【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 「苹」は、リンゴの実を意味する「苹果 (へいか)」という言葉の一部として使われる。


8章:苹を啣む
114話.共犯者


「本当に不快だわ」

 

 口を開いて早々。

 古明地さとりは突然の来客相手に、一切動じることなくそう返した。

 続くのは、嫌味。

 

「妖怪の賢者ともあろう方が、随分と冗談が下手なようで?」

 

 正直言って、さっさと帰って欲しい以外にないのだが。

 それでも最低限、こうして『会話』はしないといけないのだから、本当に面倒臭いったらありゃしない。

 さとりのそんな思いを、彼女は分かっているのだろうか。

 

「……………」

 

 きっと、彼女は分かっているのだろう。

 何度もとは行かなくとも、二度や三度、表面だけの薄っぺらい言葉の交わし合いをすれば、どんな愚者でも気づきはする。

 『愚者』どころか、『賢者』とまで言われる程の彼女なら、余計尚更だ。

 

「はぁ…」

 

 そう、わざとらしいため息を付け足して。

 手で埃でも掃うかのように、あからさまに相手を嫌がるジェスチャーを突きつけられても、彼女は笑みを絶やさない。

 

 不機嫌になる訳でもなく。

 まるで最初から、自分がこうやって嫌がることを含めて、計算済みとでも言いたげな顔。

 

 本当に面倒臭い。

 腹が立って仕方がないと、苛立ちを胸に抱いたまま、さとりは聞く。

 

「で?質の悪い冗談なら、さっさと種明かしをして欲しいけれど」

「残念だけど本当よ、本当」

「……………チッ。本当に相手の不快、不愉快を突くのが上手いですね、あなたは」

 

 スキマ妖怪、八雲紫。

 さとりが彼女と出会い、最初に『ある話』をしたのは、もう数週間以上も前ではある。

 が、それでもさとりからすれば、彼女との出会いは比較的、記憶に新しい出来事である。

 

 滅多に妖怪も、動物も迷い込まないこの霧の森。

 

 さとりにとって、『誰かと出会った』、『誰かと話した』という事象は、常人の想像以上に、強く意識に刻まれるもので。

 時折、ここに迷い込んだ妖怪を読心能力で揶揄い、嘲笑ったりするのは勿論。もっと珍しい人間が相手でも、それは変わらない。

 さとり()という、種族名そのものである『覚妖怪』の本能にとって、それらは心地の良いもの。

 なればこそ。

 不可逆的に、『覚妖怪』のそれらが通じない、目の前にいる大妖怪は、つまらないものでしかないのだ。

 

「今度は一体、何を企んでいると?」

 

 どうせ、自分如きに話の深奥は見せないだろうが、一応聞く。

 そうするとやはり、紫は相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべたまま。

 

「あら。私としては、これでもあなたをかなり評価しているのよ?」

「――」

 

 顔を顰めるさとりとは正反対に。

 自分に向けられる言葉を特に気にすることなく、紫は笑っていた。

 

「それに、以前話した地底の件も…どうやら上手くいってるらしいじゃない?」

「……………」

「最初は少し不安だったけれど…期待以上ですわ。お見事」

 

 ――そっちが無理やり押し付けてきたんだろうが。

 そう吐き捨てたいのは山々だったが、さとりが口を開こうとした次の瞬間である。

 

 背筋にギラリと、敵意という名の刃物が付きつけられた感触。

 

 妖力という名の、妖怪同士の格を簡単に証明する便利なもの。

 既に何度も、目の前の賢者の懐刀である『式神』から浴びせられるそれに、少しずつ慣れてきてしまったという現実から目を逸らし。

 

「……………抜かりないわね」

 

 紫に向けた、ある程度許容できるのは別に、()()()()()()()やらを向けた途端、これだ。

 いちいち自分を咎めるような威圧感を放つ、姿の見えない九尾(八雲藍)に呆れながらも。

 今もずっと、常に沈黙を保ち続けている目前の彼女に、さとりは。

 

「前と変わらない、常に心を読まれないようにしてる。…誰にも隙は見せないつもりかしら?」

「女には秘密が付き物ですから」

「…………はぁ…」

 

 『境界』を操る力を使えば、心の距離も操れるらしい。

 らしいと言うのは、あくまでも紫は、さとりの読心能力が効かない事について、一言「少し境界を弄った」としか告げなかったから。

 細かい仕様、それこそ『境界』ならまだしも、彼女の本領とも言える『スキマ』についての情報は、さとりは一つも持ち合わせていない。

 

 正直知りたくもないし興味もないが、不信感だけは見事に残るので。

 

 さとりは本日何度目かの、深い、深いため息を吐いた。

 

「これ以上、私をこき使ってなんの得があるのかしらね」

 

 絶滅の道を辿り、もはや数える程しか残っていない覚妖怪。

 これだけでは、妖怪の賢者たる彼女がこうして、執拗に目をかける理由にはならない。

 彼女にとって、自分にはなんの『価値』があるというのか。

 

「…………」

 

 紫は何も言わない。

 扇で口元を隠し、静かにさとりの目を見つめ、何かを待っているかのようだった。

 相変わらず、心を読むことはできないが。

 ただ心を読むだけが能ではない。そう証明するかのように。

 

「………たとえ、この森に隠れて生きていても、外の噂話程度は簡単に仕入れられる」

 

 ――その視線に応えてみせる。

 さとりは効力のないサードアイを手のひらに、己の推測を語り出す。

 

「あなたが私に会いに来た時期と、その時期に私が『何を見たか』を合わせれば、大体の答えはわかるもの」

 

 自分の能力が通じなかった、あの人間たち。

 「蓬莱人」と、謎の単語を口から発しながら、延々と歩き続ける謎の存在。

 面倒事を持ち込んでくる、対岸の何かでしかないとは思いつつも、何処か心の奥底で、何かが引っかかりを覚えた彼ら。

 

「一部の妖怪たちの間では有名よ?妖怪の賢者様は…『月』が欲しくて仕方がないって」

 

 ――だが、きっとこれは違うのだろう。

 さとりの知る彼女は、己の欲望をそう簡単に、表に出すような事はしない。

 そんなに分かりやすい生き物なら、彼女は『賢者』なんて呼ばれていない。

 

「欲しいのは情報…?正確には人間の……あぁきっと、あれは『月の人間』なのね?なら納得だわ、『かぐや姫』の伝承が正しいのなら、私の能力が効かないのも頷ける」

 

 八雲紫は何も言わない。

 だが、こちらを静かに見つめる視線、そこへ確かに、期待の色が乗ったのを。

 さとりは、なんとなく理解した。

 

「私を地底の管理者にして、あなたが一体何を得るのかまでは知らないけれど」

「……」

「少なくとも、私は、あなたにとっては『ちゃんと使える』側の妖怪だということ」

「……ふふ」

 

 紫は僅かに笑っていた。

 

「そうね、一目見た時から、あなたを高く評価したのは事実」

「………」

「心が読めないから信用出来ない?『上辺の言葉で済まそうとしてる』…なんて思ってるのかしら?」

 

 ――図星だった。

 覚妖怪でもないのに、どうして相手の心の内を言い当てられるのか。

 

「でも今のあなた…そして今の、この場の状況においては、私の言葉が確かな現実よ」

「さっきから延々と………」

 

 さとりはいい加減、この話を終わらせたい。

 

「一部の馬鹿以外はどうしてこう。心が読めないと見た途端、二言で終わらせられる話を無駄に長引かせるのかしら」

「お喋りは嫌い?」

「えぇ、ついでにあなたの事も嫌いです」

 

 冗談ではなく。

 さとりは割と、本気でそう思っている。

 

「残念、嫌われちゃったかしら」

「今更気づいたんですか?朴念仁も程々にした方がいいかと」

「『それ』を、私は地底に求めていたのよ」

 

 充分、試し終わったからだろう。

 紫は先程まで延々と、無駄に伸ばしていた会話を終わらせて。

 

「妖怪たちは直に滅ぶ。忘却という名の、神ですら抗えない時の流れによって」

「………」

 

 今はまだ、神秘全盛の古代の世。

 何を馬鹿なと。現存するほぼ全ての妖怪がそう切り捨てる世迷言。

 従者たる八雲藍、そして同盟を組んだ摩多羅隠岐奈に続き。

 彼女がこれを明かした相手は、古明地さとりという名の三人目。

 

「『現実』と『幻想』を区切る、大きな結界による箱庭を作る。…そしてそこに、選別した妖怪たちを呼び寄せる」

「……」

「でも、『神秘』の中にあるのが『妖怪』だけだと物足りない。…だから作る必要があったのよ、現実と同じ、循環する命…呪いを」

「…………」

 

 今の時代、赤子でも理解できる単純なこと。

 神も、妖怪も、人も、皆平等に。

 怒り、憎み、悲しむことで生まれる『感情』の力を。

 ただ妖怪を呼び、箱庭で棲ませるだけでは、根本的な解決はしない。

 

 『幻想郷』という箱庭で。

 『現実』と変わらない流れを維持しないと意味が無い。

 

 妖怪という名の『非確定要素』を保つために。

 その根源となる『感情』を、手中に収める駒が必要だった。

 

「妖怪たちにとって、人間の呪いの精鋭化…『怨霊』は天敵に等しい。それを箱庭に入れるのは、本来はかなりの博打だけど…それをあなたが支配するのなら、話は別」

「……なるほど。怨霊の心を『読む』のは、それなりに疲れるんですけどね」

 

 人外は基本、精神が核となる。

 当たり前の話だが、ヒトもアヤカシも関係なく、触れて欲しくない箇所がある。

 そこを突き、嘲笑い、見下す事が好きな『覚妖怪』はなるほど、確かに怨霊共の支配には向いている。

 

 八雲紫はその為に。

 その為だけに、自分にこの話を持ちかけたのだ。

 

 こいつはやっぱり、ふざけた奴だ。

 さとりはそう思う。

 

「確かに怨霊たちは、何かを恨む思いで現世に留まるから、それの『解明』ができる私は適任でしょう」

 

 怨霊は総じて、輪廻の枠から外れた存在。

 他者を恨み、害し、憎悪のエネルギーをぶつける以外の生き方ができない、半端な存在。

 

 『悪』の思いから生まれた以上。

 その後の生き方も『悪』に限定される。

 

 未来永劫、恨みのままに生きることが、怨霊になってしまった彼らの罪であり、決して終わらぬ罰でもある。

 可哀想とは思わないし、思う必要もないだろう。

 他でもなく、そんな生き方を選んだのは怨霊の当人。

 

 自業自得。その一言に尽きる。

 

 たとえ元が人間だろうが、鬼だろうがなんだろうが。

 肉体を失い、あれよこれよと現世を彷徨い続ける亡者に向けるのは、どちらかというと無関心。

 かつて神代の時、そんな名も無き怨霊たちの集合体とされ、恐れられた『反獄王』なるものもいたらしいが、もうとっくの昔に死んでいる。

 

 洩矢神の怒りに触れ、手も足も出ずに殺された。

 そんな、人間の子供でも知っているおとぎ話を頭の片隅に置くと。

 

「そう、怨霊なんてものはその程度。…なんて思ってる?」

 

 まるで分かっていたと言わんばかりに。

 紫は、さとりの目を見てそう言った。

 

「………その先読みも、スキマとやらの応用ですか?」

「あなたって意外と分かりやすいから」

 

 「腹が立つ」と言わんばかりに、強く彼女を睨みつける。

 

「………」

「ふふふ」

 

 そんなささやかな反抗も、いつものように笑って受け流される。

 さとりは割と、本気で紫のことが嫌いだが、向こうはどうやらそうではないらしい。

 何よりこのやり取りも含めて、既に『いつもの』と受け入れてしまっている事実にも、さとりは頭が痛くなる思いだった。

 

「怨霊たちを、あなたが作る『箱庭』に呼ぶ理由は分かりました。その上で聞きます。…本気で私に?」

「えぇ、勿論」

 

 真意を隠し、相手を陥れる笑み。

 いつもの彼女が見せるのとは違う、まっすぐとした、同じ妖怪とは到底思えない、淡い光を灯した瞳。

 

 思わず。それに気圧されたことを。

 

 さとりは絶対に口外しまいと誓った。

 

「ただ」

 

 紫は付け加えて。

 

「当然だけど、怨霊を含めた不穏分子を、全てあなた一人に任せる訳じゃないわ。…だから彼ら…鬼の疎開先に『地底』を選んだのよ、そして」

「もういいです、全部察しましたよ…えぇ。…あの荒くれ者共を、私が治めろと?」

「簡単でしょう?」

 

 本当に、簡単に言ってくれるものだ。

 

「……だから嫌いなんですよ、あなたは」

 

 いくら心を読めるからとはいえ、覚妖怪の地力など、たかが知れている。

 あの鬼相手に、自慢の話術がどこまで通用するか…そんな少しばかりの好奇心は、確かにあるにはある。

 しかし、そんな知的好奇心のみを理由とするには、あまりにもリスクが大きすぎる。

 

 だがしかし、この森に隠れ、過ごすこと数年。

 

 妖怪にとっては、時に死をも意味する『退屈』を。

 これを機に、解消できるのなら、決して悪くはない。

 それに。

 

「あの鬼たちを好きに使える、それは少し楽しそうだもの」

「奇遇ね、私も同じことを思ってたわ」

 

 まるで、普段彼らを忌み嫌う天狗のような事を口にして。

 二人は一緒に笑い、口先だけとはいえ、微笑ましい空気を作り出す。

 こちらに向かって差し出された手。さとりはそれを。

 

「その話、引き受けましょう」

 

 強めに握り。

 こうして、さとりは――

 

「ちなみに、本当の目的は月の勢力なんだけど」

「はい?」

「彼らを利用して、ある程度妖怪を間引くのだけれど」

「は?」

「これがバレると私たち終わりだから」

「は??」

 

 にっこり。

 

「この事は他言無用でお願いね?」

「死んでください」

 

 こうして、古明地さとりという存在は。

 八雲紫にとって、三人目の『共犯者』となった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 『鵺退治』もすっかり、人々の共通の話題から消えてしまった。

 人の噂も七十五日、なんて言葉が存在するが。どうやら妖怪の噂ともなれば、それは一ヶ月も持たないらしい。

 空を覆いつくし、あれだけ都の人々を恐怖一色に染め上げた、『大妖怪』のことを、人々はもう記憶の片隅に置いてしまっている。

 

 仕方がない。そう割り切るのが一番だ。

 

 妖怪の身に生まれた以上、忘却の滅びを恐れるのは当然で、己の畏怖がなくなっていくのは、これ以上ない屈辱な筈。

 ただ呼吸をしているだけで、胸の奥から湧いて出る自尊心。

 自分を中心に、世界が動く。…それが誇張表現でもなんでもなく、実際にそうだった。

 これだけで、ぬえはこの先ずっと、それこそ千年以上は自慢できるくらいに、誇りを持っていた。

 なのに――

 

「……………」

 

 ぬえは今。

 肉を裂き、骨を抉る爪も使えず。

 ましてや、人々を恐怖に陥れる、正体不明の力もまともに使えず。

 むしろ、まるで隠れ潜むかのように、『人間』としてここにいる。

 

「あぁもう…!」

 

 どうして。

 何故こんなことになってしまったのだろうか?

 

 何回も何回も、それこそ試行回数が二桁を突破する程に考えた。

 そうしてその度に、やはり『自分が勝負に負けたから』という、根も葉もない結論に至ってしまう。

 

 負けたのだから仕方がない。

 そう自分に言い聞かせて、敗者としての立場に甘んじることが、今の自分に相応しい。

 

「ッ~~~!!」

 

 ――とはいっても。

 

「…ッ……――退ッ屈!」

 

 そう、退屈。

 ぬえは現在、自分を打ち負かした人間、頼政の命令で。

 人間を偽り、穏やかな日々を過ごしている。

 それが、どれほど耐え難いことか。

 

「恐怖も足りない…!悲鳴も、何もかも…!」

 

 たとえ見た目は、麗しい少女のそれだとしても。

 その本質はやはり、どこまで行っても『妖怪』で。

 人の苦しむ顔、血と肉の味を、本能のままに求めるのだ。

 こんな風に、平穏を傍受する日々なんて想像したこともない。

 

「クソ…」

 

 死にはしない。

 消えることはないし、ぬえ自身の体調はすこぶる好調ではある。

 だが、それはそれとして『人間を苦しめたい』という、妖怪ならではの欲望は別。

 当然の話だが、人は何かを食わねば腹が減るし、息を吸えないと苦しくなる。

 妖怪の本能とやらも、欲望の方向性とやらは似ているのもあって。

 ただ、やるせない。

 

「こうなったら……」

 

 ぬえは拳を掲げ。

 

「隙を見計らって人間を」

「ダメに決まってるだろう」

 

 ぺちんと、軽やかな可愛らしい音が鳴ると同時に。

 ぬえの背後に、いつの間にか立っていた男が戒める。

 

「あんたいつ…」

「さっきからずっとだが、なんだ気づかなかったのか」

「……………」

 

 早太と名乗った、頼政の部下である。

 彼の言い方からして、どうやら自分の気配など既に、知れたものだと思っていたらしいが。

 本当に気づけなかった、なんて。

 

「…ッ、分かってたわよ」

 

 牙を抜かれ、腑抜けた現実を受け入れたくない。

 だが敗者として、口先だけでも、ぬえはこの甘い現状を受け入れなければいけない。

 面倒な"縛り"を結ばされたが、それはあくまでも『頼政が生きている間』という、単純明快なもの。

 そして、最も肝心な箇所に穴がある内容。

 

 『自分を害することを禁ずる』、頼政はこれを提示していない。

 どんな術の初心者でも忘れることがない、そんな大前提を省いた"縛り"だ。

 

 それほど、あの男は自分の実力を疑っていないのだろう。

 そして何より、ぬえ自身が最初の戦いで、既に内心で『敗北』を認めてしまい、今もそれを忘れることができていない時点で、彼には一生敵わないことも。

 充分過ぎる程に理解してしまっているからこそ、ぬえは腹立たしくて仕方がない。

 何もできない、する度胸すら削がれたぬえは。

 

「…あんたもさ、もの好きよね」

 

 苛立ちから目を背けるように。

 少しでも気分を落ち着かせたくて、こちらを見据える彼に話しかけた。

 

「普通、上司の命令だからって妖怪を見逃す?」

「確かにな。お前の言う通りだ」

 

 早太は虚空を見上げ。

 

「殿の考えはまだ分からん。だが従者は従者として、殿をただ信じればいい。お前は正直怪しいが、それでも私は信じる」

「…なにそれ、意味わかんない」

「ただ盲目的に考えを放棄するのとは違う。…私は当然、あの方はこれまで数多の修羅場を潜ってきた、故に全てを任せられると、そう信じ続けるまで」

「……………」

 

 こちらに向ける、確かな敵意と警戒心。

 それは、ぬえが人外だからという、至極当然な理由ありきで。

 それでも、決して彼はこちらに牙を剥くことなく。

 主を「信じる」という言葉の通りに、何もしない姿勢を崩さない。

 

「そして殿自身も、ぬえ。お前のことを信じている」

「……………」

「お前がこの屋敷に来た日、『しばらくここにいろ』と、あの方は言った。…お前は文句こそ言いつつ、今も律義に守ってるじゃないか」

「……なにそれ」

 

 それはあくまでも、ただ――

 内心でどうにか、頑張ってそれへの回答を捻り出そうとしても。

 今この場においては、何の意味も示さない。脈略のない単語のみが抽出されるのみ。

 

「まぁ、それでもあの方の仕事嫌いと、放浪癖はいい加減目に余る。…何度縛り上げてやろうかと思ったことか」

「………」

「これをお前に言っても仕方はないが、それでも…なぁ」

「…」

 

 ぬえは何も言えなかった。

 先ほどまでは、従者として妙に様になっていたというのに、そんな固い空気が瓦解する。

 

「……………馬鹿らしい」

 

 源頼政。

 彼が『諏訪大国』に足を運び、数日のことである。




 本作は多分271話まで続きます。
 それが本当の最終回。


 番外編もあるアルヨ
https://syosetu.org/novel/372369/

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