【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
1話.リザーブ・ネイティブフェイス【壱】
八百万の神。
神とはいたるところにあるもの、そして同時に見えなく、形のないもの。
同じ位に立ち、そして力を持つ神にも、細かな差というものがある。それこそが信仰。
人はその思いを胸に、死してなおこの世に留まり、そして民の為に在ることによって、信仰と同時に更なる力を得る。
これこそが神霊。人が神へと成る、古来から続く世界の法則。
では、人ではないものなら?
元よりそこにあった、個人の霊ではない、漠然とした認識と信仰。
それらが練られ、そして形を成すことによって、もう1つの形の神は降臨する。
それこそが、八百万の神が一柱なのである。
――そして、ここに1人。
不満、怠惰、憎しみ、怒り。
輪郭を成すには不十分で、そして人に豊かさを与える神にしては、物騒な力の源。
これが本来、形を成して神と成るのは時間が足りず、あと数万年かかってもおかしくはない…筈だった。
しかしここに、神は生まれる。
「………………」
実り、そして日に照らされたかのように輝く、稲穂のような金色の髪。
白く輝く光と共に、それらが露わになって、そして残る身体を生成する。
俗に壺装束と呼ばれる、白と紫で彩られた衣服が靡く。
「……」
深く、温かみすら感じる緑。それが開かれた両目から放たれ、そして覚醒する。
その静かな佇まいからは、まるで荒ぶる海のような、それでいて鎮座する巨山の如き威圧感があった。
「…」
そして、新たに生まれたこの神が、地面に降り立つと同時に――
「ぶべっ!」
転んだ。
「ぺっぺっ!まっじナニコレ!?いつの間にゆ、め…が…」
うつらうつらである。
なんてことはない、朝早くに悲鳴を上げる、己の身体に鞭打って、わざわざ前の席を取ってまで、黒板に目を走らせた。
しかしその努力も報われず、至近距離から注がれる、教授の冷たいその視線。
だがそれでも睡魔には抗えぬ、そうして突如、頭が重く、がくりと落ちて――
「……ぇー、ここどこぉ…」
目が覚めれば森の中。
黒板はおろか、タイルに机もない、そもそも建物もないと来た。
建物も、だ。耳を凝らせば、現代日本ではありえないほどの静けさと、虫の鳴き声…そして鼻腔を擽る土の香り。
どこからどう見ても異常事態だ。
「落ち着け~…落ち着けおちつけおつけつ…」
うむうむと、首を捻って彼女は唸る。"彼"にとっての、ちっちゃなプライドのようなものか、あくまでも冷静に、今何が起きているのかを推測する。
そうだ、今一度思い返してみよう。自分は講義の最中、眠気に抗えず、そのまま頭をぐわんと揺らし――
気が付いたら、こう。
「いやわかんないってばよ」
哀しきかな、いくら思考を回転させて推理を羅列しようとも、この摩訶不思議な現状のことは、これっぽっちもわからない。
そもそも、今の自分がちゃんと冷静になれているのか、それすらもわかっていない。
いや、できていないだろう。何故なら"彼"が、最初に気づくであろう違和感に、今やっと気づいたのだから。
「…声違うし」
まるで鈴が転がるような、美しい少女の声。
ちなみに先ほどまでは、風邪で痛めたガラガラな男声だった。
「服も違うし…」
少なくとも、先ほどまで着ていた上白下黒の、ユ○クロで揃えられるような簡素なものだった。
こんな細かいところまでこだわった、鳥獣戯画の模様など入っていない。
金髪のショートボブ、紫と白の壺装束、やはりこれは――
「
――そう、どうやら自分は、あの某弾幕ゲームのキャラクター、洩矢諏訪子になってしまったらしい。
嬉しいか?勿論嬉しい、しかしそれより先に、困惑と恐れしかやって来ない。
それに何故かは知らないが、"彼"の知識内にある、あのカエル帽子はまだ存在していない。
だがその美しい顔立ちと、特徴的な服装のおかげで、すぐに答えを導くことができたのだ。
「ふむふむ…なるほど憑依転生か…あれ?転生でいいんかこれ?いや待て、そもそも私は死んだのか…?」
ぺたんとその辺の石に腰かけて、"彼女"はこれからのことを考える。
何故こうなったとか、離れ離れになった家族のことも大事だ。
友人のことも気になる、もしかしたらもう、一生会えなくなるかもしれないのだ。
――しかし今は、もっと重要なことがある。
「…あれ、諏訪子って確か…」
彼女はそう呟いて、少しサイズの合わない服の袖を、ブンブンと振りながら考える。
"彼"の知る中では、洩矢諏訪子は弾幕STG、東方風神録にてEXボスとして登場した人気キャラクターだ。
ある理由により、突如幻想入りを果たした守矢神社。そこで祀られている、隠れたもう一柱の神なのだが…
「…あれ、神奈子…」
守矢神社のもう1人の祭神、同じく風神録のボスであるキャラクター、八坂神奈子のことを思い出し、少女は「あっ!」と口を半開きにして、ふるふると震えだす。
そうだ、確か"彼"の知識の中では、かつて諏訪子と神奈子の2人は昔――
「諏訪、大戦…」
――それはまだ、日ノ本という国が存在する前の、遥か古代にあった出来事。
国と国が、別の国と民を掛けた戦いを繰り広げ、そして領土を拡大していった、当時あった戦争のほんの一部。
「諏訪子が、国譲りをして…」
古代神話として残された、諏訪大戦。
列島を制覇せんと、あらゆる強国を討ち果たし、そして我が物とした戦神、八坂神奈子と大和の国による侵略。
実力差を理解し、敗北を察した諏訪大国が、大和に信者と国そのものを譲ることで決着が付いた戦争。
「…つまり、今の私は諏訪子だから…」
そう、遠い未来で、自分に襲い掛かるのは――
「ウアアア負ケ戦ダーッ助ケテクレーッ」
悲痛な叫びが、森に響き渡った。
「嫌だよなぁ~?いくら原作があるからといってさぁ?はい!負けを認めます!はさぁ?」
あーうー!と、続けて放たれる彼女の叫び声も、辺りの自然はあるがままに受け入れる。
誰かに語り掛けるように、彼女はわざとらしく声を大きく、そして大げさに腕を広げて、表現をオーバーに、先ほどからこうして独り言を呟いていた。
「そもそも国の作り方とかわかんないし…何かの手違いで負けたら、そこで満身創痍!エンドかもしれないし…」
そもそも諏訪大戦で敗北し、それでもなお諏訪子が祭神として祀られていたのは、彼女が祟り神を統べる強大な神であるが故の、信仰の根強さがあった。
祟り神とは危険な荒御魂そのもの、敬い、信仰するには特に問題は無い…が、それでも危険な祟り神であることに変わりはない。
その祟りが自分に向かわないように信じる、だがその信じる行為をやめてしまったら?
だからこそ神奈子は守矢神社を作ったのだ、祟り神…洩矢諏訪子への信仰を捨てさせず、そして同時に自身への信仰も強くさせるための社を。
――そう、祟りを恐れられているからこそだ。
「やべー…もし私が全然恐れられないよーな、よわよわな神様だったら…うん、絶対ろくな事にならん…」
ぶくぶくぶく。彼女はいつの間に見つけたのか、自身の肩まで届くほどの深さの、泉の中に入り込み、鼻まで浸かって泡を作っていた。
…そもそも何故水の中に入ろうとしたのか、"彼"の中の理性が「いやこれはおかしい」と異議を唱え、そして拒否反応を起こしていた。
だが彼女は、何故かはわからないが、水の中に入りたい、ここは落ち着くと確信し、そして飛び込むようにそこに入った。
結果はこの通り。
(うーん…何故かは知らないけど息苦しくない…それに凄い安心感が…)
まだ蛙の要素はないのに。そう付け足して、彼女ははあっ…と更に空気を頬に溜め込む。
そうして一気にどぽんっ!と水中の中に沈み、目を見開いて衝撃を受けた。
透明に澄んだ、美しい水の中。
(凄い…水の中なのに…外にいるみたいによく見える…視界が濁ってない、綺麗…)
まるで自分が、ビー玉の中に溶け込んだかのように思えるほどの、その幻想的な景色を見て、彼女は言葉を失った。
人間だった頃。ここまで透明な水を見たことがあっただろうか、そしてこのクリアになった視界もだ。
――ここが、幻想の世界。
(…嗚呼、やっぱ帰らなくていいかも)
一気に浮上、そしてざぱんっ!と水飛沫をあげながら、彼女は身体の力を抜いて、上空を見上げる形で水面を漂う。
水に濡れたはずなのに、衣服からは重さを感じず、まるで肌の一部そのものであるかのような感触だ。
髪もそう、湿り気を帯びて、額にひっつきこそはしても、水を吸ったことによる重さで、頭皮が引っ張られる感覚もない。
「あ~~~~~~~~~…きもち~……」
少なくとも、この時代は最低でも、現代から遡って数万年前なのは確実だろう。
諏訪大戦…もとい諏訪大国が存在していたのは日本神話の時代。今自分がいる時代が、それからどの程度の誤差があるかはわからない。
だがしかし、時間の猶予はきっとあるはずだ。
「…戦い方、どうしようかなぁ…」
そういえばと、彼女はくるりと器用に一回転してから、再び陸上にあがってから背を伸ばす。
ぐーっと腕、そして足を伸ばしてつま先立ちになりながら、全身に力を込め、そして抜く。
ほどよく身体がほぐれると共に、水を吸っていたはずの服、そして髪がいつの間にか乾燥しており、ほんの少しあった肌の違和感もなくなった。
「お~っ?これはかなり便利だね…」
服も身体の一部…というのも、どうやら当たっているようだ。
神も妖怪も、人の思いによって、姿形が移ろいゆくもの、今はまだ感覚が掴めていないが、その気になれば変身だってできる筈。
だが今回のこれは、やはり洩矢諏訪子という、土着神特有の力が原因なのだろう。
「"
これこそが、土着神の頂点に立つ、洩矢諏訪子が自称する能力。
坤、とは八卦における地…大地、水、鉄に溶岩と、彼女が創造し、そして自由自在に操れる、神に相応しい規格外の異能だ。
「試してみるか…」
そう言って彼女は膝を丸めて、しゃがんで地面を見つめる。
自分の能力が上手く発動するなら…彼女が今から取り出そうとしている"あれ"も、問題なく出現するはずだ。
一呼吸置いて、彼女は手を地面に触れさせる。
「さて…」
そして、"彼"の記憶に残る言葉を、紡いだ。
「洩矢の鉄の輪」
ジャキン!そんな鋭利な金属の、空気を切り裂く快音が鳴り、彼女の手の内にそれが帰還する。
まるで地面から生えるように、土と金属、それらが合わさった拳大の塊が、瞬きする間に変化を完了させたのだ。
地面、そして彼女の手の平へと移動する間に、土塊が輪へと姿を変えて、そして今、それは完全な姿を見せた。
「お、おおおおおお…!」
感動。
もはや今の彼女、そして"彼"の意識はそれしかなく、わなわなと震えながら、その鉄の輪を撫でる。
おそるおそる、それをくるくると回転させ、そして喜ぶ。
「すっげぇ!すっげぇ!!」
ぴょんぴょん飛び跳ね、その感動と喜びを全力で表現する彼女の姿は、傍から見れば、とても愛くるしいもの。
しかしこんなのでも、土着神の頂点に立つ、祟り神を統べる王の素質を持った存在。
――そう、後の諏訪大国の王。
『――ア"、ぐ』
「はぇ?」
彼女は、その揺れる草木と謎の唸り声を聞いて、動きを止めて呆気にとられる。
そうして目の前に現れる、カサカサとした気味の悪い、それが放つ足音と土を抉る音。
――百足だ。
「…うそん」
ただ、
大きさもそうだが、何よりそれらが群を成し、規律の取れた動きで近づいて来ている。
一体一体が、"彼"の知る百足の数十倍はするサイズを誇っており、更に10数匹がひとまとまりときた。
彼らが、動く。
『――××う』
一歩、前に出る。
「あ、あわわわ…」
――いくら強い能力を持とうとも。
いくら、祟り神を統べる素質があろうとも。
『――ァア"××××!!!』
――百足たちが襲い掛かる。
そう、洩矢諏訪子は
「死ねオラアアアアアアッ!!!」
『ギャッ――』
べちゃっ。咄嗟に彼女が繰り出した、巨大な土のブロックが上空に現れ、そして百足たちを一斉に叩き潰す。
その突然の攻撃に反応できず、百足たちは仲良く一斉に、土に踏みつけられ、そして絶命した。
「はぁ…はぁ…」
勝者、洩矢諏訪子。
「キッショ、なんで向かってくるんだよ。マジでどうなってんだよお前はよぉ…」
圧勝である。
たとえ精神が元一般人であろうとも、それを凌駕するスペックを持ったボディ、それが洩矢諏訪子だ。
どれだけ蟲に苦手意識があろうと、今どれだけ技が未熟だろうと、この実力差はどうやっても覆せない。
どうしようもない性能差、それがこの両者の間にはあった。
「うへぇ…ぶちっつったよ…キッショ、いやキッショ…」
そろ~り。ゆっくりと今生成した土の塊を指で起こして、そしてその裏側にへばりついた百足の死体を見る。
そのあまりにもあんまりな、グロテスクな光景に思わず吐き気を催して、すぐに土を元に戻した。
つい咄嗟にやったことだが、どうやら能力は既に、自然と扱えるようになっているらしい。
「…………あん?」
そしてふと、彼女は地面に別の気配を感じて、そこに目を向けて、もう一度「げっ!」と声を漏らした。
先ほどの攻撃から、運よく逃れることに成功したのだろうか、そこには1匹の百足がいた。
しかし先ほどまでの元気はなく、動きも鈍く、なにより覇気がない。
まさか。
「え、もしかして君…HP共有型?」
そーっと指先でつんつんと突いて、彼女はピクピク震える百足にそう問う。
百足はその指を黙って受け入れ、それどころかこてんっとひっくり返って、そのまま動きを止めた。
…動く気配はない。
「…………死んだ?」
『×××…』
「あ、死んでねーや」
どうやら、まだギリギリ息があるようだ。
裏返ったまま、足だけをカサカサ揺らすその動きは、控えめに言っても気持ち悪い。
それを確認した後、彼女は腕を組んで、そして首を捻ってから呟いた。
「うーん…どうしよっかな」
彼女が悩み、そして考えることは、勿論これからのことである。
自分が回避するべきこと、逆に必ず成さなければならないこと、それらを頭の中でピックアップし、そして優先順位を決める。
そして、真っ先に決まったのは――
「とりあえず、住居だよなぁ…」
寝床である。
「うーん…最悪土壁を作って、雨風を防げればいいしなぁ…」
坤を操る能力があれば、建築という分野に関しての問題は特に心配はいらないだろう。
地盤の問題は言わずもがな、土による、耐久度の高い壁の作成と、植物を操ることでの木材の確保。
強いて言えば材料の加工が問題だが…鉄の輪を作り出すことができることから、鉄材の確保…そして刃物の心配はいらない。
つまり懸念するべきは…
――つんっ
「ん?」
彼女の背中から、生暖かいやら冷たいやら、何とも言えない不思議な感覚を送られる。
本来、死角から襲い掛かる感触とやらに、人は驚き平常心を失うのだろうが、何故か今回、彼女はそれがなかった。
まるで知っている誰かから、声を掛けられたかのような――
『シャーッ』
「はえ?」
振り向いた先にいたのは、自身の顔に匹敵するほどの大きさの、赤い瞳。
白。雲のように優しい白色の、鱗を纏った巨大な蛇が、そこにいた。
呆気に取られて、口を半開きにする彼女の前で、その蛇は変わらない姿勢で、ちろちろと舌の出し入れを繰り返す。
そんなこの蛇の姿も、"彼"の知識の中にあった。
「…もしやミシャグジ様?」
『シャーッ!』
どうやら正解らしい。
『シャーッ!』
「お、おおう…わかった、わかったって」
『シャッ!シャーッ…、』
「む、ぐぐぐ…」
べったりである。
「もっと構って!」「もっと撫でて!」と言わんばかりに身体に巻き付き、そして額をこちらに当ててくるその仕草。
巨大な蛇という、"彼"の中ではありえない、現実を嘲笑う超常の存在も、今の彼女にとっては可愛いペットの1匹である。
ちろちろと、白蛇の舌が頬を擽る。
『……♡』
「こりゃ随分と好かれたもんだ…」
何故、いつの間に?という疑問はあるが…今は正直、彼女にとってはどうでもよかった。
たとえ蛇だろうが、人間じゃなかろうがどうでもいい、今の孤独な自分にとっては、誰かがいるというのは、何事にも代えられない幸福なのだから。
そんな時だった。
『…♡~~!』
「ん?」
ポコッ。音にするとそんな感じだろうか。
足元から鳴る水泡の破裂したかのような音が、彼女の耳に入った。
なんだと視線を下に向ければ、そこには植物の芽が。
――いや、おかしい。
「は?能力使ってないのになん、で…って」
『♡♡♡』
「…お前かい」
どうやら、今の今まで問題なく能力を発動できていたのは、この白蛇のおかげだったらしい。
そういえば…と、"彼"の中の知識が反応し、違和感の解消が始まった。
確かそうだ、どこで見た知識だったか…"坤を創造する程度の能力"は、正確には洩矢諏訪子自身の能力ではなく、彼女が支配下に置いた祟り神の力だったか。
と、いうことはだ。
「さっきまでのも、全部君の力ってわけか…」
『ッ!~~♡!!』
「凄いね~よしよし」
なでなでなでなで…
少女特有の柔らかく丸っこい手を使って、彼女は白蛇の顎を優しく摩る。
白蛇は目を細め、更に強くぎゅうぎゅうと頭を押し付けて、その喜びを全身で表現した。
その愛らしい姿を見てると、本当に祟り神なのかと疑ってしまうほどだ。
『……?』
「うーんよしよし……ありゃ、どした?」
突如ぴたりと動きを止め、白蛇は目を細め、鎌首をもたげて視線を下へ向ける。
視線の先には、今だひっくり返ったまま足をジタバタさせている、あの百足の生き残り。
白蛇が口を開く。
『…………』
「え、なになにどした…」
そして。
『シャーッ!』
『×ギャッ××!×!』
白蛇の放った紫の吐息が、百足の身体を包み込んだ。
「はぃいいいいっ!?」
――その変化はすぐに訪れた。
白蛇の放った吐息…おそらくはミシャグジ様の瘴気によるものだろう。
一瞬、身体をビクン!と痙攣させて、百足は音にならない絶叫を零しながら、みるみるうちに丸くなっていく。
漆黒に染まる外骨格、おどろおどろしい妖力による威圧感が消え失せ、代わりにある物が出来上がった。
「…玉?」
まるでアイスクリームのように、ミラーボールのように絶妙に色が混ざり合い、そして発光している謎の球体。
先程まで真っ黒だった筈の、その百足は白と水色に輝く球体に変化し、その存在感を放っていた。
「…………………」
――
「…いやいやいや」
――いくらなんでもそれはおかしい。
"彼"の中の理性が声を荒らげる、抗議する、否定する。
だが、それを塗り潰す大きさの欲が、"彼女"が、それを求めていた。
「……」
その球体を手に取る。
「…んあ」
そしてそれを。
「…………んぐっ」
――飲み込んだ。
「…割と美味い」
ゴクリ。
その少し大きめの球体を口に咥え、そして喉に引っかからないよう、勢いをつけて飲み込んだ。
害?そんなものがあるわけがない、むしろ気味が悪いくらいには、身体は絶好調をキープしていた。
「…………」
そして、同時に頭に流れ込む情報。
あの、百足だったものが喉を通り、そして胃に落ちたと同時に溶けて、五臓六腑に染み渡る。
そんな感覚と共に、彼女は新たなその力を、右手を眺めながら実感した。
「…来い」
そう彼女が命じれば、"それ"はすぐに現れる。
カサカサカサ…彼女の腕を、指を這う形で姿を見せる、数多の百足たち。
先ほどまでと違い、そこには妖力ではなく、れっきとした祟り神としての、自身と同じ神力が宿っていた。
『…?』
「おいで、ミシャグジ様」
彼女は、先ほどまでの狼狽えた様子も、慌てふためく目線も抑え込み、白蛇の額をさらりと撫でる。
そして白蛇は目を細める。相変わらず、撫でられることが嬉しいようだ。
『…♪』
「大丈夫、これで勝ちが見えてきた」
何の因果だろうか、正にギフトと言ってもいい、最初から与えられた、ミシャグジ様という最上級の祟り神だけでなく、こうして新たに支配下に置いた、
気の遠くなる作業だ。妖怪、人間。この世界に存在する様々な信仰の形と、そして生命体そのもの。
それら全てが、今の自分、洩矢諏訪子の武器となるもの。
――今の自分にできること。
「私は…」
そして、彼女は決心する。
「――諏訪大戦に勝ってやる」
以前より文章力も上がってるかな、続きは土曜の8時に。
領域展開(東方ナイズさせたヤツ)見たいですか?
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作者のネーミングセンスを信じる
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「領域展開!」だけで
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なくてもいい