【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 あの……TOUGH外伝龍を継ぐ男がまさかの最終回迎えたんスけど……いいんスかこれ


135話.第一次月面戦争⑥No.9

 両陣営、その戦況は拮抗していた。

 まるで嵐が吹き荒れた跡のように、月の白い大地は崩れ、砂埃が辺りに舞っている。

 平らだった地面はもう、真っすぐに立つことすらままならない程に傾斜を激しくしていて、以前の面影はどこにもない。

 その原因を生み出しているのは、一匹の鬼と一人の人間だった。

 鬼と人間。

 かつて、両者は離れすぎた力の差故に、種族間の絆まで失ってしまった。

 いつしか、人間は鬼に挑む時には『知恵』を使うようになった。

 『嘘』も『道具』もなりふり構わず使用する、正々堂々から遠くかけ離れた戦い方。

 それに怒り、失望し、鬼は彼らの小賢しい術を叩き潰し、いつしか『人間』そのものを見限るようになった。

 

 だが、拮抗していた。

 

 鬼が殴る、それだけで人は肉が裂け、骨が砕ける。

 例え鎧を纏おうと、術という名の小細工を仕込んだ盾を突き出そうとも。

 鬼はそれらを全てを己の身一つで貫通し、そして勝利し続けた。

 なのに。

 

「――ッシァアアアアッ!!」

「――レイセン。『F-5番』」

 

 獣の如き叫びに対し、吐息を一つ。

 それらを過剰に覆いつくす程の轟音が、両者の『手』によって奏でられる。

 対となる鬼は勇儀。

 その右腕に込められるのは、この世の理屈をねじ伏せる『力』の象徴たる『怪力乱神』。

 対となる人間は豊姫。

 辺りを漂う『(ボックス)』が開かれ、中に収納されていた鋼の籠手が自動で豊姫の右腕に装着される。

 かつて、鬼が失望と共に否定した――『道具』の拳。

 

 それが、全くの互角でぶつかり合う。

 

 鍛え上げた肉体と、磨き上げた技術の戦い。

 勇儀はまるで、今日この日までの長い鬼の歴史そのものが、目に見える形となって立ちはだかってきたように錯覚した。

 月の科学が、地上での恐怖の象徴たる鬼に並ぶ。

 ある者が見れば畏敬を、そしてある者が見れば怒りを抱く戦いは、開戦の狼煙を上げてから既に二〇分が経過していた。

 だが、これは戦いだ。

 呼吸を整え、身体を休ませて調子を戻せる鬼と、所詮消耗品である武器を主にした人間。

 普通なら、鬼の方が圧倒的に有利で然るべきだ。

 しかし人間は、豊姫は自在に道具を取り寄せ、消耗を気にすることなく戦いを続けられる。

 どちらが有利で、どちらが押しているのか分からない。

 だが、一つだけ。

 たった一つだけ、この戦いで気づいた事がある。

 

 ――強い。

 

 この人間は、()()()()()()

 以前の勇儀であれば、それは頑なに認めはしなかっただろう。

 所詮は道具、己の肉体一つで戦いに身を投じる、自分たち鬼のように誇りある戦い方とは違う。

 軽蔑はしないが、かと言って本心から褒め称えたりもしない筈だった。

 だが、今は違う。

 純粋な敬意と賞賛。

 それを内心に留めて、勇儀は語り出す。

 既に、両者の距離は数メートルは離れていた。

 

「お前、やるなぁ」

「…………」

 

 『人間』綿月豊姫は何も言わない。

 勇儀は気にせず続けた。

 

「所詮道具。なんて昔の私なら思っただろうさ、でも今は違う。立派な『強さ』だよ、これも」

「……その言葉だけは素直に受け取っておきましょう。地上の妖怪」

「おいおい、さっきちゃんと名乗ったろ?もう名前忘れたか?」

「覚える必要がないだけよ」

 

 興味の尽きない勇儀とは対極に。

 酷薄な笑みを浮かべたまま、豊姫は左手の指を振るう。

 それに呼応するように、右手を包んでいた鋼の機械は、再び開いた『(ボックス)』に収納されていく。

 

「以前から月の都を騒がせた元凶。……あの『スキマ』を操る妖怪だったかしら?それも既に()()()()()()()()()()、勝ちは確定した。後はあなた達を軽く『処分』して終わりなのだから」

「勝負はついた、だぁ?」

「あら、鬼は嘘が分かるんでしょう?なら、今の私の言葉が本当だって事も理解できる筈だけど?」

 

 勇儀の思考が止まる。

 そんな勇儀の隣で、白い霧のようなものが集合し、その姿を露わにする。

 その正体は、二〇分前に勇儀と同じく、この戦場に転移させられたもう一匹の鬼。

 

「勇儀」

 

 伊吹萃香が、再び肉体を顕現させる。

 彼女が先ほどまで、肉体を霧に変えていた理由は豊姫の持つ月の兵器への対策だった。

 変わらない戦況。

 萃香が持ってきた答えは、当然。

 

「萃香、どうだった?」

「無理だ。あいつの持ってる道具……作りが精巧過ぎて抜け穴がない、身体をどれだけ細かくしても中に入れねぇ。……内側から壊すのは不可能だな」

「そっか。ちょっと汚い手段だが最悪は……なんて思ってたが、どうやら心配は要らなさそうだ」

 

 勝ち方に拘ることは、それ即ち相手を侮る事と同義ではある。が、今回は場合が場合である為、そんな『甘え』は命に関わる。

 口調こそ冗談ぶったものではあるが。

 実際には、勇儀の内心に余裕など何処にもない。

 獰猛な笑みこそ顔に浮かべてはいるものの、目前に見据える人間を一人の『敵』として認めている。

 しかし、それを見てもなお。

 

「……ふむ」

 

 豊姫の表情は、最初から変わらない無表情で。

 

 

 

 

「――分かりました、ではその通りに」

 

 豊姫は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「はい、そのまま()()()()()()をお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 式の『繋がり』の強さは血を超える。

 肉体的、呪術的な要因を含めた生命の核心とも言える『魂』を直結させる、それが式神という関係。

 感情、肉体の調子から現在位置。

 目で見るより、肌で触れ合うよりも鮮明に伝わる情報量がある。

 ()()()()()()――目の前の光景が、より残酷な現実(リアル)として、重くのしかかる。

 

「――か、…ふ…………」

 

 強く、妖艶たる九尾の式。

 妖獣の頂点に相応しい、強者の在り方が『普段』だった彼女。

 

 それは、自分が見たことのない藍だった。

 それは間違いなく、見たくもなかった藍の姿だった。

 

 力なく開かれた口から声が洩れる。

 どろりと、粘性の強い真っ赤な血が口から頬、そして地面を染めていく。

 藍が、薄目を開けていた。

 自分の傷なんて後回しにして。

 震える手を、こちらに向けて――。

 

「藍ッ!」

 

 紫は駆け寄る。

 奥歯を噛み締めて、『藍の下へ』という思考以外を除外し、走った。

 遠くで刀を収め、藍が付けた傷という名の『意味』を非情に、『無意味』に戻した依姫を見る余裕なんてなかった。

 攻撃は、来ない。

 それに対して違和感も、不気味な何かを抱ける程の余裕も、今の紫にはない。

 仮面が剥がれる。

 妖怪の賢者ではない――八雲紫の顔が露わになる。

 

「藍!藍……!」

 

 息はある。

 『肉体』は朽ちかけていれど、まだ『命』は消えていない。

 両断された時点で、人間であれば即死が運がよく、悪ければ壮絶な痛みの中失血で意識を失うだろう。

 妖怪である一点。藍が今もなんとか生きているのは、それ例外には何もない。

 

 世界(境界)を断つ斬撃。

 

 それを操るもの、もしくは同系統の能力を持ったもの以外は干渉できない筈の『スキマ』。

 依姫がその壁を超えたのは、ひとえに他の神々の力を借りることなく、シンプルな『斬撃』に力を注いだから。

 空間、世界を斬ることによる空間の断絶。

 その空間、世界に存在する限り。その空間、世界ごと相手の存在を分断する御業。

 それによる傷は、ただ斬られて肉が裂けるのとは訳が違う。

 その本質に気づいたのは、藍に触れて力を使おうとした時。

 境界を操る力で治療を施そうとしても、まるで効果がない現実に直面してからだった。

 

「ッ、なんで……!」

 

 式の繋がりは破壊され、自動修復を含むほとんどの回復効果は機能を停止している。

 残された手段は反転術式による治療だが、それも今では頼れない。

 何故なら。藍と紫の間にあった式の繋がりが破壊された今、藍は現在『八雲藍』ではなく、ただの『藍』になっている。

 妖力の質は人間にとっての血液型だ。式として繋がっている時、藍の妖力の質は紫と同一のものであり、拒絶反応も普段なら起こらない。

 だが、今は違うのだ。

 式の繋がりが破壊された今、紫の妖力が今の藍に適応するとは限らない。

 もしも自分の妖力が藍に適応しなければ――その時点で藍は死ぬ。

 それだけは、絶対に避けないといけなかった。

 ――しかし。

 

「なんで、これ以上……!」

 

 ()()()()()

 両断された『肉体』と『肉体』。その境界を操作すればいい。

 完全に繋げることは叶わずとも、応急処置さえ施せば、後は時間さえあれば――そんな希望を嘲笑うかのように、紫の作り出した境界は動かない。

 『世界』ごと断絶された藍の切断面は、文字通り『世界』の基準がズレている。

 常識を覆す、書き換える『理不尽』の力を持つ紫でも、『世界』を前には何もできない。

 

 『スキマ』による応急処置は、不可。

 

 ならばと、紫は必死に流れ続ける血液を止める為、切断面へ直接干渉せずに、流れ落ちる『血』そのものに能力を行使する。

 些細な抵抗だったが、やらないに越したことはない。

 だから、紫は必死に藍の傷を――。

 

「既に、限界のようですね」

 

 ほんの一瞬。

 本当に一瞬だけ、紫はその声を聞いて、身体を恐怖で震わせた。

 

「心配しなくとも、あなた達を()殺すつもりはありませんよ。まだ聞きたいことがあるので」

 

 禊祓の力を使える彼女にとって、『殺し』による穢れの発生は恐れるものではない。

 先ほどの一瞬。依姫が動かなかったのは偶然でも、ましてや慢心からでもない。

 彼女の圧倒的な実力があれば、紫の抵抗など意に介する必要もなく、あの一瞬で斬り伏せて、それで全てが終わっていただろう。

 一つ。依姫がこうして紫を()()()()()()のは、たった一つの目的のため。

 

「地上の妖怪。私があなたに聞きたいのは、たった一つです」

 

 ザンッ、と依姫が地面に刀を突き刺した。

 変化は一瞬。

 抵抗なんてできる筈もなく、紫はその変化をただ見るしか許されない。

 

「……、っ」

「『女神を閉じ込める祇園様の力』、と言えば伝わりますか?」

 

 紫と藍の周囲に、まるで『〇』を形作るように、無数の刃が地面から尽き出でる。

 だが、それ以上は何もない。

 獲物を見定めた獣のように、その無数の刃は静かに、標的である紫たちを取り囲んで静止していた。

 

「『祇園様の怒りに触れる』……とも言われていますね。あなたのような妖怪でも、それは例外ではない。……何かしようとした瞬間、あなた達は死すらも生温い地獄を見る」

「あなた、まさか」

「えぇ、それで合っています」

 

 依姫はつまらなそうに。

 両の手を広げ、己の権能を見せびらかすように。

 

「私は()()()()()()、その力を借りることができる。でも、私にとってそれは所詮、強さの『一つ』に過ぎない」

「…………」

「もう分かったでしょう?あなたが私の持つ八〇〇〇〇〇〇の神々の権能を封じたつもりでも、有利に立ったつもりであっても。――私には届かないと」

「……、……」

「勘違いしましたか?それとも、ありもしない希望を抱いて、それに縋ってしまいましたか?」

 

 祇園様――『須佐之男命(すさのおのみこと)』の力すら手段の一つ。

 鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)といった神々から力を借りる。

 そんな巫女にとっては光栄の極みである行動すら、彼女にとっては『技』に過ぎない。

 そして、それですら()()()()()――底なしの強さへの欲求。

 人の身に収まっている事が奇跡としか言えぬ程の、圧倒的な欲望の器。

 

「私が聞きたいのは一つ。あの穢れの塊……弾幕の()()()()為の質問です」

 

 沈黙。

 沈黙に沈黙を重ねた、比喩ではなく『何も聞こえない』状況が辺りを包む。

 紫の呼吸。

 そして、息も絶え絶えの藍ですら――その()()()()()程の、沈黙。

 

「生と死の境界を操り、生み出した弾幕……でしたか?しかしあれ程の『穢れ』を生み出すには、死に精通した何者かの力がないといけない筈。私の見立てでは、あれを直接生み出したのはあなたではない……そうでしょう?」

 

 紫は何も言わない。

 

「この戦い。数多の妖怪が入り乱れる混沌の中で、一つだけ不可解な()()がありました」

 

 紫は言葉を発さない。

 だが、その沈黙こそが、依姫にとっての答えだった。

 普段の紫であればそれすらも予測し。嘘と真実を巧みに使った話術で、相手を手のひらの上で転がし、事態を好転させる一手を出していただろう。

 ――普段なら。

 

「私たち月人は穢れを嫌う。あの時、妖怪の群れによって大きな穢れの気配があった。――だからこそ、忌むべきものとは別の気配、()()()()()()だけが浮き彫りになっていた」

「――」

「そして、恐らくそれが『穢れ』の元凶――」

 

 綿月豊姫による異空間の干渉。

 自分を庇った藍の瀕死。

 重く、無情に突きつけられる敗北。

 ――それらが、紫の『賢者』としての余裕を剥奪した。

 

「あなた達の仲間の中に――()()()()()がいる、そうですね?」

「……――」

 

 言葉は、必要なかった。

 痛い程の沈黙が、依姫の問いに対する正否を証明していた。

 

「なら、後は簡単ね」

 

 これまでの表情を一転させ、『綿月豊姫』は言った。

 今までの堅い態度や口ぶりは消えて、代わりに彼女本来の口調へ。

 強ばった身体をほぐすように、背筋をぴんと伸ばしつつ。

 

やっと使えた技(世界を断つ斬撃)の感覚も反芻させないとだし。……それに、残るは消化試合だから、あなた達はそこでじっとしてなさい」

「……余裕そうね」

「当然でしょ?私からすれば、あなた達は()()()()()()()()。……祇園様も治療は咎めないから、気にせずにその式を治してなさいな」

「なら」

 

 紫は確かめるように言う。

 

「どうして私を殺さないのかしら?」

「………」

 

 依姫の興味は、もう紫に向けられてはいない。

 その事実に対して、紫は『怒り』よりも『不気味』さを感じ取る。

 圧倒的な実力の差。それを理解したからこそ余計、彼女の考えが分からない。

 心底不思議そうに、依姫は首を動かしながら。

 

「さて、それはどういう意味で?潔く首を差し出す……という意味には聞こえないけど」

「私たちを下せば。最初にあなたはそう言った。戦いも終わって、聞きたいことも聞き出した。――ならどうして今、『用済み』になった私たちを殺さないの?」

「……ふむ?」

「『伊豆能売(いづのめ)』の力を使えば、穢れの化身である私たち(妖怪)の死は一瞬で――」

「………」

 

 依姫はあぁと、まるで今それに気づいたように。

 紫の言葉を遮り、再び。

 

「――『金山彦命(かなやまひこのみこと)』よ。我が身を依り代に、新たに鉄の神籬を作り出せ」

 

 紫たちの周囲とは正反対に、依姫にはある変化が訪れた。

 『鹿屋野比売神』と『木花之佐久夜毘売』の力を宿したのと同じ――()()()()()()()()()()()光景。

 違いは一つ。『伊豆能売』と『須佐之男命』の力を使う際、依姫は自身の身体にではなく()()()()()()()()力を使っていて、今回の『金山彦命』は前者に当たるということ。

 結果、紫たちを包囲し、硬直状態である『祇園様』の力はそのままに。

 七色に輝く鉱石が虚空から生まれ、それが火花を散らし、薄く、長く伸ばされる。

 そうして『鍛えられた』それが完成すると、一層眩い光を放ち、依姫の手に引き寄せられ。

 ――()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()が誕生した。

 

()()は初めて見るかしら?」

 

 地面に突き刺した刀と瓜二つ。

 ()()()()宿()()()()()()()を手に、依姫はその切っ先を紫に向けた。

 当然、紫は動けない。

 

「さっきの質問だけど。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()、あなた達をこのまま拘束させながら斬り殺し、その後発生する穢れを祓うことは可能ね」

 

 依姫の能力は、強力ではあるが当然使用の制限が課せられている。

 それは『一度に下ろせる神』は一柱までという縛り。

 いくら月人の肉体、そして神下ろしに特化した能力を持っていようと、欲張った先には『死』しかなく、故にその制限は、一生物として当然のものであろう。

 一種のセーフティ機能として働く、そんな『神霊を呼ぶことができる程度の能力』の仕様。

 それに対する、紫の推測は正しい。

 考えられる一つの可能性、それは能力の『進化』ではなく『拡張』。

 先ほど依姫が『金山彦命』の力を使おうとした時がいい例で、もしあれが以前の依姫であれば、『金山彦命』を新たに身に宿す際、代わりに今宿している『須佐之男命』は追い出され、『祇園様』の力は解除されてしまう。

 ――だが、依姫は当然それを克服した。

 

 神を下ろす。ではなく『神を呼ぶ』と言う一点に集中し、能力の解釈を広げる。

 神を身体に宿す『神下ろし』ではなく、神を『何かに宿す』事こそが神下ろしであると、そう認識して能力を改変。

 

 結果、誕生したのは『自身の身体に下ろす』、『刀に下ろす』という二つの選択肢。

 それによる、実質的に下ろせる神の最大数の増加と能力の継続時間の増強が、自分を新たなステージに押し上げたのだと、依姫は紫に語ってみせた。

 能力の開示により、再び依姫の力は強くなる。

 『祇園様』の力は健在のままに。

 依姫は再び、右手に持つ二本目の刀に――『伊豆能売』の力を宿して。

 

「言ったでしょう?あなた達は()()()()()()()。あなたの処遇は、あなたが寄越したあの大量の妖怪をきっちり『祓って』からでいい。だからこれ以上の甚振りは意味がない」

「……何を」

「それに、一番の問題はこの空間です」

 

 紫の『スキマ』と、今はここにいない依姫の片割れ――豊姫の能力のぶつかり合い。

 別の異空間と別の異空間。互いに呑み、呑まれ合って維持されているここは、いつ崩壊してもおかしくない状況だ。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 仮に、依姫がこのまま紫たちを殺し、そのまま『スキマ』の供給源を断つことになれば、必然的に空間の主導権は豊姫に移る。

 そうすれば依姫は元の現実に戻り――また、刀を振るって戦いを続ければいいのだ。

 だからこそ、紫は自分たちを殺そうとしない依姫の態度が不可解で。

 それに対する回答、依姫の思惑はたった一つ。

 

「本当なら。今ここですぐにあなたを殺し、さっさとこの空間を崩壊させればそれでいい。……でも、あなたは私に黙って殺されるような甘い存在ではないと、そう思っています」

「…………」

「絶命の縛りは違いますね。正確には()()()()()()()……それを警戒するのは当然でしょう?十中八九それが(ブラフ)であったとしても、確かめる訳にいかないのがそれの強みだから」

「…………」

 

 死後に呪いを強めるものは、人間に限った話ではない。

 依姫の懸念。

 それは今ここで紫を殺した時。

 彼女が死の間際、自分に対する『最後の足掻き』として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 例え数多の空間系の能力を持った神であっても、絶命の縛りを得た空間系の能力を相手には何もできない。

 それほどまでに、この世界で『命』を懸けるという行動の意味は大きく、警戒するべき事なのだから。

 だから、依姫は悪手を選ばない。

 

「わざわざ私が手を下すまでもなく、この空間は自然消滅する。――なのに、焦ってあなたを殺した結果、死後強まる呪いのせいで永遠に閉じ込められるなんて、滑稽だと思わない?」

「……でも」

「一体いつまで続くのか、でしょ」

 

 紫の言葉を再び遮り。

 依姫は変わらず、事実を確認するように淡々と。

 

「あなたが言いたいのはきっと『そんな悠長に待ち続けられるか』だと思うけれど、甘い。ここが自然消滅するのに……数時間?それとも数日?いいや違う――あなたはもうとっくに限界でしょ?だからこれ以上、お姉様の干渉を凌ぎ続ける余裕はない。この空間を保てるのは、甘く見積もって数十分と見ているわ」

「……っ」

 

 紫は、浅い息を吐いた。

 『スキマ』の権限を貸し出すまで、藍にも寸前まで気づかれなかった不調。

 それが依姫にはとっくにバレている事に、言葉を押し殺した息を洩らす。

 

「私が何もしなくても、勝手に()()()()()()()()。それに言ったでしょう?『()()()()()()()()()()()』と」

「……私が、今ここで絶命の縛りを結ぶ可能性は考えないのかしら?」

「ないわね。だって仮にそれをして……()()()は?そこの式は、一体誰が治療すると?」

「――ッ」

「私がその式を治す義理はない。なら答えは明白――それは誰にも治療されず、一匹寂しく死ぬだけでしょう?」

 

 『何もしない』、それが依姫の選択。

 そして当然、紫は依姫を相手に『何もできない』。

 実質、藍を人質に取られたこの状況で、紫ができることは何もない。

 唯一できるのは、今も尚戦場で戦い続けている仲間――萃香たちの安否を祈る事。

 ――しかし。

 

「――分かりました、ではその通りに」

 

 戦況は変わらず動き続ける。

 依姫は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 『通話』の人物から、()()()()を聞いてから。

 

 

 

 

「恐らくは……えぇ、ではお願いします、()()()

 

 紫にとって、最も避けるべき事態。

 それを、依姫は悠然と告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのまま――()()()()()()()()()()()()()()()()




 依姫の能力
神を身体に下ろすだけでなく、刀に神を下ろして容量を節約することで同時に二つ以上能力を使用可能になった。
結果刀に須佐之男命を下ろす→相手を拘束→身体に金山彦命を下ろして新たに刀を生み出す→適当な神を下ろして動けない対象をぶった切る。といったガチの一方的なクソゲーが可能になった、加減しろ馬鹿。
その内、この月面戦争を経験して更に強化された依姫と純狐が未来でえげつない戦いをするし、それの地獄絵図を見た優曇華はビビるし、その内彼女は仲間を見捨てて地上に逃げる。
哀れ。

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