【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 昔の東方二次読み返してると滅茶苦茶懐かしくて涙が出てきた、あと呪詞ってカッコいいですよね


12話.HELLO!HELL!

「"因幡の白兎"がだと?」

「はい、天魔様の言う外見の特徴とも一致してます」

「あの老獪な引きこもりがか?余計に信じられんな」

 

 楓と呼ばれた天狗の持ってきた情報に、天魔はやはり困惑を隠せない。

 彼は天狗の中でも一二を争うほどの優秀な人材であり、今までも数え切れないほど助けられてきたのも事実。

 長である自分が、唯一無条件で信用するほどの優秀な男…ではあるのだが。

 

「お前が言うのであればそうなのだろう…が、しかし…」

「私の情報が信用できないと?」

「まさか」

 

 その言葉に、天魔は大げさに声と両腕を上げて否定する。

 天魔が天魔でなかった時代、遥か遠い昔にあった、国産みとその直後の寵愛。

 皴が増え、寿命間近といった最初期の天狗ですら、()()とあった者は少ない。

 年月が過ぎて、言葉のみで綴られてきたその外見情報、これと一致するものは()()()()()()()()()。それはつまり――

 と、そこまで考えてから、天魔は意地悪な笑みを浮かべて続ける。

 

「何の冗談だ。お前を信用できなくなったら、いよいよ私に使える部下はいなくなる」

「そうですか」

 

 楓は思う、その言葉はつまり、楓以外の天狗は天魔の目には掛からないという意味でもあるのだが…

 勿論、その意に気づいたのは一人だけではない、彼らの目の前にいるのは絶対君主、絶対的な王であり種族の頂点そのもの。

 いくら目の前の天狗が彼女の"お気に入り"であるとはいえ――

 

「…随分嫌われたものだなぁ」

「わかってるなら、もう少し贔屓を控えてもらうと助かるのですが」

「ははっ、可愛い"白犬"め」

「…はぁ」

 

 辺り一面に広がる、一斉に座視する大勢の天狗たち。

 伏せられた視線の裏側で燃え上がる妬みの炎、それらが一斉に自分に向けられていることを察し、楓はため息を零す。

 

「はぁ…」

「クク…その態度も問題じゃないのか?」

「誰のせいだと?」

 

 親しげなその態度、不敬な態度、あらゆる全てが逆鱗に触れる。

 そして何より強いのも気に食わない、自分よりも遥かに優秀で、文句など付けられない程に優秀なのも、嫌というほど。

 楓は自身の()()()()()を、右手で雑に整えながら会話を続けた。

 

「話を戻しますと…その因幡の白兎はある金色の土着神と行動を共にしていました」

「いやその時点で色々おかしいだろ、なんで土着神が自分の領地から離れてぶらぶらしてるんだ」

「さぁ…」

 

 そもそも信者はどれほどか、力もどれほどなのかすらもわからない。

 しかし最悪、自分が出ればいい…のだが、じゃあそれでいいとは言えないのが組織というものだ。

 被害はどれほどか、その後の後始末は?それに必要な人員は?

 はぁ、と面倒臭そうな声を漏らして。

 

「天魔じゃなければ即喧嘩売るのに…」

「戯言は控えてください」

 

 組織の上に立つ者としての苦労…それを天魔は再度実感した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――土着神、洩矢諏訪子が地獄鴉を調伏してから数分。

 

「よし、ここだね」

『ピーッ!』

「ご苦労様」

 

 数百mはあるであろう穴の中を、何の問題もなく降下してみせた地獄鴉…もとい新たな祟り神。

 ただひたすらに無機質で、人の気もない剥き出しの岩盤に生い茂った苔たちが、この場所が今までに重ねてきた年月を思わせる。

 不気味な程に静かであると同時に、風の音に隠れるほどの、何かが小さく呻く様な、何かの鳴き声が聞こえるような異様な場所。

 よっと彼女が身軽な動きで、祟り神の背から飛び降りると同時に、パシャッと音を立てながら、祟り神の身体が水になったかのように溶け、彼女の足元に戻っていく。

 右手を差し出しながら、話しかける。

 

「メリー、気分が悪いとかはない?」

「えぇ、私は大丈夫よ」

「なら良かった、じゃ次は…」

 

 ――ドロリ

 再び、彼女の足元から広がる影、水を煮沸させたようにぐつぐつ、ぐらぐらと影の水面が動きを激しくする。

 それと同時に、彼女は自身の両手を使って何かの印を結び、小さく何かの言葉を呟く。

 ザバンッ!彼女の動作が止まると同時。そんな軽快な音を立てながら、腕が二本飛び出した。

 

「あー…久しぶりの現世だ」

「どうだった?割と快適だったでしょ?」

「同居人が物騒すぎるね、次はもっといい改築を望むよ」

「それはちょっと難しいかも」

 

 そしてぴょこんとうさ耳と顔のみを出して、じーっと彼女に視線を向ける。

 未だ印を結んだままの両手と、そして得意げなその表情。

 キラキラとしたエフェクトを幻視するほどの、完璧なドヤ顔である。

 

「あと何だい、その動作は」

「カッコいいでしょ?」

 

 ため息。

 てゐは影から腕を伸ばし、地面を掴んで身体を起き上がらせる。

 まるで潜水から帰ってきたばかりのようなその動作を終え、久しぶりに空気を吸って、吐く。

 その間「早く早く」と急かす子供のように足踏みし、結局我慢できず先に歩き出した彼女に、仕方ないのため息をもう一つ。

 ぐーっと身体をほぐしてから、てゐは言う。

 

「言っとくけど、私に戦闘力なんか期待しないでよね」

「そりゃ勿論」

「…即答されると腹立つね」

「大丈夫、私が守ってあげるから」

「あらやだ、なんて男前な台詞なんだろうか」

 

 まるで恐怖を感じていない足取りで進む彼女の背を、てゐとマエリベリーは苦笑しながら追いかける。

 いくら大国主からの祝福に長寿故の知識量があるとはいえ、ここは今までの常識が通用しない奈落。

 文字通りいつ、何が襲ってくるのか、長居しても問題はないのか、そもそもの目的である"異変"の原因もそうだ。

 

 正直に言って、てゐは彼女の勝ちを確信している。

 

 山を覆いつくすほどの瘴気に、()()()()()慌てるような存在など、てゐの持つ知識ではあの妖怪しかいない。

 確かに"あれ"は国を作りたい彼女にとっての一番の障害となるだろうし、天狗たちに恩を売るにも好都合。

 そこまで考えてか、それとも偶然か。

 まぁ、その本元に向かう今の現状は、実際はただ彼女の好奇心が加速しただけ、つまり本当に偶然ではあるのだが――

 

「明るいね」

「日差しが入って…はないか、なら奥の方から見える灯は多分…」

 

 ほー…と、呆気に取られた様子で見上げる彼女。

 実際、自分たちが先ほど通った穴のように、巨大な光源が差し込むわけでもなく、洞窟内で一定の明るさを保っているのは確かに珍しい。

 だが幸い、それによって地上よりも更にガタガタの、正に荒道と言うべきその道を、三人は躓くことなくとことこ歩く。

 地底というのも理由だろうが、所々地面から鋭い石が出っ張っており、足元の危険もそうだが不意を突かれ、もし転んだ先に…と考えると寒気がする。

 彼女はそんな道を、まるで遠足に行く子供のように早歩きで、そんなお気楽に先を行く背中をてゐたちは追う。

 

「足元気を付けな、更に隆起が激しくなってきた」

「ありがとう、大丈夫よ」

 

 てゐは竹林内の移動で慣れているからか、最初よりも早く歩けるように。

 マエリベリーはというと、かつていた現代でも滅多に見れない岩の荒道に加え、慣れないこの時代に合わせた衣服のこともあって、未だ歩くのに苦労しているようだ。

 彼女が言う"お願い"とやらで手に入れた、自分の壺装束にそっくりな独特の衣装を参考にして作ったこの服装。

 前で歩く彼女の背とマエリベリーを交互に見て、てゐは言う。

 

「髪色といい、なんか姉妹みたいだねあんたら」

「そ、そうかしら…」

「にしても随分懐いたもんだ、これもしばらく一緒にいたからかい?」

 

 てゐの知る限り、マエリベリーが彼女と出会ってからざっと数日は過ぎている。

 警戒心の強いあの配下の兎たちや、蔓延る妖怪たちとは違い、やはり人間というのは一度、懐に入るとすぐに打ち解けることができるのか。

 その脆弱で…どこまでも甘い所が弱点でありながら、しかし同時に人間の良いところでもあると、てゐはそう考えている。

 そんなことを思うてゐの視線に、マエリベリーは指で髪をいじりながら続けた。

 

「そうね…やっぱりあの時助けてくれたし…」

「うわちょっろ」

「ちょ、そんなにハッキリ言わないでよ!?」

 

 思わず、と言った口調で言ってしまった。

 しかしてゐは相変わらず、意地悪な笑みをしたまま腕を組み、その返答に満足して更に笑う。

 それに顔を赤くするマエリベリーの反応が余計に燃料となり、楽しそうに揶揄いを続けた。

 

「悪い悪い。でもあんた、その調子だと他の妖怪に簡単に騙されるんじゃない?」

「わ、わかってるわよ…流石にその辺はしっかりしてるわ、そういうのも何度か経験してたし」

「ふぅん…ならいいけど」

 

 この時代に迷い込む以前、マエリベリーは夢の世界でよく怪異と遭遇していた。

 その度に、行動力の化身とも言える友人が率先して立ち向かい、そして逃げてを繰り返して。

 懐かしいあの思い出を想起した時だった。

 ――マエリベリーの視界に異変が起こる。

 

「…あら?」

 

 てゐは首をかしげる、目の前の彼女は相変わらず鼻唄を歌ってる最中。

 ただ自分だけが、()()違和感を視界に入れていた。

 その間、僅か数秒。

 だがその数秒が、彼女たちの命綱と成ったのは事実。

 

「…これ………ッ!?」

 

 マエリベリーだけが、辺りに広がる罠に気づいた。

 マエリベリーだけが、視界に広がる青の殺意を感じ取っていた。

 マエリベリーだけが、その能力で危機を脱する資格を持っていた。

 マエリベリーだけが――

 

 

 

 

「――何かが来るわ!」

「ミシャグジ様!」

 

 ――それは、結界の境目が見える程度の能力。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 

 今度はマエリベリーだけではない、全員の視界が真っ青に染まった時、同時に彼女が既に予備動作を終了していた。

 油断、敵襲、最優先で守るべきものと反撃への備え。

 それら全てを同時にこなすため、必然的に最も信用できる祟り神、ミシャグジを躊躇いなく呼び出した。

 その予想は正しく、三人纏めて無傷で済むことができた。

 

「てゐ」

「はいはい、私はここにいますよと」

 

 崩壊する地盤によって、最初に姿勢を崩したのはてゐ。

 ミシャグジを呼び出したと同時に、彼女はとっさにてゐの身体を支え、そのまま抱きかかえながらミシャグジに命令を下した。

 まず自分ごとてゐを口に咥え、人間であるマエリベリーの負担にならないギリギリの速度で移動しながら、残る尻尾で絡めて避難。

 そうして高台の上で、今も抱きかかえられたままのてゐが彼女にもう降ろしていいと言おうとした時。

 

「ならよかった、このまま戦闘続行してもいい?」

「は?」

 

 ぐにっ

 てゐは、彼女の鼻を思いっ切り引っ張った。

 

「んぎゃっ」

「いいから降ろせっての」

「え?もひかひて照れひゃった(もしかして照れちゃった)?」

「フンッ!」

「ぐはっ」

 

 一閃。

 鼻をつねったまま器用に、もう片方の腕を使いてゐの拳が腹にめり込む。

 その一連の流れを見たマエリベリーは思う、あれ結構いいの入ったなと。

 なんとか身体を震えさせながら、てゐの身体を落とさないようにする彼女に更に追いうちが。

 

「冗談言う暇あるならさっさとやる、いいね?」

「わ…わかりましたから…わ…私空手やってますから…」

「もう一回殴ろうか?」

「ごめんて」

 

 息も絶え絶え、震えも止まらないといった様子だったのに、てゐが少し語気を強めた途端にけろりと態度を真面目なものにした。

 そうしてやっと降りて、埃の付いた服を軽く叩きながら、てゐは目の前の陥没した地面…その中央に生えた巨大な眼球を見る。

 マエリベリーも同時に、ミシャグジの背に乗りながら、再び辺りを能力で観察した。

 

「範囲が広い…それに念動力?に似た力かしら…」

「とりあえずここ(地獄)を舐めてるとヤバいってことだね…ごめんねー?我ながら恥ずかしいよ」

「反省会は後にしな、どうやら気づかれたらしい」

 

 ギョロリ、その巨大な眼球が、仕留めたはずのてゐたちに向けられる。

 そして彼も理解したのだろう、自分の仕掛けた罠が失敗し、獲物はまだ生きていると。

 こちらの方を見た瞬間。ビキッ…そんな音を立てるくらいには、腹が立っているようだ。

 血管を浮き上がらせ、更に地面が激しく揺れる。

 

「洩矢の鉄の輪」

『――ッ!』

 

 同時に、彼女の足元から薄く、そして鋭く研磨された鉄輪が飛び出す。

 目の前の、入道にも似た容姿の妖怪が腕、足を地面から出し終えた時には既に、それは凄まじい回転と圧縮の作業を終了させていた。

 黒く輝く鉄が、圧縮と回転による影響で髪に負けない金色へと変化し、それが彼女の頭上で固定された。

 同時に、彼女は駆ける。

 

「それじゃあ早速…」

 

 駆ける、駆ける。

 目の前でその全容を露わにした、巨大な妖怪に向かって。

 

『ォお"オオオオ"オ"オ"オ"!!!』

「殴り合いじゃぁぁぁぁッ!!!」

 

 駆ける、死地(妖怪)へ。

 

 

 

 

 

「ッラァアアアアッ!!!」

『ゥグ!?』

 

 ――バゴンッ!

 バゴン、バゴンである。

 ぺちんでもぺしっでもなく、バゴンである。

 思いっ切り殴られ、妖怪の身体が宙を舞う。

 

「っせぇえええええい!!!」

 

 続けてドゴン!再びバゴン!

 その少女の細く柔らかい腕から出てはいけない、あまりにも重くて鈍い音が地底に響き渡る。

 心なしか、その両腕を振るうたび、肌を裂くほどの風圧が発生しているようにも見える、彼女はどっちかと言うと単騎系ではなく軍師系の筈なのだが。

 続けて、彼女は自分の武器の一つを取り出す。

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 再び、その両手に全てを切断する鉄の兵器が握られる。

 手を離すと同時に、一定の距離を保ちながら高速で回転を始め、目の前の妖怪に向けられた。

 

『ぉ、おお…』

 

 その、巨大な一つ目がこちらを射抜く。

 同時に妖怪の首に現れる、人間の頭を数珠にしたような悪趣味な装飾。

 両手を合わせ、印を結ぶ、そして叫ぶ。

 そして、まず最初に鉄輪が落ちる――

 

『ぉおおお、おおおおおお』

 

 同時に、再び青の波動。

 

「またか!」

 

 その予備動作と、そして肌を刺す敵意に全力で意識を向ける。

 視界が青で染まるその寸前、彼女がとっさに召喚した、身体が水で構成された金魚の祟り神が顕現。

 それを身に纏うように、そしてあらゆる危機に備え、鉄輪も纏って出来る限りの防御を。

 再び視界が元に戻ると、ズンッと鈍い音が響く。

 

「――っそういうタイプか!」

 

 ミヂッギチッ…

 硬く鋭い岩盤が捻じれ、軋むほどの圧倒的な重力、いや念動力。

 祟り神の身体が限界を迎え、ザフッと塵が吹いた時のような音を最後に、その姿を消してしまった。

 何の意味もない、相手の秘密の種すらも破れずに死なせた悔しさ、それで顔を顰めながら、彼女は優しく呟いた。

 

「ごめん、ゆっくり休んで」

 

 ――どうする?

 彼女の懐刀のミシャグジはてゐ、マエリベリーの守護で手一杯。

 最悪彼女らの防御を捨て、一瞬で勝負をつける択もあるが…それは最悪、最後の最後で使うべき手札だ。

 ならば他の祟り神か?あの念動力に耐えきれるものを?いや、それよりも優先するべきは――

 彼女は、両腕を広げて笑う。

 

「まずはその種を割る」

 

 再び呼び出すは、彼女にとってミシャグジの次に信用できる祟り神である百足たち。

 それが彼女の右手から、湧いてくるようにぞろぞろと、黒の濁流となって地面に広がっていく。

 そして、今度は左手から。

 

「私の為に死んでくれる?」

 

 ――ボコボコ

 やがて一つ、五つ、十を越えて。

 青く皴の出来た皮膚と血涙を流す大量の赤子たちが、我先にと笑い声を上げながら進みだす。

 右は百足、左は赤子、正に地獄に相応しい、悪趣味な絨毯がその場に完成した。

 

「もういっちょ…!」

 

 再び、彼女は右手にのみ鉄輪を召喚、握ると同時に空へ駆ける。

 妖怪が不自然に上昇しだす彼女に視線を向けている間も、地面を百足と赤子が埋め尽くしていった。

 

(さぁ…もう一回撃ってみなよ)

 

 ギュイイイイイ…

 もう一度、右手の鉄輪を高速回転させる。

 その凄まじい加速によって生まれる独特の音は、一度聞けば耳から離れることはない。

 再び"あれ"が来る。それを確信した妖怪は動く。

 

『ぉおお…』

 

 あの、青の波動が見える寸前。

 

『おおおおおおおおおおおっ!!!』

「っ来た!」

 

 ――ズンッ!

 まず最初、妖怪が叫んで数秒後には鉄輪が垂直に落下、地面にめり込む勢いで叩きつけられる。

 その後の青い波動、それによって妖怪を中心に、目視での大雑把な計算だが…半径およそ30m程だろうか。

 その場所にだけ念動力が働いたからか、妖怪を中心とした円形の形で、百足たちが潰され元の地面が見える。

 ――種は明かした。

 

「行け!」

『ッガアアアッ!!!』

 

 待ってましたと言わんばかりの雄叫びと共に、鴉の祟り神は空を飛ぶ。

 同時に三度目の、右手で回転する鉄輪を妖怪に向け、投擲の構えを取る。

 空を飛ぶ脅威、目の前からやってくる脅威。

 その天秤が傾き、妖怪の決断が少しだけ鈍った。

 

『ぉおお…』

 

 印を結ぶ――

 同時に、最優先で処理するべき脅威に対し、初動の念動力が向けられ――

 

()()

 

 彼女は、次に来るであろう現象の先、地面に視線を向けたまま呟いた。

 

()()()()

 

 ――ギュイイイイイイイイイイ!!!

 妖怪に向かって放たれた鉄輪が、以前よりも更に早く、速く、疾く。

 回り、空気を裂き、空間を焼き焦がすほどの殺傷力を纏いだす。

 

『おおおお…!?』

 

 妖怪も異変に気づいたのだろう、しかしいざという時に限って、その攻撃の()()は直せない。

 全方位の無差別攻撃、その直前に行っていた対象へ絞った強力な念動力。

 鉄輪が落とされ、地面にめり込む――しかしその回転は止まらない。

 

 視界に映る青の波動、今にも自分の身を押しつぶす寸前、死の予兆そのもの。

 

 だが彼女は怯えない、動揺もせず、ただ冷静に、冷徹に目の前の脅威を見る。

 彼女の口から、自然と言葉が流れ出る。

 

「"日輪(にちりん)" "反逆(はんぎゃく)" "孤高(ここう)新星(しんせい)"」

 

 青の波動が消え、地面が一瞬陥没した時。

 まるでアニメをスキップしたかのような、目にも留まらぬ速度で、印を結んだ右手を振るう。

 その瞬間、地面にめり込んだまま回転を続けていた鉄輪が巨大に――

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 ――キンッ!

 

 

 

 

『ぉ、お?…お』

 

 鉄輪がその回転速度を維持したまま、上げた攻撃力をそのままにノーリスクで攻撃範囲のみを伸ばすため、彼女が咄嗟に考えた技。

 一瞬だけ巨大化。そしてその後、元のサイズに戻すことによって回転速度を下げず、次の攻撃に繋げることもできる。

 その分鉄輪も脆くなり、その隙を突かれれば破壊されることにも繋がるため、今度はこのサイズ可変のための時間をどれだけ縮められるかがこれからの鍵となるだろう。

 

「っとそうだそうだ」

 

 感傷に浸る彼女の前で、綺麗に胴体を真っ二つにされ、すぐに絶命する筈だった妖怪の身体が、その手のひらの中に収束され、鼠色の祟り玉へと変化する。

 それを一気に押し込み、両手で押し込んで…ごくん。

 しばらくその姿勢のまま、勝利の余韻と祝の味に酔っていると。

 

「お疲れ、随分派手な技を作ったもんだね」

「どうどう?かっこよかったでしょ?」

 

 勝負が終わった途端、ミシャグジの背中に乗ったまま、てゐが肘をついて面白そうに笑う。

 やはりと言うべきか、あの一瞬訪れた命の危機すらも、彼女なら心配ないと確信していたのだ。

 

「でも、実際本当に危なかったんだよね~…あそこで可変失敗してたら、私反撃間に合ってなかったし」

「…どうだか、()()()()()()()()()()、あんたなら保険の一つや二つあるんだろ?」

「なんのことやら」

 

 ぺろりと舌を出して、いたずらっぽく笑いあう二人。

 そんな様子を、同じようにミシャグジ様の背に座っていたマエリベリーは、微笑ましいものを見るような顔をしていた。

 ぐーっ!と効果音を自ら発しながら、背を伸ばした彼女だったが。

 

「まさかの襲撃だったけど、これでしばらくは一安…」

 

 ぱっと目を開いて、そして身体が固まる。

 その顔は、上空に固定されたままで、まるで石像のように微動だにしない。

 彼女は、呆然としながら呟く。

 

「…なんすかあれ」

 

 てゐ、マエリベリーがまさかと一斉に上空を見る。

 嫌な予感、そして彼女のその態度が頼むから嘘であってくれと、そう切実に思いながら。

 

「…わぁ」

「嘘でしょ」

 

 ――巨大な龍。

 三人の視線の先、そこには()()()()()()()()()、新たな乱入者の姿があった。




 最近フリーレン読んだんですけど、私はデンケンがめっちゃ好きです

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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