【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
紫「月の都だ、月人が目の前にいる」
隠岐奈「なにを言っているんだ?」
106話."熱"
【ヒョー、ヒョー】
空から響くその鳴き声に、耳を塞ぐ者が大勢。
得体の知れぬ気味の悪さ、正体不明の妖怪という、どこまでも恐れを掻き立てるその存在に、怖気づいてしまう者が大半の中。
一人。男が立っていた。
「――――――」
男の手には、簡素な作りの弓が一つ。
それの使い込み具合と、背中に携えた大量の矢も合わせて、彼が普段から、弓矢を扱っている人間なのは、戦に疎い人間だろうと、見ただけで分かる。
「――――」
男はじっと、空を見る。
影もなく、鳴き声の反響すら特定できぬ状況だというのに。
迷いすらなく、矢を番え。
「――」
空に向かって、放った。
依然として、空を暗雲が塗り潰していた。
その本質はあくまでも、妖力で作られた霧に過ぎず。
並の妖怪の実力でも、長く持って数時間か、数日しか持たない筈だ。
しかしマミゾウが言うには、この霧は自分の知る限りでも、二週間以上このままらしい。
それほどまでに、"鵺"は力を着けているのだという。
「王は完全に正気を失った。ここまでくれば、もうただ恐れるだけではいられないのじゃろう、最近になって動きが変わった」
「動き?」
「刺し違えてでも倒す気なのじゃよ、彼らは」
人の気配も、人外の気配も何もない、孤独の山道。
マミゾウと妹紅は、互いに顔を合わせながら、会話を続ける。
空の霧のせいで、月光が遮られているせいで肉体の感覚が狂うものの、どうやら妖怪にとっての体内時計は、人間のそれより遥かに正確らしく。
完全に時間の感覚を失った妹紅と違って、マミゾウは今は何時かを、「なんとなく」ではあるが把握しているらしい。
――ちなみに、この「なんとなく」には、数百と千年の、マミゾウが培った人生経験が裏付けられている為、現代の時計のそれと誤差はほとんどないのだが…今は割愛しておく。
完全に寝落ちを決めた慧音を背負いながら、緩やかな坂道を下る妹紅。
涎を垂らし、自分の肩を濡らすその姿を見て、妹紅はクスリと笑う。
たとえ普段は大人ぶろうが、眠ってしまえば年相応の子供なのは、やはり間違ってはいなかったらしい。
マミゾウは、何かを思うように言葉を止めて、一瞬だけ、眠る慧音の顔を見た。
そして――
「あまりにも長く"異変"が続くなら、隠れて儂が介入するつもりだったんじゃ」
一息。
喉元まで出かかった言葉を呑み込み、代わりの言葉を吐いて、続ける。
「人間の恐れは、儂らにとっての生命線。それを独占するとなれば、儂はまだしも、それ以外の党を組んだ妖怪からも心証が悪くなる。そして最悪の場合は…」
「全員でかかるって?」
「ま、そんなとこじゃ」
月光の独占。
妖怪にとっての、妖力を滾らせる増幅装置の役割もあるそれが、一筋の光も地上に届かないだけ。
それだけで、こうも夜の山は静かになるのだ。
普段意識することなく、見上げていた月に秘められた力が、どれほどのものなのか…それが充分に理解できる。
妹紅は蓬莱人だ。だがそれはあくまで、人間が蓬莱の薬を飲んだというだけ。
月人が飲み、そして変異したものとは根底が違う。
体内組織は人間のままに、魂を核とし、それのみが変質し、それに釣られて、肉体が変化し、髪色が変わったのみ。
肉体が先か、魂が先か。
蓬莱人は、たとえ肉体が木端微塵に吹き飛ぼうが、肉片の一つも残さず消し飛ばされようが。
そこに蓬莱の力を得て、不変となった"魂"がある限り、蘇生する
見た目こそ人間そのものだが、肉体を構築する要素が全く別物の月人とは違って、月光との"共振"要素はどこにもない。
確かに月光がないと、こうして夜の山を歩くのは大変だな…程度の思いしか浮かばない。
――月と言えばだ。
ここまで考えて、妹紅はもし、「これがかぐや姫ならどうだっただろう」と考える。
(迎えから逃げたくらいだし、今頃都合がいいとでも思ってるのかな…?)
あの時、困惑と怒りで、当事者たちから詳細を聞こうとしなかった自分が恨めしい。
しかし既に、
「低級のならまだしも、妖怪の世界って、やっぱ理性があっても変わらないんだね」
「変わらんとは?」
「そういう、群れと群れで争いあうこと」
「…いいや、むしろ
マミゾウは悪戯っぽく、ニヤリと笑って。
「人間は必ず表に"嘘"を出す。一面のみの者は存在しない。正の感情の裏腹には、どんな善人だろうと拭いきれぬ裏の悪がある。――儂ら妖怪がその証明じゃ」
善意。
打算。
憐憫といった、表に出てくる良感情は、決して単一のものではない。
マミゾウは語る。
「だが負の感情は――恐れだけは単一じゃ。憎悪や敵意は、善意と違って裏などない。それはつまり、人間が持つ『唯一の真実』とも呼べるのではないか?」
「…それは」
――否定できない。
少なくとも、妹紅はマミゾウの言葉を、「まぁそうだろうな」と、呆然と内心で肯定した。
「故にこういう考えもある。
「……………」
ひゅぅ……と、冷たい風が頬を叩いた。
暗い夜道の中。マミゾウの、ギラリと一瞬光った眼を、妹紅は無言でじっと見て、しばらく立ち尽くす。
マミゾウもまた、動きを止めた妹紅と同じように、妹紅の一歩先で、足を止めていて。
数秒の沈黙。
それを破ったのも、両者同時であった。
「いや、ないでしょ」
「まぁないな」
ククク…と、互いに喉だけで笑いあった。
「そもそも儂らは人間ありきの存在じゃ、所詮人間の"裏"でしかない妖怪が、どう思いあがって"表"になれる」
「だね、私も思った」
ヒトとアヤカシ。
決して手を取り合えない筈の、両種族。
不思議にも、今この瞬間だけ、その常識が頭から抜け落ちたような、そんな気がした。
妹紅の旅。
その目的はまず、その"鵺"とやらにすることにした。
これにはまず、マミゾウとの間にできた不思議な縁もあったが、何より、一番の理由は慧音だった。
最初は、ただ子供らしく眠気に抗えないだけだと、そう思い込んでいた。
楽観的に、眠る彼女を可愛らしいと、そんな呑気な感想を抱いている間にも、"異変"の矛先は、彼女にも向けられていたのだ。
妹紅がそれに気づいたのは、翌日の朝になってからだった。
「慧音?」
「…んー…?」
「大丈夫?体調悪い?」
おかしい。
朝日も昇り、朝食の時間になった時だった。
妹紅は、己の胸に抱き着き、ぐっすりと眠っていた慧音を優しく起こし、すぐに朝食を持ってきた。
その間も、うとうとした瞳と、眠気に抗えず、舟を漕ぐ姿を見せていたものの、まだ子供だからと、そう特段気にする程ではなかった。
だが、いくらなんでもおかしい。
目を覚ましてから数時間。最初こそ、ただ眠そうにしているだけと思っていたが、舟を漕ぐ様子を一時間以上、目の前で続けられ、その時にようやく、妹紅の中で違和感が勝った。
「…慧音?」
すぐに身体の隅々まで調べたが、変わったところは見つからなかった。
何者かによる干渉の痕もなし、病気や風邪のような体調不良という訳でもない。
ただ眠いだけ。
だが、いくらなんでも度が過ぎている。
もはやまともに問答もできない程、意識が朧気な慧音。
焦る妹紅とは反対に、マミゾウはまるで、それが起こって当然とでも言うように、慧音に目を向けることもないまま。呟いた。
「ふむ…そろそろかのう」
空にはまだ、暗雲の如き霧が漂っている。
濃度も、存在を覆い隠された月光も、全く変わらず、むしろ事態が改善に向かうどころか、悪化しているような気さえしてくる。
変化のない黒一色。霧が発生するのは夜間だけで、今日の昼は特に問題はなかったが、日が沈んでからは話が変わる。
自分はまだ大丈夫だが、それも時間の問題だろう。
妹紅は冷静に、自分ができることはないかを考え、意識を鋭敏に、思考の海で研ぎ続ける。
だが、時間は無常に過ぎるだけだ。
「妹紅」
じっと何かを見つめていたマミゾウが、立ち上がると共に近づいてくる。
妹紅は顔のみを動かし、マミゾウの顔を見つめ返すと、ふと彼女が手に持っている、ある物に気づく。
それは、小さな紙であった。
人型に切り抜かれた、懐かしさを覚えるその形状。
陰陽師。――今の自分ではもう、二度と扱う事が叶わない人の英知の結晶。
鮮明に、脳裏に回帰する。
数百年前。自分がまだ
「――妹紅?」
そんな、マミゾウの怪訝そうな声を聞いて。
ようやく、妹紅は現実に戻れた。
「あ、いや…………」
「その顔、あまり良くない何かを覚えたようじゃな。…儂のせいならすまんのう」
「そんなことない。これは、その…私の問題だから」
そうだ、これは自分の問題だ。
一瞬胸の中に浮かんだ感情、それから必死に目を逸らし、そう自分に言い聞かせるように、マミゾウに返事をする。
――自分はもう使えない。
――彼女は使える。
その現実の前に、一瞬でも覚えてしまった"妬み"の感情が、あまりにも醜く、そして、どうしようもない救いがたさを、自分自身に覚えて。
妹紅はため息を音に出さず、飲み込むように、一際大きく息を吸いこみ、首を振って。
「それで、何かあった?」
「あぁ、ちょうど偵察に向かわせてた子機が帰って来てな、面白い情報を仕入れてきたんじゃよ」
「面白い?」
妹紅の、話題を転換する意を察し、マミゾウは間を置くことなく、すぐにその疑問に答えた。
何故妖怪である筈のマミゾウが、人間の陰陽師が扱う式神術を使えるのか…それの疑問もあったが、先に妹紅が聞いたのは、彼女が持ってきた情報だった。
慧音の異変。改善の兆しもなく、月光が奪われ続けている現在の状況。
まだ戦いの勘を取り戻せておらず、それどころか弱体化し、まともな戦闘方法すらまだ定まっていない状態で、「自分が何とかする」とは口が裂けても言えない。
だがせめて、元凶を叩く以外で――それ以外の方法で、今の自分ができることはないか。
その思いを胸に、妹紅は聞いた。
「前に言ったじゃろう。都の人間たちは、刺し違えてでも鵺を倒す気じゃとな」
「でもどうやって?そもそも鵺が今いる場所って…」
「そう、雲の上じゃ」
雲の上とは当然、鵺がいるのは空だ。
しかし今の時代は、妹紅が生きていた頃とは違って、陰陽術の発展具合は、以前とは別方向のものとなっている。
個々の強さを高めるのではなく、最低限の質だけ確保し、その後は数を増やす。
量産された、陰陽術を刻んだ道具たち。これらが逆に、突出した人間の誕生の機会を奪ってしまったのだ。
単純な霊力。即ち生まれた時点で決まる才能値も、この時代は極度に
むしろ、あれだけ才能に恵まれた人間が多く出現していた、かつての時代がおかしいという話なのだろうか?
マミゾウは続けて。
「警戒態勢も充分。遠目からしか確認できなかったが、中々のものじゃった。たとえ質を度外視しても、あれだけの数…対空武器と人間を揃えていれば、万が一倒せずとも…深手を与えることはできるじゃろうて」
「ふーん…じゃあさ、その中で一番強いのは?」
「弓使いじゃ。
「弓ぃ?」
ありえない。
妹紅は訝し気に聞く。
「いやだって…ここから雲まで一体どこまで離れてると思ってるのさ?」
「ま、それが正しい反応じゃな、うん」
「…もしかして空を飛べるとか?」
「まさか」
――鵺は最初、ただの鳥を冠する言葉であった。
――しかしいつしか、あの不気味な鳴き声を、過剰に恐れた人間たちによって、それの本質が変わってしまい、都は混乱に陥っている。
「あくまでも弓使い。…異能を持たぬ、ただのな」
「それ大丈夫なの?」
「あぁ、実力は確か。というより、あれは過剰じゃな」
マミゾウは一度だけ、その男の放つ矢を見た。
本人にとっては、練習にもならない、ただの慣らしに過ぎない行動だったのかもしれないが。
式神越しに見た、その弓術の極致に、マミゾウは永い間漏らすことのなかった、純粋な感嘆の息を吐いた。
―そう、元は人間がもたらしたものなのだ。
――それなら、それを終わらせるのも、また。
鵺退治に選ばれた、その男の名は――
「名は、
そして、次の瞬間。
マミゾウの言葉が終わると共に。
――空にあった霧が、全て一斉に晴れたのだ。
――月光が差している。
当たり前のことだ。あって当然の、夜の世界の常識だ。
だというのに、妹紅は空に浮かぶ小さな月を見上げて、宿から出てすぐの場所で、じっと言葉を失って呆けてしまった。
周りでは、同じように宿から出てきた何人もの人間が、狂喜乱舞しているのが分かる。
長らく奪われていた当たり前が、ようやく今戻ってきたのだ。それは充分に理解できる。
月だ。
――小さな、空に開いた白い孔。
あの日、歪んでいたとはいえ、確かにあった己の家、居場所。
それを壊した元凶である――月人。それが住む場所。
赤子の頃からあったのと同じ。空にある月には、かぐや姫が帰る日のような変化もない。
数百年経とうとも、変わらずそこに浮かび続けている。
それが、時の流れという、何度も味わった無常さに、唯一反発する絶対の象徴であることを。
忌むべき、あの月人がいる場所だというのに、有難さを覚えたのだ。
「どうやら、終わったらしいのう」
振り返れば、化け狸の十八番芸である『変化の術』を使い、人間に変身したマミゾウがいた。
彼女の場合元が茶髪なので、諏訪大国が長い時間を掛けて消した、異能持ちの証明である髪色に対する偏見の視線を、最初から浴びる心配はない。
耳と尻尾だけを誤魔化してもいい筈なのだが、妹紅の眼前には、先ほどのマミゾウとは打って変わった、マミゾウ本来の姿から耳と尻尾を消し、そこから高身長、そして豊満な胸を携えた状態の、いかにも「大人の女性」と言わんばかりの姿になっていた。
…彼女本来の体形とはまるで正反対。という言葉は呑み込んでおくことにしよう、妹紅はそう内心で呟いた。
「…マミゾウ、これってつまり」
「どうやら、鵺はしっかり退治されたらしいのう。この月を見れば分かる、久しぶりじゃ」
「……」
自分が介入する余地は、なし。
少しだけ気落ちする思いを覚え、妹紅は首を振って、それを頭から追い出した。
……冷静に考えて、蓬莱人である自分が、今の時代の、都の存続をかけた戦争とも呼べる行事に、そう簡単に介入していい筈がない。
そうだ、そう納得しよう。妹紅はとにかく、事態が解決したという事実を、手放しで喜ぶことにした。
――が。
「ッ、そうだ、慧音……」
そんな甘い考えを切り裂くように。
妹紅がふと、思い出した彼女の異変の詳細と、全く同じ瞬間に。
――部屋の奥から、声が聞こえた。
「――ッああああぁあああ!?」
悲鳴。
――慧音の、あの子の悲鳴だ。
「慧音――ッ!?」
「何……!?」
妹紅、マミゾウの順番に。
彼女たちは人目を気にすることなく、初手でそれぞれ、霊力と妖力で身体強化を施し、一気に加速した。
その突然の声に、周りにいた人間の何人かが、驚いて顔を振り向かせるものの、そこにはもう、誰もいなかった。
たった数秒。しかしその間に、妹紅とマミゾウは既に、宿の中に戻り、そして先ほどまで、慧音が眠っていた場所へ――
「慧音!慧……音…」
まるで飛び込むかのように、妹紅は床を足で僅かに削りながら、ゆっくりと減速し、到着する。
襖を開いて、最初に飛び込んできたのは、慧音が起き上がっている姿。
目に見える怪我。流血はない。
それに、部屋の中には誰の気配も、正確には妹紅とマミゾウ、そして慧音の三人分しかなく、第三の『敵』と呼べる者はいない。
その二つに安堵したのは、本当に一瞬で。
次に、妹紅の目に映ったのは――
「見ないで…」
慧音は、泣いていた。
妹紅の、そして隣に立つマミゾウの視線から、
部屋の隅に、丸まっていた。
「お願い……見ないで…っ」
美しい青のメッシュが走る銀髪。
それは影も形もなく、全てが緑に変色していた。
何より、彼女の身体から放たれる気配、力の正体は――
「"天与呪縛"じゃよ」
唯一、その変化の正体を知っているマミゾウが。
混乱している妹紅に、説明を続けた。
「産まれた時、もしくは
「等価、交換…」
「時に肉体の欠損。そして力の一部の封印と種類は数え切れない程あるがのう。…この子のは、その中でも唯一、同一性があるものなのじゃ」
「――ひっ」
一歩、マミゾウが近づいただけで、慧音は身体を強く震わせた。
ガラス玉のように、透き通った可憐な眼には、以前に妹紅が見た、幼気ではなく、見るに堪えない「怯え」があった。
「"ハクタク"、稀にかの神獣との適合率が高く、祝福を受け取れる人間がおる。じゃが所詮は人間、常に祝福の力を使い続ければ、肉体は崩壊してしまう」
「…………」
「だから期限が決まっておるのじゃ。――満月、最も月の魔力が満ちる時のみ、この祝福を得た人間は、文字通り『神獣そのもの』となる」
半人半獣。
純粋な人間でもなく、純粋な妖怪でもない存在。
決してどちらの陣営にも馴染めない、真の爪弾き者。
妹紅は、ようやく分かった。
――彼女が何故、両親に捨てられてしまったのか。
「慧音」
「ッ――」
怯え。
拒絶。
織り交ぜられた、悲しみの感情が、一斉に慧音の視線に込められる。
それがまるで、自分の傷であるかのような、心苦しさを、妹紅は覚え。
「…………おいで」
だからこそ。
それから決して、逃げることはせず。
両腕を広げて。慧音に言葉を投げかける。
「…私はどこにも行かないから」
自分だからこそ。
同じ、蓬莱人という、純粋な人間ではない、爪弾き者同士。
だからこそ、今の自分なら、彼女と寄り添えると。
そう確信した。
「ッ――わた」
「慧音」
強く。
大丈夫だと、そう強く思わせるように、力強く。
妹紅は言った。
「――おいで」
――その瞬間、慧音は走り出した。
勢いを殺すことなく、妹紅の胸の中に飛び込んで。
そして、今までため込んできた悲しみと、そして安堵を表すように。
嗚咽の声を漏らしながら、妹紅に優しく抱きしめられ続けた。
小さな身体だった。
少し力を込めてしまえば、たちまち崩れてしまいそうな。
人外となっても、変わらない背丈に込められた、幼気な少女の苦しみ。
それを受け止めて、妹紅は決心した。
「…………慧音」
優しく問いかけると、もはや言語の体を成していない嗚咽と、強く抱きしめられる感触が、返事代わりとなって来る。
涙で服が汚れることなど、もはやどうでもいい。
今、己の胸で泣く少女が味わった苦しみと悲しみが癒せるなら。
自分が、彼女を救えるならそれでいいと、そう強く思う。
「マミゾウ」
「…………なんじゃ」
名前を呼ばれ、反応を少し遅らせてから、マミゾウが返事をする。
化け狸として、古来よりずっと、人間と種族単位で関わり続けてきたからこそ、今の状況と、慧音の苦しみを分かっているのだろう。
振り返った時、妹紅の目には、マミゾウが慧音に向ける視線に、憐憫の色が浮かんでいるのが分かった。
そして、ようやくその時に、初めて彼女と出会った頃の違和感。それに気づく。
「最初に気づいたんだね。慧音を見た時の反応、あれってハクタクの気配を感じたんでしょ」
「…………あぁ。隠す気はなかった、というよりむしろ…既に知っているのかと思ったんじゃ」
「…………だね」
マミゾウに非はない。
むしろ、悪いのは自分だろうと、妹紅は思う。
「私、この子のこと何も知らなかったんだ」
あんなに泣いて。
あんなに怯えて。
そして、初めて出会った頃のとは比べ物にならない、その傷ついた姿を。
――自分は、何も知らなかった。
「私はどこにも
強く抱きしめ。
彼女の耳元で、強く、己にも言い聞かせるように、妹紅は言う。
「私は不老不死だから」
だから、せめて――
「たとえハクタクでもさ、永遠には生きられないんでしょ?数千年?数万年?上等だ」
――この子に捧げてもいいだろう。
「数億年でもいいよ、私の時間をくれてやる」
強く、紅く。
妹紅の枯れ果てた心の中に――新たな"熱"が誕生した。
できればの話ですが、今作が五部まで行って完全な終わり(もう続きが出ない)のは271話までだと思います。
原作呪術に合わせたい。
投稿時間は何時がいいか
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7:00~9:00
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10:00~12:00
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13:00~15:00
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16:00~18:00
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19:00~21:00
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22:00~0:00