【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
(1話)
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(128話)
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おかしい…最初はパイマン氏の文体に寄せてたのに、いつの間にか文体がかまちーに引っ張られている……
――それが意味する事は、一つ。
――『幽々子』は『死んだ』それだけ。
身も、魂も。
全てがしっかりと
妖忌からすれば、一体何がどうなったのか。
どうしてこうなったのかなんて、分かる訳がない。
まだ猶予はあった筈なのに。
変質していく主の呪いを、解ける希望を見つけたというのに。
――どうして。どうしてこうなったのか等。
「自死したのだな」
隣の隠岐奈が発する言葉は、あまりにも痛い。
分かっている、だけど分かりたくない。
これ以上、理解などしたくない。――そんな妖忌の現実逃避を、許さないと言わんばかりの。
「遅かったんだ。残念だったな」
――分かっている。
目の前にある、主の死体が示す結論は、一つしかない。
甘かった。
愚かな希望に縋っていた、過去の自分が忌々しい。
――今更か?
そう問う、己の中のもう一つの声に、妖忌は心を刺された。
「気にするな。お前の想定を超えて、『あれ』が何枚も上手だっただけだ。必要以上の自責は毒だぞ」
『
隠岐奈は、まるで『死人』のようになった妖忌を後目に、うんうんと続けて。
「人間の娘にしては思い切ったな、あの木によって『呪われた』事は即ち、自身を同じ『呪物』として見立てると同義」
「……」
「見た所、己の肉体を楔とした封印術の一つだな。偶然か、それとも狙ってかは知らないが……」
「――――」
「ただの歌人の娘が、ここまでの事を成し遂げる。……本当に、天晴れとしか言えん」
「――――――」
聞こえない。
妖忌の頭には、ただ。
自分が『間に合わなかった』事と、『幽々子が死んだ』という、たった二つの冷たい現実のみ。
隠岐奈の考察も、そして感心も。
そして、いつの間にか隠岐奈の隣に立っていた、もう一人の何者かの存在も。
それらの情報は、妖忌には入って来ない。
「隠岐奈。これが例の?」
赤黒く塗り潰された空隙、その奥に浮かぶ数多の眼球。
一目見ただけで、嫌悪感を刺激するそれで満ちた、『彼女』だけの世界。
――スキマ妖怪、八雲紫。
その脅威と名は、かつて地方を彷徨っていた頃の、妖忌の耳にも入る程のもので。
それが、当然のように降り立った現実に、普段の彼であれば、否が応でも『警戒』をした。
だが、今はもう。
もう。――終わってしまった話。
折れた妖忌には、それができなかった。
「まぁな、確かに■■■の気配はあるが……」
「その言い方からして、既に木の中から去ったと見てもいいかしら?」
仮に、誰かが今の生気を失った妖忌の姿を見れば。
きっと、ここに至るまでの
妖忌は黙る。
彼の脳内には、もう二度と会えない主の姿と、声が蘇っていた。
「それで隠岐奈。…
「さぁな、呪いの副産物か、それとも別の何か。か……」
「……■■■とか言わないわよね?」
「言わん。『
「じゃあ一体――」
妖忌は、黙る。
そして。
「ねぇ」
声――それが。
妖忌の、沈んだ自我を無理矢理に引き起こす。
「ッ――!?」
「ここは、どこ?」
――幽々子がそこに立っていた。
妖忌の呼吸は、その時一度
喉が震える。
衝撃。そしてその混乱の大きさは、妖忌に息の吐き方すら忘れてしまう程で。
そんな中何とか、声帯を震わせて、『音』ではなく『言葉』を作ろうと模索する。
彼女が生き返――と、思った途中。
「幽々――」
「あなたは誰?」
誰。ではなく。
正確には、だぁれ。と、少し舌足らずな口調で、
妖忌は、黙り込む。
ショックではなく、むしろ逆に。自分でも不思議に『そうだろうな』と、どこか達観した調子でそう思えた。
そんな、先ほど痛感した『甘い希望』に、また甘えそうになった自分に対して、強い怒りすら覚える程。
――『現実』とは、優しくも温かくもない。
そう。目の前にいるのは、『幽々子』であって『幽々子』ではない。
親を呪われ、血に呪われ。
そして自分という、力及ばずな従者を持った、ただのか弱い少女とは違う。
透明な少女は、首を傾げる。
「もしかして、私のことを知ってるの?」
妖忌は何故か。
透明な少女がそんな声を出すのが、許せなかった。
「……それは」
『幽々子』は呪いの連鎖を断ち切った。
その為に、己の命を投げ捨て、自分を犠牲にした『封印』を、この桜の木に施した。
力及ばず。
それどころか、主の傍に、最期まで居ることができなかった。情けない自分を。
そんな、優しい目で見てくれるなんて。
「私、は――」
――違う。
そう言えば、少女はきっと『そうなのか』と受け入れる。
身体だけでなく、
それこそ、宙を舞う蝶のような――自由。
だからこそ、妖忌は思った。――本当に、
「いいえ、私たちは――」
「あの」
なのに。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「……え、えぇ。私は」
「あなた、凄く辛そうよ」
なのに、透明は少女は。
まるで妖忌の考えを見抜いているかの如く、彼の仮面の表情を、一発で粉々にする。
「もしかして、だけど」
我慢しろ。
堪えろ。
表情を取り繕え――相手に疑念を抱かせるな。
妖忌は必死に、自分にそう、強く言い聞かせたが。
それでも、駄目だった。
「ひょっとして、私たち。知り合いだったのかしら?」
――その質問が、どれほど心苦しいものだったか。
取り繕う。なんてもう無理だ。
その言葉を最後に、何も言えなくなった時点で、妖忌の負けが確定した。
ここで、『そんなことはない』と、そう即答さえできたなら。
違和感こそあれ、形だけでも、少女は『そう』と、ひとまず終わらせてくれた筈なのだ。
何故なら、少女は何も。
本当に、何もないのだから。
全てを『忘れて』しまっているから。
目の前にあるのは『幽々子』の抜け殻で。
そこには。かつての『幽々子』が作った思い出も、意志も、何もないのだから。
透明な少女は、辛そうに。
「だとしたら、ごめんなさい。……私。何も覚えてないの」
「……いいんです」
妖忌は答える。
その言葉に、偽りはない。
「……あの、私いつか、いつかあなたの事を思い出すから、それまで――」
「いいんです、
――『幽々子』は死んだ。
目の前にいるのは、過去の呪縛から解き放たれた、新しい『幽々子』。
失った記憶は、二度と戻らない。
もしも目の前の透明な少女が、過去の記憶を取り戻すことがあるのならそれ即ち、『幽々子』が己の命を対価として終わらせた。この"呪い"が再発する事を意味する。
なればこそ、妖忌がこうして、過去に囚われてはいけないのだ。
全てを噛み殺し、妖忌は再び。
今度こそ。かつての『幽々子』を思わせる、聡明な少女に悟られぬよう、己の表情を鉄の仮面にしてから。
「覚えていなくとも、これから『知って』いけばいいんです」
「……」
透明な少女は、笑う。
「そう、ね。これからよね」
何の色もなく、笑う。
ころころと、見ているだけで、こちらも同じように心が満たされる。
かつての『幽々子』と同じ、優しい笑みを浮かべて。
「それじゃあ、これからよろしく」
「……はい」
妖忌もまた、笑っていた。
自分でも、どうして笑っているのか。
どうして、こんなにちゃんと『笑えて』いるのかが、分からない。
これまでの、『自分』を形成する全てを忘れる。
それは果たして、以前の者と同一なのかだろうか?
そんな憂いは、もうない。
まるで『鏡』のようだと思ったのだ。
自分が悲しい時、少女は同じように悲しそうな顔をして。
逆に、少女が笑った時には、どうしてか自分も、同じように笑えてしまう。
そんな不思議な力が、『幽々子』にも、少女にもあった。
「『これから知っていけばいい』…なるほど、いい言葉ね」
その声で、妖忌はようやく意識を戻す。
声の出自は、八雲紫からだった。
少女は、申し訳なさそうに言う。
「……ごめんなさい、私、あなたの事も思い出せないの」
「大丈夫、それで合ってるわ。だって私たち、今初めて知り合ったんだもの」
「へ?」
透明な少女は大袈裟に。
「……あらぁ、そうだったの?」
「えぇ、そうなの」
「それじゃあ、これが早速、私が初めて『知った』ものの一つなのね?」
やった。と、飄々とした様子で少女は喜ぶ。
まるで、普通の子供のように。
鈴のような、可憐な声を響かせて。
「私、次はあなたの名前を知りたいわ」
「そう言ってくれて嬉しいわ。でも、その前に」
紫はその時やっと、妖忌を視界に入れた。
「赤の他人の私より、そこの従者の名前から知るべきではないかしら?」
「あら、そうだわ。私ったらうっかり……」
にこりと、少女は笑って。
「それじゃあ。あなたの名前を教えてくださる?」
「…………はい」
今度こそ。
今度こそ、この笑みを守ってみせると、妖忌は誓いを込めて言う。
「……魂魄妖忌と申します」
「魂魄…うん、妖忌ね。ならあなたは……」
「私の名前は八雲紫。それじゃあ次は……」
それに即答した紫は、続けて透明な少女を指さした。
「……私?」
「えぇ、あなたよ」
――え、私は?
と、後ろで腑抜けた声を出す隠岐奈を、紫は完全に無視した。
「せっかく『生まれ』変わったんですもの、新しい生き方に相応しい、新しい『名』を名乗るべきだわ」
「……そうなの?」
「えぇそう。『名』は人妖を問わない大切なものですから」
「…ふーん」
なら、透明な少女は言う。
「じゃあ、私に相応しい名前って?」
紫は答える。
「この桜の木には、ある『歌聖』に倣った『名』が付けられているの。だから……」
――新しい
「あなたの名前は『
透明な少女。
――西行寺幽々子は笑う。
「いいわね、それ」
少女は夢を見る。
真っ白。としか形容できない、靄のような何かが、辺りに充満している奇怪な空間。
不思議と、違和感は湧いてこなかった。
まるで前振れもなく、降って湧いてきたように、頭の中には『それ』があった。
数日か数週間か、それとももっと前の光景か。
ご馳走に舌鼓を打つ自分の姿。
野を駆け、ギラギラと輝く太陽の熱線に当てられる自分と、それに肌を焼かれるような感覚が。
全て、鮮明に想起される。
――これは夢だ。
『現実』ではない。
呼吸の重さも、指にまとわりつく空気の粘性も、何もない世界は。
何の『苦労』も必要とせず、簡単に全てを『思い出せる』この世界は。
決して、自分が生きるべき『現実』ではない。
早く起きて――と、思ったその時。
――
――
声が聞こえる。
頭に響く。
自分の頭の中の『何か』が、『それ』に蝕まれていく。
『それ』が、少女に"共振"しようとする。
青年は夢を見る。
桃色で染められた、重力を感じない不思議な空間にいた。
まるで、目を開けたまま眠っているかのように、青年は脱力している。
何もない。
匂いも、感触もない。
水上に浮いている時でさえ、身体を引っ張る重力の気配を感じられるというのに。
この夢の中では、そんな『当たり前』すらない。
――これは夢だ。
ここは『現実』ではない。
『予定』や『仕事』といった、人間のしがらみに囚われる事のない場所だ。
自分には家族がいる。
老いた母と、まだ幼い歳の離れた弟がいる。
決して、裕福な家ではないからこそ、この時間すら惜しまないといけない。
彼らの為に、早くこの夢から離れなければ――と、そう思った時。
――■■■を祀れ。
――そうすれば、貧者は富を得。老人は若返る。
声が聞こえる。
『それ』が、自分を誘惑する。
それは正に、堕落の快楽。
面倒事から逃げ出したい、人間が持つ当然の欲を、『それ』は刺激する。
『それ』が、青年に"共振"しようとする。
老人は夢を見る。
赤子も夢を見る。
皆が、皆違う夢を見て、そうして自然と引き合わせられる。
そんな『夢の世界』とは、決して個人によって独立したものではない。
人間を含めた全ての生き物の夢は、根底で繋がっている。
夢の中で、一度も会ったことのない、全くの赤の他人が出てくるように。
見たことも、行った事もない筈の場所に、夢の中では当たり前のように向かえたり。
そして、見知らぬ
地上に生きる人間、妖怪。――そして月の人間ですら、『夢の世界』という概念の、その繋がりからは逃れられない。
『夢の世界』を上手く使うことができれば、理論上あらゆる場所に行ける。
どんな力も使える。どんな物にも、何者にだってなれる。
だからこそ、『彼女』はこの世界を監視し、均衡を保ち続けている。
『夢』の中では、誰もが平等になれる。
――唯一の例外、絶対的統治者は『彼女』のみ。
「まーたでしゃばって来ましたか」
一言。顔を動かす事もせず。
ザフッ、と。まるで妖怪や呪霊の消失反応と同じ、笑える程に間抜けな音を立てて、
まるで子供の指遊びの要領で、彼女は無垢な人間に干渉を続ける『それ』を、爆散させた。
『それ』は、まるで重油のように黒い、粘性の何かに成り下がり、そのまま空気に溶けるように、見えなくなる。
だが、
まだ、『それ』の――■■■の残滓は、この世界にこびり付いている。
「消しても消してもキリがない。……これは私の管轄外なんですけどねぇ」
時に、夢の中は全能であるが故に、それを好き放題にする者もいる。
明晰夢。そう呼ばれる夢は、今いる場所を『夢の中』であると認識し、その『夢の中』を、自分の意思で好きなように変える事ができる。
『彼女』が管轄するものの中には、このような明晰夢の処理も含まれるが、一番の仕事はこの、必要以上の"共振"を防ぐ事。
全ての生き物は繋がっている。
それは即ち、日々の営みで培われるものとは別に。
必要以上の『悪意』とやらも、この『夢の世界』を通じて、他の生き物に侵食していくのだ。
妖怪は恐れ、嫌われることで生まれる。
特に最近。より人は同じ人を憎み、嫌うようになっていった。
彼らの神秘を操る術。それの基本が『霊力』から『呪力』に変わったのも、そういう事なのだろう。
「困った。非常に困ったものです、妖怪の『賢者』たちが必死になるのも頷けますね」
口ぶりとは裏腹に。
実は『彼女』にとっては、■■■の影響は、そう重要な事ではない。
所詮『それ』は、消しても消しても滅び切らない。虫を潰す感覚に等しい、ただの単純作業に過ぎないのだから。
人が朝起きて、自然と己の空腹を自覚して、そして食物を掻き込むように。
『彼女』――ドレミ―・スイートにとっては、己を脅かすものでもない、有象無象の一つ。
だが、忌々しい。
所詮潰せば済む虫。されどそれは、視界に入る度に不快感を刺激され、そして確実に、己の手を煩わせる虫。
いい加減、それを止めにしたいかと聞かれれば、答えは是。
「幻想郷。でしたか?確かに『忘れられたものの楽園』を作りたい彼女たちからすれば、既に『忘れられた神』が、その『無』の世界を独占しているのは邪魔でしかないでしょうね」
ドレミ―はまるで、嘲笑するように。
「偶然か、それともそれすらも
そう言ってから。
ドレミーは空中に作った枕に背を預け、脱力する。
「全ての始まりは『秦河勝の神殺し』。そしてその後は奇しくも同じ、財か感情かの違いこそあれど『棄てさせる』繋がりから始まった"共振"」
生みの親と出会い、対話をし。
そして他ならぬ、『親』自身が『子』を認めたことで、秦こころは"共振"から逃れた。
次に、
「次は怨霊。同じく死に、そして『忘れられる事』への怒り、そして憎しみから。あの船幽霊は"共振"した」
――■■■が死んだ
数百の時を経て、同じ
呪殺。それも被害者の人間は、全て『溺死』
海の地縛霊であった筈の彼女が、どうして『刺殺』という手段で呪殺をしたのか、その違和感への答えも、その"共振"に込められていた。
『秦河勝の神殺し』。
その時の詳しい情報。特に討伐の方法などは、どこにも残っていない。
だが、かの神と"共振"し、その結果がこの殺し方であるとするなら、必然的に答えは一つ。
■■■が、河勝によって滅ぼされたのと、同じ方法。
どの時代、どの国であろうと、規模の差異こそあれ。
『神殺し』という偉業には、必ずその逸話に付随する『何か』がある。
「『怨霊ムラサ』は『村紗水蜜』となり、その呪いから解放された。――そして、再び数百の時を経て」
ドレミ―は、ふよふよと宙を漂う枕に身を任せたまま。
隣に座る、この世界に招待した『白鷺』の少女の頬を、指でつつく。
「あの桜の木。――
「………………」
『白鷺』の少女は、何も言わない。
ドレミーが頬をつついた時には、流石に『んぐ』と、可愛らしい呻きを零したが、それで終わり。
少女の反応に、ドレミーは笑う訳でも、言葉を続ける訳でもなく、沈黙。
気の置けない関係。という言葉が正にぴったりな、そんな雰囲気。
少女が持つ『異能』は、言葉をトリガーに発動する。
故に、少女を知る者の中には。
少女が無口なのは、つい『何か』を口にし、それで『異能』が働いてしまうのを防ぐ為である、とか。
結果として『彼女はそれの誤爆を防ぐ為に、普段から自分を戒めているのだ』……なんて、真相を知る者からすれば、鼻で笑う与太話を、本気で信じている者がほとんどだ。
実際、少女の『異能』は、『口にする』
つまり日常会話のような、深い意味を持たぬ軽い言葉なら、なんてことはないのだ。
今回の事も、そして過去も。
真相は、この少女にとってそれらは特に、何か反応を見せる、喋る程のものではないという、それだけの話なのだ。
「話を戻しますが。――『運命』とやらはいい性格をしています。こうも上手く事を進ませて、そして今度は、
だから、ドレミーは気にせず続ける。
話の一点は、これまで何度も何度も『現実』に影響を与えてきた■■■。それをとうとう、
忘れられたものは『無』となって、未来永劫、別の位相を彷徨い続ける。
■■■という、所詮は民間道教に過ぎない、木端の神ですら、これだけの悲劇を作ってきた。
では仮に、これがもっと別の何かであればどうだろうか。
それこそ、今も尚地上を彷徨う、産土神の成れの果てがいい例だろう。
彼らは神から、妖怪未満の『何か』に成り下がり、それでも今を生きている。
だが、彼らも真に忘れられたら?
■■■と同じように、彼らも『無』になってしまったら。
一体、どれだけの数の"共振"による被害が発生する?
つまりドレミーにとっても、八雲紫たちが作る『幻想郷』という存在は、ある意味では好都合で、そして忌々しいものなのだ。
この世界の生き物は、全て無意識の根底で繋がっている。
忘却で滅んだ悪意。それに引っ張られる何かの被害は、止まらない。
だが、『忘れられたもの』を受け入れ、そして『現実』から
ドレミーにとって、『忘れられたもの』の楽園とやらは、そんな無意識の根底を勝手に弄る所業。決して良い思い等しない。
『現実』と『夢の世界』――互いにそれぞれの居場所と役割を独占しているからこそ、今がある。
無意識の根底だろうと、この『夢の世界』はドレミーのもの。
狼と豚は、獲物が違うから共存できる。
だが、豚が残飯を食わず、新鮮な肉に手を出すなら容赦しない。
向こうが勝手に事を企てるのなら、こちらも同じように、事を企ててやるだけだ。
この世界の生きとし生ける者。それらが作り出した習合意識の均衡。それを崩そうというのなら――こちらも相応の動きをするだけだ。
「まっ、是非私の期待通りに動いてくださいな。スキマ妖怪さん」
ドレミーは特に表情を変えることなく、事実をただ確認するかのような、そんな転調で言う。
どうでもいい。
楽園だの月の宝だの、それを建前にした、『賢者』の真意など
ドレミー・スイートにとっては、彼女たちの生死など勘定に入っていない。
八雲紫が死のうが、その従者の八雲藍が死のうが。
同志の摩多羅隠岐奈が死のうが。――心底どうでもいい。
「………………」
ファサ、と。羽と羽が擦れる音がして。
その正体は。感情の込められていないドレミーの言葉を聞いて、『右翼』を動かした少女の音だった。
隣に座る、ドレミーの身体を翼で包み込み、引き寄せる。
そうして一言。
「あなた性格悪いわよ」
「あら、お嫌いですか?」
――『白鷺』、稀神サグメは何も言わず。
代わりに、呆れたように鼻を鳴らし。
たったそれだけで、これまでの会話を終わらせた。
次回からいよいよ月面戦争が本格的に開始(新たな挿絵の依頼も考えてます)。
感想、評価をいただけると色々頑張れます。
投稿時間は何時がいいか
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