【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

1 / 147
 昔の東方二次っぽさを意識してます


【第1部】1章:土着戴天
1話.リザーブ・ネイティブフェイス【壱】


 八百万の神。

 神とはいたるところにあるもの、そして同時に見えなく、形のないもの。

 同じ位に立ち、そして力を持つ神にも、細かな差というものがある。それこそが信仰。

 人はその思いを胸に、死してなおこの世に留まり、そして民の為に在ることによって、信仰と同時に更なる力を得る。

 これこそが神霊。人が神へと成る、古来から続く世界の法則。

 

 では、人ではないものなら?

 

 元よりそこにあった、個人の霊ではない、漠然とした認識と信仰。

 それらが練られ、そして形を成すことによって、もう1つの形の神は降臨する。

 それこそが、八百万の神が一柱なのである。

 

 ――そして、ここに1人。

 

 不満、怠惰、憎しみ、怒り。

 輪郭を成すには不十分で、そして人に豊かさを与える神にしては、物騒な力の源。

 これが本来、形を成して神と成るのは時間が足りず、あと数万年かかってもおかしくはない…筈だった。

 しかしここに、神は生まれる。

 

「………………」

 

 実り、そして日に照らされたかのように輝く、稲穂のような金色の髪。

 白く輝く光と共に、それらが露わになって、そして残る身体を生成する。

 俗に壺装束と呼ばれる、白と紫で彩られた衣服が靡く。

 

「……」

 

 深く、温かみすら感じる緑。それが開かれた両目から放たれ、そして覚醒する。

 その静かな佇まいからは、まるで荒ぶる海のような、それでいて鎮座する巨山の如き威圧感があった。

 

「…」

 

 そして、新たに生まれたこの神が、地面に降り立つと同時に――

 

「ぶべっ!」

 

 転んだ。

 

 

 

 

 

「ぺっぺっ!まっじナニコレ!?いつの間にゆ、め…が…」

 

 うつらうつらである。

 なんてことはない、朝早くに悲鳴を上げる、己の身体に鞭打って、わざわざ前の席を取ってまで、黒板に目を走らせた。

 しかしその努力も報われず、至近距離から注がれる、教授の冷たいその視線。

 だがそれでも睡魔には抗えぬ、そうして突如、頭が重く、がくりと落ちて――

 

「……ぇー、ここどこぉ…」

 

 目が覚めれば森の中。

 黒板はおろか、タイルに机もない、そもそも建物もないと来た。

 建物も、だ。耳を凝らせば、現代日本ではありえないほどの静けさと、虫の鳴き声…そして鼻腔を擽る土の香り。

 どこからどう見ても異常事態だ。

 

「落ち着け~…落ち着けおちつけおつけつ…」

 

 うむうむと、首を捻って彼女は唸る。"彼"にとっての、ちっちゃなプライドのようなものか、あくまでも冷静に、今何が起きているのかを推測する。

 そうだ、今一度思い返してみよう。自分は講義の最中、眠気に抗えず、そのまま頭をぐわんと揺らし――

 気が付いたら、こう。

 

「いやわかんないってばよ」

 

 哀しきかな、いくら思考を回転させて推理を羅列しようとも、この摩訶不思議な現状のことは、これっぽっちもわからない。

 そもそも、今の自分がちゃんと冷静になれているのか、それすらもわかっていない。

 いや、できていないだろう。何故なら"彼"が、最初に気づくであろう違和感に、今やっと気づいたのだから。

 

「…声違うし」

 

 まるで鈴が転がるような、美しい少女の声。

 ちなみに先ほどまでは、風邪で痛めたガラガラな男声だった。

 

「服も違うし…」

 

 少なくとも、先ほどまで着ていた上白下黒の、ユ○クロで揃えられるような簡素なものだった。

 こんな細かいところまでこだわった、鳥獣戯画の模様など入っていない。

 金髪のショートボブ、紫と白の壺装束、やはりこれは――

 

洩矢(もりや)諏訪子(すわこ)じゃねぇかよぉ…」

 

 ――そう、どうやら自分は、あの某弾幕ゲームのキャラクター、洩矢諏訪子になってしまったらしい。

 嬉しいか?勿論嬉しい、しかしそれより先に、困惑と恐れしかやって来ない。

 それに何故かは知らないが、"彼"の知識内にある、あのカエル帽子はまだ存在していない。

 だがその美しい顔立ちと、特徴的な服装のおかげで、すぐに答えを導くことができたのだ。

 

「ふむふむ…なるほど憑依転生か…あれ?転生でいいんかこれ?いや待て、そもそも私は死んだのか…?」

 

 ぺたんとその辺の石に腰かけて、"彼女"はこれからのことを考える。

 何故こうなったとか、離れ離れになった家族のことも大事だ。

 友人のことも気になる、もしかしたらもう、一生会えなくなるかもしれないのだ。

 ――しかし今は、もっと重要なことがある。

 

「…あれ、諏訪子って確か…」

 

 彼女はそう呟いて、少しサイズの合わない服の袖を、ブンブンと振りながら考える。

 "彼"の知る中では、洩矢諏訪子は弾幕STG、東方風神録にてEXボスとして登場した人気キャラクターだ。

 ある理由により、突如幻想入りを果たした守矢神社。そこで祀られている、隠れたもう一柱の神なのだが…

 

「…あれ、神奈子…」

 

 守矢神社のもう1人の祭神、同じく風神録のボスであるキャラクター、八坂神奈子のことを思い出し、少女は「あっ!」と口を半開きにして、ふるふると震えだす。

 そうだ、確か"彼"の知識の中では、かつて諏訪子と神奈子の2人は昔――

 

「諏訪、大戦…」

 

 ――それはまだ、日ノ本という国が存在する前の、遥か古代にあった出来事。

 国と国が、別の国と民を掛けた戦いを繰り広げ、そして領土を拡大していった、当時あった戦争のほんの一部。

 

「諏訪子が、国譲りをして…」

 

 古代神話として残された、諏訪大戦。

 列島を制覇せんと、あらゆる強国を討ち果たし、そして我が物とした戦神、八坂神奈子と大和の国による侵略。

 実力差を理解し、敗北を察した諏訪大国が、大和に信者と国そのものを譲ることで決着が付いた戦争。

 

「…つまり、今の私は諏訪子だから…」

 

 そう、遠い未来で、自分に襲い掛かるのは――

 

 

 

 

「ウアアア負ケ戦ダーッ助ケテクレーッ」

 

 

 

 

 悲痛な叫びが、森に響き渡った。

 

 

 

 


 

 

 

 

「嫌だよなぁ~?いくら原作があるからといってさぁ?はい!負けを認めます!はさぁ?」

 

 あーうー!と、続けて放たれる彼女の叫び声も、辺りの自然はあるがままに受け入れる。

 誰かに語り掛けるように、彼女はわざとらしく声を大きく、そして大げさに腕を広げて、表現をオーバーに、先ほどからこうして独り言を呟いていた。

 

「そもそも国の作り方とかわかんないし…何かの手違いで負けたら、そこで満身創痍!エンドかもしれないし…」

 

 そもそも諏訪大戦で敗北し、それでもなお諏訪子が祭神として祀られていたのは、彼女が祟り神を統べる強大な神であるが故の、信仰の根強さがあった。

 祟り神とは危険な荒御魂そのもの、敬い、信仰するには特に問題は無い…が、それでも危険な祟り神であることに変わりはない。

 その祟りが自分に向かわないように信じる、だがその信じる行為をやめてしまったら?

 だからこそ神奈子は守矢神社を作ったのだ、祟り神…洩矢諏訪子への信仰を捨てさせず、そして同時に自身への信仰も強くさせるための社を。

 ――そう、祟りを恐れられているからこそだ。

 

「やべー…もし私が全然恐れられないよーな、よわよわな神様だったら…うん、絶対ろくな事にならん…」

 

 ぶくぶくぶく。彼女はいつの間に見つけたのか、自身の肩まで届くほどの深さの、泉の中に入り込み、鼻まで浸かって泡を作っていた。

 …そもそも何故水の中に入ろうとしたのか、"彼"の中の理性が「いやこれはおかしい」と異議を唱え、そして拒否反応を起こしていた。

 だが彼女は、何故かはわからないが、水の中に入りたい、ここは落ち着くと確信し、そして飛び込むようにそこに入った。

 結果はこの通り。

 

(うーん…何故かは知らないけど息苦しくない…それに凄い安心感が…)

 

 まだ蛙の要素はないのに。そう付け足して、彼女ははあっ…と更に空気を頬に溜め込む。

 そうして一気にどぽんっ!と水中の中に沈み、目を見開いて衝撃を受けた。

 透明に澄んだ、美しい水の中。

 

(凄い…水の中なのに…外にいるみたいによく見える…視界が濁ってない、綺麗…)

 

 まるで自分が、ビー玉の中に溶け込んだかのように思えるほどの、その幻想的な景色を見て、彼女は言葉を失った。

 人間だった頃。ここまで透明な水を見たことがあっただろうか、そしてこのクリアになった視界もだ。

 ――ここが、幻想の世界。

 

(…嗚呼、やっぱ帰らなくていいかも)

 

 一気に浮上、そしてざぱんっ!と水飛沫をあげながら、彼女は身体の力を抜いて、上空を見上げる形で水面を漂う。

 水に濡れたはずなのに、衣服からは重さを感じず、まるで肌の一部そのものであるかのような感触だ。

 髪もそう、湿り気を帯びて、額にひっつきこそはしても、水を吸ったことによる重さで、頭皮が引っ張られる感覚もない。

 

「あ~~~~~~~~~…きもち~……」

 

 少なくとも、この時代は最低でも、現代から遡って数万年前なのは確実だろう。

 諏訪大戦…もとい諏訪大国が存在していたのは日本神話の時代。今自分がいる時代が、それからどの程度の誤差があるかはわからない。

 だがしかし、時間の猶予はきっとあるはずだ。

 

「…戦い方、どうしようかなぁ…」

 

 そういえばと、彼女はくるりと器用に一回転してから、再び陸上にあがってから背を伸ばす。

 ぐーっと腕、そして足を伸ばしてつま先立ちになりながら、全身に力を込め、そして抜く。

 ほどよく身体がほぐれると共に、水を吸っていたはずの服、そして髪がいつの間にか乾燥しており、ほんの少しあった肌の違和感もなくなった。

 

「お~っ?これはかなり便利だね…」

 

 服も身体の一部…というのも、どうやら当たっているようだ。

 神も妖怪も、人の思いによって、姿形が移ろいゆくもの、今はまだ感覚が掴めていないが、その気になれば変身だってできる筈。

 だが今回のこれは、やはり洩矢諏訪子という、土着神特有の力が原因なのだろう。

 

「"(こん)を創造する程度の能力"…司るのは"地"そのものだから…なるほど、水も能力の対象に入ってるのか」

 

 これこそが、土着神の頂点に立つ、洩矢諏訪子が自称する能力。

 坤、とは八卦における地…大地、水、鉄に溶岩と、彼女が創造し、そして自由自在に操れる、神に相応しい規格外の異能だ。

 

「試してみるか…」

 

 そう言って彼女は膝を丸めて、しゃがんで地面を見つめる。

 自分の能力が上手く発動するなら…彼女が今から取り出そうとしている"あれ"も、問題なく出現するはずだ。

 一呼吸置いて、彼女は手を地面に触れさせる。

 

「さて…」

 

 そして、"彼"の記憶に残る言葉を、紡いだ。

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 ジャキン!そんな鋭利な金属の、空気を切り裂く快音が鳴り、彼女の手の内にそれが帰還する。

 まるで地面から生えるように、土と金属、それらが合わさった拳大の塊が、瞬きする間に変化を完了させたのだ。

 地面、そして彼女の手の平へと移動する間に、土塊が輪へと姿を変えて、そして今、それは完全な姿を見せた。

 

「お、おおおおおお…!」

 

 感動。

 もはや今の彼女、そして"彼"の意識はそれしかなく、わなわなと震えながら、その鉄の輪を撫でる。

 おそるおそる、それをくるくると回転させ、そして喜ぶ。

 

「すっげぇ!すっげぇ!!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ね、その感動と喜びを全力で表現する彼女の姿は、傍から見れば、とても愛くるしいもの。

 しかしこんなのでも、土着神の頂点に立つ、祟り神を統べる王の素質を持った存在。

 ――そう、後の諏訪大国の王。

 

『――ア"、ぐ』

「はぇ?」

 

 彼女は、その揺れる草木と謎の唸り声を聞いて、動きを止めて呆気にとられる。

 そうして目の前に現れる、カサカサとした気味の悪い、それが放つ足音と土を抉る音。

 ――百足だ。

 

「…うそん」

 

 ただ、()()()()()()

 大きさもそうだが、何よりそれらが群を成し、規律の取れた動きで近づいて来ている。

 一体一体が、"彼"の知る百足の数十倍はするサイズを誇っており、更に10数匹がひとまとまりときた。

 彼らが、動く。

 

『――××う』

 

 一歩、前に出る。

 

「あ、あわわわ…」

 

 ――いくら強い能力を持とうとも。

 いくら、祟り神を統べる素質があろうとも。

 

『――ァア"××××!!!』

 

 ――百足たちが襲い掛かる。

 そう、洩矢諏訪子は()()()

 ()は、まだ――

 

 

 

 

 

「死ねオラアアアアアアッ!!!」

『ギャッ――』

 

 べちゃっ。咄嗟に彼女が繰り出した、巨大な土のブロックが上空に現れ、そして百足たちを一斉に叩き潰す。

 その突然の攻撃に反応できず、百足たちは仲良く一斉に、土に踏みつけられ、そして絶命した。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 勝者、洩矢諏訪子。

 

「キッショ、なんで向かってくるんだよ。マジでどうなってんだよお前はよぉ…」

 

 圧勝である。

 たとえ精神が元一般人であろうとも、それを凌駕するスペックを持ったボディ、それが洩矢諏訪子だ。

 どれだけ蟲に苦手意識があろうと、今どれだけ技が未熟だろうと、この実力差はどうやっても覆せない。

 どうしようもない性能差、それがこの両者の間にはあった。

 

「うへぇ…ぶちっつったよ…キッショ、いやキッショ…」

 

 そろ~り。ゆっくりと今生成した土の塊を指で起こして、そしてその裏側にへばりついた百足の死体を見る。

 そのあまりにもあんまりな、グロテスクな光景に思わず吐き気を催して、すぐに土を元に戻した。

 つい咄嗟にやったことだが、どうやら能力は既に、自然と扱えるようになっているらしい。

 

「…………あん?」

 

 そしてふと、彼女は地面に別の気配を感じて、そこに目を向けて、もう一度「げっ!」と声を漏らした。

 先ほどの攻撃から、運よく逃れることに成功したのだろうか、そこには1匹の百足がいた。

 しかし先ほどまでの元気はなく、動きも鈍く、なにより覇気がない。

 まさか。

 

「え、もしかして君…HP共有型?」

 

 そーっと指先でつんつんと突いて、彼女はピクピク震える百足にそう問う。

 百足はその指を黙って受け入れ、それどころかこてんっとひっくり返って、そのまま動きを止めた。

 …動く気配はない。

 

「…………死んだ?」

『×××…』

「あ、死んでねーや」

 

 どうやら、まだギリギリ息があるようだ。

 裏返ったまま、足だけをカサカサ揺らすその動きは、控えめに言っても気持ち悪い。

 それを確認した後、彼女は腕を組んで、そして首を捻ってから呟いた。

 

「うーん…どうしよっかな」

 

 彼女が悩み、そして考えることは、勿論これからのことである。

 自分が回避するべきこと、逆に必ず成さなければならないこと、それらを頭の中でピックアップし、そして優先順位を決める。

 そして、真っ先に決まったのは――

 

「とりあえず、住居だよなぁ…」

 

 寝床である。

 

「うーん…最悪土壁を作って、雨風を防げればいいしなぁ…」

 

 坤を操る能力があれば、建築という分野に関しての問題は特に心配はいらないだろう。

 地盤の問題は言わずもがな、土による、耐久度の高い壁の作成と、植物を操ることでの木材の確保。

 強いて言えば材料の加工が問題だが…鉄の輪を作り出すことができることから、鉄材の確保…そして刃物の心配はいらない。

 つまり懸念するべきは…

 

 ――つんっ

 

「ん?」

 

 彼女の背中から、生暖かいやら冷たいやら、何とも言えない不思議な感覚を送られる。

 本来、死角から襲い掛かる感触とやらに、人は驚き平常心を失うのだろうが、何故か今回、彼女はそれがなかった。

 まるで知っている誰かから、声を掛けられたかのような――

 

『シャーッ』

「はえ?」

 

 振り向いた先にいたのは、自身の顔に匹敵するほどの大きさの、赤い瞳。

 白。雲のように優しい白色の、鱗を纏った巨大な蛇が、そこにいた。

 呆気に取られて、口を半開きにする彼女の前で、その蛇は変わらない姿勢で、ちろちろと舌の出し入れを繰り返す。

 そんなこの蛇の姿も、"彼"の知識の中にあった。

 

「…もしやミシャグジ様?」

『シャーッ!』

 

 どうやら正解らしい。

 

 

 

 


 

 

 

 

『シャーッ!』

「お、おおう…わかった、わかったって」

『シャッ!シャーッ…、』

「む、ぐぐぐ…」

 

 べったりである。

 「もっと構って!」「もっと撫でて!」と言わんばかりに身体に巻き付き、そして額をこちらに当ててくるその仕草。

 巨大な蛇という、"彼"の中ではありえない、現実を嘲笑う超常の存在も、今の彼女にとっては可愛いペットの1匹である。

 ちろちろと、白蛇の舌が頬を擽る。

 

『……♡』

「こりゃ随分と好かれたもんだ…」

 

 何故、いつの間に?という疑問はあるが…今は正直、彼女にとってはどうでもよかった。

 たとえ蛇だろうが、人間じゃなかろうがどうでもいい、今の孤独な自分にとっては、誰かがいるというのは、何事にも代えられない幸福なのだから。

 そんな時だった。

 

『…♡~~!』

「ん?」

 

 ポコッ。音にするとそんな感じだろうか。

 足元から鳴る水泡の破裂したかのような音が、彼女の耳に入った。

 なんだと視線を下に向ければ、そこには植物の芽が。

 ――いや、おかしい。

 

「は?能力使ってないのになん、で…って」

『♡♡♡』

「…お前かい」

 

 どうやら、今の今まで問題なく能力を発動できていたのは、この白蛇のおかげだったらしい。

 そういえば…と、"彼"の中の知識が反応し、違和感の解消が始まった。

 確かそうだ、どこで見た知識だったか…"坤を創造する程度の能力"は、正確には洩矢諏訪子自身の能力ではなく、彼女が支配下に置いた祟り神の力だったか。

 と、いうことはだ。

 

「さっきまでのも、全部君の力ってわけか…」

『ッ!~~♡!!』

「凄いね~よしよし」

 

 なでなでなでなで…

 少女特有の柔らかく丸っこい手を使って、彼女は白蛇の顎を優しく摩る。

 白蛇は目を細め、更に強くぎゅうぎゅうと頭を押し付けて、その喜びを全身で表現した。

 その愛らしい姿を見てると、本当に祟り神なのかと疑ってしまうほどだ。

 

『……?』

「うーんよしよし……ありゃ、どした?」

 

 突如ぴたりと動きを止め、白蛇は目を細め、鎌首をもたげて視線を下へ向ける。

 視線の先には、今だひっくり返ったまま足をジタバタさせている、あの百足の生き残り。

 白蛇が口を開く。

 

『…………』

「え、なになにどした…」

 

 そして。

 

『シャーッ!』

『×ギャッ××!×!』

 

 白蛇の放った紫の吐息が、百足の身体を包み込んだ。

 

「はぃいいいいっ!?」

 

 ――その変化はすぐに訪れた。

 白蛇の放った吐息…おそらくはミシャグジ様の瘴気によるものだろう。

 一瞬、身体をビクン!と痙攣させて、百足は音にならない絶叫を零しながら、みるみるうちに丸くなっていく。

 漆黒に染まる外骨格、おどろおどろしい妖力による威圧感が消え失せ、代わりにある物が出来上がった。

 

「…玉?」

 

 まるでアイスクリームのように、ミラーボールのように絶妙に色が混ざり合い、そして発光している謎の球体。

 先程まで真っ黒だった筈の、その百足は白と水色に輝く球体に変化し、その存在感を放っていた。

 

「…………………」

 

 ――()()()()()

 

「…いやいやいや」

 

 ――いくらなんでもそれはおかしい。

 "彼"の中の理性が声を荒らげる、抗議する、否定する。

 だが、それを塗り潰す大きさの欲が、"彼女"が、それを求めていた。

 

「……」

 

 その球体を手に取る。

 

「…んあ」

 

 そしてそれを。

 

「…………んぐっ」

 

 ――飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「…割と美味い」

 

 ゴクリ。

 その少し大きめの球体を口に咥え、そして喉に引っかからないよう、勢いをつけて飲み込んだ。

 害?そんなものがあるわけがない、むしろ気味が悪いくらいには、身体は絶好調をキープしていた。

 

「…………」

 

 そして、同時に頭に流れ込む情報。

 あの、百足だったものが喉を通り、そして胃に落ちたと同時に溶けて、五臓六腑に染み渡る。

 そんな感覚と共に、彼女は新たなその力を、右手を眺めながら実感した。

 

「…来い」

 

 そう彼女が命じれば、"それ"はすぐに現れる。

 カサカサカサ…彼女の腕を、指を這う形で姿を見せる、数多の百足たち。

 先ほどまでと違い、そこには妖力ではなく、れっきとした祟り神としての、自身と同じ神力が宿っていた。

 

『…?』

「おいで、ミシャグジ様」

 

 彼女は、先ほどまでの狼狽えた様子も、慌てふためく目線も抑え込み、白蛇の額をさらりと撫でる。

 そして白蛇は目を細める。相変わらず、撫でられることが嬉しいようだ。

 

『…♪』

「大丈夫、これで勝ちが見えてきた」

 

 何の因果だろうか、正にギフトと言ってもいい、最初から与えられた、ミシャグジ様という最上級の祟り神だけでなく、こうして新たに支配下に置いた、()()()()()()()()()

 気の遠くなる作業だ。妖怪、人間。この世界に存在する様々な信仰の形と、そして生命体そのもの。

 それら全てが、今の自分、洩矢諏訪子の武器となるもの。

 ――今の自分にできること。

 

「私は…」

 

 そして、彼女は決心する。

 

「――諏訪大戦に勝ってやる」




 以前より文章力も上がってるかな、続きは土曜の8時に。

領域展開(東方ナイズさせたヤツ)見たいですか?

  • 作者のネーミングセンスを信じる
  • 「領域展開!」だけで
  • なくてもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。