【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 はー原神たのちー…でも執筆もやらな(ハナホジー …あっお気に入りの作品が更新されたから読も…

(感想欄に見える自分がこの作品を書くキッカケになったお方の名前)

 ホアァアァーーッ!ゴングを鳴らせっ執筆活動開始だっ


 はい


3章:壊王
11話.味見下見と聞こえはいい


 集落から離れた場所、人々が妖怪の山と呼ぶ、天狗の住処であるその山。

 侵入者(諏訪子)の気配による騒動や、それに紛れて行方不明となった若い天狗の少女のことなどがあった故か。

 普段の超然とし、威厳を放つ彼らには似つかわしくないような慌てっぷりで山を越え、右へ左へと翼を動かし空を駆ける。

 ただ、一人を除いて。

 

「…………」

 

 天狗の住処である、山の奥の更に奥。

 彼らによって張られた簡易的な結界が複数と、更には式神数十を配置させた徹底管理が施された重い空気を纏うこの場所。

 ただ瞳を閉じて、まるで修行僧のように微動だにしない女天狗の背中を見守るように、数人の男天狗は立ったまま控えている。

 この先にいる存在と、そして勿論監視を続ける()()の全てを投げやりにして職務を放棄しているわけではない。

 ただ、この場所から放たれる気配に、彼女以外の天狗は皆太刀打ちできず、近づくことすらできないだけだ。

 

「………」

「………」

 

 まだ若さに溢れ、せわしなく翼を収縮させる天狗、狡猾さを纏った瞳と老いの進んだ容姿をした天狗、鍛錬を積み堂々とした立ち振る舞いをした天狗。

 十人十色の個性と容姿をした天狗たちが、揃いも揃ってただ静かに、目の前に鎮座する巨大な石封印の全容を観察していた。

 若い者もいる、老いに蝕まれ肉が落ちた者もいる。だがその全員が並の妖怪、同族の天狗すらを圧倒できるほどの実力を持っている。

 それでも届かないのだ、目の前で瘴気をまき散らすそれと、彼らの同族でありながら、()()()()()()()()圧倒的な――

 

「また、か」

 

 ――ごう、ごう…

 山の支配者たる天狗、それの頂点に君臨する彼女ですら、冷や汗を流してしまうほどの瘴気。

 不協和音をまき散らしながら揺れる石封印、それを前にして彼女は動く。

 長い時間じっとしていたのもあるのか、少し強張った筋肉をほぐしながら、彼女は立ち上がって扇を握る。

 瞬間。

 

「…っ!」

 

 空気すら揺らがない絶技。

 ドン、といった地面を蹴る音、空気が破裂する音すら聞こえない、天狗の常識を壊す前代未聞の風操作。

 天狗の中でも最高峰の飛行速度と技術によって一気に接近し、手を動かす。

 その扇が、風が、音となって変化を表す瞬間だった――

 

『菴輔r險?縺」縺ヲ繧九%縺ョ鬥ャ鮖ソ縺ッ…!』

 

 地の底から響くような重音と圧迫感。

 沸き上がる厄の気配に対するは、山を支配する王の威圧。

 封印されているはずなのに、肺から肉体が崩壊するのではと錯覚するほどの濃密な死の気配に、彼女は一瞬だけ顔を不快に歪めた。

 

「っ!」

 

 目にも留まらぬ神速の域。

 通常発生するはずである腕を上げる、振るうのプロセスが存在しない、物理法則を無視した妖怪ならではの挙動。

 不可視の衝撃がそれを襲い、仰け反ると共に追撃が始まる。

 凝縮された時間の中で、彼女の駄目押しは止まらない。

 

「"錆声(さびごえ)" "楽興(がっきょう)" "切望(せつぼう)頌歌(しょうか)"」

 

 彼女の口から言葉が紡がれる。

 同時に、ただでさえ圧倒的だったその威力、速度が同時に向上し放たれた。

 数十にも及ぶ斬撃の数、吹きだす鮮血と絶叫に顔色を変えることなく、それは頭上からの影に吞まれ――

 

「…封印」

 

 ――ズンッ!

 何重にも重ね掛けされた結界の数々と封印の札。

 それらで作られた巨大な石封が、落下の衝撃と共にそれを押さえつけ、瞬く間に封印が劣化する前の状態へと戻る。

 石封印が落ちてきた上空、そこにいる一人の天狗に、彼女は視線を向けた。

 

「よくやった」

「いえ」

 

 彼女の賞賛に対し、彼はただ一言だけ返して終わり。

 顔を綻ばせるわけでもなく、かといって不機嫌そうなわけでもない。

 ただ、当然のことをしただけだという態度を崩さないまま、地中に降り立ち顔を合わせた。

 他が恐れ、足手纏いになるからと待機を命令した他天狗と違い、彼だけが唯一の仲間であり、同時に今回の作戦の要だった。

 そんな彼に対し、待機し、怯えることしかできなかった他の天狗たちは、面白くなさそうな顔を隠さないでいた。

 嫉妬はある。人間がよく向ける妬みなど数え切れないほどしてきた、しかし同時に強く納得はしているのだ。

 彼の優秀さ、そして何よりそれを証明する"大天狗"という肩書の全てに。

 

()()()、こやつの様子は…」

(かえで)…言わなくてもわかるだろう、封印を破る頻度が段々と高くなってきている。…もう抑えきれんだろうな、あと数日で」

「…そうですか」

「なんだ、冷たいな」

「対策など既にあるのでしょう?おそらくは…」

「言わずとも」

 

 ――ごう、ごう…

 あの、山を揺らす巨大な風の気配が、楓と呼ばれた天狗の目の前から発せられる。

 天狗によく見られる黒の翼と髪、しかし普通の天狗よりも深く、まるで宝石のように輝いてすら見える正に漆黒。

 その血のようにギラギラと輝く赤い瞳を、より一層美しく光らせ、歪ませる彼女こそ。

 

「例の侵入者の話を聞かせろ、ついでに失踪した餓鬼もだ」

 

 天狗たちの長、鞍馬(くらま)天魔(てんま)である。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「こ、これでいいかしら…?」

「似合う似合うー!これなら何の問題もなく外を歩けるね」

「髪色は祟り神がなんとかするだろうさ、さて…」

 

 同刻、天狗の山のふもとにある住居の中で。

 

「…ところでなんで私だけ服を、というかどっちかというと貴方たちの方が」

「メリー、私もそう思ったけど細かいことは気にしちゃ駄目」

「え、えぇ…」

 

 凄味のある言い方をされて、マエリベリーはつい後ずさりしながらそう返す。

 マエリベリーは現在、あの今まで着ていた現代の服ではなく、この時代に合わせた庶民的な装いになっている。

 服まで含め、自分の身体の一部として解釈している彼女…"今の洩矢諏訪子"やそもそも妖怪であるため生態のあらゆる要素が謎に包まれた兎、因幡てゐといい考察材料が足りないのだ。

 何故自分含む彼女らの衣服は疑問視されないのか、そもそも人間だから、人外だからかの違いなのか…

 謎が謎を呼び、短い時間であるが彼女らを悩ませた。そしてその結果が…

 ――細かいことは気にしない、である。

 

「それじゃ、行こうか!」

『ちゅー!ちゅーしよ?ちゅ…』

「…嗚呼、行ってらっしゃい」

 

 先ほどからずっと、涎を垂らしながら頬擦りを繰り返す桃色の祟り神と、それに拘束されたままの天狗の少女。

 一度の経験とそれに伴う慣れというものは恐ろしいもので、最初感じていた不快感はそのままに、同時に味わった失神が許されないという、ある意味生き地獄のような経験を現在進行形で少女、天狗の飯綱丸龍は味わっていた。

 ニマリと、いたずらっぽく笑ってから、彼女は手を振って。

 

「行ってきまーす!」

『ちゅー!』

「…はぁ」

 

 てゐ、マエリベリーを連れて三人で、家から出ていった。

 

 

 

 

 

「てゐ、どう?」

『問題ない、視界も良好で窮屈じゃない』

「そ、ならよかった」

 

 彼女が自分の()()に視線を向けてそう問うと、マエリベリーを含む二人にしか聞こえない音量で、あの兎少女の愛嬌のある声が聞こえた。

 それを聞き、自分の能力に何の問題もないことを確認してから、彼女は歩き出した。

 

「近頃また山の方から…」

「農作物の数が…」

「そういえば最近噂が…」

「…妖怪がまた来たらしい、物騒なことだ」

 

 歩き続ける、ただ目的もなくひたすらに。

 だが以前のような、ただ山道を歩いていた時とは違って、その道には人の賑わいがある。

 

 ――人がいる。

 

 たったそれだけ、たったそれだけの事実と目の前に広がる集落としての姿が、どうしようもなく彼女の心を浮き立たせる。

 ちらりと、横切った人影を目で追いながら続けた。

 

「地面も凸凹、家も普通だね」

『当たり前だろ、むしろ上位の統治者がいないのによくやってる方だとは思うけどね』

「そりゃそうか、私の初めてに相応しいってことだね」

 

 この地に神はいない。

 妖怪による統治もなされておらず、一番近くに存在する天狗は基本、人間には無干渉。

 しかし他はそうはいかず、天狗の統治による安寧と恵まれた環境を捨ててまで、山を下りようとする妖怪はいない。

 別の場所はといえばこちらも、わざわざ天狗の山の近くまで来て、喧嘩を売るようなことだってしたくもない。

 奇跡だ。あらゆる外敵を寄せ付けない奇跡のバランスで成り立ったこの村は、正に彼女が統治し、未来に続く"諏訪大国"の始まりに相応しいのだと。

 

「メリー、できるだけ私から離れないようにね」

「えぇ、わかってるわ」

 

 そう言って、一歩彼女の身体から離れた位置を歩きながら、ニコニコと笑うマエリベリーを、てゐは彼女の足元…影の中から面白そうに見る。

 随分と信頼されたものだ。

 今までの常識が通用しない摩訶不思議で溢れ、自分が見知った者もいない、その孤独はただの少女には耐え難いものだったろう。

 しかし、今のマエリベリーにそのような不安は既に存在しない。

 彼女の楽観的ともいうべき雑さ、未来(原作)を知るが故の確信から来る説得力のある態度が、それを飽和させてくれたのだろう。

 浮足立つ彼女の後を追いながら、マエリベリーは続けた。

 

「ねぇ、あれを見て」

「ん、あれね」

 

 歩みを止め、彼女が視線を向けた先。

 蒸気が発生しそうなほどに加熱され、汗だくになった身体の男と、それを囲む複数人の村人たち。

 無邪気に跳ねまわり、笑い声をあげる子供たちとそれを見守る大人たち。その穏やかな空気とは一線を画すように、その男たちだけは真剣な表情で何かを話していた。

 

「あの格好…飛脚みたいだけど…でも時代が違うし…」

「ま、どっちでもいいじゃん?とりあえず話を聞いてみようか」

『全く…また面白そうなことが起こりそうで良かったよ』

 

 純度100の皮肉と共に、しかしどこか仕方ないと、優しさを含んだ声色でてゐはそう言う。

 彼女は笑う、てゐの皮肉そのものと、そしてちゃんと理解し、同時にどうしようもなく愛しく感じる優しさに。

 とにかく、てゐが皮肉とはいえ発したその言葉は――

 

「こんにちは、とりあえず…」

「なにかあったんですか?」

 

 本当に、皮肉にも現実に――

 

 

 

 


 

 

 

 

 近頃の山は不吉だ。

 それは村の中では子供ですら、赤子すら泣き声を上げて同意するほどの当たり前そのもの。

 原因などわからない、わからないからこそ恐ろしい、恐ろしいからこそ"それ"はより、強くなっていく――

 

「ここかな」

 

 あの時、彼女が全力疾走を終え、息も絶え絶えになった男から聞いた話はこうだ。

 最近になって頻度を増し、異変の起こる山と天狗たちの動き。

 男はこの村に生まれそれなりの年月を過ごした、だからこそ最近になって、この違和感がとても恐ろしくなったのだと。

 妖怪の出にくい昼に出発し、ただひたすらに走る、少し休んでまた走るの繰り返しだったという。

 いつ来るかわからないあの異変。ごう…ごうと山を揺らすような不吉な風、それの発信源を己の直感、そして肌で感じ取って探し回ったという。

 しかし残念ながら、()()()に妖怪が襲って来たことで、死ぬ気で逃げてきたのだとも――

 

「それがここ、ねぇ…」

 

 彼女が「どこかで…」と呟きながら見下す先、数十mはあるだろう巨大な、奈落へ繋がる落とし穴。

 男が言うには…山の異変の元凶は、確かに山の方から感じるものの、その()()()違和感を感じたのだと。

 あの、身を震えさせる瘴気はただ漏れ出た余分なものにしか過ぎず、本質である元凶は()()ではないかと。

 その時。

 

「メリー、聞こえる?」

「えぇ…聞こえるわ」

 

 ――ヒュウウウと、何かが近づく音が聞こえる。

 彼女はすぐに、マエリベリーに手を差し出した。

 

「てゐ、問題ないね」

『それは諏訪子、あんた次第かな』

「なら絶対安心だね。メリー、私の手を」

「わ、わかったわ」

『グギュァアアアアアア!!!!!』

 

 ――同時に音の発生源が目の前に現れる。

 異常に成長し、筋肉質なその身体を包む鋼のような翼と嘴は、正に妖怪烏と呼ばれる中でも最上位のもの。

 黒ずんだその翼の先と爪先から、仄かに香る腐臭…それは捕食者の勲章であり、生物を殺めた証明である死の香りだ。

 パリ…風に紛れた小さな音だったが、その不吉な予兆と己の勘に全力でしたがい、同時に祟り神を呼び起こす。

 

『――ッ!!!』

 

 轟ッ!と鼓膜が痺れるほどの暴風と共に、頭上から彼女たちを絶命させるほどの充分な威力を持った落雷が君臨する。

 砂埃と、未だ漂う稲妻の中で、ギョロリとした眼球が彩られた灰色の繭が存在していた。

 それが解かれ、中から出てくる無傷の二人。

 

「落雷、そして風に飛行能力持ちか…いいね、あれは優先して取り込もう」

『見た目も悪くない、私も賛成だ』

「っ次!」

 

 まるで危機感を感じていない彼女の姿に、目の前の妖怪は視界を真っ赤にする。

 己の力の象徴、誇りそのものである力に屈することも、傷を付けられることもない、その堂々たる態度。

 知性なき妖怪、理性なき妖怪全てに共通するその本能――

 

『ッガァアアアアアアッ!!!!!』

「洩矢の鉄の輪」

 

 ――速い。

 目の前の妖怪もだが、彼女の速度はそれよりも一歩上。

 てゐは彼女の影の中…祟り神の収納されている異空間から、通常では決して体験できない特別な第三者視点から、その戦いを見守りそう考察を続ける。

 最初に、祟り神に頼らない飛行方法を見つけたと、自分に自慢した時からそれほど時間は経っていないはず。

 だが、今の彼女は凄まじい速度で成長している、万が一にも彼女が負けることはないだろう。

 勿論、その間もマエリベリーは、あの繭型の祟り神に守られているため安心であり、その万が一の"もしも"すら許さない。

 故に、彼女は余裕そうに()()を楽しむ。

 

『ッ…!?』

「ほらほら、頑張れ頑張れ~?」

 

 まるで舞いを踊っているようかのような動きで、彼女は空中を駆ける。

 壺装束にも似た、洩矢諏訪子の衣装の中。妖怪からはどうやっても見えない不可侵の空間に展開された、祟り神専用の出入り口。

 そこから牙の生えた、鰻に似た形の祟り神が複数出現し、妖怪に向かって飛び出した。

 

「烏だもんね?」

『…ァガッ!』

 

 どんな生物、妖怪にだろうと弱点は存在する。

 それは時に概念であり、特効の武器であり、そして生物では決して抗えない、生物故の設計の脆さ。

 彼女が祟り神に命令したのは、ある場所への攻撃であり――

 

「駄目押しだ」

『ォアアアアア…』

 

 鰻の祟り神が、妖怪の関節部分を優先して狙い、同時に死んでも離さない勢いで全力の抵抗を見せたと同時に。

 彼女は、今までに何度か召喚していた、()()の祟り神を右手に握っていた。

 溢れ出す神力と、そして同時に強化される彼女の身体能力が火を噴く瞬間――

 

 その時、彼女の手の中の祟り神の内心は「感激」であった。

 

 今までずっと、やれ木を加工する際に鋸の代わりとして酷使された。

 やれ今度は釘を打つ、やれ今度は石を叩いて割る、今度は石を削るための道具…

 あの最古参の百足に比べれば、自分は今まで不憫なことばかりやらされてきた。

 ――故に、今回のように、初めてまともに戦闘中に呼び出されたことが、とてつもなく嬉しかったのだ。

 

「せーっの…」

 

 彼女が、ギチッ…と鈍い音が出るほどに祟り神を握り。

 振り上げたそれを動かした瞬間――

 

 

 

 

「ッ打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打」

 

 祟り神は、ちょっとだけ泣いた。

 

 

 

 

 

「いっただきまーす」

「…何故かしら、私今とても"可哀想"って気持ちが湧いてきたの」

『おーよしよし、辛かったねあんたも』

 

 突然始まった戦闘だったが、何の問題もなく終えることができた。

 ちなみに、てゐは彼女の影…祟り神が収納されている異空間にいる、つまりは先ほど酷使され、活動限界を迎えた祟り神も一緒にいるということで…

 

『諏訪子』

「んー?」

『次はちゃんと優しくしてやりな』

「…はーい」

 

 珍しく、少し真面目な口調でそう言ったてゐ。

 その態度に膝を丸めて、しょんぼりとした顔でむしゃむしゃと先ほど下した妖怪を取り込んでいる彼女の頭を、マエリベリーは優しく撫でていた。

 

「わかったよ、さっき遊んだのはそうだけどさ…いざって時は許してよね」

『はいはい、流石にそこまで文句を言うつもりはないさ、そこまで頭が固くなる生き方はしてないっての』

(結局何歳なのかしらこの人…)

 

 ごくん。

 充分に口内で味を楽しみ、満足したからかようやく飲み込んだ祟り玉。

 同時に右手を伸ばし、その手の中で渦巻く黒の波動。

 

「出てきな」

『………』

 

 あっという間に変形を終えて、目の前に立つ巨大な妖怪烏。

 一度取り込んだ影響か、返り血で染まったその見た目は洗浄され、かつての美しい黒の毛並みが復活していた。

 その見た目、そして気配を改めて感じ取ったてゐは、影の中でぽつりと呟く。

 

『…あん?こいつもしかして…』

 

 ――バサリッ!

 てゐの呟きをかき消すように、勢いよく翼を広げ、嘴を掲げた妖怪烏。

 その突然の行動に、マエリベリーはビクリと身体を震わせ、彼女はそれに「おぉ~」と呑気な声を上げた。

 そして、妖怪烏はその姿を誇るかのように――

 

『ピーッ!』

 

 可愛らしい鳴き声を上げた。

 

「はぇ?」

『ピーッ』

 

 その巨体に見合わない可愛らしい鳴き声に困惑し、硬直した彼女の視線の先で。

 まるで「撫でて」と言わんばかりに首を垂れ、目をつぶる姿があり。

 隣で口を開きっぱなしのマエリベリーと、影の中で絶句するてゐ。

 

「よ、よ~しよしよし…」

『ピッ』

 

 彼女も例外ではなく、困惑したままその頭を撫でる。

 先ほどと違い、戦闘中ではないため落ち着いて、そしてより至近距離でその身体を見たからこそ、その甘え声のギャップに困惑していたのだった。

 異常発達した筋肉といい、自分の数倍はある巨体といい、どう見ても威圧感しか感じない図体でありながら、声だけはまるで雛鳥だ。

 ため息一つ、そして一言。

 

「あーもう!気にするだけ時間の無駄!」

 

 ビシッと効果音の付きそうな勢いで指を差し、妖怪烏の視線を目の前の巨大な穴に向けさせる。

 同時に、残る左腕で馬をなだめるかのようなジェスチャーをしながら、彼女は命令した。

 

「とりあえず!私たちを乗せて!」

『ピピッ』

『あー、うん賢明な判断だね』

 

 なんとか現実に戻ったマエリベリーの手を引っ張りながら、彼女は妖怪烏の背中に座る。

 互いに、妖怪烏の毛をしっかりと掴んだことを確認した後、再び命令。

 

「ゆっくり降りて」

『ピー』

 

 彼女の命令を聞き、妖怪烏は先ほど見せたのよりも遥かに速度を落として飛び立ち、穴の中央へ向かう。

 そしてゆっくりと、羽ばたく間隔を調整しながら、垂直に降りていった。

 一応周り、そして頭上の警戒を続けながら「おい」と話しかけてきたてゐの声に耳を傾ける。

 

『諏訪子、あんた気づいた?』

「ん?何が?」

『こいつの種族だよ、あんたが取り込んで祟り神になったから、後から変わったって予想もあったんだが…』

 

 てゐはあの時、影の中からとはいえある既視感を感じていた。

 異常なほど発達した筋肉、鉄にも劣らない硬度の羽と、宝石のような輝きを持つ爪。

 ()()()()()。てゐが一瞬、それと対峙した瞬間脳裏によぎった存在と。

 だがやはりそうなのだ、信じがたいが彼は()()で、これから()()()()()()()()()も――

 

『とはいえ…出てきた場所含めてもそれしか考えられなくてね』

「つまり?」

『そいつ地獄()"だよ』

 

 わかるかい?

 いつもよりも抑揚のない、冷たさすら感じるその言葉が彼女の中でこだまする。

 地獄鴉(じごくからす)。その名の通り、地獄に生息し亡者の死肉を好み、地獄の闇から誕生するとされるその妖怪。

 地獄の闇から生まれるそれが、()()()()()()()()()()()()()飛び出した?否。

 断じて否、そんな偶然がそうあってはならない、ならば答えなどただ一つ――

 

『この先は地獄だ』

「………つまり山の異変とやらも」

『あぁ、この先に』

 

 ――地獄にいる。

 地獄へ繋がる穴を下りながら、彼女はただ茫然としていた。

 それは恐怖か?いや、それは今の彼女の表情を見た者はそろって否定するだろう。

 今の彼女を満たす感情は――

 

「面白そうじゃん…!」

 

 ――クレヨンを握りしめた、赤子のような好奇心。




 フリーナ3凸しました、絶賛マイテイワットでフリーナが海上を練り歩いてます
 後気づいた方もいらっしゃると思ったんですが…諏訪子様のことを「彼女」表記にしているのは訳がありまして…
 それが解かれるのはきっと――

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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