【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
――上白沢慧音は博識である。
天から与えられた才能。そう呼べる数々の異能が跋扈する世の中で、慧音のものは更に異端であった。
生まれつきの肉体の欠損。それに比例するように増大する霊力。
逆に霊力を犠牲に、基礎的な身体能力を向上させる…といった特徴。
これら『天与』の祝福、もとい呪いは人それぞれで、しかし共通して、どれもが天秤によって代償と対価が成立している。
等価交換。そして慧音に与えられたモノ、それは『祝福』ではなく、――『呪い』であった。
齢5にして、家にある書物を全て読み終える程の知識欲。
それを可能にする知能。両親は祝福し、喜んで彼女の為に働いた。
一冊本を読み終えれば、また新たに本を用意し。
字を書く様子を見れば、彼女の為に、惜しみなく高品質の筆や墨を買い与え。
まだ、『呪い』が顕在化するまでは、どこにでもいる、普通の家族そのものだった。
「こっち?」
「うん」
日が沈みだした夕方。
二つの影が、
妹紅は慧音を両手で抱き、彼女が指を差す方向に向かって、足を運んでいた。
あれから途方もない年月が過ぎ、人々は更に数を増やしたというのに、このような自然は相も変わらず。
それに少し、落胆を覚えると同時に、腹の底から滲むような、懐かしい思いすら感じる。
未だ開拓の進んでいない山。夜が近づくにつれて、更に人の気配がなくなっていく。
妹紅は陰陽師としての才能を失ったが、それ以外における才能…即ち『気配』や『殺気』のような、戦いの基礎である第六感は健在であり。
つまり、こうして道を歩いている間。ここから数十、数百メートルは離れているであろう、人々の集落も感知できる。
かつての師、崔爾のとは違い、より細かく人間の身体的特徴や年齢、強さを測ることは叶わないが、一般人が持つ最低限の霊力といった、基本の気配ならば容易いことだ。
たとえ弱体化しようとも、それなりの自衛はできる。
何より――死なない。
不老不死。永遠の個。
かつて時代の王が望み、そして最後まで求めた究極の命。それを何の因果か、こうして自分が体現するに至っている。
痛みはある程度慣れたし、死なないのであれば、食料や衛生管理といった問題も、最悪死んで
――だが、今回ばかりは違う。
「妹紅」
「どうした?」
「…お腹すいた」
少し顔を赤くして、俯きながら言う慧音に、思わず苦笑いを零す。
偶然の出会いと、思いつきで提案した目的のない旅だが、悪くないと思えた。
産まれた時。ずっと目の前で繰り広げられてきた、貴族社会特有の汚れた価値観や、大人たちの醜い欲望。
特に父の、かぐや姫に向けた愛着がいい例だろう。人は何かへの、特に愛や性欲といった欲望だと特筆して、その醜さを増大させる。
だからなのだろうか。こうして己の腕に抱かれる、幼気な少女から、どうしても目が離せない。
触れたいと思う。だがそれは、決して庇護欲が唆るだとか、純白の代名詞である幼子を、己の手で汚したいという、反発心が産む嗜虐心でもない。
自分にはないからこそ、自分がもう捨ててしまったものを、まだ捨てていない彼女を。
せめて、自分の手にあるうちは守りたい。それだけだった。
「分かった、ちょっと待ってて」
妹紅は慧音を地面に降ろし。近くにあった木々に視線を向けた。
同時に、地面に溢れかえる程ある蔓も見つめ、丁度いいと言わんばかりに、腕をくるりと回して、懐かしい感覚に身を任せた。
既に、日は沈み、夜の帳が下り始めた頃。
感覚としては、ただほんの少し歩いただけなのだが、どうやら自分が想像しているよりも、時間の流れは早いらしい。
妹紅はその気になれば、死んで肉体の状態をリセットできる。そうすれば実質不眠で歩き続けることもできるし、食料も必要ない。
――が、何度もそれを思い浮かべては、他ならぬ妹紅が、その選択肢を切り捨てた。
自分はいい。自分はどのような"怪物"になってもいい。
だが、この子だけは駄目だ。
こちらを見上げて、行儀よく待つ慧音に視線を一つ向けてから、一番近い位置にあった木に向かって歩く。
そして、右手に纏うように炎を形成し。振る。
「よっ」
デスパレート・クロー。
それは昔、妹紅が愛用していた近接戦でよく使っていた技の一つでもあり。
"縛り"の代償である、陰陽師の技術には該当しない、彼女元来の、オリジナルとも呼ぶべき技。
現実世界に顕在化する、己の異能が鉤爪となり、それが厚く硬い木の表面を、いとも簡単に断絶し、刃が滑り込む。
炎の温度調整も完璧で、最初こそ何度か、火加減を失敗して対象を焦がすことがほとんどだった。
しかしその程度、既に克服した弱点だ。
精密に調整された表面温度と、刃の内側のみを高温で保つことで、切れ味を落とすことなく、二次被害を抑える技術。
これは、初めて自分の
木が倒れるのを防ぐ為に、面積の三分の一程度を削り、地面に転がる木片を拾う。
そして一本一本に、再び炎を吹きかけていく。
妹紅がこれからしようとしているのは火起こしだが、これはその為の事前準備のようなものだ。
きりもみ式。ひもぎり式といった風に、人間は木のみ、もしくは木と用意した紐や道具を使って火を起こす。
しかし妹紅からすれば、火は簡単に起こせるし、何なら今すぐに、こうして用意した木材を燃やせばいい。
だから、これはそれ以外の目的。単純に火を起こすのではない、別の利点を求めた行為だ。
原子レベルで調整された炎。それが木片を炙り、焼く。
だがその時、不思議なことに、木片には焦げ目の一つも付いていない。
それを見て、慧音の目がキラキラと輝くのを見て、妹紅は少しいい気分になった。
「妹紅、それは?」
「んー?ちょっとした工夫、長く燃えるように軽く湿気を飛ばしてるの」
もしも、慧音に尻尾が
今頃ブンブンと、犬のように背中で、それが存在を主張していただろう。…そう思う程に、彼女は気分を高揚させていた。
微笑ましいものだと、重ねてそう思う。
「ちょっと離れてて」
木片を山のように組み立て、形を整える。
万が一にも、山火事が起きないように、それを作る場所は砂利の上にすることを忘れない。
子供の好奇心というのは純粋で、このような面白味のない作業にもずっと、慧音はキラキラとした目を向けて、じっと観察を続けていた。
形を整えたら、後は簡単。
指を鳴らして、少し格好つけて炎を飛ばし、着火。
ぼうっ…と、低い音が一瞬空気を揺らし、次に新鮮な熱波が、妹紅たちの顔に向かう。
「わっ」
咄嗟に瞬きをして、目が乾燥しないようにしながら、可愛らしい声を漏らした慧音と。
もはや何十何百と、慣れた作業であると共に、飽きすらしている生理反応であるが故に、無表情を貫く妹紅。
二者の反応は対極であった。
クス…と、優しい微笑が零れた。
「…うぅぅ」
「ごめんごめん、こっち向いてよ」
「……」
「可愛い声だったからつ…いてっ!」
ごちんっ!と、思いっ切り頭突きを喰らわされた。
「……ごめんってばぁ」
「フンッ!」
少し揶揄いすぎたらしい。
鼻を真っ赤に染めて、そっぽを向く慧音に対し、妹紅は苦笑いをしながら謝罪する。
まだ子供だというのに、妙に大人ぶった雰囲気と、いかにもな「私怒ってます」という態度を見て、可愛いものだと思う。
それを慧音は理解しているのであろう。妹紅の謝罪を聞いた途端、更に機嫌を悪くして、ぷいっと顔を更に横に向けた。
もはや妹紅からは、今の彼女は横顔どころか、うなじだけしか見えていない。
「……」
「……」
沈黙。
「……」
「……」
「……フフッ」
「フンッ!」
また、頭突き。
パチ……パチ…………
篝火が出すその音が、鼓膜を心地よく震わせる。
もはや、日は完全に沈み、暗雲が空を大きく占める程の時間。
月が完全に隠れ、星空も満足に見れない程の純粋な黒。
妹紅はそれを見上げながら、胡坐の上で丸まって眠っている慧音を、優しく抱いた。
「…………」
時代は変わった。
今更確認するまでもない、その事実。
しかしどうにも、拭いきれない違和感を感じる。
「……おかしい」
じゅわっ!と、一層大きな音が鳴る。
それは、目の前で油が熱で弾けた音。
その音を合図に、妹紅は篝火によって熱された、その音の発生源である、熱で殺菌した木を突き刺した魚を手に取る。
口に持ってきてから、気休め程度に、妹紅は香りを堪能してから、一思いに齧り付く。
細かい骨が口内、そして喉を魚の肉が通り抜ける度に、喉の奥に突き刺さるが、すぐに蓬莱人の特性である、再生能力で元に戻る。
不老不死は悲劇の象徴だが、こういう時にはかなり役に立つ。
我ながら呑気なものだと、妹紅は思わず、自分に対する嘲笑を浮かべた。
骨が突き刺さったことで、口内とはいえ『怪我』が発生し、それを再生する為に、新たに細胞が構築されることで、骨が抜け落ち、そして燃える。
月人ではなく、人間が蓬莱の薬を飲んだからか、それとも単に、妹紅が炎を操る能力を持った上で、蓬莱の薬を飲んだからか。
妹紅が身体を治す度に、炎が小さく噴出する仕様が、こうして魚の骨を処理する時には、大いに役に立つ。
空を見上げ、妹紅は呟く。
「…………おかしい」
火の音以外、誰の音も声も聞こえない。
闇と無音。神経が過敏になる程の、警戒心を覚える程の静けさ。
自分たち以外の気配は感じない。これといって、目に見えるような違和感もない。
だが、肌が感じる。
妹紅が築き上げてきた経験が、空に向かって警戒態勢を敷いている。
空――
「…………」
空は、もはや星空の一つも見せてくれない程の、暗雲によって隠されていた。
月の光が透けることも、雲と雲の間の、自然現象ならば必ず発生する筈の隙間すら、今の空にはない。
文字通り、全てが真っ黒。
火の音のみが、鼓膜を震わす。
意識せずとも、思考が回転し、嫌な想像を掻き立てる。
「どう考えても、普通の雲じゃないよね」
妹紅の推測。
それはこうして、今も空に蔓延る暗雲が、自然現象ではない、別の何かによるものではないか?というものだ。
その予想に辿り着いた要因としては、やはり月の光の有無が大きな割合を占めていた。
月とは、魔力や妖力といった、人外にとっての生命力の象徴であり、それを大きく向上させる天の恵み。
それが、こうして一切の光を通さないのであれば、弱体化はせずとも、彼らの気力を大きく削ぐには充分だ。
道理で。そう妹紅は思う。
夜の山。そして篝火という分かりやすい存在感を示す、今の妹紅たちに向かって、襲い掛かる妖怪が一匹もいないわけだ。
勿論、ここが元から妖怪の数が少ない、たまたま恵まれていた場所だった可能性はある。
しかし今の時代…いや、正確には元の時代でも、だが。
妖怪とは、文字通りあらゆる場所に存在するのだ。たまたま今、ここが例外だった。…とは考えにくい。
そうなると、推測はより悪化した方向に走るものだ。
膝の上で眠る、慧音の頭を撫でながら、妹紅は考える。
「もし…………」
もしも。
この頭上に広がる暗雲…否、
妖怪にとっての、力を増幅させる月の光。それを文字通り、一人で独占できる状態なら。
これほどの広範囲に膜を張ることができる実力もそうだが、大胆でありながらも、非常に効率的な強化方法。
並大抵の者では、それこそ山にいるような、野犬擬きの妖怪では絶対に不可能だ。
そうなると、考えられる選択肢は――
【ヒョー、ヒョー】
刹那、妹紅の思考を切り裂く様に、不気味な鳴き声がこだました。
「――ッ!?」
【ヒョー、ヒョー】
空だ。
胸元で、謎の鳴き声に反応して、くぐもった声を漏らす慧音を、強く抱きしめながら、警戒心を空に向ける。
妹紅の視力では、空一帯を覆いつくす黒霧を確認するのが精いっぱいで、それ以外は何も見えない。
透明か、それとも鳴き声の主は、黒霧の向こう側に存在するのか。
いや、妹紅の推測が正しければ、これの元凶はきっと、自分一人で月の光を独占し、浴び続けているのだろう。
だがしかし。
耳障りな、不快感を与える鳴き声を聞いて、妹紅が思い浮かべたのは、ある動物の名だった。
「…トラツグミか?でも…」
鳴き声の波長は似ている。だが決定的に何かが違う。
音域?それとも…再び思考の渦に身を投じて、妹紅は頭上から響く、その『正体不明』の推測を始める。
その時だった。
「――そこの娘」
バチバチと、火の粉が飛び散る音に紛れて。
妹紅に向けて、一人の少女が話しかけてきた。
声の若さ、そして容姿の若さの二つに釣り合わぬ、老人のような喋り方。
「隣、いいかの」
「――――」
勿論、ただ「はいどうぞ」なんて返す筈もない。
咄嗟に起き上がり、未だに夢の世界にいる慧音を、器用に抱きかかえたまま、後退。
その様子を、少女はケラケラと笑いながら見ていた。
「おー若い若い、警戒心があって何よりじゃ」
殺気にも似た敵意を向けられても尚、少女はまるで気にしていないように、そう言って笑い続ける。
その余裕。何より敵意に対する"慣れ"と、そして言葉の節々から感じる、老獪さ。
何より、背中にある巨大な尻尾。
それをゆらりと動かしながら、少女は妹紅を見ながら言う。
「ほう……儂の予想通りといった所かの」
「…何?」
「ぬし、人間ではないだろう?霊力は確かにあるが、それ以外が歪じゃ」
「――それは」
「まぁ待て待て、別に深く詮索するつもりはないぞ」
見た目だけなら、妹紅とそう変わらない。
若い少女だが、その古風な喋り方といい、こぢんまりした洒落た丸眼鏡といい、まるで老婆のような風格を感じさせる。
だが、蓄積された経験というものは、人外であるならば、それは脅威以外の何物でもない。
警戒心が弱まることなく、射抜くような視線を向け続ける妹紅。
少女はそれも、既に慣れたものなのか、特に気にすることなく。
「おお、焼き魚か。味は単調だがそれがいい」
と言って、妹紅に許可を貰う訳でも、詫びを入れることもなく。
流れるように、目の前で焼かれた魚を手に取り、そして器用に骨を避けて、齧り付く。
しばらく口内で肉を泳がせて、それから。
「うん、美味い美味い」
そう、満足そうに笑ってから。
当然の態度で、再び食事を再開した。
「…あんた」
尻尾。
妹紅は目の前でゆらゆらと動くそれが、少女の正体を示すものであると気づく。
だが、その特徴的な、ふんわりとしたシルエットから、妹紅はその正体を半ば確信した。
――狸。
それも、かなり長い時間を生きた化け狸だ。
「ん、どうした?」
「……いや、何でも」
見れば、目の前の化け狸はもう、丸々一匹の魚を食べきってしまったようだ。
頭と尾を残し、それ以外の食べられる部分は、見事に消失している。
途中で取り除いたのであろう骨を、目の前の炎に向かって、ぽいっと投げ込む様子を見て、妹紅はため息を吐く。
もう食べきってしまったものを、今更返せとは言えないし、言うつもりはない。
しかし、いくらなんでも言葉の一つも寄越さず、勝手に食べて「美味かった」はないだろう。
そう、訴えるような視線を向けられていた事に気づいたのか。
「あぁ」と、手を叩いてから。
「悪い悪い、あまりにも久しぶりに焼き魚を見たからのう。つい食欲が抑え切れなんだ」
「…そ」
「勿論タダでとは言わん。代価を払わずに食事を奪う程、儂も落ちぶれておらんよ。…ほれ」
そう言って、懐から何かを取り出し、妹紅に向けて放り投げる。
片手でそれを器用に受け止め、そして渡されたものの正体を見て、妹紅は少なからず驚く。
何故なら、それは口が裂けても、簡単に入手できるようなものではなかったから。
「これ、干し肉?」
「儂は魚を、ぬしは肉を。これで等価交換じゃ」
「でもこれ…」
「良い良い、好意は素直に受け取るべきじゃぞ?」
肝心の彼女は、「まだまだ若いのう」なんて言っているが、それは無視する。
何故なら妹紅は、今手に持っている干し肉が、ただの干し肉でないことが分かるからだ。
干し肉は製造過程の都合上、それなりの時間を要するのだが、その品質には大きなばらつきが生じる。
その日の気温や湿度、何より材料となる肉に、味を浸け込む際の調味料の質。
価格もそれなりで、決して安いとは言えないものだが、今渡されたこれは、間違いなくその中でも、最高峰の品質。
まだ火で炙っていないというのに、この時点で食欲を唆る、強い香りが辺りに漂う。
その香りに釣られてか、妹紅の腕の中で、もぞもぞと慧音が動き。
「……ぅん…」
「っとと…」
干し肉を持ちながら、妹紅は器用に腕を動かして。
肘を使って、慧音の体重のバランスを調整して、落ちないようにした。
「――……ほう」
その時、彼女の丸眼鏡の向こうにある目が、鋭く光ったのを、妹紅は見た。
まるで何かに気づいたかのような。
そして、懐かしむように、目を伏せて、小さく呟く。
「……そうか。もうそんな時期か」
その視線が向けられたのは――慧音。
まだまどろみの中にいるのか、うつらうつらしているその姿は、年相応の少女そのもので。
――それに、彼女は一体何を見たのか。
その疑問を胸に仕舞って、妹紅は再び視線を元に戻す。
「ぬし、名を何という」
妹紅は、素直に答えた。
「……妹紅。藤原妹紅」
「そうか。儂は二ッ岩マミゾウという、聞いたことは?」
「……ない」
「そうか、やっぱりな」
謎の化け狸、マミゾウはそう言ってから「ふむふむ」と、顎を手で摩りながら、いかにもな態度で思案する。
それを十数秒続けて、しばらく。
口を閉じて、じっと視線を向けてから、一言。
「まず妹紅。ぬし…この時代の者ではないな?」
「――、それは」
「まぁ待て、少し話を聞いてくれ」
いきなり核心に迫った、マミゾウの推測。
それを是とするよりも前に、彼女は妹紅の言葉を封じてから、言葉を続けた。
「先ほど、ぬしが聞いた謎の鳴き声じゃが。あれの正体を知っておるか?」
「…いや」
「そうじゃろう?まずその時点で疑わしいと思ったのじゃ。しかも今の時代に、"あれ"を聞いて『トラツグミ』を連想するとはのう?」
「ちょ、まさかさっき……」
「ひひっ、中々いい線じゃったぞ?」
にへらと笑うマミゾウの態度に、妹紅は押し黙る。
続けて。
「つまりじゃ、あれの正体は既に、今は知っていて当然の常識なのじゃよ。とは言っても、過剰にあれを恐れたどこかの誰かが、勝手に妄想を膨らませてあぁなったんじゃがな」
「……やっぱり、あれは妖怪?」
「そうじゃ。それもかなり異質な。一種族、一個体の…じゃ」
「――ッ!それって……」
――考えうる限り、それは最悪のパターンだ。
妹紅とて、妖怪の発生原因や脅威の序列は知っているし、それへの対処法も知識として、経験として身につけた。
その中で、
妖怪とは種族であり、そしてその種族の強さに反比例して、群れ全体の数が少なくなる傾向がある。
鬼や天狗がいい例だろう。あれらはそれぞれ、個の強さも凄まじいが、その分単純な群れとしては、一般妖怪に分類される雑種にも劣る。
それの頂点。一つの種族を形容しつつも、自分一人が独占するモノは、それらを遥かに凌駕する力を持っている。
花の妖怪、風見幽香。
スキマ妖怪、八雲紫。
人々の間で、口頭で伝えられた脅威の存在。
マミゾウの言葉が正しければ、あの恐ろしい鳴き声の主もまた、それに匹敵する程の存在であるということで――
「あの雲は全て、その妖怪が作った霧じゃ。おかげで都は大混乱、儂も宿を一つ見つけるのに一苦労じゃ」
「……それで?」
「何、ほんの気まぐれじゃよ。たまたま山で見つけた人間。…一応じゃがな、それに対するお節介じゃ」
「……」
なんてことないように、マミゾウは笑って言う。
「人と寄り添って生きるのは、狐の専売特許じゃないのじゃぞ?」
長い間感じなかった、打算のない思いと言葉。
それが、不覚にも心地良いと、そう感じた。
このペースだと来年か再来年には完結(ホントの終わり)ですかね。
智霊奇伝ははよ反獄王の◇悲しき過去…を出してください、ネタがないんです。
投稿時間は何時がいいか
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