【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
決着がついた。
「はぁッ………うう"ェ………!」
『原頭喫水染』の崩壊。そして続けて、呼び寄せた舟の顕在持続時間の限界。
脳が焼き切れそうな。…いや、実際にはもう、人間であれば、もう既に焼き切れている程の負荷が、村紗の演算領域を圧迫していた。
それが終わり。ようやく訪れた平穏、村紗は己の外聞を度外視し、楽になる為に。
それに抗うことなく――
「ぅッ…ぉおおお"お"え"っ"!」
ビチャビチャッ!と、滝のように胃液を吐き。
同時に、鼻と口、耳からも血を垂れ流しながら、蹲る。
「ゲホッ…ガハッ…………ぅぷっ…ォっ……」
あまりにも多すぎる血液。
それが喉元に引っかかり、しばらく咳き込むと、粘性の高い、ゼリーのような塊の血が排出され、それが地面に吐き捨てられる。
そして、嘔吐の奔流を遮っていた障害物が排除され、また。
「ぉおおお"お"えええ"っ"!!」
もう一度、嘔吐した。
胃液ではなく、今度は正真正銘の血液そのもの。
戦いの最中、数多の負傷で失った肉片や骨、そして血を新しく一から生成し、逆に古いものを排出しているからだ。
その姿は、あまりにも痛々しくて、見ていられない。
(クソ…『領域展開』…なんて妖力の消費量…!意識を持たせないと、下手すれば消えるかも…!)
それほどまでに、村紗は限界だった。
領域展開。それは正に切り札と呼ぶべき強力な効果だ。
これを極めれば、それこそ
だが…とてもではないが、扱いやすいなどとは口が裂けても言えない。
死ぬ気で振り絞り、節約し、回復した微量な妖力を追加しても、これだ。
弱体化したとはいえ、一人の船幽霊の妖力をほとんど、それも村紗の命を削る程の消費だ。
何度も使い、鍛え、効率を高めればその限りでもないのだろうが…今はそんな余裕など、ない。
ふと、視線を向ける。
「あいつは…………」
舟が消え、目の前の地面にあるのは、巨大な血と肉の染み。
一片の内臓や肉、そして骨すら残っていない、木端微塵の状態で。
それはあの少女――藤原妹紅の死亡が、確定した何よりの証明でもあった。
「…」
殺した。
船幽霊としての生を受け、白蓮に救われて。
彼女を救う為という、大義名分を掲げて――殺した。
二度と、それはしないと誓った筈なのに。
「約束」と、そう言って笑い、自分を受け入れてくれた白蓮の、優しい笑顔が脳裏を過ぎる。
「………ごめん」
所詮、自分は人でなしの存在だ。
ただ存在が変容しただけで、今も
毘沙門天の英知、加護を引き受け、人の心を得た星とも違う。
自分所詮。こうやって簡単に、人との誓いを無下にできるのだと。
ズキリと、胸が痛む音がした。
「ッそうだ、聖…!」
だが、罪悪感に苦しむより先に、村紗にはやらねばならない事がある。
思考を切り替え、すぐに彼女は、視線を先ほどの惨状、屋敷に広がる赤の染みから逸らし、白蓮の気配がする場所に向け。
――違和感。
「ッ――!?」
――焦燥。
――悪寒。
村紗は凄まじい勢いで、視線をもう一度、先ほどの場所に。
そう、妹紅を圧殺し、その残骸が床に染み込んでいた、あの場所に向けて――
「な」
絶句した。
――そこには、何もない。
「なに――」
あの、おびただしい量の血が。
天井にまでへばりついていた、飛び散った内臓だったもの。
肉と骨が、互いに判別が付かなくなる程に崩壊し、混ざり合ったモノが。
全て、消えていた。
幻覚?違う。
あれは本物の"死"だ、本物の死体だ。
目の前で絶命し、人間だったものに成り下がった、哀れな骸だった筈だ。
赤を見た。
匂いを嗅いだ。
直接、殺した感触もした。
なのに、いない。
村紗は驚愕し、そして息を吞む。
「が」
――言葉は、それ以上続かなかった。
「デスパレートクロー」
胸から突き出す、熱い炎。
御伽話の龍のような、鋭く尖った、その鉤爪を、村紗は知っている。
視線を背後に向ければ、数秒ぶりに見た、あの白髪――
――藤原妹紅が、そこにいた。
――何故、いつの間に背後に。
――何故、殺した筈だ。
――お前は、さっき間違いなく死んだだろう。
浮かび上がるあらゆる驚愕の言葉。
だが、そのどれもが、口から出ることは叶わず。
そのまま、村紗は腹を裂かれ、意識を――
口内に染みる、鉄の味がずっと止まらない。
白蓮は先ほどからずっと、防戦一方とも呼べぬ、戦い未満の醜態を晒していた。
妹紅が動き、その拳を振り抜く。
それを、白蓮は腕を挟んで衝撃を緩和することすらせず、黙って受け入れ。
無抵抗の、償いになんてならない、ただの嬲りを受けていた。
「ふざけるな」
蹴りが炸裂する。
倒れ込む白蓮に追い打ちをかける、鳩尾を正確に狙った全力の蹴り。
白蓮の身体が浮き、音にならぬ悲鳴が、彼女の口から零れた。
その次に、妹紅がもう片方の足で、その身体を穿つように蹴る。
右足で相手を浮かせる蹴りとは違う。左足で放たれたそれは、壁に穴を開けるかのように、鋭く重い、一点に己の体重を乗せた一撃。
最悪は内臓が破裂し、運が良くても、骨にヒビが入ってしまう程の威力。
今度は真横に、白蓮の身体が吹き飛ばされ。
瓦礫の山と衝突し、バウンド。
「――何をしてる」
その身体を、再び穿つ蹴り。
空中で一回転を加え、加速することによって威力を倍化させたかかと落とし。
それが地面とぶつかり、直線に上へ跳ね上がった白蓮の身体を、再び真下に叩き落す。
今度は、喉が潰れたかのような、弱弱しい悲鳴が一瞬、耳に入って終わり。
ぐしゃり。と、瓦礫にぶつかった際の轟音とは正反対の、不気味な程に静かな音が一つ、響くのみ。
地上には、まるで上空から果実を落としたかのように、円形の血潮が模様を描いており。
その中心に、半身を文字通りぐちゃぐちゃに潰し、それでも生きている彼女が、白蓮がいた。
「…そうやって」
妹紅はゆっくりと下降し、白蓮を見る。
その侮蔑の視線の先では、ゆっくりとではあるものの、確かに潰れた筈の肉体が、元の形に戻ろうとしているのが見える。
折れた腕は、骨と骨。そして肉の繊維同士が、まるで映像を逆再生しているかのように、元へ。
欠損し、補えない部分は、新しく血液を、そして肉から骨を、無から作り出し、接合。
反転術式による、肉体の再生。
「充分傷ついたでしょ」
見下ろす視線とは別に、その声色には、憐みがあった。
全くの無傷。傷の一つも未だに負っていない妹紅と違って、白蓮の傷は、深い。
見たところ、傷を塞ぐどころか欠損を治せる程度には出力が高いらしいが、それでも、反転術式による再生にも限度はある。
「さっさと楽になればいいのに」
次第に、傷ついた肉体は全て、最盛の頃の…つまり傷を負う前の状態に戻り。
そしてもう一度、妹紅は足を振り下ろした。
「あぁ、言い方を変えようか?」
ゴシャッ!と、人体から発してはいけないような音が鳴り響く。
倒れる白蓮の頭を踏みつけ、蔑む。
「――なんで楽になるのを諦めるの?」
ずっと。
ずっとさっきから。
妹紅は白蓮が、一度傷を負うたびに、それをすぐに治すことをせず、まるで、己の身に付いた傷を噛み締めるかのような、意味のない空白の時間を作っていることを、見抜いていた。
再生速度を上げることも、治していざ立ち向かうようなこともない、全てが中途半端な、惨めに、生にしがみつく愚者の姿。
妹紅は見抜いていた。
見抜いたうえで、憤る。
「
反転術式は、使えば使う程出力が落ち、再生力が衰える。
白蓮の持つ、魔力の残り総量は膨大で、燃料切れによる再生の不可能は起こらないだろう。
が、過度な使用による出力の低下であるならば、話は別。
もう一度、妹紅は足を上に――
「ぐっ……………」
「何回続ける気?って聞いてるんだけど」
もう一度、思いっ切り踏みつける。
霊力の強化。それによる身体能力の向上で、踏みつけた白蓮の肩は、ゴキリと痛々しい音が鳴り。
まるで空気の抜けた風船のように、肩の一部が陥没し、新しく鮮血が零れ出る。
「いつまで続けられると思ってんの?それを」
妹紅の問い掛けは、白蓮のこれまでの行動を指していた。
「痛くて苦しくて、治せる癖に、何故かしばらく傷を放っておいて」
「………」
「そのまま野垂れ死ぬ訳でもなく、結局は傷を治して、こうやって元通り」
「……」
「本当に。――馬鹿だよ、あんた」
苛立ちの表情に、もう一つ。
何かの焦燥を交えたかのような、そんな顔で。
「…妹、紅――」
「お前がッ!」
再び、妹紅は思いっ切り、白蓮の顔を蹴り飛ばす。
鼻が折れ、血と同時に唾液が散る。
「ッ…!お前が!お前だけでも!」
蹴り飛ばされ、仰向きになった白蓮の首元を、妹紅は強く握る。
それを引っ張り、虚ろな目で、血をたらりと流す白蓮を、もう一度殴る。
今度は、歯が折れて飛んだのが見えた。
「お前だけでも!せめてっ…!お前が否定するなよ…!」
殴る。
衝撃で、折れた白蓮の歯が拳に突き刺さり、妹紅も痛みに襲われる。
その痛みに気づくことなく、もう一度、妹紅は殴る。
もう一度。
「お前のその動機も…!」
何度も。
「理由も、不幸も!それでも…止まるなよ――!そうじゃなきゃ…」
何度も殴って。
叫んだ。
「村の!あそこにいた人たちも皆!そして――」
――決して、良い親とは呼べなかった。
愛情はなかったし、会話も数える程しか交わしたことがなく、その絆は薄く、細い。
一般の家庭のような。温かい空気などなかった。
それこそ、血の繋がりこそなくとも、養子という関係でありながらも、誠実な愛を注いだ讃岐造と、かぐや姫のような例だってある。
羨ましいと言えば、それはきっと本心だ。
それでも、妹紅は父親の存在を、そう簡単に割り切ることなど、どうしてもできなかった。
嫌な奴だった。あまり会話を交わしたことがない。
そんな理由で捨て切れる程、血の繋がりというものは、決して弱いものではない。
だからこそ、妹紅はただ、それに縋るしか道が残されていなかった。
唯一自分にある価値である――
「あの人も!…私の父も」
――父という、娘という立場。
「――人の心に、呪われたって言うのか」
泣いて。言った。
「わ、たしは………」
絞り出すように、白蓮が言葉を紡ぐ。
血塗れの顔は、最低限の反転術式による治療もあって、喋れる程度には回復していて。
それでも尚、今になって主張するのは。
「私は、もう………戦えないんです」
まるで胎児のように、白蓮は蹲ったまま。
丸まり、みっともなく、そう言う。
「死んだんです。私のせいで」
救いたいだけだった。
子供のように漠然とした、くだらない夢物語を実現しようと、自分ならできるだろうと、高を括った結果。
「みんな、私の、せいで………」
優しい彼女たちを、せめて。
ナズーリン、星、村紗や一輪。
こんな自分を肯定し、一緒に罪を背負ってくれようとしてくれた、優しい子を。
今の自分のような、惨めな存在と同格にはしたくなかった。
「――私は誰かを救いたかった」
死んだ。
自分が治療した妖怪によって、妹紅の父も、そして村にいた人間たちも、自分のせいで死んだ。
それを否定することはできないし、白蓮はそれを肯定する以外に、道は残されていないのだ。
だが、
人と妖怪が、手を取り合って生きていける世界。
その実現の為に行った治療が、結果として大量殺人を引き起こした。
誰の解釈も、己の懺悔を込めようとも関係がない、その事実のみが今、この場にはある。
「弟の、命蓮の、あの子が短い生で見た夢を――無駄なものにはしたくなかった」
唯一、血を分け合い、傍にいた自分だからこそ。
命蓮の願い、皆に救われる機会があるべきだという思想を、理解できた。
だからこそ、それを忘れることの罪深さ。彼の命に、無価値という箔を付けたくないという、身内だからこそ覚える感情がある。
――だからこそ、白蓮は妹紅の怒りには答えられなかった。
仕方がなかった。
彼だけが悪い、救った相手が檮杌だったから。
そうやって、死んでしまった者たちの命に価値を付けるのは、命の冒涜と呼ばずして何と呼ぶ?
そうして、自分が再び妖怪との共存を謳い、死んだ彼らの命に意味を付けてしまったら。
その時点で、命蓮が真に夢見た救いの願いに、他ならぬ自分が、泥を塗ることになるから。
だから、白蓮はこれ以上、進めない。
「だからたくさん、もっとたくさんの人を、妖怪を、皆…………」
爪をめり込ませ、血が滲む程に。
白蓮は、己の身体を抱きかかえ、そして。
「でも、できなかった!」
みっともなく。
恥も外聞もかなぐり捨てて。
まるで子供のように、丸まったまま、泣いた。
「私が信念だと、使命だと思い込んでいたものは!――弟の命を使った、ただの言い訳だった!」
白蓮は、もうこれ以上は動けない。
否。もう動く気力も、逃げる為の行動に移す意味も失ったのだろう。
涙を絶え間なく流し続け、それでも尚、彼女は自分を許せず、自分に対する戒めの怒りを、抑えることができない。
「私は。…私は、もう………」
聖人とまで呼ばれた筈の、高貴な存在だった彼女は、今。
「――自分を許せない」
もう、ただの――
妹紅は、それを静かに聞いた。
いや、正確には聞いて、その上で、「
「哀れなもんだね」
今、この場にいる妹紅は所詮、本体が作り出した分身に過ぎない。
いつ生まれ、どのような人生を経験し、そしてどんな関係を今までに築き上げたか。
そういった、『藤原妹紅そのもの』を作り上げる経験の記憶。つまり人格を構成する為の最低限の記憶領域は全て、妹紅の
その上で違う点。
それは、「自分は偽物でしかない」という事と、「本体と同じ記憶を共有している」という二つの点。
生まれてからずっとある記憶。それを瓜二つコピーし、式神の身体に注いだとしても、上記の記憶が混じるだけで、その人格は大きく変化する。
神の視点とも呼べるだろうか。ある一定の深層までは、模倣ではなく、虚飾のない本人そのものの反応を、感情を理解し、扱える。
だからだろうか。
「………いや、そっか」
すぅ…と、不思議と感情が落ち着いていく。
先ほど、白蓮に対して向けていた、妹紅としての怒りや恨みは、あっという間に消えて。
今まで以上に冷静に、贋作だからこそできる、持てる視点の違いから。
妹紅は、言う。
「人の命っていうのは特別じゃないんだよ」
白蓮の価値観。
妹紅の価値観。
両方を知り、そして片方を文字通り全て、己の魂に刻んだからこそ。
こちらの妹紅は、白蓮に説く。
処刑の意思で染まり切った、本体の妹紅とは違うからこそ。
こうして、彼女と言葉を交わすことができた。
「命自体に、価値や重さなんてない」
「………っ!」
――命に価値や重さなどない。
あの日に助け、弱っていた頃の檮杌が使った言葉。
妹紅が放った言葉。それを聞いた途端、いつしかの記憶が脳裏を過ぎり、白蓮は思わず息を吞む。
檮杌は言った。天地にとっての水のように、人の命も、価値がないと。
そして自分たちを、「俺たち」を
皆、無意味で無価値なものに過ぎないと断言していた。
全てが無価値であり、白蓮の思想を、一度はくだらないと切り捨てたあの時の。
「でも、それを決めるのは人間だ。――お前たちだ」
白蓮は、死んだ彼らの命に、価値を付けてしまう事を恐れた。
共存など叶わないと、あの努力は無意味で、その死にも「意味がない」という意味を付けてしまったら。
だから、彼女は死んだ人間の命を背負うことも、切り捨てることも叶わずに、こうして停滞しているのだ。
それを妹紅は、贋作としての意識は思う。
それは間違ってはいない。だが同時に、それ以上に正しくない選択であるということを。
「人が生きる限り、人が生き続ける限り。――死んでいった者たちの命、その価値が失われることは絶対にない」
既に、
そして、白蓮はその言葉を、地面に蹲ったまま、聞いた。
「罪と罰の話じゃない。あんたがそうやって、死んだ人間の命から目を逸らし続ける限り、その価値すらも曖昧になる」
「………」
「父は死んだ。あの人が死んだという事実に、何の意味もなかったなんて思いたくない」
この世界に産まれ落ち。
そうして生きて、人々と関わり続ける限り、その因果は常に大きく膨らみ続けるのだ。
死んでいった者たちが、殺されてしまった者が。
理想を追い、この世界で生きることを選んだ時点で、彼らの命も、罪と罰も、決して因果応報に収まり切らないものなのだ。
全は一、一は全。
白蓮の介入などなくても、世の中には意味もなく、それどころか存在を残すことすらできず、無意味に死んだ者など数え切れない程存在するのだ。
その上で、これらは散りばめられた命だと。
それに意味を見出すという事は、時に、死者への冒涜となる。
「自分のせいで、その罪悪感に苦しむならまだしも。理想を肯定する為に、犠牲者の死を利用することもできない」
「………」
「それでも。――あんたは一度でも、夢に見たんでしょ」
――だから、
中途半端に、命に価値を付けることも、それから目を逸らせる程の、意志の強さがない彼女を。
そうやって、父の命の価値からも、目を逸らしたことを。
「――私は」
白蓮の目に、光が戻る。
今までの、虚ろに罰を求めるような、壊れた機械のような目ではない。
そこにあったのは、僅かな希望。
救いを求めるような、明るい希望とは違う、戒めの希望。
罪ではなく、罰を背負い、そして清算する事を思う、未来ある光の――
「………あーあ」
だが。
そう言って、妹紅は、白蓮の顔を見ることなく。
ゆっくりと、顔を上にして。
「………本体が死んだ」
――限界だ。
そう呟いた途端、彼女の足が消えた。
腰から上、上半身の肉体はそのまま、空中に浮いていて、最初の立ったままの姿勢から、一度も形を変えていない。
まるで透明になっているかのようで、手を伸ばせば、身体の感触があるのではないか、とすら思える程。
だが、現実はそう甘くはなかった。
「………どうして」
思わず、聞く。
白蓮は、目の前でどんどん消えていく、死にゆく分身に対し。
困惑の表情のまま、聞いた。
「どうして、私を殺さなかったの」
――分身だ。
妹紅の記憶を複製され、使命を与えられ。
そして、一度は激昂し、実際に殺そうと、本気の殺意を向ける程に。
彼女は、間違いなく――
「…どういうつもりなの」
「随分な物言いだなぁ、今際の際の善行だよ」
それは、確かに本心ではあった。
「…どうせ、使命が終わればすぐ消える命。
「………」
「意地悪な本体に対する嫌がらせだよ。どう?上手くいったでしょ」
――あぁ、本当に。
本当に上手すぎるとしか言えない。
たった数分、相対し、逆に説かれたというだけであるのに。
もう、白蓮の心に、人生の中に、彼女がいた。
「………そう、ですね」
消える。
妹紅の、分身の身体が、首以外の全てを失い。
最後。炎の消失反応によって、首が光で包まれる瞬間。
「それに、予感があった。こうした方が面白くなる…そういう勘」
最後の、彼女が残す。
白蓮に刻み込む、今際の言葉。
「先に逝く。――せいぜい頑張れ」
その言葉を最後に。
今度こそ本当に、妹紅は消えた。
骨も残らない、正真正銘の消滅である。
所詮は式神術の延長線にある、ただの作り物でしかない存在。
そう切り捨てられれば良かった。
だが、どうやら彼女の思い通りに、白蓮はまんまと。
彼女の言葉を、呪いを引き継いで生きていくことが決定してしまったのだ。
呆れ、そして同時に沸き立つ感謝。
両手を合わせて、白蓮は先ほどまで、彼女が立っていた場所を見て。
目を瞑り、言う。
「………ありがとう」
「辛そうだね、白蓮」
その背後。
分身が消えた次の瞬間に聞こえた、その声の主は。
瀕死の村紗を引き摺る――藤原妹紅
投稿時間は何時がいいか
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7:00~9:00
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10:00~12:00
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13:00~15:00
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16:00~18:00
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19:00~21:00
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22:00~0:00