

「うっさい、お前ら恥ずかしくないの?」

 

「あ? お前・・・・・・ああ、一つ下の学年の奴か。確か、何時も放課後と朝に楽器を弾いている馬鹿だっけ?」

 

「俺達に何のようだよ、無いなら帰ってくれね? 忙しいから」

 

 

 彼は現れた。

 

 何時からいたのか───気づけば、近くにいた。

 

 今思えば、ずっとさっきから視界の端にいたのかもしれない。

 

 

 学校でいろんな意味での有名人な彼は無機質なものを見ているような瞳で、彼らを物怖じせずに冷めた目つきで睨みつけるように、ゆっくりと見回す。

 

 その手には、トレードマークのギターケース。

 

 フードを被って面白くないものを見ているような彼は、ただ飴玉を舐めながら、彼らを格下のようにナメた口調で更に追撃を浴びせる。

 

「よってたかって、上級生が小さな子のいじめ? しかも、女の子に服脱いで土下座させるとかお前ら恥ずかしくないの? ボールをワザと当てて、更に謝らせるってどんだけ腐ってんの?」

 

「はぁ? 関係ない奴はどっか行ってろ」

 

「図星? ああ、お前等は弱いものに集るしか無いよな。いいよ、今すぐ此処から消えてやる。でも、俺がここから消えて何が起こっても責任は取らないからな? 俺はここで何も見ていない」

 

 彼はそう言って、ポケットから一つのビデオカメラを取り出す。

 

「お前・・・・・・いつから」

 

『どうせ、当ててもバレないって。あいつらが悪いんだし』

 

『証拠なんて無いもんな』

 

 再生される映像と音声、それは彼らの一部始終を全部撮っていた。公園に入ってきてから、今までの彼が介入するまでの全てを余すことなく。

 

 しかも、私が知り得ていない会話内容。

 

 彼は一度も動かず、あいつらが私達を公園から追い出す小さな算段を撮っていた。恐らく、あいつらは気にせずに、気づかずに彼に近づいてしまったのだ。

 

『ほら、何時も篠宮ウザいし、今のうちにわからせようぜ』

 

『ああ、喧嘩の度に割って入ってきてウザいよな』

 

 そこで、彼はビデオカメラのスイッチを切った。

 

 それを見せられたあいつらは彼が何かをする、そうだと思ったのだろう。

 

「何だよ、先生にでも言いつけるつもりかよ」

 

「いや、ただこれを職員室で落とすか放送室で流すかするだけだよ。別に、これが職員室で運悪く拾われて、中身を見られても問題ないよね?」

 

 まるで挑発するようなその行動にあいつらは動揺を隠せない。私の髪の毛を掴む男子の手の力も、何時の間にか抜けていた。

 

「それ・・・・・・よこせよ」

 

「嫌だね。はっきり言うよ、これは教師達に見せる。だって、その方が面白いでしょ」

 

 気が変わったのか、最初から策略に填めようとしていたのかはわからない。でも、彼は確実にジワジワと彼らを追い詰めて、私達の味方をしていた。それだけはわかる。

 

 だけど、彼らは親の怖さを知っていた。

 

 だからこそ、追い詰められたあいつらはそれを行動に移す。

 

「こいつからビデオカメラを取り上げろ!」

 

「親にバレたら怒られるぞ!」

 

 それは周りのあいつらの恐怖心を煽り、あいつらを突き動かさせた。一度は親の恐ろしさを知ったことがあるから、怒られるのが怖いから起こす行動。

 

 あいつらは彼に向かっていく。

 

「誰か、こいつをおさえろ!」

 

 駆け出すあいつらは一斉に彼に掴みかかろうと動き始め、彼は微動だにせずに、物怖じせずにあいつらを真正面から見据える。人数ではあっちが勝っているのに、ましてや独りなのに彼は逃げも隠れもしない。

 

 

 私は何もできない

 

 彼が助けようとしてくれているのに、

 

 見てるだけだった。

 

 

「さっきから卑怯なことしか出来ないんだな」

 

「いてっ!!」

 

 彼は迫り来るあいつら相手に、ギターケースを置いて転ばせて戦う。流れるような動きで、確実に一人一人とあいつらを地面に転がらせていった。

 

 ───数にも負けない強さ

 

 私達を助ける義理なんて無いのに、無茶な状況でも一歩も引かない。そんな彼が格好良く見えて、私は少しドキドキしていた。

 

 

 

 そんな時・・・・・・

 

 

 

 あいつらはまた卑怯な手を使った。

 

 

 

「おい、これを壊してもいいのか?」

 

 ひとりの男子が彼のギターケースを手にして中からギターを取り出す。それはいつも見かける学校で彼が大切に持っているギター。

 

「ビデオカメラのデータを消したら、今すぐ返してやるよ」

 

 人質交換、と言ったところだろうか。劣勢から優勢になったと言わんばかりに、あいつらはギターを見せつけて彼から証拠を消させようとしている。

 

「うるさい。ビデオカメラのデータは消さない」

 

「じゃあ、こうだな」

 

 彼が断った瞬間、あいつはギターを上に振りかぶる。それが何秒、何分にも感じられた。関係ないはずの彼が大切なものを壊される、それは私が弱いから招いた結果。

 

 そして、無慈悲にも

 

 

「お前が悪いんだからな?」

 

 

 あいつは彼の大切なギターを振り下ろした。

 

 振り下ろされたギターは地面にぶつかると同時に粉々に砕け、破片はいろんな場所に飛び散る。それがスローモーションのように瞳に写され、私は罪悪感と嫌悪感に押しつぶされそうになった。

 

 ───私の所為で・・・・・・

 

 私が早く此処から言うとおりに立ち退いていれば、もしくは私が裸で土下座をしていれば、彼のギターは無事だったかも知れない。

 

 彼が大切なものを壊されたのは私の所為だと、自分を自分で責める。

 

 だけど、まだ終わってなかった。

 

 

「弁償だね、これ・・・・・・君の親はギターの代金を払えるかな? と言っても、これは20万くらいするギターだから簡単にはいかないけどね」

 

「それがどうしたよ、証拠なんて無いだろ。お前もうざいんだよ。最初から関わっていなければギターは壊れなかった。だいたい、お前がこいつらに味方する理由ってなんだよ? 弱いものいじめはダメですってか?」

 

「そうだな・・・・・・否定はしないよ」

 

「でも、お前が悪いんだからな!」

 

 そう言って、あいつらは急いでこの公園から去っていく。気がつけば近くの家から、1人のおばさんがこっちに来ようと家を出てくる最中だった。

 

 彼はビデオカメラを片手に、逃げていくあいつらを気にも留めないのか、無視して小さな泣く女の子のところに歩いて近寄る。

 

「ほら、大丈夫か? 飴あげるよ」

 

「ひっく・・・・・・飴?」

 

 小さな女の子は泣きやむ最中で、彼から飴玉を差し出されると泣き止む。学校では見られなかったが、彼の優しい一面は小さな女の子を安心させていた。

 

「いいの?」

 

「ああ、いいよ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 飴玉を受け取った小さな女の子は笑顔になり、嬉しそうに飴を舐めだす。すると、彼は小さく笑って立ち上がると、今度はこっちに歩いてきた。

 

「大丈夫?」

 

「ええ、ありがとう・・・・・・」

 

 違う。

 

 私は謝らなければいけない。彼の大切なギターが壊されたのに、何で彼は私の心配を先にしてくれるのだろうか? 学校で何時も持っていたのに。

 

 それほど、彼にとっては大切なはずなのに。

 

「じゃあ、俺は帰るから」

 

 彼はそう言って何事もなかったように立ち去ろうとする。壊れたギターの残骸を拾い集めながら、顔色を一つも変えない彼はギターケースに残骸を詰め始めて。それが終わると、ビデオカメラをポケットにしまい、公園から出て行こうとした。

 

「待って!」

 

「・・・・・・何?」

 

 その彼に私は声をかけて、口を閉じる。なんて言えばいいのかわからない。いや、何て言おうとしたか忘れてしまったのだ。そんな中、咄嗟に出た言葉がこれだった。

 

「何で・・・・・・私を助けたの?」

 

 聞かれた彼は表情一つ変えず、考え込むようにして立ち止まる。いいわけを考えているのか、それとも私のベタな質問に戸惑っているのかわからない。

 

 自分でもわからなかったし、知りたかった。

 

 彼は学校でよくギターやピアノを弾いている姿は目にするのだけど、クラスの子と一緒に遊ぶところを見たこともない。

それどころか、彼が誰かとまともに話しているのを見たこともなかった。

 

 だから、彼が何を思って自分の得にならないことをしたのか・・・・・・人との関わりをあまり持たない、彼がどうしてと──

 

 

「・・・・・・見てるとイライラしたから」

 

 

 返ってきたのは単純な答え。でも、それだけで彼の人間性がよくわかった。

 

 彼は『困っている人を放っておけない』そんな人間なんだ。

 

 

 

 

 それから、後日は男子どもが大人しくなった。

 

 あの時、公園にいた男子全員が次の日には放課後に呼び出されて。何時も学校の何処かで聞こえていたはずの音はその日だけ止み。私は少しだけ残念な気持ちになる。

 

 探したのに彼はいない。

 

 会って話したかったし、彼のことを知りたい。

 

 

 でも、次の日からまたギターの音が聞こえた。その日は関わっていた全員とその親、みんな呼び出されて私の親も知らぬ間に学校に来ていた。

 

 彼は弁償を要求し、大きな問題の処理のために学校は話し合いの場を設けたのだ。

 

 小さな女の子の親は怒っており、その解決も例外ではない。しかも、小さな女の子が怪我させられた一部始終にその親は大激怒。私の親は少し怒っていたが、興味はヒーローみたいな彼にあるようで。

 

「ありがとう、桜歌君。うちの娘が世話になったね」

 

「今度、家に遊びに来なさい。親がいないなら、今日から家の子になってもいいのよ? 綾瀬も君のことが気に入ったみたいだしね」

 

「ちょっとお母さん!?」

 

 私が彼に気があることに気付いているのか、そういう話題に繋げる両親。私としては、凄く恥ずかしかった。

 

「別に、俺は・・・・・・」

 

「あっ、そうだ今夜にしましょう。晩御飯を食べていってね」

 

「それがいいね、そうしよう」

 

 断ろうとする彼の言うことを聞くわけもなく。彼は困ったような顔で私に助けを求めるように見てくる。私は恥ずかしくて目を合わせられず、目を逸らしてしまった。

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 逃げ場を失った彼はそう言い、大激怒する小さな女の子の両親を見やる。

 

 

 その日から、彼に私は近寄るようになった。学校で話しかけたり、休み時間中に一緒にいたり、そこで祭に出会ったりとライバルの存在を知って、友達になって。

 

 見ているうちに彼は独りに慣れていることに気づいて、人との馴れ合い方を知らない、彼の寂しさが今の彼を作り上げているのだと知った。

 

 

 

 ───

 

 

 

「ほんと、昔から変わらない」

 

「あまり喋らないからお人形みたいだったもん」

 

 私も同じように昔の彼を知っている。幼なじみである祭と綾瀬は桜歌の過去の性格と今を比べて、凄く楽しそうに会話するのは知っているからの特権。

 

「昔から桜歌様はそうだったんですのね・・・・・・」

 

「見てみたいです、昔の桜歌様」

 

 レイヴェルとレイナーレは知らない桜歌の話に食いつき、さっきの話を夢中になって聞いていた。知らない側からすれば桜歌を知る機会で、聞き逃すことはできない。

 

「ああ、桜歌様は昔から清らかな人だったのね!」

 

 イリナは聖徒のように桜歌を信仰の対象にする。かと言って、桜歌が昔から清らかなのはちょっと違うと思う。桜歌は一度復讐を考えたし、その辺はどうだと聞いてみたい。

 

 でも、優しいのにかわりはない。

 

 揺るぎない事実だ。

 

「桜歌は優しい・・・」

 

「そうです。殺そうとしたはずの私を許してくださいました」

 

 レイナーレは思い出し、桜歌の髪を撫でる。敵だったはずの男が、今は最愛の人だという事実に不思議さを感じながらも幸せを感じて。

 

「危ないときに、桜歌様は殆ど知らない私を助けてくれたもん。新しい居場所も、途方に暮れる私を助けてくれたことも全部優しさで」

 

 イリナはコカビエル達を相手に逃げられたことに感謝して桜歌の手を握る。新しい居場所も、彼が与えてくれたと。

 

「そうですね。それが桜歌です。でも、彼には妥協すると言うことを覚えさせた方がいいですよ。支え合うことは、時に大切ですから」

 

 私達は彼に幸せを与えてもらっている。

 

 だけど、私達は桜歌に傷ついてほしくない。

 

 

 

「───きゃッ!?」

 

 

 ちょっと・・・・・・

 

 

 

「今日の抱き枕はイリナさんですか」

 

「ズルい。私も抱き枕にされたい!!」

 

 

 

 ・・・・・・エッチだけど




綾瀬の性格から、過去を作り出す。
強気だよね、綾瀬って。
今回は小さな過去回でした

今に至るまで、いろいろとあったのだよ
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