【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 東方智霊奇伝最新話にて、なんと反獄王が霊烏路空の身体を乗っ取る(八咫烏の力を手にする)展開が。
 読んだ時あれぇ?と思ってたら、案の定本作の感想でも触れられてちょっと嬉しかったです。
 今日は短く3000文字程度、明日から元に戻ります。


105話.復活の意―間章―

 火が一際、大きく音を奏でた。

 弾けた火の粉が宙を舞い、拡散して消えていく。

 その都度、顔の表面を撫でるように、心地よい熱波が伝わってくる。

 まだ少し、肌寒さを感じる夜。

 心地よい火の熱が、妹紅の身体を優しく暖め続ける。

 

「そうか…不老不死か……」

 

 未だ衰える気配を見せない火の向こう側で、マミゾウは顎を摩りながらそう言う。

 

「噂では聞いた。とはいっても500年と少し前じゃがな……蓬莱人、ぬしがそうだったとはのう……」

「……色々あったんだよ、本当に」

「それはそうじゃろう。……にしても不思議じゃな、不老不死は文字通り永遠不変。その風貌といい、間違いなくそれなりに目立つ筈じゃろう?それが今日この日まで……」

 

 マミゾウは先程、妹紅の独り言を耳に入れた時。

 一般から少し逸脱した、鵺の鳴き声に対する感想、感性から彼女の出自を見抜いた。

 更に昔の、今では滅多に見ない喩えと、永く生きた化け狸という立ち位置だからこそ、それほど時間をかけることなく、その答えに辿り着いた。

 だがそれは、あくまでも妹紅の出自のみで。

 彼女が現代に…今の時代に放り出された理由までは、辿り着けていなかった。

 

「ありえんことじゃ。一体どうやって今まで生きてきたんじゃ?ここに閉じこもっておったのか?」

「…"縛り"の放棄だよ、それでずっと眠ってた」

「しかし"縛り"は…いや待て、まさかぬしは…他者間のを」

「正解」

「……なるほどな」

 

 その言葉に対し、即座に肯定した妹紅。

 マミゾウは頭を抱えて。

 

「それなら納得いくわい。他者間の"縛り"の放棄、それの最大の罰は当事者の"死"じゃ、それが不老不死相手だと…死ぬ瞬間が間延びされるということか」

「……それだけじゃなかったけどね」

「…何?いやむしろ…そうじゃな、そうじゃないと釣り合いがとれん」

「まぁね、それで――」

 

 不思議なものだ。妹紅はそう思う。

 元とはいえ、陰陽師として妖怪を退治し、決して少なくない量の返り血を浴びてきた自分が。

 今はこうして、かつては敵対していた筈の妖怪と、同じ空気を吸っている。

 間に流れる空気も、決して険しいものではなく、むしろ温かい。

 産まれも、過ごして来た日々のこともあり、妹紅は口が裂けても、人を喜ばせられるような身の上話を持っている訳ではない。

 そのことで、相手を不快にさせてしまうのではないか…という杞憂さえ、今ではもう過去の話だ。

 マミゾウは見た目とは違って、やはりとてつもない年月を生きてきたらしく、聞くところによれば、かの神話『諏訪大戦』すら、己が目で見たと言うのだ。

 話し方は明るく、しかし言葉の節々には、しっかりと生きて重ねてきた、老成した者の重みが乗せられている。

 嘘ではなく、本当の事なのだと、妹紅は疑う必要もなく、しっかりと理解し、耳を傾けた。

 

「懐かしいのう。儂は色々な都や村を歩いて回ったが、未だにあそこを超える発展具合は見たことがない」

「そんなに?」

「一度行ってみたらどうじゃ?ぬしの風貌も、今ではそう珍しいものではない、何せ諏訪大国には似たようなのが大勢いるからのう」

 

 その言葉は、今日妹紅にとっての、一番の衝撃であった。

 

「大勢って?」

「髪色じゃよ。生まれつき異能を持った者、もしくは後天的に手にした者は髪色に変化が発生する。ここまではよいな?」

 

 マミゾウの確認に、妹紅は黙って首を縦に振った。

 

「諏訪大国の巫女が最初。そこからまるで、"共振"のように国中で異能を持った人間が大量発生したんじゃ、勿論、これの原因は不明」

 

 マミゾウが言うに、どうやらその異能(程度の能力)保持者の大量発生は、洩矢神ですら原因がわかっていないという。

 最初こそ何か、異変の予兆か何かではないか…そんな漠然とした不安があったらしいが、人間というのは"慣れる"もの。

 それも数日で、体調不良も何もなく、力を手にして増長した者は、洩矢神、もしくはタケミナカタ…八坂神奈子によって簡単に制圧され、終わる。

 一週間と少しで、人々は異能を抱えて生きるという、その行為を当たり前のものにしてしまったのだ。

 諏訪大国は、もはやこの列島で一番の勢力と言っても過言ではない、強大な組織であり。

 それが公に、異能を持った者特有の、変色した髪色の持ち主を人材として受け入れる姿勢を見せたことで、少しずつだが、彼らへの偏見の眼差しは弱まっていった。

 

「それに、洩矢神はかなり話が分かる。一度対面してみたらどうじゃ?」

「えっ…いや流石にちょっと……」

「なぁに、本当に気さくにすればいいぞ?その辺の人間とそう変わらん感性の持ち主といった感じじゃからな、本当に神かどうか怪しい程じゃ」

「……失礼すぎない?」

 

 妹紅どころか、その辺にいた一般庶民の子供でさえ知っている、洩矢神という頂点。

 それに対し、あまつさえ神かどうか怪しい。と言い切るその姿に、呆れた声を漏らす。

 くつくつと、喉の奥で笑うような声が聞こえて。

 それが、他ならぬマミゾウのものであると、妹紅は気づく。

 

「…どうしたの?」

「クックック…いや、その反応といい、言葉といい…本当に洩矢神と全く同じものでな」

「……そ」

「懐かしいのう、また久しぶりに会いに行くか…?」

 

 列島の頂点に立つ神に対し、「会いに行く」と来たか。

 その眼には、決して相手を侮ったり、見くびったりする意図は浮かんでおらず。純粋に、相手を想う色が浮かんでいた。

 妖怪であろうと、それは変わらない。

 むしろ、欲に塗れた貴族社会で、嫌という程に見てきた、大人たちの汚い眼に比べたら、こっちの方がいいとさえ思う。

 ふと――

 

「…………」

 

 ふと、思い出す。

 『藤原』という、約束された名誉の家系。その名を聞いて、眼の奥に隠し切れない、羨望と嫉妬の光を向けられる日々で。

 唯一、自分に対して、『藤原』という名に対し、無関心を貫いた陰陽術の師。

 老いた、初めて自分と向き合ってくれた『大人』の姿が、思い浮かぶ。

 

 ――彼ならどうしただろうか?

 

 その、突如胸に湧いた疑問文。

 その時にようやく、妹紅は、自分が何故、あの少女を…慧音を放っておけなかったのか、それが分かった。

 模倣だったのだ。

 真似て、あの人ならきっと、自分に対ししてくれたように、何か救いの手を差し伸べるのだろうと。

 ――今更、それを理解した。

 

「どうした、妹紅」

「…………いや、つくづく…って思っただけだよ」

 

 今思えば、自分はあの時、きっと助けられていたのだろう。

 復讐、義務の炎に呑み込まれ、冷静さを失っていたから、あの時は分からなかった。

 だが今、燃え尽きて冷静になって、頭だけは無駄に回る今だからこそ、あの日がどれだけ、自分にとって幸運だったかが、身に染みて分かった。

 あの日々で、自分が学んだのは陰陽術だけじゃなかった。

 彼はあの時、自分の『その後』を心配してくれていたのだろう。

 態度こそ冷たく、素っ気なさと適当さが滲み出る常日頃だったが、教える技術と、その時の彼の瞳は、どれも澄んでいた。

 術師として成功しようがしまいが、復讐が成されるか、もしくは機会を永遠に失うか。

 そのどちらにせよ、必ず人の思いには…"熱"には限界が来る。

 実際、今の妹紅はとっくに燃え尽きて、これといった、明確な生きる気力がないに等しい。

 惰性で生きて、ただ目の前にあった小さな命を、拾ってぶらりと歩き続けるだけ、そう思っていた。

 ――今までは。

 

「…あぁ、そうだね」

 

 ()が言った、ある言葉が脳裏に蘇る。

 惰性だと思っていた。

 目的もなく、曖昧なものだと思い込んでいた。

 だが、今までの自分の行動指針、それに秘められた原典(オリジン)を自覚し。

 妹紅は小さく、活力に満ちた笑みを浮かべ。

 彼の言葉を、口にする。

 

「鉄は熱いうちに…だ」

 

 冷たく停止していた、彼女の心に今。

 ――間違いなく、新たな"熱"が吹きこまれようとしていた。




 過去章タイトル一覧。

 受胎戴天→土着戴天
 幼魚と逆罰→幼烏と逆籠
 壊玉→壊王
 玉折→王折
 バカサバイバー!!→タタリサバイバー!!
 東京都立呪術高等専門学校→山陰道立建国高等国津大和
 宵祭り→酔祭り
 渋谷事変→洩矢事変
 変身→変心
 起首雷同→起首玄同
 理非→離非
 霹靂→霹歴
 怒れる男→怒れる女
 転生→新生
 
 さて、次の章タイトルはなんでしょう。

投稿時間は何時がいいか

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