【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 最近執筆の為の時間が足りなさ過ぎて泣く、もっと自由な時間が欲しい。


111話.Liz Triangle

「もはや言い訳はできんぞ」

 

 豪華絢爛。

 その言葉が相応しい、豪勢な屋敷の一室で、一人の老人が唸る。

 ――否、それは老人ではなく、老いた一匹の鴉。

 人間が一人、そこで活動するのに充分な和室の、数々の書類が乱雑に置かれている机の上に、彼はいた。

 一匹の、年老いた鴉。

 

「もはやお前に退路はないと思え、賢者擬き」

「あらあら…それは怖い」

 

 年老いて、弱って、もはや擬態すらままならず。人の形を忘れてしまった者。

 だというのに、この部屋の作りがかつての、若かりし『烏天狗』であった頃のままなのは、彼の捨てきれない、若さと力への執着の表れか。

 それを見て、クスクスと()()は笑う。

 いや、哂う。

 見下すその視線を、少女は最初から隠す気などない。

 それほどまでに両者の間には――妖怪としての、絶対的な格差というものが存在するのだから。

 

「見え透いた戯言はやめろ。今の儂如き、お前なら指を振るう必要もないだろう」

「…さてどうでしょう」

 

 悔しいと思えなくなる程に。

 こうやって、その場しのぎにクスリと笑う彼女に、苛立つことができる程の"若さ"すら、もう今の自分にはない。

 不思議と、どこか冷めた態度で、客観的に侮られている自分自身を、そうハッキリと捉えることができている。

 彼は続けた。

 

「お前が我々に持ち込んできた儲け話。…あれから何年経った」

「700と少しですわ」

「そうだ。最初お前はこう言ったな?――弛んだ若者に活を入れる機会を与えてやると」

「えぇ」

「そして結果はどうだ?全員が帰らぬ者となった。――お前に殺害命令が出たのも記憶に新しい」

「えぇ」

「――そして、今と同じように」

 

 老いた鴉は思い出す。

 まだ自分が若く、そして人の姿を保つことができていたあの頃に、この女が山を訪れた時を――

 

 天狗の山。

 

 人間たちは、この山をそう称し、滅多なことがなければ、この山に立ち入ろうとはしない。

 天狗たちもまた、人間たちを見下し、時に攫い、時に弄ぶような…そんな関係をずっと築いてきた。

 そんな代わり映えしない営みの中、突如として現れたのが、この胡散臭い――スキマ妖怪だった。

 

「当代が死に、後にお前を知る者もまた衰え、死に…完全に忘れられた頃合いを見計らって、お前はまたここを訪れた」

「……」

「誰もお前に気づかなかったが、儂だけは気づいた。そして…」

「止めなかったので?」

「抜かせ、そうすれば、お前の意思関係なく。――お前の飼っている()()が儂の首を落としに来るだろう」

 

 歴史にも残る程の大妖怪。

 それすらも、彼女からすれば駒の一つ。それが意味することぐらい、彼にも嫌という程理解ができる。

 一から築き上げた式神とは違って、他者との間に作る繋がり…もとい、改造にも等しい式神術のレベル。

 その神業すらも…目の前の少女――スキマ妖怪、八雲紫にとっては隠している本来の実力、それの一面にも満たないのであろう。

 それを分かっているから、敵わないと理解しているからこそ、彼は耐え忍んだ。

 時代を経て、八雲紫が持ってくる『儲け話』とやらに騙され、そして同族が殺されていく光景。

 ずっと、それを見るだけの生活。

 弱肉強食。言ってしまえば単純明快なそれ。

 全盛ならまだしも、死に場所を失い、ずっと惨めに生き続けてきた自分では、あの現状を打破する力など、どこにもない。

 だが、それもようやく――

 

「…もう、儂の命も長くはない」

「あら、それは残念ですこと」

「白々しい、この化け物め」

 

 ――せめて最後は。

 彼の命、その灯が消える寸前に、わざわざこうして、いつもは避けていた彼女を呼び込み、会話を交わそうと思った理由。

 

 ――それは、名残惜しさからかもしれない。

 

 無知とは罪。それを最初に唱えたのは一体誰だったか。

 だが同時に、無知は罪でありながら、同時に部外者に許される幸福でもある。

 彼は、今まで仲間を見捨ててきた自分自身に対し、『罪』を与えるならまだしも――『幸福』であることを許したくなかった。

 せめて、最後に。

 

「死にゆくだけの老いぼれに、せめてもの餞別くらい…最後くらい、くれてやってもいいだろう?」

「……」

「それだけだ。それだけが理由だ」

 

 八雲紫は、静かに見つめるのみ。

 扇で口元を隠して、何かを探るかのような、もしくはただ、相手を見下しているのか――

 どちらとも取れる、そんな曖昧な顔を見せたまま、時間だけが過ぎていく。

 パタンッ、扇をしまい、笑いながら彼女は。

 

「幻想の行き着く先――」

 

 まるで諳んじるかのように。

 彼女は虚空を見上げ、続ける。

 

「これから先、幻想たちはこの世界での居場所を失うでしょう。――諏訪の国も例外なく、全ての夢が」

「…なにを」

「――"箱庭"が必要なのよ。彼らを受け入れる為の基盤、その大きな"空白"が」

 

 気配が変わる。

 それは先ほどまでの、そよ風を思わせるモノではない。

 嵐のように、存在感を、圧倒的さを、骨の髄まで叩きこむが如くの、大妖怪のプレッシャー。

 

「"結界"と"巫女"は既に準備を終えた。なら残るモノは?場所よ。――それを、私は欲しい」

「……お前は」

 

 ――諏訪大国では()()()()と。

 そう、暗に告げる大妖怪の発言に、彼はただ、言い様のない恐怖に陥った。

 

「かつての、あなたの仲間がどこにいるか?それは……」

 

 ――彼女が、狙っている場所。

 ――幻想の箱庭、その礎として選んだのは、まさか…!

 

「――月よ」

 

 楽園の創造は、近い――

 

 

 

 


 

 

 

 

 空を覆う黒霧も消え、『鵺退治』の噂も消えた頃。

 人々は以前のように、夜を過度に恐れるような事はなくなった。

 ヒトはアヤカシを適度に恐れ。

 アヤカシもまた、ヒトに適度に恐れられる調律がもたらされる。

 都全ての恐怖を独占していた、正体不明の妖怪は、その消息を未だ掴めていないという。

 だが、『鵺退治』に派遣されたのがあの、『源頼政』であるということ。

 黒霧が消えて以降、これといった特徴的な事件が起きていないのも大きな要因だろう。最初こそ人々の心にあった、「もしかしたら」という漠然とした不安も、時間がそれを解消した。

 それから三日。

 更に、三日という時間が過ぎてからようやく、人々の間で共通認識とされていた「もう終わった話」に、新たな旋風が巻き起こされる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凱旋って…そんな大袈裟な……」

 

 もはやもう、自分は最初から、ここに住んでいたのではないか?とさえ思い始めるくらいには、慣れ親しんだ宿の一室。

 貯蓄は充分どころか、その気になればここに永住できる程に貯め込んでいると称していたマミゾウは、妹紅の呆れた言葉に、笑いながら。

 

「そうか?じゃが討ち取ったのは、あの『鵺』じゃぞ?」

「そこが何か引っかかるのよ。…話を聞く限り、頼政って男は武勇とかそういうのに全く興味が無いって感じだったし。なんだかなぁ……」

「ほう?『鵺退治』の真偽自体は疑っておらぬのか?」

「……うーん」

 

 妹紅はマミゾウから聞いた、頼政という男の逸話を思い出す。

 一番印象が強いのは、やはり卓越したなんて言葉では表現し切れない、神業である弓の扱い。

 ハッキリ言って眉唾物である。

 内容としては、やれ飛んでいる鳥を、目隠しをした状態で射抜いたという、陰陽術を嗜んでいた妹紅からすれば「それくらいは…」としか思えない、低レベルなもの。

 だが、それが逆に信憑性を増している。

 妹紅やその他、異能に目覚めた者とは違い、彼は特別な力を、それこそ霊力による基礎的な強化術も使えない。…そのような事前情報があると、話は大きく変わる。

 当然だが、妖怪にとって、人間の恐れとは正反対に位置する霊力は不倶戴天の力。

 それを使わず、鳥を射抜いたのは見事としか言えないだろう。…だがそれが、妖怪となれば話は変わる。

 のだが…

 

「昔なら…いや、私がいた時代の話だけど……割とそういうの、珍しい事じゃなかったんだよ」

「なんじゃと?それは…」

「極論さ、妖怪にも効く武器…それさえ作ることが出来れば、後は素から強い誰かに持たせれば、異能を持たない人間(無能力者)でも妖怪自体は倒せるしね。私の時は結構いたんだよ」

「……流石陰陽…呪術全盛と言うべきか、のう」

 

 ――マミゾウが言うには。

 武器に霊力を込め、対妖怪用の武器として錬成するといった、妹紅が生きていた時代では当たり前だったそれは、もはや今では、そのほとんどが失伝し、継承が危うくなっているのだと言う。

 やり方は勿論、それの知識そのものを持っている者も少なく、マミゾウの交友関係の中でも、それを知っていた者は片手で数えられる程。

 今では、それなりの格を持った神社の巫女しかその方法を知らず。

 

 ――それこそ()()()()()の二柱のみだとされている。

 

 妹紅はそれらの名を知らない。

 ――だが何か、胸の何かが引っかかるような、そんな違和感。

 一瞬湧き上がった、"呻き"のような謎の感覚を飲み込んで、妹紅は思考を戻す。

 

「話を戻すけど…私が変だと思ったのは、わざわざそんな凱旋とやらを、今になってやるって言い出した事」

「ふむ?つまり?」

「おかしいと思わない?そもそも空が元通りに…多分鵺が頼政に負けたんだろうけど。……そこから三日も経ってからってさ。それに…」

「…………」

「まるで…――『鵺はもう倒された』って、そう思わせたいみたいな」

「じゃろうな」

 

 ――既にマミゾウは、事の顛末を把握している。

 

「主の予想は当たっておる。それでじゃ…どう思う?」

「どうって……」

「わざわざ、そう周りに思い込ませる事で得られる恩恵とは?」

「それは…」

 

 揶揄うように、マミゾウは妹紅に問う。

 その含みを持たせた笑みを見て、妹紅もマミゾウが既に、今回の真相を把握していることに気づいたのだろう。

 自分がいかにも「気に食わないです」と言っている事を伝えるように、頬をプク…と、分かりやすく目に見える形で膨らませて。

 

「……分からない。というか知ってて聞いてるでしょ」

「フフ…きっと驚くぞ?だからこそ自分で答えにたどり着いて欲しいんじゃがな」

「…?どういう意味よ」

「何、これも人生経験じゃよ、"人生"経験」

 

 どうやらまだ、答え合わせをするつもりは無いらしい。

 薄らと察していた返答ではあったが、やはり肩透かし感を覚えずには居られず、妹紅は行き場のない、名前のない感情をため息という行為で吐き出す。

 

「…ま、その反応だと悪い何かって訳じゃなさそうだし、一応安心したわ」

「心配せずとも、狸は人間の友じゃ。仮に悪影響を及ぼすのなら…儂もそれなりに腕を振るうぞい」

「あっそ」

 

 元とは言え陰陽師。

 仮に妖怪を見逃し、それで新たな被害が、罪なき善良な人々に毒牙が剥かれるというのなら…たとえ"延"に属する者だろうと容赦はしない。

 妹紅はかつて、『四凶』がもたらした最悪の二次被害、それの目撃者であり、被害者でもあったから。

 マミゾウの発言、そして実力は信用に値する。

 だからこそ、妹紅は一抹の不安を残すことなく、あっさりと話を変えることができた。

 

「…………」

 

 ――だが、それはあくまでも、現状の話。

 人間と妖怪。決して相容れない存在が、何かの拍子に接触すれば、必ず何か――"不運"が起こる。

 妹紅がそれに"不運"と名付けたのは、己の知る人間――白蓮がかつて、引き金を引いてしまったあの事件が理由(エビデンス)だった。

 あれは、今思い返しても気分が悪い話だ。

 少なくとも、『四凶』が白蓮の善意に甘え、そして裏切るまでは、間違いなく彼女は、人間と妖怪の架け橋となれていたのだ。

 

 ――因果が廻る。とでも言った方がいいだろう。

 

 妖怪(呪い)と関われば、その当人でさえ例外なく、後悔のない終わりは訪れない。

 人間も、妖怪も、互いに迎えるのは虚しい決着。 

 ――血を吐きながら、己の自尊心を守る為、這いずって逃げる檮杌。

 ――傷つき、それでも、『誠心』を捨てることなく、拳を握った白蓮。

 彼女たちの、あの哀しい背中が眼から離れない。

 あの時はただ、傍観者であった妹紅。しかし今、あの姿を思い返して浮かぶのは――不安。

 彼女たちには終わりがあった。

 何より、白蓮の終わりを見届け、幕を引いたのは他ならぬ自分。

 

(私は…………)

 

 ――蓬莱人である自分には。

 命ある者など、口が裂けても言えない、別の()()でしかない自分が。

 

『決着をつけましょう』

 

 脳内に甦る、あの人が魅せた覚悟。

 

(めぐ)る呪いに……!』

 

 自らの手で、終止符を打った彼女の、あの姿が脳裏に浮かぶ。

 

(――あんたみたいに)

 

 ――自分もいつか。

 誰かに何かを残して、生きることができるのだろうか――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々の騒音が、より一層大きくなるのを感じた。

 一体何が…と思うことはなく、自然と口から零れた独り言は、「来たか」という、予想の範疇に対する忌憚のない感想であった。

 窓辺から、横目で一瞬網膜に焼き付いた光景は、想像していたのとまるで変わりがなかったから。

 

「マミゾウ」

「うむ、言わなくても分かっておるわい」

 

 一言。

 声をかけて外に出ると、マミゾウも妹紅の背を追い、変化の術で身長のみを変え、外に出る。

 宿の前、人々の身体で作られる垣根の奥に、問題の光景はあった。

 妹紅の身長はもう、蓬莱の薬による副作用で伸びることはなく、しかも飲んだ時の年齢…つまり子供の頃で固定されてしまっている。

 子供の背丈で、目前に並ぶ大人の身長という名の壁に敵う筈もなく、妹紅は人々の間をくぐり抜け、何とか前へと進む。

 

「ちょいと失礼」

 

 マミゾウは慣れたものなのだろう。このような人々の密度もなんのその、ぬるり、すらりと、まるで踊るように前へ進み、妹紅の背を追う。

 道中、前へと進み続ける妹紅に対して、小さな驚愕と、そして好機の入り交じった視線が大量に注がれる。

 が、それは一種で、すぐに視線は妹紅にではなく、前の光景に戻っていく。

 妹紅は自分で言うのも何だが、己の白髪という、この時代では本来ありえないその姿に、気味の悪さを感じる者はそれなりにいると想像し、それなりに距離を置かれるものと思ったのだが、どうやら当てが外れたらしい。

 

 これも、かの諏訪大国の恩恵というものなのだろうか――

 

 逸れた思考を戻し、妹紅は何とか最前線、そこに辿り着くと同時に、目に飛び込んでくる行列の正体を見た。

 いかにも、武勲を周りに見せつけるような、そんな印象を強く植え付ける有様だった。

 仮にも妖怪、それとの戦いを経たにしては、身に纏う防具、それに持っている武器も、まるで使い込まれている感じがしない。

 本当に、ただ見せつける為だけに、新調して持ってきているような…

 

(となると、問題のやつはきっと最後……)

 

 ぞろぞろと、前へ前へと進み続ける大行列。

 ズシンと、武具の重みが作る大きな足音と共に、彼らは人々の視線を集めながら、隠された目的を達成しているのだろう。

 妹紅は冷静に、惑わされることなく、己の全ての感覚を頼りに、彼らの中に紛れ込んでいるであろう、"彼女"を探す。

 

 一人、二人、四人…五人……六人……

 

 視線を絶え間なく動かし続け、妹紅は見る。

 それを続けて数分、長い長い行列の最後尾、そこにいた一人の人間に視線を注ぎ――

 

 目立たない黒髪の女だった。

 

 これといって特別な衣装を着ている訳でもない。髪色も、妹紅のように異能を所持している事を証明する、特殊な色でもない。

 どこにでもいる、普通の人間そのもの…そんな風貌。

 だが、微かに読み取れた妖力。

 擬態か、それともマミゾウのように、変化の術に属するものか。

 だが、妹紅は確信した。

 

(………見つけた)

 

 彼女こそ、間違いなく――

 

 

 

 


 

 

 

 

「絶ッ対無理よ!」

 

 時は少し遡り、霧の森を抜けた頃。

 ぬえは頼政の提案である――お前を退治したくない。という無理難題に、最初こそは「何を言ってるのか」と、どこか他人事のような心持ちでいた。

 だが、その後彼が投下した爆弾発言には、全力の反応を見せた。

 

『正体不明の種とやらで、人間に化けることは出来るか?』

『まぁ…一応』

『よし、ならそれで俺と一緒に過ごせ』

『は』

『使用人という事でいいだろう。残りの細かい事は俺が…』

『はぁ??』

 

 大妖怪、鵺。

 正体不明の弾幕、ぬえ。

 この封獣ぬえが…人間の使用人……?

 

「無理無理!いくらなんでもそれは無理!」

「む…勝ったのは俺だぞ?決定権はもう…」

「勝敗を蒸し返すな腹立つ!ってそうじゃない!そもそもあんたの願望自体は…その…」

 

 そこまで言ってから、ぬえはその先の言葉を飲み込んで抑えた。

 要望、というより命令に近いものだが、それはれっきとした、『勝者の特権』であることに変わりはない。

 鬼のような律義さを持っているわけではないものの、最低限の、敗者としての弁えはあるつもりでは…あった。

 

「しかし他に方法はあるまい。お前が本当は、俺に退治されていないと周りにバレれば結構大変だ」

「……」

 

 ――()()どころではないと思うのだが。

 妖怪でありながら、そんな至極真っ当な感想を覚えたぬえは、わざわざ口にして言うことなく、視線のみでそれを表す。

 実際、ぬえの生存が…それもかの源頼政が、故意に生かしたと知られたらどうなることか。

 人間社会を詳しく知らないぬえでも、それがどれほど危険なことかは、想像に難くなかった。

 人間でありながら、妖怪に加担した者の末路。――朧気だが、過去にそのような者がいて、そして最後は…

 嘘か真か、それがただの作り話の可能性も、そしてれっきとした真実の…『歴史』の一欠片である可能性も視野に入れ、その上で。

 

「…………はぁ」

 

 もうどうにでもなれ。

 もはや完全に、その場の勢いと流れに身を任せて、ぬえはこの男の無茶な要望に応えてやることにした。

 

「…知らないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。…その娘は?」

「うむ。この娘は……」

「何故鵺がここにいるのです?」

「……」

 

 ――終わった。

 ぬえを連れ、屋敷へ戻る途中で、見知らぬ男が前方から走って来るのが見えた。

 「殿!」と、親しみを込めた声色であること、何より他ならぬ頼政が、同じく彼に向けて、親しみの感情を込めた色の視線を向けていたことからも、それは分かる。

 かなり必死に走ってきたのだろう、息を切らしながらも、ひとまず再会できたことを喜んで……すぐにこれだ。

 

「……」

「……殿」

 

 ――完全に終わった。

 言い訳無用と言わんばかりに、目の前で腕を組んだ、頼政の従者だという男は、呆れた視線(ジト目)を頼政に向けて、答えを待っていた。

 ぬえは勿論、完全に硬直状態である。言い訳などできる余裕がない。

 

「彼女はだな……」

「頼政殿」

「ま、待て早太(はやた)。だから彼女はだな……」

「私の"異能"をお忘れですか?殿?」

「……」

 

 言い訳は無用。

 改めて、そう強く言い聞かせているような、そんな圧を前に、頼政は必死に目を逸らす。

 あれほど人外染みた強さをしている癖に、このような腹の探り合いは苦手らしい。

 必死に目を合わせないように、顔を横に向けたままの頼政と、それを下から覗き込むように、じーっと視線を注ぎ続ける早太。

 そんな光景が、十数秒程続いて。

 

「…………はぁあああああああ…最初に会ったのが私で良かったですよ。本当に」

「……あ、あぁ」

「どうせあなたの事だから、雑な殺生を嫌がったとかそういう所でしょう?全くお人好しというか何というか…………」

 

 長い、それはもう長いため息を吐いて、早太は肩をすくめて笑った。

 頼政もまた、まるで警戒や心配といった感情が、最初から存在していなかったのであろう、早太の表情が明るく変化するまでの間も、ずっとどこか、楽観的な気配を醸し出していた。

 一人、置いてけぼりの状態のぬえは、振り絞るように一言。

 

「…………頼政」

「どうした」

「本当に大丈夫なの……?」

 

 先行きが思いやられる。

 言いだしっぺは頼政なのだから、酷い言い方だが、ぬえからすれば彼がどれだけ偉い立場であろうと。

 そして自分を匿っていることが露見し、名誉が失墜しようとも、最終的にはどうでもいい。

 むしろ自分を負かした、気に食わぬ存在でもあるのだから、その考えはある意味真っ当で、そして妖怪らしいものとも言える。

 しかし、いくらなんでも、まさか自分を曲がりなりにも倒し、勝者の栄誉を手にした者が、戦いの絡まぬ場所では、ここまで駄目(ポンコツ)なのかと思うと、非常にやるせなく思えるのだ。

 ぬえの言葉に、頼政は同じく、振り絞るように一言。

 

「……多分」

 

 ぬえは無言で、彼の尻を蹴っ飛ばした。




 この歳になって最近、また仮面ライダーを見直しました。好きなのは順に1位オーズ2位ウィザード3位フォーゼです。
 二次も色々追いましたが(星狩りのコンテニューやら白の執行者やら)、一番のお気に入りは幻想入りした五代雄介ですかね。ハーメルンのライダーモノは地雷が多い分名作の平均値が凄い。

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