「頭を垂れて蹲え。平伏せよ」
「ははぁぁぁ!」
どこかの時代劇でありそうな光景。
それが、とある悪徳政治家の事務所で起きていた。
軽く波打つ髪に紅梅色の瞳が特徴的な男が、高級感溢れる革張りの椅子に座り、頬杖をつきながら偉そうに踏ん反り返っている。
彼こそが、自他ともに認める悪徳政治家──鬼舞辻無惨、その人である。
そんな態度の議員に対して平伏しているのは『苺プロダクション』の社長である斎藤壱護だ。
何がどうしてこうなっているのか? と問われれば、斎藤壱護が鬼舞辻議員に対して売り込みに来た、といえばわかるだろうか?
ちなみに、今回の訪問は事前に連絡をして予定を組んでもらっている。
突拍子もない電撃訪問などではない。
では、なぜ平伏するような話になっているのか? と問われれば、それが鬼舞辻事務所でのいつも通りだからだ、としか言いようがなかった。
「本日は議員の貴重な時間を──」
「誰が、喋って良いと言った?」
不機嫌そうな議員の声に、ご機嫌取りをしようとしていた壱護は慌てて口を閉じる。
業界でも有名な話として『頭無惨』という新しい単語? が生まれる程、鬼舞辻議員の性格には難があった。
もちろん、壱護もその話は知っている。
議員の事務所に勤める友人からも話を聞いていたし、機嫌を損ねないようにと忠告されてもいた。
だが、本当に挨拶すらまともにさせてもらえないとは思わなかった。
天上天下唯我独尊を地で行く難物。
それが鬼舞辻無惨という議員である。
「──それで、貴様は何用で私を訪ねてきた? この私に貴重な時間を割かせたのだ。それなりに有用な話なのだろうな?」
凄むように、そして見下すように。
議員は壱護に問いかける。
その問いかけをもって、ようやく口を開いても良くなったらしいことを理解した壱護は、勢い込んで返答した。
「もちろんです! 鬼舞辻議員のお役に立てる話であると自負しております!」
「──ほぅ? 面白い。言ってみろ」
壱護が平伏したまま自信満々に即答すると、少しだけ興味を引けたらしい。
聞いてやる、と言わんばかりの尊大な態度だが、議員は耳を傾けた。
「はい! それでは説明させていただきます!」
ここからだ、と壱護は気合を入れる。
平伏したまま、議員へ売り込みを始めた。
「鬼舞辻議員はもちろん感じておられると思われますが、昨今、若者たちの政治離れは由々しき事態があると思います」
「ふむ……」
「現状、選挙権を持つ若者たちの票は浮いていると言っても過言ではない状態だと考えます。──もしも、それらが鬼舞辻議員の得票として繋がれば、長い期間、得票数が安定するのではないか? と、そう愚考いたしました」
「ほう……?」
「じつは私、斎藤壱護は小さいながらもアイドル事務所を経営しておりまして、今はまだ無名もいいところですが、将来を期待できる有望株が所属しております。──そこで、SNSや動画を利用し投票に行くよう呼びかけつつ、さらには鬼舞辻議員を推すよう、議員の所属する政党を推すように宣伝を仕掛ける──というのが大凡の計画です」
「──なるほど?」
「芸能人などの著名人が政治・経済に口を出すのはどうなのか? という風潮も一部にはありますので、直接的な発言は避けるために密かな宣伝になりますが……若者たちの興味を引く一助にはなるかと」
そう言って、壱護は話を締めくくる。
あとは相手の出方次第だが、当の議員は渋い顔をしていた。
「……迂遠に過ぎるな。しかも、貴様は先ほど無名の事務所だと言ったな? その現状から推測するに、宣伝の効果は極めて小規模なものに留まるだろう。──ならば、貴様の提案は考慮するに値しない。大手の芸能事務所を使えばいいだけの話だからな」
相手からの反応は悪い。
だが、想定内の反応だ。
「はい。……確かに、大手の事務所には有力な人材が数多く所属し、情報拡散力は凄まじいものがあるでしょう。それだけの人材を育ててきた信頼と実績の歴史もある。──ですが、その分だけ柵も多い」
ここで壱護は手札を一枚切った。
「現存する大手の事務所は、大体四大財閥か反社会的勢力と繋がっているのです」
「産屋敷め……!」
ギリィッと音がするほど、議員の奥歯が噛み締められる。
鬼舞辻議員と産屋敷グループの当主──産屋敷耀哉の仲が悪いことは、業界関係なく有名だ。
詳しい話は省略するが、この議員に対して直接的な名前を出さずとも、四大財閥という括りで話を出すだけでもこの反応である。
実際の仲を察するに余りあるものがあった。
壱護は説明を続ける。
「その点、私の事務所は業界的には新参者で、各財閥や反社会的勢力とも縁がありません」
「貴様……この私に青田買いをしろ、というのか? それだけの価値が貴様の事務所にあると?」
ギロリ、と強い視線が平伏する壱護の後頭部に刺さる。
議員の顔色が見えない状態であることが、この時だけは壱護に味方した。
見えていれば、壱護は言葉を発することが出来る状態ではなくなっていただろう。
議員の部下たちが真っ青な顔色をしているなか、壱護はさらなる手札を切った。
「それを判断していただくために、先日、黒死牟殿にライブにお越しいただき、実際に視察していただきました」
「!!!?」
まさかの話題振りである。
議員だけでなく、話を振られた秘書官本人すら驚いていた。
「黒死牟……?」
訝しげな視線が己の秘書官へと向けられる。
その視線には「アイドルのライブ? お前が?」という困惑がありありと浮かんでいた。
「は……先日……無惨さまがお休みの日に……」
「………………そうか。──で、貴様にはどう見えた?」
困惑顔をそのままに、議員は秘書官へと問いかける。
問いかけられた秘書官は、チラリと平伏する壱護を見やったあとに口を開いた。
「──人の目を引く才が傑出している……そう見えました……今はまだ荒削りの原石……しかし……その状態でも他者を圧倒している……磨きをかければ……どこまで輝くようになるやら……」
「やがて名を馳せる、と?」
「間違いなく……」
「ふむ……」
思案する顔になった議員は、まぶたを閉じて思考の海に沈む。
ややあって、再び壱護に問いかけた。
「……斎藤とやら。貴様が『どのように役に立つのか』は聞かせてもらった。──ならば、次は『どの程度の猶予があれば役に立てるようになるか』を聞かせてもらおう」
「……五年……いえ、四年で──」
「長いな」
ピシャリとした物言いに、壱護は冷や汗をかく。
少しでも機嫌を損ねると爆発しかねない爆弾。
それが鬼舞辻議員だ。
爆発を回避しようと、壱護は慌てて口を開く。
「で、でしたら黒死牟殿をお借りしたい!」
「……なんだと?」
思ってもみなかった要求に、議員は訝しげな視線を向けた。
「黒死牟殿をお借りできるのなら! 二年で一定の成果──いや、一年で放送局の電波に乗ってみせます!」
議員が聞く姿勢を維持している間に状況を挽回しよう。
そういう意図もあっての提案だったが、逆効果だったらしい。
議員は額に青筋を立てて壱護を睨みつけた。
「ほざくな。なぜ一年もの間、貴様に黒死牟を預けねばならん? ──まさかとは思うが貴様、産屋敷からの回し者ではないだろうな?」
「ち、違います! 違います! 私は──」
「何が違う? ──言ってみろ」
声から感じる強い怒気に、壱護の顔や背中にぶわりと汗が浮かぶ。
心底、恐ろしい。
だが、弁明しなければすべてが終わる。
壱護は伏せていた顔をあげて必死に訴えた。
「こ、黒死牟殿をお借りしたいのはライブの時のみでございます!」
「──なに?」
壱護の必死さが届いたのか、議員の癇癪じみた追求が止まる。
その機を逃さず、壱護は続けた。
「私どもの事務所はホワイト企業という触れ込みで売り出しておりまして! その関係でライブへの参加を週に一度、それも土日のみに限定して活動しているのです!」
「……つまり?」
「黒死牟殿をお借りするのは土日の何れか! それも、ライブの準備時間を含めましても数時間程度になります!」
議員は再び思案するように顎に手を添える。
「……それで? 黒死牟を借りた貴様はどうするつもりなのだ?」
「私が黒死牟殿に求めているのは“武力”! 武勇にございます! ──実のところ、地下アイドル業界の治安はお世辞にも“良い”とは言えません。先日あったライブの時も、不埒な輩が多数おりました! それらを黒死牟殿の力をもって威圧、鎮圧していただきたいのです!」
「観客など所詮は一般人。わざわざ黒死牟が必要になるとは思えんが……?」
議員は懐疑的な様子だが、壱護は首を振る。
「確かに、過剰戦力であることは理解しております。──ですが、地下アイドルの警備に来るのは素人に毛が生えた程度のアルバイトが大半で、本職の警備員や警察官のOBなどほとんど居ないのが現状なのです」
「……なるほど。黒死牟の武力をもって、主催者と共演者に『安心と安全』を売り込むつもりか」
議員の言葉に壱護は「ご慧眼、恐れ入ります」と頭を下げた。
大まかな計画を理解した議員は、確認する意味を込めて問いかける。
「土日のみのライブ。それを一年間。……それで放送局の電波に乗るほどの知名度に上げてみせる、と?」
「何卒! 何卒ご一考を賜わりたく!」
壱護は再び平伏し、事務所に沈黙が降りた。
★☆★☆★☆
無惨は思考する。
正直な話、目の前で平伏するチンピラもどきからの提案に魅力はそこまで感じない。
それが、無惨の偽らざる本音だった。
とは言え、斎藤壱護という人物に見所はないか? と問われれば、そうではない。
無惨の懐に飛び込んで営業をかけてくる度胸は見所と言えなくもない。
きちんとした計画が立てられる点も加点要素だろう。
それよりも気になったのは「一年以内に地上波」という発言だ。
はっきり言って、普通は無理だろう。
芸能界などに興味がない無惨ですら、そう感じるのだ。
その業界にいるチンピラもどきが理解していないはずはない。
それでも言い切ったからには、このチンピラもどきには何かしらの勝算があるのだ。
おそらくは、伝手。
聞けば、このチンピラもどきは大手の芸能事務所で働いていたらしい。
ならば、その時分に作った伝手だろう。
どれほどの伝手を作って独立したかは知らないが、その部分は無惨の活動に活かせる可能性があった。
さらに言えば、チンピラもどきの事務所が大きくなれば、その伝手も強くなり、数も増していくことになる。
そうなれば、今以上に新聞などの情報媒体を使った工作が使えるようになるだろう。
チンピラもどきが言ったような宣伝だけでなく、情報操作に炎上対策なども強化できる可能性がある。
場合によっては、憎き産屋敷にも一泡吹かせることが出来るやも知れない。
目の前で平伏する男に価値を見出し、来るであろう未来を夢想し、人知れず笑みを浮かべた。
★☆★☆★☆
壱護にとって、自身の心臓が奏でる音が嫌に大きく聞こえる時間だった。
頭の中での計算が終わったのだろう。
それまで沈黙を保っていた議員が口を開き、沙汰を告げる。
「──いいだろう。貴様の望み通り、黒死牟を貸してやる。ついでに、活動に必要な資金もふんだんにくれてやろう」
思わず、壱護は顔をあげていた。
「あ、ありがとうございます!」
壱護は喜色満面の笑みを浮かべる。
人を貸してくれるだけでなく、資金まで用意してくれるとなれば、自転車操業で火の車状態の『苺プロダクション』としては大助かりだ。
だが、そう上手くは事が運ばないのが世の常である。
うまい話には裏がある。
今回も、その例に漏れなかった。
「ただ、私の任期満了も近いのでな。一年など待ってはやれん。──半年で何かしらのわかりやすい成果をあげてみせろ」
「え゛」
さらりと突きつけられた難題に、壱護は変な声を上げる。
血の気が引いて顔色が悪くなっているが、そんなことは議員の知ったことではない。
「目標を達成できたなら、さらなる資金を援助してやろう。──そして私の役に立て」
鞭で叩いたあとに適当な飴を見せた議員は、ふと腕につけた時計を見やる。
「……そろそろ時間だな。──黒死牟、今後について話を詰めておけ」
「は……」
次の予定が差し迫っていた議員はそう言い残し、そのまま運転手役の部下を連れて部屋を出て行った。
★☆★☆★☆
「や、やりきりやがった……!」
「スゲェ……! あんたスゲェよ!」
「あの鬼舞辻さまから了承をもらえるなんて……!」
「明日は槍が降るかもしれねぇ……」
事務所に残っていた議員の部下たちから称賛の声が上がる。
正しく偉業。
近年稀に見る快挙であった。
議員の部下たちは知っている。
たったひとつの了承を得るために、どれだけの苦労があるのかを。
問いかけや無茶振りに対して戸惑っていれば「そんなことを言われても? ──なんだ? 言ってみろ」と威圧されたあとに『おしおきガジェット』で振り回され、
何かしら意見を述べようとすれば「黙れ。貴様どものくだらぬ意思で物を言うな」と威圧されては『おしおきガジェット』で振り回され、
反論や間違いを指摘しようものなら「私は決して間違えない」と突っぱねられた挙げ句に「私が正しいと言ったことが正しいのだ」と威圧されて『おしおきガジェット』で振り回される。
それが鬼舞辻事務所の日常風景なのだ。
おしおきを受けることなく要望を通しきった壱護を、勇者か英雄のように見てしまうのも無理はない。
だが、囃し立てる周囲とは裏腹に、やりきったはずの壱護は静かなものであった。
なぜなら、それどころではなかったからだ。
「……半年以内にわかりやすい成果……? わかりやすい成果……わかりやすい……わかりやすい……? ──わかりやすい成果ってなんだよぉぉぉ!!!?」
突然の発狂に、周りにいた者たちは「あー」やら「ですよねー」などと同情する声を上げる。
議員の言う『わかりやすい成果』に具体的な内容は言及されていない。
つまり、議員の匙加減ひとつで可否が決まるのだ。
ただでさえ気難しい性格の議員である。
どんなに素晴らしい成果を上げたとしても、その時の気分次第で『否』と言われてしまう可能性が高い。
頭を抱える壱護の肩に、ポンッと手が置かれた。
手を置いたのは、友人である秘書官だ。
「だから……言っただろう……議員を頼るのは……止めておけと……」
ため息混じりにそんなことを言う友人に、壱護は半泣きで噛みついた。
「うるせぇ! だいたいミッチーが産屋敷グループを辞めてるのが悪いんじゃねぇか! 俺だって鬼舞辻議員となんか関わりたくはなかったわ!」
「それは知ったことではない……」
逆ギレしながら喚く壱護に対し、友人である秘書官は冷たくあしらう。
唐突な渾名に、議員の部下たちは目を白黒させる。
だが、すぐに「あー、知り合いだったんスねぇ」と納得の表情を浮かべていた。
周囲のアレコレを余所に、呆れ顔をした秘書官は壱護に問う。
「それで……どうするつもりだ……」
「どうするもこうするも……我武者羅に営業かけて知名度を上げるしかねぇよ……」
がっくりと肩を落とし、壱護は頭を抱える。
「四年か五年くらいあれば、世間一般に認知される程度の知名度にはなれるとは考えてたさ。一年で地上波ってそれも、金とコネを使って内容を問わなければ、地方の局で一回くらいはなんとかなったろうさ……! ──だけど、半年でなんとかなるわけないだろ! こちとら弱小事務所と駆け出しの地下アイドルだぞ!? 地上波以前の問題だっつうの!!」
「だからって反論しようものなら『おしおきガジェット』っすからねぇ」
「いや、そのまえに話を切り上げられて、事務所からつまみ出されたんじゃないか?」
壱護の叫びに、議員の部下たちが各々の予想を口にした。
実際、その通りになっていそうだから笑えない。
「何はともあれ……資金援助を受けられるだけでも……良いではないか……」
友人たる秘書官はそう言うが、壱護は目尻に涙を浮かべて睨みつける。
「……半年以内、達成できなかったらどうなると思う?」
その問いかけに、秘書官を含めた議員の部下たちは黙ってしまった。
しばらくして、ようやく絞り出した一言は──、
「──簀巻きで東京湾?」
「イヤだぁぁぁアアアぁぁぁ!!!?」
壱護の叫び声が事務所に響き渡った。
★☆★☆★☆
鬼舞辻無惨が『苺プロダクション』に支援を始めて早数ヶ月。
徐々にではあるが、『B小町』はその人気を伸ばしつつあった。
しかし、それは階段を一段一段、ゆっくりと登るようなもの。
地下アイドルのライブを観覧しに行く人々はともかくとして、世間一般への認知度はないに等しい状態である。
無惨の提示した『半年』の期限まであと僅か。
このまま何も出来ずに約束の日を迎えたなら、苺プロダクションの社長は無能の烙印を押され、相応の罰を受けることになるだろう。
与えられた資金の回収のために海外の鉱山に入れられる可能性もあるし、無惨の知人であるお金に執着する狂人に預けられてしまうかもしれない。
社長自身は最悪の未来を回避すべく奔走しているが、それが実るか否かは神のみぞ知る、という状況である。
そんな、ある日のこと。
鬼舞辻事務所のいつもと変わらぬ日常は、突如として破られることになった。
「大変です無惨さま! 一大事です!」
「なんだ、騒々しい」
慌てた様子で事務所に飛び込んできたのは、無惨の部下の一人である零余子だ。
その手には新聞が握り締められていて、彼女の言う『一大事』とはそれに関することらしい。
「こちらをご覧ください!」
差し出された新聞を受け取り、目を通す。
その新聞の見出しには、こう書かれていた。
──大病院に捜査のメス!
──議員と院長の黒い繋がり!!
──医療機器の導入を斡旋か!?
「なん……だと……?」
あまりのことに、新聞を握る手がワナワナと震える。
「何だこの記事は!」
「ひぃいいいィィィ!!!?」
カッとなって怒鳴ると、事務所内にいた部下たちが慌てて平伏した。
「何故こんな記事が出回っている! どこから情報が漏れた? 新聞社からの情報提供はなかったのか!?」
「も、申し訳ありません! 情報は病院側から漏れたものかと思われます!」
「新聞社にいる内通者からも情報が回って来ませんでした! かなり慎重に動いていたようです!」
部下たちの弁明に、無惨は盛大な舌打ちを漏らす。
だが、グズグズしている時間はない。
すぐにでも動かなければ、マスコミが事務所を取り囲んでしまうだろう。
「ボードを持って来い!」
「はっ! ただいま!」
部下の一人が慌てて立ち上がり、隣りの部屋へと消える。
そしてすぐに、ガラガラと車輪の音を立てながら、畳一枚分ほどの黒板を運んできた。
ゴム製らしい表面には、日本地図が貼りつけられている。
それに向かって、無惨は机の上に置いてあった物を投げつけた。
ダーツだ。
ダンッという音とともに、日本地図の左下側にダーツが突き刺さる。
「どこだ」
無惨の端的な問いに、部下たちは地図帳を片手に答えた。
「えっと、宮崎県の……高千穂ですね」
「良さげな病院はあるか?」
「高千穂には……あ、宮崎総合病院があります!」
「地図上では結構な山奥ですね」
矢継ぎ早に齎される部下からの報告に、無惨は「山奥か……」と呟きながら思案する。
「……マスコミを巻くにはうってつけだな」
そう言って、無惨はニヤリと笑った。
「──よし、私は今から病気になる。静養が必要なくらいの重篤な病だ。……不本意だがな」
そう言うと、上着を片手にツカツカと裏口へと向かう。
事務所を出る直前、無惨は居残り組の部下に向かって言った。
「黒死牟に伝えておけ。『後処理を終えたら宮崎に来い』とな」
「わかりました!」
部下の返事を聞くや否や、普段は使わない隠密行動用の車に乗り込み事務所を後にする。
こうして、鬼舞辻無惨は東京から消えた。
★☆★☆★☆
【平成? 令和? コソコソ噂話】
鬼舞辻無惨(キメツ学園版)
日本征服を企む悪い政治家。
本筋である【鬼滅の刃】と同様に産屋敷耀哉と仲が悪い。
本作でもある理由から例の花を探している。
相変わらず脊髄反射で物事を判断・処理するため、部下たちの心労は絶えない。
産屋敷の家系が持つ特有の直感により、よく悪事を暴かれては阻止されている。
今回の暴露も耀哉の所為。
悪事を暴かれては入院してやり過ごすため、世間の一部や政敵からは嘲りを込めて『病弱』という付箋を貼られている。
ただ、本作の無惨も生き汚いので、過去に何度も世間的に炎上していながら、すぐに復帰・復権してきた。
色々な悪事に手を出しているはずなのだが、不思議なことに逮捕歴がない。
一年間に平均二回は炎上するので、ネットの一部ではネタや玩具扱いされている。