【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 てるもこを書きました(白目)
 感想気軽にお願いします。


118話.ゴングを鳴らせ

 時代の流れ。

 それは決して、人間にとって良いことが訪れる訳ではない。

 技術の発展に伴う、人間の悪意の新たな吐露の仕方が、表に出るから。

 

 戦争。

 あまりにも簡単に、これまでの当たり前、その全てを終わらせた元凶。

 

 近代の人間、それらの意識に刷り込まれたもの。

 魔を祓う儀式、術の兵器化に伴う、『ヒトとアヤカシ』という当たり前。

 それらが瓦解し、風化していく惨状は、一般人でも察せる程であった。

 

 いつの間にか、家族を狙うのは同じ人間に。

 夜の闇で、妖怪よりもまず人間に、自分が襲われそうになる。

 

 これまで集っていた数多の畏怖。

 『鬼』どころか、最近では『天狗』すらも姿を見ることがなくなり。

 妖怪という存在は、幻想(ゆめ)になる一歩を、着実に進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ?もうここさっき通ったわよね?」

「………………」

「ねぇ?聞いてる?おーい?」

「………」

 

 まだ若い、少女が二人。

 背(・)中(・)に(・)翼(・)を(・)携(・)え(・)た(・)二人はぐるりと、山の上空で旋回を続けている。

 それが、彼女たちの日課であった。

 それも数十年前からの、年季の入った日課である。

 何故なら、それはまだ半人前の彼女たちに与えられた、唯一の仕事であるから。

 

 この山に、人の気配はどこにもない。

 

 というより、数十年前からずっと、人間は少女たちの領土(テリトリー)に、足を踏み入れることもない。

 土壌も悪く、何か特別な風景がある訳でも無し。

 そのうち、人々の記憶からこの場所は風化し、忘れられた。

 だからこそ、片方の少女は疑問に思う。

 一体、いつまでここの見回りをするのか?と。

 

「………………」

「ねぇ、文(・)?聞いてる??」

 

 片方の少女――姫海棠(ひめかいどう)はたては首を傾げた。

 今も自分の前を進む形で、飛行を続ける見(・)習(・)い(・)の少女。

 彼女は自分の知る中で、最も優秀な同期だったと記憶している。

 

 相手に合わせ、適度に力を抜く普段の姿。

 その癖、誰よりも自尊心(プライド)が高く、たとえ己の上司が相手だろうと。――内心で見下すその姿勢。

 

 はたては口にこそ出さないものの、彼女こそが正に、『天狗』としての在り方であるとさえ思っている。

 故の、疑惑。

 

「ここ、さっきも通った気がしたんだけど…」

「………」

「まぁ気のせいかもしれないけどさ。…でも、いい加減戻らない?そろそろ集会だし…」

「…」

「それに、今の時代人間なんてもう来ないでしょ?それなら……」

「…人間人間って…」

 

 振り返る。

 その表情はまるで、「信じられない!」とでも言いたげで――

 そして、そのまま一気に、彼女はまくし立てた。

 

「山の侵入者は!人間だけじゃないでしょーが!」

「――ッ!」

「今まさにこの瞬間、私たち天狗に仇をなそうとする者が、妖怪がいるかもしれないでしょう!……そう、具体的に言うと身長は七尺!二対の腕に四つの眼を持ったやつとか!」

「――――ッ!?」

 

 ――見習い『天狗』が一人、射命丸(しゃめいまる)文(あや)。

 彼女は今、天啓でも授かったかのように、驚愕の表情で固まるはたてに向かって。

 

「それを見落としてでもみなさい!私たちは勿論、上司様の儚い未来を摘み取ってしまうことになる!」

「――ッ、そ!そうよね!私たちが頑張らないとよね!」

「えぇそうですともハイ!分かったら山の木々の一本一本、その根っこの裏まで調べなさい!」

「私、行ってくる!」

 

 あまりにも熱い、文の主張に感極まるはたて。

 その熱に浮かれ、ビュンッ!と風を切る音を一つ立ててから、文のいる方向とは真逆に向かって飛翔する。

 それを、目で追ってから。

 

「…ホントに単純で助かるわ」

 

 文は一人、心底面倒臭いと、だるいという感情を隠さないため息を零してから。

 

「あーやってらんない、やってらんない。誰が好き好んで偏屈なジジイの集まりに顔出さなきゃいけないのよ」

 

 だが。もう――

 

「…そろそろ言い訳もきつくなってきたわね」

 

 自分とは違い、未だ生真面目な性根の残るはたての事だ。

 集会とやらもきっと、彼女は真面目に参加するし、むしろこっちも巻き込んでくるのが目に見える。

 今はまだ、こうして上手い具合に騙せてはいるが、それも後数回が限界だろう。

 ……そもそも数回通じる時点でおかしいのだが。

 

「うーん…次の言い訳はどうしましょうか」

 

 面倒臭い書類作業の依頼も、上司の烏天狗による長ったらしい『教育』のお話もいい加減にして欲しい。

 腐った上層部との邂逅、上司からの妬みや説教、その他諸々の糞みたいな出来事(イベント)。

 

 ――そんな、天狗の集会が行われる度に、こうして文は時間を潰す。

 

 そう、文にとって、この見回りの仕事は正に天職。

 誰もが見放した、この無価値な山でダラダラと、散歩がてらに飛び回るだけで、あっという間に仕事の時間を消費できる。

 

 妖怪すらも来ないのだ。今のこの時代に、わざわざ人間が来る可能性など、0に近い。

 故に、天職なのだ。

 

 それに、一人はたてを集会に向かわせるのも嫌だ。

 文は確信する。この生真面目天狗のことだ、集会に戻った時には、どうせ上司の天狗に対して、自分の言わなくてもいい事を言ったり(チクったり)する。

 何を告げるか分からない正に爆弾。

 それの制御が効かないのならいっそ、こうして道連れに彼女もサボらせるべきである。

 まだ天狗として、長く生きていない部類ではあるが。

 ある意味、文の処世術は既に、完成形を迎えていた。

 

(私は絶対集会なんて行きたくない、このままダラダラと時間を潰していたい)

 

 何故なら。

 

(…――何故なら面倒臭いから!!)

 

 ――このまま東に向かって、また迷ったふりをしてここに戻ろう、そうしよう。

 既にこの場所は三周しているというのに、何故か気づかないはたてはある意味、部下として使われる才能があるのではないか?とさえ思う。

 

「………………」

 

 そして文は、独り言ちる。

 

「やってらんないわよアホらしい」

 

 

 

 

 その直後である。

 文の目前で、巨大な炎が噴出したのは。

 

 

 

 


 

 

 

 

 輝夜は断言する。

 ヒトとアヤカシの物語は、その結末はいつだって悲劇であると。

 何かの間違いで起こった出来事。それはどのような過程があったとしても、生まれの時点でもう、その是非は定められている。

 

 間違いから生まれた物語は、須(すべから)く間違いであるのだと。

 寿命という『当たり前』が、残酷に証明を続けるのだと。

 

 人間と絆を結んだ妖怪、その逆もまた然りで。

 その『間違い』には様々な形がある、中には…恋に落ちた者も。

 それらの終末は、数え切れない程存在し。

 先人の後悔を後目に、今も尚そんな『間違い』は続いている。

 

 ――かの、都を恐怖に陥れた、大妖怪鵺も例外ではなかった。

 

 知能の有無など関係なく、純然たる事実である『寿命』という概念。

 ヒトとアヤカシ、その悲劇の原因は、肉体の基本的な強度もあるが、第一にそれだろう。

 では逆に問おう。仮に人間と妖怪の寿命がほとんど同じだったとして。――それは果たして『間違い』ではないと、言い切れるのか?

 

「だから私は思う訳」

 

 では、一体何が『間違い』ではないというのか?

 人間同士だろうと、短い限られた命という同じ括りの癖に、そこにもしっかりと悲劇はある。

 事故、病気。妖怪の魔の手なんて関係ない、運命の歯車とも呼ぶべきそれらによって、人間にも『間違い』は訪れる。

 

 ――あの時もっと話していれば。

 ――もっと、彼と、彼女と関わっていれば。

 

 そんな風に、後から後悔して悲劇に打ちひしがれる者。

 輝夜は腐るほどにそれらを見てきたし、何なら、それを引き起こす側とも言えた。

 

 ――絶世の美女、時代の中心。

 ――時の帝さえも虜にした、己の美貌。

 

 彼らは自分が蓬莱人だと。

 文字通りの『永遠』を生きる存在、人間と同じ見た目をした、根本の異なる『人外』であると。

 一体、誰が気づけるのだろう?

 

「見た目、根本な強さ。…それらはいつだって、終わりのある関係。それの直接的な要因ではないってね」

 

 悲劇とは、何を以って悲劇なのか?

 

「ほら、妖怪も人間も関係なしに、『間違い』は起こるでしょう?」

「……………」

「平民だろうが貴族だろうが、軍人だろうが奴隷だろうがそれは変わらない」

 

 戦闘経験の有無、それは少し乱暴的。

 生まれの時点で『価値』が決まるというのなら、それは少々前時代的。

 

 『悲劇』に囚われぬ、己の"渇き"を満たす何かを、探し続けた。

 

 輝夜はそうして辿り着く、己の『退屈』を文字通り永遠に、埋め続けてくれるものの答えを。

 

「でも私ってば、家族はもう一人いるし。それなら…と思って次に考えたのが愛。恋人か愛人なんだけど」

「………」

「あなたは多分知ってるし説明は省くわ。昔私に求愛した五人の貴族もそう、全員一目見て『あぁ駄目だ』って思ったのよ」

「………………」

「提示した五つの難題ってあるじゃない?あれも実は、ちゃんとした断り文句を考えるのが面倒だったから、つい」

「………………………」

 

 ――全(・)員(・)、自(・)分(・)と(・)違(・)う(・)か(・)ら(・)駄(・)目(・)な(・)の(・)だ(・)。

 種族も、性別も、抱えるものも全て。

 永遠を生きる『蓬莱人』とは不釣り合いな、どれもこれも脆弱な、風化していく何かに過ぎない。

 では、同じ『蓬莱人』である筈の永琳とは違う、輝夜が求めるものは何か?

 

 一体、自分に釣り合うものとは?

 

 永琳にはなくて、その者にあるものとは?

 

 

 

 

 その答えとは――?

 

 

 

 

「あなたは知ってる?」

「知らないっての」

 

 霜月(11月)の時。

 真夜九つ(午前0時)に、輝夜と妹紅は対面していた。

 

「………」

「………」

 

 沈黙。

 両者の間に、痛い程の静寂が訪れる。

 気まずくなるような時間。

 自然な流れで、妹紅は視線を山の麓に向けた。

 「すぐに戻る」とは言ったものの、慧音を待たせているという事実の方が、妹紅は重要だった。

 

「まだ、この辺りに妖怪がいたとはね」

「………」

 

 ――早く帰りたいな。

 それは決して口には出さず。

 妹紅は輝夜の言葉に、無言で耳を傾けた。

 何の変哲もない、本当に何もない名無しの山の一つ。

 

 其の山頂で二人きり。

 自分たちは一緒にいる。――その事実が今になって、奇妙なものだと思えてくる。

 

 目の前に突(・)然(・)、かつては身が焦げる程に憎んだ相手がいる。

 不俱戴天の仇、なんて思ったこともあったのも確か。

 だというのに。

 妹紅の内心は自分でも驚くくらいに、何も揺れ動くことはなかった。

 

「まだ、現世に飽きなくて済みそうだわ」

「私は良くないっての、こっちはあんたと逢瀬みたいなことするハメになってんだから」

「断ればよかったじゃないの」

 

 互いに、近くにあった岩に腰かけ、対面している。

 野外で岩の上に座る。そんな言葉にするまでもない情景だというのに、輝夜は流石に、元お姫様とでも呼ぶべきか、無駄に画になる有り様で。

 妹紅は、鼻で笑いながら。

 

「下見よ下見。いつ慧音と来るか分からないしね」

「…慧音。あの半獣の子供の名前?」

「…あ?」

 

 半獣。

 蔑みを隠さない表現、そして誤解を与えぬ侮蔑の視線。

 自然と、声色が荒ぶる。

 

「ある意味尊敬するわ。あなたもあの子供も、今更『人間』を貫けると思ってるの?」

「…………」

「私は逆。私はいつまでたっても現実を見ない、あなたに失望すら覚えてるもの」

「あっそ」

 

 ――さっさと終わらないかな。

 散々な言われようだが、妹紅の心情は自分で思っていた以上に、落ち着きを保ったものである。

 同じ『蓬莱人』だと、そう名乗りを上げたかつての姫――蓬莱山輝夜のことを、視界から外す。

 

「………はぁ」

 

 ため息。

 だがそれは、妹紅のではなく輝夜のもの。

 

「話を戻すけど」

「あ?」

「ねぇ、人間も妖怪も関係ない『間違い』。それの逆の『正しい』関係性って何だと思う?」

「だから知らないっての」

 

 再び、話題が元に戻る。

 輝夜は何かを期待するように、口では失望を覚えていると謳いながら、今も妹紅に視線を向けている。

 

「思うに、絶対的な違いの差があるのが問題なのよ。私たちは」

「一緒にしないで欲しいんだけど」

「いいや、一緒よ。同じ『蓬莱人』として、断言するわ」

「…………」

「ご立派な考えね、命を見守る、人間と共に暮らす。…たとえ拒否され、忌み嫌われようと、自分に向けられた善意とやらに縋る」

「…………」

「で?――それを何回繰り返すのよ?」

 

 世界の見方を変えるべきだ。

 輝夜は未だに、『生き続ける』妹紅に対して、そう強く言う。

 

「永遠の命。…永遠よ?たかが数百年生きた程度のあなたには分からない。想像なんてできないし、そしてこれからのあなたにしっかりと襲い掛かる、理不尽な『現実』がそれよ」

「…否定はしない」

「無限の時間。『永遠』をその身に宿したからには、同じように『生き方』も永遠に見合うものにしなくちゃあいけない」

「………」

「『生き続ける』なんて屁理屈よ。老(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)も(・)死(・)ぬ(・)こ(・)と(・)も(・)な(・)い(・)、それは最早生(・)き(・)て(・)い(・)な(・)い(・)も(・)の(・)と同義だわ」

 

 死があるからこそ生がある。

 そんな相対関係は、今まであまりにも『当たり前』過ぎて、誰も気にすることなどなかったもの。

 

「ここからなら、彼(・)ら(・)も良く見えるでしょう」

 

 そう言って、輝夜は妹紅の視線の先、慧音を待たせている村の宿とは逆。

 灯の一つもない、元は人間にとっての最上位の恐怖であった夜――そこの暗闇に潜む、数多の妖怪を指さす。

 自我も希薄で、ただ本能のままに人を襲う。

 その癖、松明の灯にすら拒否反応を示すくらいに、実力の乏しい名無しの妖怪。

 

「世の中との付き合い方を見直しなさい。私たちは『永遠』だけど、彼ら妖怪も含めて、地上には『生きて死ぬモノ』ばかりでしょう?」

 

 かつて、月人が地上を生きていた頃。

 洩矢神社、それこそ諏訪大国が生まれるもっと昔――輝夜ですら、まだ赤子だった時代。

 そこでは、皮肉にも『穢れ』こそが永遠だった。

 月人に寿命をもたらす忌々しいモノでありながら、彼ら自身はその嫌悪感を糧に、長い時を生き続ける。

 

 ――そういうものが、ずっと続くと思われていた。

 

 だが実際、蓋を開けてみればどうだ?

 あれだけ恐怖と嫌悪を身に宿し、地上に蔓延っていた妖怪たち。

 昔はあんなにいた実力者も、今では一体何匹いる?

 鵺のような大妖怪も、次に現れるのは一体何年、何十年後だというのだ?

 それにそんな、間違いなく『強者』であった筈の鵺も、後に征伐部隊によって、新たに封印されたと聞く。

 

 輝夜は確信する。

 鵺もまた例外なく、この地上で『間違い』の道を選び、そして弱くなったのだと。

 

 それは、数万年の時を生きた、月人としての『生』の経験値。

 何より輝夜自身が、「もしかして」と思い至れる勘の良さ、その両方があった。

 

「同じ目線で見て、同じ価値観で話し、同じ考えで心を通わせる。…それはいずれ必ず破綻するわ、あなたの決意なんて、所詮は今だけの戯言よ」

「………………」

 

 妹紅は、無言でそれを聞き続けた。

 視線はその間、一度も輝夜の方に戻すことなく、じっと、彼女が指さす現代の妖怪に対して向けていて。

 ――輝夜は余計に、その視線が気に食わない。

 

「そうやっていつまで、あなたは『人間の生き方』にしがみつくの?」

「…………」

 

 何も。

 

「あの慧音とかいう子供。あなたは自分を人外だと思ってるらしいけど、甘いわ。だって本当の『永遠』による苦しみを、あなたは一度も味わってない」

 

 何も、言葉を返さない。

 

「余計なしがらみに過ぎないわ。――あの子供は、あなたにとって『邪魔』なものよ」

「――――」

 

 妹紅はずっと、何も返さなかった。

 

「………………」

 

 決して、無反応という訳ではない。

 時折、ふとこちらの反応を伺うように、静かに視線を戻しては、また麓の方に顔を向ける。

 ずっと、それの繰り返し。

 だが逆に、それ以上の反応はしない。

 

「…あなた」

 

 輝夜からすれば、今回の事態は予想だにしていない、完全な不意のそれ。

 元から『不老』が当然だった、月人が『蓬莱人』になったのとは訳が違う。

 ただの人間。寿命という終わり、ある種の救いが用意されている不完全な者が、手にしてしまった『永遠』という名の罰。

 何も考えていない。――そう評するには違和感が生じる。

 考え、悩み、その果てにようやく辿り着いた境地。――輝夜が思ったのは、それ。

 

「…誰を見てる?」

 

 ――嗚呼、この気配を私は知っている。

 人間の、所詮は朽ちていく彼らと、切り捨てた者の中にいた――!

 

「さぁ、誰かな」

 

 まるで濁流のように溢れ出す、輝夜の感情。

 それが見えない波となり、空間を、肌を撫でていく錯覚。

 ――それに負けることのない、妹紅の強い意志の力。

 

「言ったところで、どうせあんたは知らないでしょう?」

「……そうね、どうでもよくて忘れちゃったかも」

「で、結局ぐだぐだ話続けてさ……」

 

 妹紅はいい加減。

 この面倒な時間を終わらせたいと、そう強く表情で訴えて。

 

「あんた、私に何が言いたいの?」

「………そうね、私としたことが」

 

 これ以上、この方向性の話は進展がない。

 そう確信した輝夜は、脳内に走る数多の会話の選択肢と、抱いた感情の整理を刹那の内に終わらせる。

 

 一瞬、胸中に湧いた殺意。

 妹紅に、余計な価値観を植え付けた邪魔者を――そんな、改めて意味のない考えを、輝夜は消してから。

 

 嫌悪の笑みは、次に打算の笑みに変えて。

 輝夜は真っすぐに、妹紅を見据えて言う。

 

「『蓬莱人』同士、友達になりたいの」

「………」

 

 くるりと、妹紅は自分の後ろを見る。

 

「………………」

 

 誰もいない。

 聞き間違いでないことが分かったので、一言。

 

「…他にいないの?」

「だから言ったでしょう?同じ『蓬莱人』同士って」

 

 輝夜は決して孤独ではない。

 永琳という、月人であり蓬莱人。二つの要素が合致した、この世に二つとない家族がいる。

 彼女がいる限り、そして自分がいる限り、彼女は在るし、自分も在る。

 それを疑うことはない。だからこそ輝夜は、もう一つの関係性を求める。

 

「それに、たった今思い出したわ。――あなた、藤原の子でしょう?」

「…………」

「いい歳した大人の癖に、私に欲情した哀れな男。…その娘が、あなたでしょう」

「………………」

 

 ――輝夜の顔に、期待の笑みが浮かぶ。

 それこそ正に、輝夜が妹紅という『蓬莱人』に向けるモノ。

 

「永遠に見合う遊び相手。私はそれが欲しくて仕方がないの」

「………」

「あなたの永遠の復讐こそ、私にとっての永遠の生の導べだから」

「…」

「ねぇ、私たちいい友人関係になれると思わない?」

 

 家族でもなし、恋人関係でもなし。

 永遠の暇つぶしに丁度良い、運命を狂わされた哀れな人の子。

 

 永琳のような無償の愛とも違う。

 決して衰え、風化することのない憎しみ。

 ――それを、真正面からぶつけてくれるであろう、同族。

 

 生きて、死んで、また生き返って。

 その度に、彼女はそうなった『原因』を想起し、そうしてもう一度、蓬莱山輝夜という復讐相手を思い出す。

 その度に、彼女はこちらに憎悪を向ける。

 殺し、殺され合う夢の関係。

 永琳は家族だ、血と闘争を求める自分の性を、あの人は決して肯定しないし否定もしないだろう。

 だからこそ、輝夜は藤原妹紅という存在に、一つの期待を抱いた。

 

「ねぇ、今から殺し合いましょうか」

 

 ――これ以上、言葉は必要ないだろう。

 何かを考えるように、じっとこちらを見据える妹紅を、輝夜は見つめて、獰猛に笑って続けた。

 

「肉体の限界に縛られない喧嘩。蓬莱人だからできる精神勝負、一度試してみない?」

「………」

「でもそうね、あなたは私を恨(・)ん(・)で(・)る(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)け(・)ど(・)、私はあなたに対して、特別な何かがないから……」

 

 妹紅の反応を待つことなく、輝夜は言う。

 そして考える。

 今から始まる、『永遠』を身に宿す者同士の、この世で最も不毛な争い。

 即ち、原初の闘争である――殴り合いを。

 

「ねぇ、私に何か言ってみて?」

 

 両の手を合わせて。

 まるでおねだりでもするように。

 

「あなたは私と戦う理由がある。だけど私はねぇ?『喧嘩してみたい』ってだけじゃ、少し物足りないもの」

「――」

「やっぱり蓬莱人同士、友達同士配分はしっかりとね」

「――――」

 

 輝夜は笑う。

 

「殺(・)し(・)た(・)い(・)程(・)あ(・)な(・)た(・)が(・)憎(・)い(・)って」

「――――――」

「そ(・)う(・)、私(・)に(・)思(・)わ(・)せ(・)て(・)み(・)て(・)よ(・)?」

 

 沈黙。

 数十秒のそれは、輝夜にとってはあっという間の出来事で。

 浮き立つ気持ちと視線の先で、妹紅はゆっくりと立ち上がっていた。

 

「………………」

 

 ふぅ――と、息を一つ吐いてから。

 

「あんた、私と友達になりたいの?」

「えぇ、そうよ」

「………………………」

 

 再びの沈黙。

 だがその次には。

 

 

 

 

「はっ」

 

 獰猛な笑みと共に。

 妹紅は輝夜を見下しながら、言った。

 

 

 

 

「あんたと友達になんて頼まれたってならないわよ、暗愚(あんぐ)*1が感染(うつ)る」

 

 ――そんなこと、知ったことかと。

 

 

 

 

「ゴタゴタぬかしてないでかかってきな、自己中(ジコチュウ)」

 

 輝夜の今までの語りを全て、ど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)と(・)切(・)り(・)捨(・)て(・)た(・)。

 

 

 

 

「………」

 

 硬直と――

 

 

 

 

「………………」

 

 ――静寂。

 

 

 

 

「………………………」

 

 その時、輝夜の頬に。

 

 

 

 

「………………………………なんで」

 

 一筋の、涙。

 

 

 

 

「なんでそんな非道(ひど)いこと言うのよ」

 

 ――言葉で火がつく…!!

*1:
物事の是非を判断する力がなく、愚かなこと。




妹紅「フンッお前なんかを友達と認めるわけないだろう」
輝夜「はいっクズ確定ぶっ殺します」

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