【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
――何処にいる。
――何処にいるというのか。
「〜〜〜〜〜」
「〜〜○○〜**〜〜」
シューッ…シューッ……
奇妙な形をした
そんな彼らが全身に纏うのは――軍服。
決して、この時代には存在しない筈の、人類が作り出した科学による衣。
響くのは、言語の体を成していない、謎の濁音と呼吸音のみ。
彼らは右へ、左へと頭を動かし、まるで何かを探すような…否、何かの痕跡を探るかのように、地面に向かって謎の機械を向けている。
「〜――***?〜〜~…○!」
「○○○○○…**○、○○!***…」
彼らが探すもの。
彼らがこうして、
先頭に立っていた、軍服に身を包む二人は、目当てのものを見つけられなかったらしい。
互いに視線を交差させ、残念そうに頭を横に振って、そして再び歩き出す。
その姿だけ、気味の悪い何かではなく、親しみを感じられる人間そのもののような、そんな気配がした。
「……残穢もないのか?」
一人、男の声が響く。
先頭に立っていた二人と、そんな彼らの背後に並んで待機していた、残る軍服を纏う兵士たちは、一斉にその声の主へ、赤い鎧を着た者へ、視線を向ける。
頭を下げて、平服する姿勢を見せると共に、彼らは一斉に声を上げた。
「○○○○○…!**○**○」
「〜〜…――!」
「**○○○○*○…?○○」
彼らの目的はただ一つ。
彼らが求めるもの、それを確保し、確実に連れ帰るまで、彼らは真に目的を達成することはない。
夜の闇に紛れて、彼らは再び歩き出す。
一人、二人。合計で十数名、だがそれら全てが、まるで幾千の修羅場を潜ってきたような、歴戦の雰囲気を醸し出しており。
実際、彼らの中に、足音を立てる者はいない。
訓練された――月の兵士。
彼らは歩く。
再び謎の機械を使い、『誰か』を探して行進を続ける。
「………………蓬莱人め」
――そんな様子を、遠くから。
――サードアイが、妖しい光を放ちながら監視していた。
「蓬莱人はどこにいる?」
妖しい光を放ちながら、言葉を紡ぐさとり。
手のひらに置かれたサードアイ、それが見透かすのは相手の表層心理。――その最奥の、細胞単位に刻まれた記憶。
眠りを覚ます恐怖、トラウマを掘り起こす彼女の力。
『心を読む程度の能力』
その文字通り、さとりの能力とは、対峙した相手の心を読む力。
しかし、相手の心を読み取る力自体は、覚妖怪という種族が皆、共通して持つもの。
生まれた時から既に、それは元来あって当たり前の特性。
…だが、わざわざ
さとりが見るのは、読み取るのは、心を読まれた本人ですら自覚できない、深層心理の全て。
たとえ本人が忘れているつもりでも、一度刻まれた記憶とは、永遠に刻まれたままなのだ。
ただ、本人はそれを思い出せないだけ。
さとりはそれを読める。取り寄せることができる。
本人でも覚えていないトラウマ、そして恥部を、全て文字通り曝け出す――
「……なんだ、外れか」
それが、さとりにとって素の口調なのだろう。
先程から、妙に大物ぶろうとしているような、そんな気配を頼政は感じていたのだが、今はあの喋り方ではない。
見た目相応の、子供らしい口調である。
再三言うが、勿論この思考は既に、さとりに筒抜けであり。
「…予行練習ですよ、予行練習。近いうちに…ある場所の管理を任されることになりまして」
ゴホンと、さとりは分かりやすく、口調の変換を咳払いでアピールした後。
頼政、そしてぬえの心を読み、そしてそれらへの返答を続けた。
まずは一つの疑問。
「知っての通り、私
天狗や鬼のような、単純明快な強種族とは正反対に。
覚妖怪の、種族としての強さのレベルは下位であり、それは下から数えた方が早い程の、あまりにも貧弱なものである。
最下位は天邪鬼だが、これはあくまでも「それなりに害がある」程度の扱いでしかない覚妖怪と違って、彼女らは…現代の言葉でサーチアンドデストロイ。「見つけたら絶対に殺せ」とまで言われる程なのだという。
名前に"鬼"が付いているだけであり、あくまでも妖怪の種族名である『鬼』と『天邪鬼』は全くの別物。
角もあるが、その種族の有り様は全くの正反対。鬼は嘘を嫌い、真っ直ぐ生きることが美と言うが、天邪鬼は逆に、口から出る全ての言葉と、見せる態度が全て悪意に満ちている。
それこそ、さとりが彼女らを「不器用な生き方」と切り捨てた由縁である。
「これは、心が読める私たちだから分かるのでしょうね。天邪鬼は正真正銘、強がりなどとは断じて違う、本心で嫌われることを喜び、悪意をぶつけるのを悦楽とするんです。………その癖に弱いんですけど」
鬼は生まれた時点で、鋼にも勝る程の肉体強度を持つが、天邪鬼は違う。
なんと彼女らは、肉体強度だけの話なら、覚妖怪よりも下…つまり人間と全く変わらないのだと、さとりは言う。
精々が妖力…それで身体を僅かに強化し、弾幕を放つ程度。
…これでは、鬼のような修練を経た人間には到底敵わない。
これでは天邪鬼が、ドンドン数を減らし続けるのも仕方の無いことだ。
彼女らの、種族としての限界もそうだが、覚妖怪以上に酷い、抗えない悪意の本能に踊らされるその姿勢も、人間から強く敵意を集める要因となっているのだろう。
同じ、人間を揶揄う事を悦楽とする妖怪仲間でありながら、自分よりも更に下の弱小妖怪。
本心を暴き、揶揄って喜ぶ覚妖怪ですら、本心から哀れみを覚えるというのだから、どれほど彼女ら、天邪鬼が救えない存在かが分かるだろう。
それが、二つの疑問。
「天邪鬼は相変わらずですが、私たち覚妖怪はそうは行きません。人と共存を選んだ者は少数。…迫害されて殺されたのと、私たちのようにこうして、ひっそり慎ましく生きているのとで別れました」
――やはり、さとりがここに居たのは人間から姿を隠すためだったらしい。
いくら戦闘力に秀でている訳では無い覚妖怪とはいっても、人外の括りに位置することに変わりはない。
一般人相手に負けるつもりは毛頭ないが、この時代は頼政が良い例だが、並の妖怪を凌駕する実力を持った、特殊な人間が一定数存在する。
人間の強み。それは妖怪より更に多い、量による圧倒的な力。
さとりの判断は正しい。実際彼女が言っていた、別の選択肢をとった覚妖怪のような、人間と積極的に対峙した者は、等しく『退治』されているのだから。
「あなたたちは例外ですが、ここには滅多に妖怪も、人間も来ないので平和なものですよ。…まぁ、それも今日で見納めなんですが」
心底嫌そうな顔で、さとりは言う。
「……地底、以前は地獄として利用されていた無人地帯を有効活用しようと、鬼たちがそこへ一斉に移住し初めまして」
「……何、鬼だと?」
頼政は驚く。
心の中は既に読まれている。
が、それでもつい、言葉が口から零れてしまう程の、決して軽くない衝撃であったからだ。
さとりはそれに、ため息を交えながら。
「……ご存知の通り、鬼たちは今、ほとんどの者が人間を見限り、姿を隠して行っています。理由は勿論…」
「鬼退治だろう?待て…確か最近聞いたのは…かの茨木童子の……」
鬼と人間は、古来より強い関わりを持って生きてきた種族だ。
妖怪は恐れを基に、肉体を構成し、命を廻す。
それは遥か古代。…否、神代から常に続いてきた、人間と人外の関係性の全てだ。
人の悪意、飾らないそれらから抽出された、純粋な感情から生まれた命。そんな妖怪の中でも、鬼は珍しい部類に入る。
頼政とて、並の人間を凌駕する実力を持っているが、あくまでも『弓矢』が主力であり、鬼たちのような、鋼の肉体を貫く為の膂力は持っていない。
時折、人里に降りた鬼が人を、そして酒や食物を奪い去っていく事件が起こる度に、頼政もそれらの対策を求められたが、その度に断りを入れていたのは記憶に新しい。
――のだが。
「鬼が姿を隠す…?なるほど道理で…最近は鬼の被害を聞かない訳だ」
頼政、人間からすれば勿論。それは良い事以外何も言えないのだが…
隣に立つぬえも、鬼たちに強い思い入れやらも何も無いらしく、「へ〜」と、心底どうでも良さそうな声だけを出して、さとりの言葉をボーッと聞いていた。
さとりもまた、彼女らに良い印象は持っていないらしく。
「まっ、私からすれば何を勝手に…って話ですよ。自分たちから喧嘩を売って、自分の好みから離れた手段で、自分を倒しに来て…それで満足がいかないって勝手に拗ねてるんですから」
さとりからすれば、寧ろ人間たちはよくやっている方だと言う。
そもそも一部の、突飛した実力者がおかしいだけで、人間とは普通弱い者だ。
武器や作戦、数という名の暴力と悪意。それらを含めて、初めて人間は人間の強さを持っているとさえ言えるだろう。
勿論わざわざ、それを鬼たちに聞かれるヘマはしないが。
「そういう訳で、一斉に住居を移動させる鬼たちを受け入れる場所として、地底が選ばれた訳です」
自然な流れで、森の霧を突き進むさとりの背を追いかけて、頼政は歩き続ける。
何処に行くつもりなのか。やはりそれを問うよりも早く、さとりは心を読んで、答えた。
「外に出たいんでしょう?なら私についてくるのが賢明ですよ」
「それは確かに…そうだが……何故」
「勿論対価は求めますよ?当然でしょう」
やはり、純粋な善意からという訳ではなかったらしい。
"縛り"という程ではないが、ただできれば…と付け足してから。
「私には、血を分けた妹がいるんですよ」
「覚妖怪か?」
「えぇ、ただ私とは違って、心を読む力はないんですけど」
覚妖怪は皆、体外で浮かぶサードアイを通じて、相手の心を読む。
しかし話によれば、さとりの妹…名をこいしと言うらしいが、その少女は自ら、相手の心を読む力を捨てて、今までの覚妖怪とは全くの別系統である、『無意識』の力を得たのだという。
だが、厄介なことに…
「無意識。その力のせいで、私の能力でも感知ができなくなってしまいまして、しかもあの子自身の放浪癖もあって、目を離した隙に勝手に…」
「それを見つけてくれと?」
「あ、いやそういう訳ではなく。というかどうせあなたたちでも見つけられないでしょうし、期待なんて微塵もしてません」
いちいち棘のある言い方だが、実際その通りなのでぬえは勿論、頼政も何も言い返せなかった。
たとえ『鵺』を倒せる程弓を鍛えようとも、彼に『無意識』の妙を貫く術はないのだから。
さとりは言う。
「一目見れば分かると思います。私に似た風貌ですから。まぁもしも見つけたら、そろそろ帰ったらどうだ。とだけ言ってくれれば」
「分かった、見つけたらな」
「あれでも、私の唯一の家族ですから。そうしてくれると助かります」
妖怪だろうと、肉親を思う心は同じなのか。
霧の中を、まるで慣れたように進み続けるさとりの背中を見つめながら、頼政は確信を深めていく。
最初から、ぬえを生かすと決めたあの時から。
ずっと頭の中に、浮かんでいた一つの選択肢。
それを強く想起したのを、前方にいるさとりが知覚したのだろう。
宙に浮かぶサードアイが、くるりとその視線を頼政に注ぎ、キラリと妖しい光を放っていた。
「…これまで、色々な人間の心を読んできましたが…」
「む?」
堪えきれないとでもいった風に。
さとりはクスリと、息を吐き出すような笑い声と共に、満面の笑みを浮かべながら振り返り。
「ここまでのお馬鹿さんは初めて見ました」
「……褒めているのか?」
「えぇそうです、この私が直々に褒めてあげてるんです。感謝してくださいよ?」
唯一、話についていけていないぬえだけが、蚊帳の外である。
霧の中を右へ、左へと突き進み続けて、およそ10分だろうか。
今まで、視界の数m先まで純白に染まっていた、霧の壁とも呼ぶべき障害がなくなり、いよいよあるべき出口が見えた。
そこから見える外の景色は、頼政も知らない、完全初見の場所であったが、それは瑣末な問題だろう。
"月と星"。その二つさえあれば、自分の居場所を見つけることが可能だから。
頼政はさとりを追い越し、一歩森の外に足を踏み出してから、振り返る。
「助かった。感謝する」
「えぇ、こちらこそ。あなたたち二人はいい暇潰しになりました」
「うむ」
「暇潰し…」
ぬえは微妙そうだが、頼政は特に気にせずに頷く。
僅かな間ではあったが、生まれた奇妙な縁に感謝しつつ、頼政は最後に――
「ところでさとり。先程言っていた"蓬莱人"とは何なのだ?」
「…あっ!そういえば!」
頼政の問いにさとりが答えるよりも早く、ぬえが声を上げた。
どうやら、ぬえは既に頭の中から、さとりの口から出てきた「蓬莱人」という言葉を、完全に忘れていたらしい。
「そういえば」な顔をするぬえを他所に、頼政とさとりは会話を続け――
「妖怪の類か?それとも…特定の人種を表す言葉か?」
「さぁ、私はそこまで知りません」
「…知らない?」
さとりの口から出てきた、彼女にしてはありえない言葉。
――心を読める彼女が、「知らない」だと?
一抹の不安が過ぎるものの、確証を得るために頼政は聞く。
「蓬莱人とやらを探す、見慣れない服装をした…多分ですけど、人間が森の近くをさ迷っているのを前に見まして」
「人間…いやしかし…もしや、さとりはその者たちの心が読めぬとでも?」
「その通りです」
――覚妖怪の能力を掻い潜る人間。
それだけでも警戒に値する程の謎だが、何より、その者が探している『蓬莱人』という言葉に、頼政は疑問符を浮かべた。
蓬莱。その言葉が意味するものは分かる。が、蓬莱人とは何なのか。
それを探しているという、(推定)人間の立場、所属は何処なのか。
謎が謎を呼び、不安は膨らむばかりだ。
だが、時には楽観も大事だろう。
ある種の開き直り…いや、思考の放棄によって、頼政は気持ちを切り替えた。
「とにかく、さとりの力が通用しない…そんな怪しい奴らがいるということだな?」
「えぇ、まぁ」
「しかし蓬莱人か…ぬえ、分かるか?」
「し、知らないわよ!」
再び話題を振られたぬえは、僅かに声を上擦らせる。
「……まぁ、俺の方でも探ってみることにしよう。個人で探るには限度があるが、家を動かせばいい」
「そこまでするのですか?」
「さとりからすれば、所詮は一つの問題事に過ぎんだろうが…俺たちはそうはいかんのだ」
頼政はこれでも、家の跡を継ぐ立派な貴族の一柱なのだ。
民たちを守る為…もあるが、変わり者の彼とて、決して貴族としての義務感がないという訳では無い。
謎の第三勢力。
聞き慣れない言葉。
早とちりの可能性はある。が、対策を考えることは決して無駄ではない。
「では今度こそ、さとり。世話になった」
「えぇ、また覚えていたら会いましょう」
軽く会釈をし、さとりもまた、右手を軽く振って背を向ける。
その数秒後、濃く白い霧に身体を隠し、あっという間にさとりの姿が消えると、頼政は顔を向けて。
「ぬえ」
「……何よ」
ぬえの態度は、相変わらずのものである。
しかし、僅かながらではあるが、それが軟化している事は、頼政も内心で察していた。
「俺は、たとえ妖怪だろうと子供は…女子は殺したくないと、そう言ったな」
「…えぇ」
「しかし、空の霧こそ晴れたものの、皆が『鵺』を恐れているのは確かだ。たとえもう異変が終わったからと言っても、確証がなければ誰も納得しないだろう?」
「……それは」
『鵺退治』の際、頼政が連れてきた部下たちのことを、ぬえは思い出す。
あの時は何とか、『正体不明』の力を継続していたのもあって、本来の姿が露見することはなかった。
森の中に向かって吹き飛び、それを頼政が追いかけ…そして……
「あれから何時間経ったのかは分からん。だが今のうちに、お前に俺の考えを伝えておこうと思う」
「…今?」
「さとりには既に見透かされていたがな、だがそれでも、俺が今自分の口で伝えなければと思ったのだ」
じっと、ぬえは頼政を、頼政はぬえを見据える。
互いに、胸の内に秘めた感情は分からない。
頼政は言うまでもなく、ぬえはその名の通り『鵺』で、覚妖怪でも何でもない。
相手の考えることなど分からないし、分かりたいとも思ったことがない。
だが、こうして言葉もなく、じーっと視線のみで、気まずい沈黙が降りるのを前にすれば、その考えに僅かな亀裂が走るのも、当然であった。
「俺はお前を討たなければならない。…が、何度でも言う、俺は女子供を殺したくない」
「…だったらどうするのよ、『鵺退治』は失敗した…とでも周りに言うつもり?」
「いいや、『鵺退治』はしっかりと遂行する」
「――ッ…!」
息を飲む。
自分ではどう足掻いても勝てない、そんなら相手が、一体自分に何を要求するのか。
不殺を口では謳いながらも、『鵺退治』そのものは終わらせる。という矛盾した言動。
ぬえはより一層、強く発せられる脳内の警報を幻聴し、頼政をじっと見つめる。
――数秒の沈黙の後、彼が言った言葉。それは。
「ぬえ、俺の屋敷に来い」
「……………………はあ!?」
絶対予想などできない、意味の分からないものであった。
「いやいやいやいやいやいやいや!!あんた馬鹿!?本当に馬鹿になっちゃった!?」
「ムッ…これでも本気だぞ?」
「いや余計にありえないわ!あんた一体どうしちゃったの…!?」
ぬえの困惑…というより動揺は、決して間違いではないし、寧ろ妖怪でありながら、とてつもなく正しいものだろう。
頼政はこう言っているのだ。"廷"から直々に命令された『鵺退治』…それを足蹴にし、ぬえを生かす道を選ぶのだと。
人間について詳しく知らないぬえでも、それがどれ程愚かな選択かは、何となく分かる。
いやそもそも、人間と妖怪は本来は敵同士。
たとえ過去の後悔…トラウマがあって、それで殺したくないからと、そんなワガママ一つで、都一つを敵に回すというのだから、余計に意味が分からない。
頼政は続けて。
「そもそも言ったろう?俺は『鵺退治』はしっかりやると、その上でお前は生かすだけで」
「どうやってよ…!?そんな屁理屈みたいなことを実際に……」
「いや、お前ならできるだろう?あの『正体不明 』の力があれば」
「…あんたまさか」
――正体不明の力があれば、ぬえは自在に姿を操れる。
――封獣ぬえとしての姿は、頼政以外誰も知らない。
――正体不明の力を使えば、どのような生き物も、物質も思い通りに……
「…偽装する気!?私のことを!?」
「それ以外何かあるか?」
「いや…できなくはな…いやっ!できるけど!私なら余裕でできるけど!」
「なら問題ないな、お前がその辺の生き物を、あの不気味な『鵺』にして、俺がそれを、『鵺退治』の証として持っていけば…」
――本気だ。
ぬえはしれっと、"延"は勿論、自分以外の人間全てを騙す作戦を口にする、頼政に対して末恐ろしさを覚えた。
何故自分を、ここまでして……その疑惑はあるが、それをかき消す程の恩恵が、ぬえにもある。
ぬえからしても、自分が命を脅かされる可能性を排除できるだけでなく。
何より、ある一定期間の生存が確定することは、他とは変え難い恩恵だ。
だが――
「何のために…」
何のために――
「あなたは…何で私を…」
依然として、その答えは分からない。
あの覚妖怪は、今も分からないその答えを、心を読む力で暴いて知ったらしいが、ぬえはずっと分からないまま。
頼政の、真意を悟らせぬ黒い眼に、心奪われたまま。
――ぬえは分からない。
――まだ分からない。
自分に、救いの手を差し伸べる彼が。
一体何のために、自分に何を見出したのか。
――まだ、分からない。
頼政はなんでぬえを助けたいんやろうなぁ…()
月面戦争編に向けて布石を少しづつ貼って行きます。
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